もどる

    かけはし2013.年3月18日号

小農を無視する投資は農業破壊


2.27 モザンビーク開発院内学習会

「農業支援」なら現地農民を排除するな

 二月二七日、参院議員会館で「アフリカの課題に応えるTICAD V(アフリカ開発会議)の実現に向けて〜食料安全保障と『農業投資』が引き起こす土地紛争」と題した院内学習会と記者会見が開かれた。アフリカ日本協議会(AJF)、日本国際ボランティアセンター(JVC)、オックスファム・ジャパンの三団体が主催し、モザンビーク開発を考える市民の会が協力。この集会には東アフリカのモザンビークの最大農民組織UNAC(全国農民連盟)からアウグスト・マフィゴさん(会長)とヴィセンテ・アドリアーノさん(アドボカシー&連携担当)、そして環境組織JAの森林アドバイザーのレネ・ダ・ソウザ・マショコさんが参加した。
 問題の焦点は現在JICA(国際協力機構)が一九七〇年代から進めてきたブラジルの中央部に広がる「セラード」と呼ばれる熱帯サバンナ地域の開発経験の上に、ブラジルと組んで東アフリカ・モザンビークの熱帯サバンナ地域で進めようとしている農業投資開発計画(プロサバンナ)にある。しかしこのプロサバンナ構想は、モザンビークの主要産業である農業開発を口実に、小農の家族農業を破壊し、土地を奪い、アグリビジネスによる大規模輸出志向農業に転換しようとするものである。しかもブラジル側では、このプロサバンナ構想を通じて、ブラジル土地なし小農をモザンビークに移住させて「土地を与える」という構想が語られている(本紙二月二五日号7面の「学習会」呼びかけ記事参照)。
 「ヴィア・カンペシーナ」(農民の道、新自由主義的グロール化に反対する農民たちの国際的ネットワーク)に参加しているモザンビークのUNACは、当然にもこうした構想に強く反対している。

農業投資をめ
ぐる国際合意
 集会の初めにオックスファム・ジャパンの森下麻衣子さんが「農業投資と土地争奪の傾向と『責任ある農業投資』をめぐる動き」と題して報告。
 森下さんはこの間の農産物の価格の高騰がとりわけアフリカで顕著であり、土地取引=土地収奪もアフリカが主要な対象になっていること、その結果として飢餓がアフリカで頻発・構造化していることを指摘した。その中で日本が主催し、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連貿易開発会議(UNCTAD)が共催して、二〇〇九年にニューヨークで高級実務者会合が開かれ、「責任ある農業投資原則」(RAI原則)が三一カ国、一二団体によってまとめられた。
 この責任ある投資原則(RAI)は、@土地及び資源に関する権利A食料安全保障B透明性、グッドガバナンス及び投資を促進する環境C協議と参加D経済的実行可能性および責任ある農業企業投資E社会的持続可能性F環境持続可能性をうたっている。
 また二〇一二年の第三八回世界食料安全保障委員会では「国の食料安全保障における土地、漁業と森林の保有の権利に関する責任あるガバナンスについての任意自発的指針(VGGT)」が採択された。VGGTは「たとえ非公式のシステムにおけるものであっても、正当な保有権を公認し保護する」「過去のある時点で強制的に追放された人びとの土地を強制収用し返還する」「先住民の権利」などがうたわれている。
 さらに二〇〇九年のG8ラクイラ・サミットでは「ラクイラ食料安全保障イニシアティブ(AFSI)」が合意され「持続可能な農業開発のための支援」「三年間で二〇〇億ドルの資金動員」という目標が示された。また昨年のG8キャンプデイビッド・サミットでは「食料安全保障及び栄養のためのニューアライアンス」が合意された。これはラクイラ・サミットでの合意に基づいて「一〇年間で五〇〇〇万人を貧困から救い出すことへの共有されたコミットメント」だとされている。

だれのための
投資かが問題
 こうして「食料安全保障」という角度からのアプローチが国際的に構想されているが、森下さんはこれらの戦略についての様々な問題点、批判について紹介した。RAIの場合は拘束力がなくかつ先進国やアグリビジネスなどによる土地収奪を正当化しているという批判があること、VGGTの場合はより包摂的で民主的だが拘束力がなく、現場での適用や予算規模に問題があること、さらに「ニューアライアンス」については、途上国が含まれない先進八カ国だけでの合意であり、かつ先進国企業のための投資環境の整備という側面が強い、などである。
 森下さんは、とりわけ日本の「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を取り上げて、「日本の食料安全保障」のためという関心だけで住民一人ひとりのための「食料安全保障」ではないこと、「生産量と輸出量の増加」という指標に重点が置かれ小規模農家の現実が反映されていないこと、「投資環境の整備」と「現地農民の土地への権利」という点での矛盾が意識されず「投資環境整備」だけに関心が注がれていることへの疑問を表明した。
 森下さんは二〇〇九年のFAO会議でのオリビエ・デシーター(食の権利に関する国連特別報告者)の「私たちは、世界の飢餓問題に対して、生産量の増加という視点だけではなく、周縁化、格差拡大、社会的正義の観点から取り組む必要があります。私たちは、歴史上かつてないほどの食料を生産しながら、かつてないほど飢餓人口の多い世界に生きているのです」という言葉を紹介した。

