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    かけはし2013.年5月13日号

支配構造と言語圏―変革への闘いが直面する矛盾を体現


世界社会フォーラム・チュニスに参加して(中)

地域に根づき世界を変える模索

秋本陽子さん(ATTAC Japan)、茂住衛さん(アフリカ日本協議会)に聞く


――秋本さんと茂住さんはどういうセミナーに参加されたのですか。

茂住 私は、プログラムのタイトルを見て興味を抱いたセミナーにはほとんど参加できませんでした。秋本さんがスピーカーの一人になったシンポジウムなど、主な使用言語が英語になっているセミナーには参加しましたが、私が興味を抱いた「アラブの春」以後のアラブ革命の動向や展望についてのセミナーは、使用される言語がアラビア語とせいぜいフランス語で、英語への通訳者が準備されているとは限らないので、話の具体的な内容はまったく理解できませんでした。
 西サハラ問題については、これまで私が参加したWSFよりも多くのセミナーやワークショップが開催されました。今回のWSFはアラビア語圏で初めて開催されたWSFであり、アルジェリアのティンドゥフには西サハラ住民(サハラゥイ)の難民キャンプがあり、西サハラ(サハラ・アラブ民主共和国:RASD)の事実上の首都にもなっているので、サハラゥイはこれまでアフリカで開催された他のWSFより参加しやすかったのでしょう。
 私は、サハラゥイの拠点になっているテントで行われた、サハラゥイの他にイタリアの西サハラ連帯運動のメンバーもスピーカーになったセミナーに参加しましたが、そのときに English only” の人と聞かれて手を上げたのは私一人でした。そこで、私の隣席にイタリア語から英語への通訳者がつきましたが、本人も参加者で通訳に専念できないので、いまこんなことについて話しているという程度の説明しかされませんでした。
 このセミナーでは、チュニジア出身のイタリアの大学教員が、スピーカーの一人になっていたと同時に、アラビア語とイタリア語とスペイン語の三つの言語を駆使して詳細な通訳も行っていましたね。

気候変動と自由貿易めぐる討論


――英語圏の人間にとっては、とても参加しにくいフォーラムだったのかな。

秋本 私は、特に気候変動、食料主権、土地収奪、つまり、農業・気候・自由貿易に関係するセミナーに参加しました。気候変動では、クライメート・ジャスティス・ナウ(CJN!)という気候変動に取組むグローバルなネットワークが、クライメート・スペースと称する空間を設定して、連日セミナーを開いていました。
 ここで、私は「false solutions 間違った解決策」というテーマのセミナーで、福島原発に関する報告を依頼され、一五分ほどスピーチしました。私の話のポイントは三つで、福島第一原発は事故から二年経過したが、放射能は依然として放出され続け、安定的に停止していないということ、原発は温室効果ガスを放出しないという考えもあるが、建設の段階で膨大な化石燃料を使用し、かつ経済的に見ても費用対効果が最悪であること、原発は、環境破壊はもちろん、地域社会の破壊、そして農業の破壊など、すなわち破壊しかもたらさないことについて提起しました。しかし、参加者は、原発にあまり関心がないのか、反応が悪かったように思います。
 私の他には、カナダとの国境に住むアメリカの先住民の人(先住民環境ネットワーク)が、自分の故郷はグリーン・エコノミー(green economy)、すなわちグリード(どん欲)・エコノミー(greed economy)によって破壊されていると報告しました。彼の話はとても面白く、昨今の気候変動問題のエッセンスが凝縮されていました。つまりグリード・エコノミーとは、REDD+、CDM、カーボン・トレーディング、TEEBなどによって、生命および自然の商品化、私有化、植民地化を促進させるものであり、食物の栽培(growing food)は、カーボンの栽培(farming carbon)と化していて、すなわち、よく言われている「クライメート・スマート・アグリカルチャー」なんてものはふざけた話だ、と報告していました。
 それから「自由貿易に対する抵抗とオルタナティブの構築」というセミナーでは、日本のTPP参加問題について話してほしい、と言われて、私は国内での反対運動の状況、そしてどういう議論がされているかについて報告しました。
 このセミナーが開催された理由は、今年の一二月にバリ島で第九回WTO(世界貿易機関)閣僚会議が開かれるからです。昨年、ビア・カンペシーナ(農民の道)が中心になってインドネシアの社会運動団体が集まり、この閣僚会合に対して異議申し立てをするために「デラク・ラワン」というグループが結成されました。セミナーでは、このグループの紹介と、閣僚会合開催中に予定される対抗アクションへの参加が呼びかけられました。
 現在、WTOについては、表面的にはドーハラウンド交渉が停滞しているので、国際的にもあまり関心がもたれていませんし、日本でも貿易交渉というと、TPPばかりでWTOはほとんど注目されていないですよね。しかし、ここでは、なぜ今WTOの問題が重要なのかが語られました。

