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    かけはし2013.年4月15日号

未来への歴史的視野を提示


「六ヶ所村の記録」鎌田慧著によせて (3)

現システムの限界を鋭く切開

もくじ

?お前だち(県職員)は、会社の味方だ、それともおれたちの味方なんだか、どっだべ(前々号)
?寺下村長の正論 ゼニでふみつけ
?開拓ではなく 帝国主義の収奪
?最悪の終末処理半島(前号)
?自治、民主主義の破壊 人権侵害のあとには
?むすび(今号)


自治・民主主義の破壊
人権侵害のあとには……

 電事連が核サイクル基地の立地を村に申し入れたのは八四年七月二七日。核燃施設に関する六ヶ所村住民の意識調査によれば、反対四三%、賛成一九%、不安六八%(地方自治研、一〇月一〇日)。
 以下に引用するのは、村の自治がどう扱われるか、その見本になるからである。
 「八五年一月一六日の全員協議会がはじまったとき、村会議員のあいだにも、核燃施設にたいしての疑問が多く、議会での決定には時期尚早の意見が過半数を占めていた。
 会議がはじまってすぐ、滝口議員が“今日の全員協議会で、議決をしようとしているのか、法的にできるのかどうか、議長と村長から確認の意味で御答弁願います”と質問したのは、彼の深い懸念を表している。それにたいして、小泉議長は“法的には議決とか決議はできないのであります。ま、この点をご理解して頂きたいと思います。よろしゅうございますか”と答えた。
 古川村長も“わたしは望んでおりますが、議長さんが申し上げたように、決議するという考えはないようでありますから、この点でご了承をお願い申し上げたいとおもいます”と明言していた。
 ところが核燃の議論がはじまるやいなや、小泉議長は、突然、審議を打ち切り、受け入れを“了承していただくようにして戴きまして”とまとめてしまった。呆然として反発する議員たちに、議長は“いずれ協議会をひらきまして議会としてさらに対処して参りたい”となだめていた。ところが古川村長は“了承された”と記者たちに発表した。村の運命を決する決定にしては、あいた口がふさがらないほどに奇計を弄した議事運営だった。
 あらかじめ打ち合せずみの北村知事は、その結果を県庁で待っていた。村長からの報告を受けるや、“村論集約のご苦労に深く敬意を表する”とのコメントを新聞発表して、さっさと既成事実にしてしまった。そして三カ月後の四月九日、これまた県議会の全員協議会をひらき、警官隊を導入して反対派を排除している。こうして野党議員の反対を尻目に、“立地受け入れ”を決定してしまったのだった」(同前、一五四〜五頁)。
 末尾にある六ヶ所村のくわしい年表を確認してもらうと分かりやすい。あいた口がふさがらない奇計はさらに続く。
 泊漁協は核燃反対の滝口組合長を核燃推進四人の理事が、不当に解任、息子の栄作さんは漁協の臨時総会が紛糾の際、傷害罪と威力業務妨害があったとして逮捕、一七日間の勾留、結果は不起訴。逮捕者は“核燃から漁場を守る会”の高梨会長ら五人、一一人の漁師が家宅捜索を受け、一八人の妻が連日呼びだされて取り調べを受けた。徹底して弾圧された。
 三沢市の「北斗新報」編集人、伊藤裕希記者が、原燃二社に村民三〇数名で抗議した際、玄関のガラス一枚にヒビがはいったとして、証拠もなく逮捕された。核燃基地への反対キャンペーンを組むローカル紙に、電事連、県政、警察が仕かけた言論、人権弾圧であった。伊藤記者は一七日間の勾留、釈放となった。その後、坂井留吉氏と漁師三人が逮捕され、計一〇人と異常な雰囲気になった。
 日本原燃サービスと日本原燃産業二社の海域調査は六月二日から核サイクル予定地周辺一九地点でおこなわれ、装甲車、パトカー、派遣された機動隊員と私服刑事四〇〇人、翌日は六〇〇人が岸壁を固めた。
