欧州危機
合意はしたがIMF声明に欧州委は不満 欧州労働者を敗北させることが目的
エリック・トゥサン |
以下は、欧州の金融危機への対処方針に関する欧州のブルジョア中枢とIMF間の若干の食い違いをどう考えるかを、ブルジョア側の議論を通して論評している。結論は、この食い違いを本質的なものと誤解してはならない、ということであり、彼らが共通して追求している戦後確立された労働者の権利体系の抜本的切り下げに対する、徹底した闘争の必要性を強調している。特に、緊縮の真の目的が財政再建ではなく労働者攻撃にあること、に光が当てられている。その点ではブルジョア側の成長派であっても変わるわけではない。現在の「アベノミクス」が労働の規制緩和=労働者の権利に対する抜本的な破壊を不可欠の構成要素としていることに、それははっきり示されている。押し出されることの多い成長か緊縮かという対立軸は、偽装された対立である。「アベノミクス」との対抗という観点からも参照していただきたい。(「かけはし」編集部)
欧州委員会と
IMFの緊張
二〇一二年一〇月IMFは、欧州での危機がなお進行中である理由について、一つの鍵となる説明を明らかにした。その調査局は、公共支出の削減は一ユーロ当たり、GDPの〇・九ユーロから一・七ユーロの下落に帰着するだろう、と書いた。フィナンシャルタイムス論説委員のウォルフガング・ミュンショウは、今回の危機の場合には、三%の財政調整(つまり、公共支出の三%減少)はGDPの四・五%下落に結果するだろう、と結論づけた。それゆえにこそ、欧州諸政権が遂行中の現在の諸政策は、経済活動の、公的債務総額の削減を不可能とする沈滞へと導き続けてきた。ウォルフガング・ミュンショウが言うように、IMFの意図を誤って判断してはならない。つまり「緊縮策は苛酷すぎ、不公正すぎ、短期的にはあまりにも多くの苦痛を生み出し、あるいは富裕層よりも貧困層に打撃を与えている、などとIMFが言っているわけではない。それは単に、緊縮策は合理的な期限内に債務を削減するという目標に到達しないかもしれない、と言っているに過ぎない」ということだ(注一)。
その一方、IMF専務理事のクリスチーヌ・ラガルドが、いくつかの緊縮策の開始はより長期間にわたるものへと引き延ばされるべき、あるいは経済的刺激を目的にしたある程度の公共支出増額もあり得るかもしれない、とほのめかしているとすれば、それは彼女が、新興市場国(特に、中国やブラジルを先頭とするBRICS)出身のIMFメンバーからの圧力を受けていることが理由だ。これらの諸国は、欧州諸国への輸出下落というブーメラン効果に恐れを抱き、同時に欧州に対するIMFの金融的関与の重さを批判している。IMF専務理事は先の観点を東京で、二〇一二年一〇月のIMFと世界銀行年次総会において明らかにした。IMFの先の文書とラガルドの勧告は、欧州の指導者たちに不満を抱かせた。たとえばメルケル政権の財務相であるウォルフガング・ショエブルは、彼女の最終的見解に対しラガルドを公然と批判した(注二)。
ウォルフガング・ミュンショウは、緊縮策の深刻さに関してIMFが示した疑念も、いずれにしろ、強硬路線に今も固執している欧州の指導者たちの姿勢を変えるものとはならない、と考えている。「欧州の政策作成者たちは彼らの信頼性に病的なまでにこだわりをもち、そうであれば私は、その政策が破裂するという苦い結果が来るまで彼らは緊縮策にしがみつくと予想する」と(注三)。