資本主義の再編をどう捉えるか


秋本 重要だなと思ったのは、「今年は非常に重要な記念となる年だ」と言って切り出したカナダのポラリス・インスティチュートのトニー・クラークの報告でした。
 一九七三年にトライラテラル・コミッション――日本では、日本と北米と西ヨーロッパの間の三極委員会と書かれています――が結成され、三地域の代表、大企業のCEOや政府機関の人たち総勢三二五人が集まった。資金を出したのはロックフェラー財団で、ここで新しい資本主義のシステムを作るべきだという議論をしたということのようです。グローバルエコノミーの再構築だとか、ケインズ型の福祉国家を解体するという課題が討論され、それがネオリベラルの始まりだと、トニー・クラークは指摘しています。それからちょうど四〇年経ち、今年は節目にあたります。
 彼によれば、この三極委員会では、「労働者を守りすぎる」という議論がされ、むしろもっと投資の自由化を進めるべきだ、GATTを再編し、多国籍企業がもっと利益を得られるように自由貿易が促進されるべきであり、そのためのルール作りを行う必要があり、各国の権力の中央集権化、強化をはかるべきである、などと話し合われたそうです。
 その四〇年目にあたってWTOの第九回閣僚会合が行われます。トニー・クラークは、「今、資本主義の新しい局面にある。自由貿易という観点から見れば、今までFTAが地域で行われ、一応それだけで済んでいたが、今や、アメリカと欧州の自由貿易協定や、環太平洋連携協定TPP交渉が進められており、これは今までの自由貿易協定とは、質が全く異なる。これは資本主義の再編である。したがって、今日、交渉されている自由貿易協定、ならびに資本主義がどういう位置付けのものであるかを考えなければいけない。WTO自体はガタガタになっているが消えてはいない。この事実は重要だ」と述べ、インドネシアの人たちは「オーストラリアとの自由貿易協定のせいで牛乳の出荷価格が下がった」とか、「気候変動CDMプロジェクトの中で農民たちがどんどん家を追い出されている」という話をしています。そういう現実を考えながら、資本主義が新しい再編の過程にある中で、自由貿易・TPPや多国籍企業の活動について考えるのは意味があります。「われわれは集まって話をし、資本主義の新しい狙いをつぶさなければいけない」と彼は言っていました。
 私は、トニーの話を聞いて、なるほどそういう意味があったのか、と改めて思い、今回このセミナーが開かれた意義はあったと思いました。このセミナーでスピーチしたのは、トニーの他に、ATTACジャパンの私と、インドネシアのデラク・ラワンの代表、フィリピンのフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス、ジュビリー・サウスの活動家、そしてフランスのビア・カンペシーナの人でした。
 参加した人たちはアジアの人たちばかりかな、と思っていたら、チュニジア人と思われる人たちも来ていました。通訳はフランス語(およびアラビア語のウィスパリング)でしたが、演壇から見るとけっこう若い人たちが来ていて、メモをとったりしていて、それなりに関心があったようです。小さい教室だったので、椅子が足りなくなり、後ろの人たちは立っていました。全体で五〇人くらいいたように思います。
 また、ビア・カンペシーナ・インタナショナルが開催した土地収奪のセミナーに参加しました。ここでは、まずモデレーターが、二〇一〇年に世界銀行が作成した「責任ある農業投資(RAI)」原則を批判することで討論を始めました。RAIは、国際法または人権法に違反する開発または投資を抑制するどころか、大規模な農業投資を容認するものになっていて、結局、世界各地で土地収奪が起きていると報告しました。
 その後で、土地収奪の例として、アルゼンチン、チュニジア、セネガル、台湾、インドネシアから報告がありました。特にチュニジアでは、大規模な漁業の工業化(industrial fishing)プロジェクトが進められ、数千人の住民が強制移転させられたそうです。そこで、私も、フロアからの発言として、日本政府とJICAがモザンビーク北部でブラジルおよびモザンビーク政府との三角事業として大規模農業開発プロサバンナ事業を進めていることを報告し、これが中小農民からの大規模な土地収奪につながることを指摘し、現在、この問題に取組むためのグループが立ち上がっていると報告しました。