 「夕方から県内の労働者が駆けつけ、反対派は四〇〇名ほどになった。深夜一二時に岸壁で集会がひらかれ、漁民たちは調査海域にピケを張るために出発した。坂井さんは溝口組合長などと、漁協指導船「はやぶさ」に乗船して出発した。出動した漁船は原発反対運動をつづけている隣りの白糟漁協とあわせて、四二隻になった。
 一方、八戸海上保安部からは三〇〇〇トン級の巡視艇三隻、四〇〇トン級五隻、三〇トン級三〇隻などがブイ投下の作業船、鎌倉丸を護衛して出動した。
 ……夕方まで、調査地点にちかづこうとする作業船、阻止する漁船、それを排除する巡視艇と三つ巴のシーソーゲームが繰りひろげられた。
 “この海域から漁船をだしなさい。退去しないと船舶往来妨害罪で逮捕します”。
 巡視艇のマイクが叫ぶと、“はやぶさ”のマイクから滝口さんの声で、“自分たちの海を守ってなにが悪い。この海から出ていけ”とやり返した」(同前、一八三〜四頁)。
 大型巡視艇は波をかきたてて漁船を翻弄、ヘリコプターが急降下して強風を叩きつけた。坂井さんは海戦だったと述懐している。
 年があけて八六年一月、漁協の臨時総会で、滝口氏が組合長に選任された。問題は板垣前組合長が理事会に諮ることなく、原燃二社に提出していた核燃施設建設のための海域調査の同意書の撤回だった。
 書面議決書の偽造、本人の知らないうちに署名捺印された海域調査に同意する文書が、七一通も偽造されていたという。滝口組合長は原燃二社に、海域調査の同意書は無効とする内容証明書を送ると、両社からは滝口組合長は認めない、というものだった。
 事件が起ったのは三月一〇日、高梨さんは滝口組合長、村畑理事と三人で漁協に出かけた。板垣理事は外にいて、高梨さんを外によび出し、宣伝カーで放送した内容をめぐって暴力におよんだ。
 高梨さんは左手の小指骨折、鼻血が流れていた。パトカーが呼ばれたが、現場の写真も撮らずに去った。診断書は次のようだ。
 「“左五指基節骨圧折、左手挫傷、顔面頚部打撲、胸部打撲、頚部捻挫、上記にして約六週間の加療を要す”。
 立派な傷害罪のはずである。が、加害者である板垣理事は、勾留も起訴もされずにすんだ。反対派なら去年九月の臨時総会のように、机をひっくり返しただけで五人も逮捕され、推進派なら無抵抗の老人に六週間の怪我を与えても野放しである。それが県警の姿勢を示している」(同前、一九三頁)。
 もっと現実がわかるように記述してあるが、はしょった。企業、権力は反対派となれば、田舎の漁業組合にこんなにも介入する。
 「六月からはじめられた原燃二社の“海域調査”は、このようなペテンを足がかりにして強行された。組合員たちの怒りにさしむけられたのは、大型巡視艇や高速艇など四〇数隻の艦艇とヘリコプター二機、六〇〇人強の機動隊など、陸海空を制圧した警備だった。
 チェルノブイリ原発事故のあとも、日本政府と電力各社は、原発建設のスピードを落していない。
 残念ながら、下北半島は東京から遠いこともあってか、ここでのできごとはほとんど全国的なニュースとして伝えられていない。が、ここで白夜堂々とおこなわれている、政府と電力会社とを背景にした議会制民主主義の否定、地方自治の破壊、過剰警備と大量逮捕、白昼公然の暴力、漁協の私物化、組合長の解職、知事権力の干渉、公文書の偽造など、ありとあらゆる汚いやり方が、核基地の危険性をなによりも雄弁に物語っている。尋常な方法では、どこにも立地できない焦りに、核大国を目指す政府と電力会社はとらわれている。いまでさえ、こうである。もしも完成したなら、なにが起るかわからない。
 “国と県のヤラセとイジメはひどすぎる。いやはや……”。
 永いあいだ、自民党の村議だった滝口組合長は絶句した。彼自身、自民党政治のやり方をよく知る立場にいた。それでも、やはりあきれはてている。六ヶ所村泊におこっていることは、日本の歪んだ近未来像を象徴しているようでもあり、抵抗しつづける漁民とその妻たちは、悪夢の近未来の最前線にいて、身体を張って拒否しているものである」(同前、二〇一頁)。