ブラジルの例は
小農圧迫を実証
 次にモザンビークLUNAC(全国農民連盟)の代表が報告した。七万八〇〇〇人の会員を擁するUNAC会長のアウグスト・マフィゴさんとヴィンセンテ・アドリアーノさんの報告は以下の通り。
 モザンビークは小農による農業をベースとした国であり、人口の七〇%以上が農村部に暮らしている。しかし二〇一〇年の絶対的貧困層は人口の五二%に達し、二〇〇七年以後経済成長率が七%を超え続けていても貧困は解消していない。この間、民間企業による農業投資が増大し、食料生産を犠牲にした形でバイオディーゼル作物の栽培や商業植林が進められている。また外国の鉱山企業による土地法に違反した農地の収奪も進んでいる。
 こうした民間投資に比べ小農への投資は僅かだ。国の耕作地の九割は小農によって耕作されているにもかかわらずだ。その結果、農民の都市への流出が増加し、農村社会の崩壊、貧困に発する都市での社会的不安定が増大している、
 こうした中でUNACは小農、農村女性の社会的権利と自立、連携の活動を進めてきた。いま、私たちが問題にしている「プロサバンナ」とは何か。それはモザンビーク、日本、ブラジルによるモザンビークのナカラ回廊沿いの地域の農業開発を目指すもので一六の郡、六〇〇万ヘクタールを超える土地を活用する、と説明されている。それは三〇年前に日本とブラジルの二国間協力で進められたセラード開発計画の引きうつしだ。
 モザンビークの農業相は小農の土地が奪われることはない、としているがブラジル側のパートナーであるルイス・ニシモリ議員は「土地不足で失業しているブラジルの若者が、モザンンビークで大規模なプランテーション農業を営むため」と発言している。さらにブラジルの「セラード計画」は大豆やメイズやサトウキビのモノカルチャー栽培に基礎を置いたものであり、小農生産の衰退、食糧生産の消滅をもたらしてしまった。セラード地域に暮らしていた人びとは欧州系・日系の移民とその子孫からなる入植者に土地を売り渡してしまった。生態系と先住民族のコミュニティーは、プランテーションに姿を変えてしまった。
 農村の小農のコミュニティーは破壊され、土地なし農民の運動は弾圧され、リーダーたちの暗殺が続いた。セラード開発は農村部から小農を追い出し、食糧生産を壊滅させ、食糧安保を危機に追いやった。こうしたことがモザンビークに持ち込まれるのに反対する。日本政府の支援は、何よりも小農の支援のためになされるべきであり、私たちは日本の農民とモザンビークの農民のパートナーシップを求めている。

JICA、外務
省は現地を黙殺
 次に日本アフリカ協議会の元会長である吉田昌夫さんが「農業投資と日本の援助―プロサバンナ事業」について報告。吉田さんは、援助対象とされている人の声が聞こえず、現地の小農の組織とまったく話もせずに進められている「援助プロジェクト」を批判し、当初外務省はLUNACの存在も認識していなかった、と指摘した。またブラジルのアグリビジネスが進める事業に関して「ブラジル人の入植はあるのか」という問いに「最小限度の移住はある。ただ補償がなされるから大丈夫」との返事だったという。「つまり収用はあるということだ」と吉田さんは語った。
 JICAはこの間、二度に渡って田中理事長がモザンビークを訪問し、「ルールにのっとった民間投資」を行うとしているが、その際小農への情報提供については「援助する側からのものであり、農民は情報を提供される側にとどまっている」と批判した。吉田さんは「小農の抱えている問題は大規模投資では解決できない。小農の問題は小農のところに行かなければ分からない」と強調した。
 最後にモザンビークの環境団体JAのレネ・ダ・ソウザ・マショコさんが大規模開発計画、森林破壊がもたらす生態系への影響について説明した。
 モザンビークのプロサバンナ計画は今年六月、横浜で開催されるTICAD(アフリカ開発会議)の重要なテーマになっている。TICADの問題点を考え、住民にとっての公正な開発とは何かを共に考え、行動しよう。    (K)