原発問題をどう位置づけるのか

秋本 また先程、クライメート・スペースの中で福島第一原発事故のことを報告し、そこでは、残念ながら原発にはあまり関心が持たれてなかったように思うと述べましたが、そのことについて、もう少し追加させてください。
 私の見たところでは、セミナーの参加者のほとんどは、むしろUNFCC(国連気候変動枠組み条約)の中でいろいろなスキームがあり、京都議定書の中での資本主義の新しい収奪の構造によって起きている問題の方に関心があって、原発にはあまり関心がなかったという印象でした。
 そうした中で、WSF国際評議会の創設メンバーであるチコ・ウイッテカーが原発のセミナーをやりましたが、これはとても意味のあるセミナーだったと思います。参加者は少なかったのですが、彼は「原爆の問題と原発の問題を今までWSFで別個にやったことはあるけれど合体させた企画はなかった、私はそれをやるべきだと思う。いまブラジルで原発を作ろうという計画があるので、それを潰さなければならない。広島からも仲間が参加してくれているので、意見交換していきたい」と言っていました。セミナーには日本から六人が参加し、特に小倉利丸さんは被曝労働の問題を指摘していました。

――クライメート・ジャスティスと原発の問題について言えば、二〇一一年三・一一の直前の第四インターの国際会議で、クライメート・ジャスティスの問題に取り組む決議を作ろうとするときに、原発の問題がまったく触れられていなかったので、私(編集部:平井)が反原発に関して言及すべきだと主張して、なんとか文章に盛り込んだということがありました。その意味で、気候変動問題と原発問題が関連して論じられることがあまりなかったことは確かですね。

秋本 そうですね。そこのところは日本から言っていかなければならないことですね。そもそも原発問題はエネルギー問題というよりは、政治問題だし、一方で、今や気候変動は環境問題ではなく政治問題なので、原発と気候変動は切り離して考えられないですね。
 またクライメート・スペースの中で面白かったのは、クライメート・スペースのまとめの総会(コンバージェンス)の中で、突然チュニジアの女性が手を上げて立ち上がり「私はここで論議されていることを認めない(reject)」と英語で言ったんです。フランス語ではなく、とてもきれいな英語でした。そして彼女が「ここのフォーラムはコロナイズド(colonized)=植民地化されている。ファシリテーターの中にだれもチュニジア人、アフリカ人がいないじゃないか」と熱弁を振るったので、みんなシーンとなりました。
 私も確かに、ファシリテーターの中にチュニジア人がいないのはおかしいと思っていました。ただこのセミナーを開くまでの過程の中では、チュニジアにシェールガスの問題があるので、チュニジア人も参加していました。

グローバル・
スクエアとは


――「グローバル・スクエア」というのは何ですか。

茂住 グローバル・スクエアを実施したグループは、「オキュパイWSF」をスローガンに掲げていましたね。ただ「オキュパイWSF」といっても、WSFの会場の中で提供された場所(屋外のスペース)を「オキュパイ(占拠)」しているわけです。
 ナイロビでの二〇〇七年のWSFの時のように、WSFの会場内外でWSFへの対抗イベントやデモを行うのかと思っていたら、グローバル・スクエアのイベントもちゃんとプログラムに掲載されていました。会場の入口の大きな地図には、グローバル・スクエアの場所も手書きで書かれており、「オキュパイ」した場所で机と椅子をならべてワークショップを行っていましたね。