 むすび

 読んでもらいたい一念で、つい引用文が多すぎたかも知れない。次は原発、核を戦略的に考える上で、著者の重要な提言である。
 「地盤の不安定な沼沢地に、盛り土されて集中配置されようとしている核施設は、世界でも例をみないほどに過大なもので、将来、三〇〇〇トンの使用ずみ核燃料がもちこまれ、年間八〇〇トンの再処理がなされる計画である。
 使用ずみ燃料としての高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体(キャニスター)にして四六四〇本(再処理工場で三二〇〇本、英仏など海外から返還分一四四〇本)、それらが六ヶ所村に集まってくる計算である。“低レベル”では、ドラム缶で三〇〇万本が永久に埋設される。
 たしかに、一〇〇〇年もたてば、たいがいの放射性物質の毒性は死滅するであろう。が、プルトニウム239の半減期は二万四一〇〇年、ネプツニウム237は二一〇万年、ヨウ素129に至っては、一六三〇万年といわれている。一〇〇〇年の安全を保つ容器でさえ、いまだに保障されていないのだから、六ヶ所のひとたちは、はるか一万年以上は毒性を保ちつづける死の灰と添寝することになる。
 東北の太平洋岸の歴史には、大地震と大海嘯(しょう)(津波)の歴史が刻みこまれている。地盤が脆弱で、なおかつ大活断層の存在が指摘されている地点で、人類とは相いれない、もっとも危険な放射性物質を保存し、加工しようとするのは、安全性の信頼とその押しつけによっているが、自然の猛威を完全に制御し、事故を完封できることを信じたかったにしても、それは利益に目のくらんだ、電力会社や電機会社の経営者たちの迷信でしかない。
 原発は、たかだか人間が制御できない物質を日夜ためこんでいる。廃棄物を再処理してウランとプルトニウムを取り出し、それを高速増殖炉で燃やしてプルトニウムを生成させるのが核燃料サイクルだが、プルトニウムはすでに過剰である。
 技術的に確立されず、経済的にも引き合わずして、なお突進しようとするなら、核兵器開発を志向する情熱を疑われても仕方あるまい。高速増殖炉や再処理工場の存在は、つねに軍事利用という原発の本卦還りのチャンスを手にしていることであり、と同時に絶望的な環境破壊と日常的な労働者の被曝、そしてさらには大事故の恐怖に脅かされていることを意味している。
 たとえ、ウインズケールやソ連のウラルやチェルノブイリなどのような大事故がすぐには発生しなかったにしても、キャニスター一本で数億人のガン患者をつくりだす“負の遺産”を、人類は未来にわたって封じこめうるのかどうか。
 六ヶ所村の農民の生活を奪い、自治体の民主主義を破壊し、農協や漁協など住民団体を屈伏させて用地を買収し、県民や国民の反対の声を押し切って強引につくられようとしている施設は、軍事上でも重要な意味をもつだけに、原発地帯以上の厳戒体制と住民管理とをひきだすのはまちがいない」(同前、三三二〜三)。
 「六ヶ所村の記録」は、福島の原発事故を切開する歴史的な視野を提示している。企業の繁栄、営利にとらわれた経済のあり方、その限界に気づかせる。
 過剰生産による不況、世界化しても狭い市場、慢性的な大量失業、――処方箋にピラミッドを造って地中に埋めればよい、というアネクドート、秘話がある。
 人の生活にはちょっとも役立たない兵器を大量に造って廃棄している現代の世界をみれば、驚くにあたらない。企業の生産は活況を呈する。帝国主義は延命できるというわけだ。
 自民党の石破幹事長ならずとも、核兵器の予備として原発に大量の予算を注ぎ込めば、それなりに資本は回転する。そこそこ電源にもなる。
 ただし、大量の国債が刻々と破綻をきざみ、列島は汚染、否、地球の汚染で人類の滅亡をはやめる。
(おわり) 
(くどう ひろし)


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