IMFと欧州委員会の緊張は、二〇一二年一一月に再度公然と明らかになった。ラガルドはギリシャの行く末に関し、ユーログループの代表であるジャン―クラウド・ジュンカー(ルクセンブルク)が示した楽観論に反対した。IMFは、欧州で取られるべき方向に影響力を高める目的で、委員会に対し圧力を行使したいと思っているように見える。新興市場諸国と米国はこれまで、欧州危機に関して採択される解決案に影響力を及ぼそうと、特に財政拠出を行うよう彼らが求められている以上、IMFの枠内で行動を取ってきたのだ。
IMFは、残酷な緊縮策が破綻した、という歴史を回顧している
IMFのもう一つの調査、世界経済概観報告の中の一章に関し、多くのことが書かれてきた。その報告は二〇一二年一〇月の年次総会直前に発行されたが、この章の中でIMFは、一八七五年以後の二六回にわたる債務危機の成り行きを研究している。そこでの公的債務は、GDPの一〇〇%以上の大きさだった。この研究は、それらの危機を解決するとして適用された諸政策を分析している。分析された成り行きの一つは、第一次世界大戦後の英国のそれだ。その時英国の公債はGDPの一四〇%に達していた。英国政府は、通貨引き締めと結び付けた極度の財政緊縮策を適用した。政権は支出を大幅に削減することで、一九二〇年代を通じて、厳格な返済を通じて英国の債務を減らす目的で、GDPの七%近い利払い前財政黒字を達成した。しかし公的債務は減少しなかった。すなわち一九三〇年にそれは、GDPの一七〇%に達し、三年後の一九三三年には、一九〇%以上となっていた。
フィナンシャルタイムス首席経済評論家であるマーチン・ウォルフは、英国政府の政策に込められた本当の目的は「組織された労働者を打ち砕くことだった。これらの政策が一九二六年のゼネストを引き起こした。それらは、第二次大戦後何十年間も残り続けた苦みをまき散らした」、と述べている(注四)。これこそがまさに、今欧州でやられ進んでいることだ(注五)。ウォルフは、欧州の政策作成者とマリアーノ・ラホイのスペイン政府は、失業を武器に使い賃金を抜本的に引き下げたいと思っている、と示唆している。「一方でスペインの実質GDPは縮小しつつある。財政引き締めの努力はそれを確実に縮小させる」、と彼は述べている。そして彼は、イタリア政府も同じ政策によって力づけられてきたと述べることで、彼の分析を続けている。彼が結論とした言明は「しかし金詰まりに苦しむ諸国における財政緊縮と賃金引き下げの努力は、社会や政権や、さらに国家さえ破壊しかねない」というものであり、これは、この地球上の主要金融日刊紙のスタージャーナリストから出てくるものとしては、異常なものに見えるかもしれない。事実において、ウォルフが何カ月も力説してきているように、諸国が惨害に向かって真っ直ぐ向かっているのは、緊縮策が理由なのだ。彼は彼の分析を証明するものとして、二〇一三年三月のイタリアにおける、マリオ・モンティが喫した選挙での徹底的な敗北を指摘している。
しかし欧州の政策策定者たちは、ウォルフガング・ミュンショウが書いているように、これらの政策を遂行し、なおも厳しくし続けるつもりでいる。
このような不快な緊縮政策を欧州の政策策定者が遂行している理由は何か?