2.27「横浜でTICADを考える会」トークセッション

人々の生の声に基づき市民の連帯を



「成長」著しい
南アはいま
 六月一日から三日まで、横浜で「アフリカ開発会議(TICAD)」が開催される。TICADは日本政府が国連や世界銀行などと共催で一九九三年から五年ごとに首脳会合等を開催してきた。五回目となる今回の全体テーマは「躍動するアフリカと手を携えて―質の高い成長を目指して」となっている。「成長するアフリカ」の市場をめぐる国際競争を視野に入れた国際会議という性格を強くした今回のTICADには、アルジェリア人質事件の日揮をはじめ、アフリカの資源大国への進出や援助ビジネスにかかわる企業が早くから「TICAD V推進官民連携協議会」を開催している。貧困削減などに取り組むNGOはTICAD Vに向けた政策提言やキャンペーンなどに取り組んでいる。
 それらの動きとは独自に二〇〇八年に「G8とTICADを考える会」を結成した市民運動の人々が、今回「横浜でTICADを考える会」を結成し連続学習会を企画し、二月二七日に結成トークセッションが開かれた。
 結成トークセッションのコーディネーターは会のメンバーで南アフリカの反アパルトヘイト運動を支援してきた大友深雪さん。支援してきたアフリカ民族会議(ANC)が一九九四年に政権についたが、近年の新自由主義グローバリゼーションの流れに沿う経済運営のなかで、ANCの当初の理念から大きく逸脱した黒人間の格差や不平等が拡大しており、TICADなどが掲げる「開発・成長」政策ではそれらを解決することはできないという。
 アフリカ支援が、収奪した富のおこぼれとしての「援助」から、企業中心のさらなる収奪のための「開発」へ移行しつつあるが、課題はこれ以上の収奪をやめるとともに富の再分配を通じた世界的な不平等の是正ではないのか、と問題提起した。

市場主導成長
政策には限界
 続いてアフリカ日本協議会の茂住衛さんが、TICADに対するNGOの取組みの経過を説明した。NGOは政府間会議であるTICADにアフリカの人々の声を反映させるためにシンポジウム、政策提言、外務省との協議などを続けてきた。今回のTICAD Vに際してもベナン、ボツワナ、モロッコの市民社会の代表を招待し横浜でシンポジウムを開催した。
 「これまでのTICADは従来のアフリカ外交の延長のような感じだったが、今回からは民間企業が『成長するアフリカ』の活力を牽引するという側面がクローズアップされている」と今回のTICAD Vを分析し、「経済成長すれば貧困は自然と解消するという考えもあるが、医療や教育など公共サービスの面では課題もある」と市場主導の成長政策への懸念を表明した。
 貧困削減や環境問題など、政府間の国際会議でもNGOの主張を無視できなくなっている現状を評価しつつ、NGOの側も政府や企業との距離のとり方などにおいて常に振り返る必要があると指摘した。
 また「世界貿易機関(WTO)交渉などには社会運動による対抗アクションなどが取り組まれ、世界社会フォーラム(WSF)につながる流れもある。二〇〇七年ケニア・ナイロビや二〇一一年のセネガル・ダカールでのWSFにアフリカや日本のNGOも参加している」と紹介した。


連帯かパート
ナーシップか
 続いて一九八八年にANC東京事務所の専属スタッフを勤め、アパルトヘイト関連法撤廃直後の一九九二年から一五年間、日本ボランティアセンターの南ア現地スタッフとして活動し、現在は明治学院大学国際平和研究所研究員としてアフリカ連帯活動に携わる津山直子さんから話をうかがった。
 「南ア滞在期間中、黒人意識運動や現地の人々と接する中でたくさんのことを気づかされた。近年、国際問題に取り組むNGOは増えているが『連帯』が言われなくなった。『パートナーシップ』というが本当に同じ立場に立っているのか」と問題提起。この日も、日本政府がモザンビーク現地の農民を無視して進める農地開発のプロサバナ計画に抗議するモザンビーク全国農民連盟(UNAC)とともに、日本の外務省やJICAに申し入れを行ったことを報告。「外務省は今年九月にマスタープランを提示するという。だが農地収奪の対象者を排除したマスタープランとは何なのか」と批判した。
 「来日したUNACのメンバーはヒューマニティとソリダリティの問題だと強調していた。北欧ではNGOだけでなく農協、政府機関もUNACに連帯を表明している。モザンビークでは、バイオ燃料作物を植えろと指導されたが、結局だれも買いに来なかった。今度は日本向けに大豆を植えろと言われているという。しかし何が本当に必要なのかは現地の農民達が一番知っている。『パートナーシップ』というのであればまず農民達の意見を聞くべきだ」。
 津山さんは、今後も外務省やJICAへの申し入れや協議などを続けていき、TICADを契機にアフリカの人々の本当の声を政策に反映させていく日本の市民社会の連帯の必要性を強調した。
 フロアセッションでは、世界と日本の貧困をつなげる視点、いまだ植民地主義の影響下にあるアフリカ開発支援などの問題提起を受け議論が行われた。
 横浜でTICADを考える会では、三月三〇日には二〇一〇年暮れにチュニジアから始まった北アフリカ革命とWSFチュニジアをテーマに第二回目の学習会を行い、六月一日のTICAD首脳会合の当日には集会とデモも予定している。(早)

 


もどる

Back