――どういう人たちだったのですか。

秋本 三月二五日にチュニジアに着いて、夕方、ビア・カンペシーナを中心に集まっているアジアの社会運動団体が、セミナーに向けた事前のミーティングをしました。そのとき、WSFに批判的な若者たちがグローバル・スクエアというイベントをやっている、という報告がありました。そして、そこには、オキュパイ・ウォールストリートの人たちも、スペインの15M(五月一五日運動)の人たちも参加しているが、アジアの私たちもオキュパイや15Mと連携しているので、対立しているわけではない、ということでした。
 対立しているわけではない、という見方はその通りなんです。実は、去年の八月、バンコクでクライメート・スペースを企画した人たちがセミナーをやった時―私も参加しました―、オキュパイ・ウォールストリートの人たちや15Mの人たちも来ていました。そうしたつながりの流れから、彼ら彼女らはアジアの社会運動団体とつながりを持っていて、さらにはクライメート・スペースの人たちともコンタクトを取って来ています。
 いろんな人たちが重層的に重なり合ってWSFにも参加しているし、グローバル・スクエアの企画にも参加しています。その点で、グローバル・スクエアは二〇〇四年のムンバイWSFの時の「ムンバイ・レジスタンス」(フィリピンのシソン派を中心とした対抗企画)のようなものではありません。WSFを明確に拒否するとか、はっきり区分けできるようなものではなかったように思います。
 先程もお話したように、クライメート・スペースの最終日の総会中で発言したチュニジアの女性は「私たちはここに参加できないから街のあちこちでやった。ここはコロナイズドされている」と言った時、会場が静かになりましたが、元ボリビア国連大使のパブロ・ソロン――彼はいま、「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」の代表です――が、静かに説得力のある言葉で「私はボリビアの先住民だ。私たちは元気がないとき『ワニャニャ(私にはこう聞こえたが、正しい発音でないかもしれない)』という古くからの言葉を使う。これはPower to the Peopleを意味する。南アフリカではアマンドラ(「力を!」)だ。私たちには力が必要だ」と語り、「ワニャニャ」と叫ぶと、会場にいたほとんどの参加者がパブロの言葉に続いて「ワニャニャ」を復唱しました。そして彼は最後に「アマンドラ!」と叫ぶと、会場から拍手が起こりました。
 彼は決して「グローバル・スクエア」を批判したわけではありません。最後にグローバル・スクエアのチュニジアの女性が「私たちはアイソレート(孤立)させられている」と言っていましたが、パブロは全くそうではないことを「ワニャニャ」や「アマンドラ」で答えていました。
 別な見方をすれば、WSFにこのような形の批判があるのは、健全な証拠だと思います。どんな運動でも批判があって初めて、バランスのとれたものになるのではないでしょうか。

共通の課題を
討論する困難


茂住 それは本質的な問いかけだと思いますね。気候変動の問題がグローバルな課題であることは明白ですが、その課題について、チュニジアで討論しているにもかかわらずアラビア語ではなくほとんど英語とフランス語で話していただけでは、誰のためのクライメート・スペースなのかということが問われますね。
 このことは、言語の問題だけに限られることではないと思います、今回のWSFでは、「アラブの春」以降のアラブ革命の動向をどのように評価し、革命のこれからをどのように展望するのかという議論が、主にチュニジアと他のアラブ世界からの参加者の間だけで閉じて行われたということになってしまった。
 アラブ革命は、アラブ世界だけに限られるものではなく、グローバルな出来事として捉えるべきものだと考えますが、WSFの参加者の間でも、言語の問題が大きなバリアになっていることは事実にしても、アラブ革命の動向とこれからの展望をリアルな課題として共有することが困難であったということになるのではないでしょうか。
 また、今回の会場は大きくは二つのゾーンに分かれていて、クライメート・スペースのように主に英語やフランス語を使って行われるセミナーなどのゾーンと、アラビア語圏の参加者が多い移民問題やアラブ革命などに関するセミナーなどのゾーンが離れていました。そのためか、多くの参加者は一方のゾーンの中だけで動き回っているという印象を受けました。先ほど述べたグローバル・スクエアのワークショップも、アメリカなどからの参加者が多かったようで、英語圏のゾーンで英語を使って行われていました。一方で、アラブ革命の今後の展望について、ヨーロッパのマルクス主義者のグループが発行していると思われる英語とフランス語のパンフレットなどが何種類か会場内で配られていましたね。
 二年前のダカールでのWSFの時は、エジプトのムバラク政権が倒れるかどうかという渦中の時期だったので、会場内でアラブ革命に連帯するデモが盛んに行われていたし、チュニジアとエジプトの革命に続けという雰囲気があふれていました。今回のWSFでも、会場内でパレスチナ連帯のデモは何度か見受けましたが、アラブ革命への連帯を訴えるデモには、私は出会いませんでした。
 アラブ革命の当事者にとって、「アラブの春」以降の現状がイスラム主義政党の政権の樹立やシリア内縁の泥沼化などをめぐって複雑な局面にあり、アラブ革命のこれからをどのように展望していくのかについて、具体的に踏み込んで議論することが難しくなっているのでしょう。これまでWTOや気候変動などのグローバルな問題を中心に担ってきた参加者とチュニジアや他のアラブ世界からの参加者が分断されたまま、別々に自分たちのセミナーを行っている、という雰囲気を感じましたね。
(つづく)


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