欧州の政策策定者には何も見えていない、などと信じるとすれば間違うことになるだろう。彼らの動機は、経済成長回復への回帰ではない。また、その中で繁栄が行き渡るより一体化した全体を生み出すことになる、ユーロ圏とEU内部の均衡ある関係への回帰でもない。政府の行動を形作っている企業指導者たちは、第二次世界大戦後に欧州内部で獲得された社会的諸権利、彼らから見れば過度に取られすぎたそれらに対する、大攻勢を押し進めることの方を好んでいると思われる。この観点から見れば、近年遂行された諸政策は大きく成功してきた。失業を高めてきた緊縮諸政策が基で、労働者たちは、自分たちがますます不安定な立場にあることを見出している。抵抗し闘う彼らの能力は、ひどく低下させられてきた。賃金とさまざまな社会給付は引き下げられ、一方でEU内部の労働者間の巨大な不平等は、そのことで彼らの間の競争が高まるように、維持されてきた。欧州の政策策定者が遂行した目的の一つは、世界中の市場シェアを高める欧州企業の能力改善だ。この目標を達成するためには、彼らなら言うと思われるが、「労働コストは大胆に削減されなければならない」。それが意味することは、欧州の労働者に大敗北を喫しさせる、ということだろう。同時に他の目標も遂行されつつある。つまり、公共サービスに対するさらなる攻撃、銀行部門での新たな崩壊を可能な限り回避すること、立法権力を凌駕する形での執行権力(欧州委員会と各国政府)のさらなる強化、資本家の設定課題に有利となる諸政策をしっかり刻み込んだ諸条約を通じたより厳しい制約の強制、などなどだ。
そのために支払うべき政治的対価や選挙上の対価は高くなるかもしれない。しかし一般的に言って欧州政治を支配している主要な政治的家族は、目前の選挙に彼らが負けるとしても、次には勝利し権力を取り戻す、ということに賭けてきた。いずれにしても野党に地位を譲ることは、彼らが保持しているかもしれない地方権力(大都市、地域政府、その他の中の)には触れないとしても、中央の国家政府機構、欧州諸制度の中にすでに獲得している特権のひとそろいを失うことを意味しているわけではない。
欧州の政策策定者の構想を分かりにくくしているものはオバマ政権の決定であり、それは、ブッシュ政権の足跡をたどる形で抜本的な緊縮政策を遂行するというものなのだ。特に、公共支出と社会支出における財政削減が、米国ではむしろ進められようとしている。これらの削減は、欧州企業がそこでの市場シェアを奪う助けとはならないだろう。日本のみが、気乗りのしない刺激策にすぎないとしても、それを適用する意思をもっているように見える。しかしそれもこれから確かめられるべきこととしてある。
結論は、上に見てきたものごとの光に照らした場合、IMFと欧州の政策策定者の間には全面的な一致がある、ということだ。それ以上に、オバマ政権が米国で緊縮政策をより強めるつもりだと公表した二〇一二年一二月以後、欧州で遂行されている政策に関したIMF向けのラガルドや他の指導者たちの批判的言明は、もはやどのようなものも聞こえてこない。
われわれは、IMFの言明に込められた深い意味を間違えてはならない。欧州の政策策定者に関しIMFがたとえ少しばかり距離を取ることがあるとしても、それは、私有化と第二次世界大戦後勝ち取られた社会的諸権利に対するより強化された攻撃を助ける構造調整政策を放棄するよう、彼らを説き伏せるためではない。IMFは、なされる決定に影響力を及ぼし、彼ら自身を押しつけることを望んでいるのだ。われわれは来る数カ月に、彼らの予算均衡達成に向け欧州の政策策定者が望んでいるリズムは減速させた方が良策だ、とIMFがなお力説し続けるかどうかを知ることになるはずだ。いくつかのIMF部局が作成する報告に、支配的な政策を多少ともはっきりと否認する議論が含まれるとしても、IMFの行動は世界中でみじんも変わることはなかった。それらの行動こそ、われわれが全力をもって闘わなければならないものなのだ。
注一)ウォルフガング・ミュンショウ、「緊縮への固執を終わりに、というサイレンの音に留意せよ」、フィナンシャルタイムス、二〇一二年一〇月一〇日。
注二)フィナンシャルタイムス、「ドイツの閣僚、IMFトップを非難。ショエブルが緊縮策緩和を呼びかけたラガルドを批判」、二〇一二年一〇月一二日。
注三)注一。
注四)マーチン・ウオルフ、「公的債務に関する歴史からの教訓」、フィナンシャルタイムス、二〇一二年、一〇月九日。
注五)エリック・トゥサン、「第二次世界大戦後の欧州の社会的権利に対する大攻撃」、民衆対銀行シリーズ第三部。
▼エリック・トゥサンは、リエージュ大学先任講師であり、第三世界債務帳消し委員会(CADTM)ベルギー代表、さらにATTACフランス科学委員会メンバーでもある。『債務、IMF、世界銀行、六〇の疑問、六〇の回答』はじめ著作多数。(「IV」二〇一三年四月号)
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