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米帝の世界支配戦略と石油資源            かけはし2002.12.9号より

戦争マシンに油をさす

シャルル・アンドレ・ウドリー


 米ブッシュ政権によるイラクへの侵略戦争が秒読みに入った。ブッシュドクトリンに体現されたアメリカの帝国主義的世界戦略は、「テロ支援国家≠ネらずもの国家」への無法きわまる先制攻撃を正当化するものであり、ブッシュ政権を支える石油・軍需産業の利害を体現するものでもある。それはエネルギー市場においてもアメリカの排他的支配を維持しようとするものだ。「インターナショナルビューポイント」11月号より。



 米国が主導する対イラク戦争はいつはじまるだろうか。観測筋は「戦争が始まるのかどうか」ではなく、いまや始まるのは「いつか」を問題にしている。しかし、戦争はすでに始まっているのではないのか。
 二〇〇二年八月だけでも米国と英国の爆撃機は十回出撃し、イラク領土内の「司令部」を爆撃した。公開論争の影で、いやもっと正確にいえば偏った情報の広範なキャンペーンの下で、イラクを取り巻く地域への米国軍事力の配置が進んでおり、そのテンポは「砂漠の嵐」作戦の準備段階であった「砂漠の盾」作戦の場合(一九九〇年八月八日〜一九九一年一月十五日)より早い。
 米軍部隊は、明らかにさまざまなレベルの意味と位置づけを与えられて、中東、中央アジア、アフリカの各地域に配置されている(パキスタン、アフガニスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、カザフスタン、タジキスタン、グルジア、アゼルバイジャン、トルコ、ヨルダン、エジプト、クウェイト、サウジアラビア、カタール、バーレン、オマーン、イエメン、エリトリア、ケニヤ)。このほかに、ペルシャ湾、オマーン海、紅海、地中海に米国艦隊が配置されている。これらすべての中で、イスラエルが第一級の役割を演じている。
 したがって、米国の軍事専門家が、イラクに対する戦争を行うための兵站の体制は一九九〇〜一年より質的に勝っていると強調していることは驚くにあたらない。
 対イラク戦争の第三段階が始まろうとしている。対アフガニスタン戦争の後、一九八〇年代の終わりから二〇〇一年までの過渡期後の米国帝国主義の新しい配置ができあがった。
 この政策の概略は、現在のジョージ・ブッシュ政権を取り巻くサークルの重要メンバーによって一九九〇年代初期に描かれていた。一九九二年三月八日にニューヨークタイムズ紙は、ペンタゴンが作成した一九九四〜一九九九年の期間の防衛計画ガイダンスと呼ばれる草案の内容をリークした。このガイダンスは、ポスト冷戦期の外交および軍事政策を定義しようとするものであった。
 作成者はだれか。ディック・チェイニー(現副大統領)、ドナルド・ラムズフェルド(現国防長官)、およびザルメー・カリザド(アフガニスタンのカルザイ政権問題において国家安全保障会議を代表している)である。
 ニューヨークタイムズ紙の評価によれば、この政策文書は「アメリカの使命は、世界のどこからも対抗超大国が出現しないことを保証することである」と表明している。「米国が先進工業国の正統な利益を防衛することを他の先進工業国諸国に確信させることにより、また、十分な軍事力を維持することにより、米国はこの使命を行うことができる」と提起している。
 「米国は、潜在的競争者が大地域的役割やグローバルな役割を望むことを抑止するメカニズムを維持しなければならない」とこの文書は述べている。ロシアと中国を潜在的脅威として記述しており、「ドイツ、日本および他の工業大国が自国の安全がおびやかされた場合、再武装して核兵器を取得し、米国と競合する道を歩み始める可能性がある」と警告している。
 この方針は、ブッシュ政権の国家安全保障担当補佐官コンドリーザ・ライスや、ドナルド・ラムズフェルドやディック・チェイニーの言明と驚くほど似ている。二〇〇二年九月二十日にニューヨークタイムズは、「脅威と対応:安全保障、まず敵をたたくブッシュ・ドクトリンの概要」と題するドキュメントを報道した。言い換えると、予防戦争である。
 ニューヨークタイムズ紙はこのドキュメントに関して次のようにコメントしている。「この政策は、レーガン時代以降の他のだれよりもはるかに断固とした、ときには攻撃的でさえある国家安全保障問題に対するアプローチである。これには、『核拡散反対』の原則に従った核拡散防止条約の大部分を無視することが含まれる。また、一九四〇年代以来アメリカの政策の基本であった、死んだも同然の封じ込めと抑止の戦略を呼び出している。アメリカが脅威を受けるのは、国家征服よりも、国家征服に失敗することによってである、と言っている」。
 この文書の最も衝撃的な点は、「大統領は、ソ連崩壊以降拡大した米国の巨大なリードにいかなる外国の大国が追いつくことも許さないであろう」と強調していることである。ロシアは深刻な経済的困難の中にあり、このドクトリンが想定しているのは中国のような大国である。中国は従来からの力と軍事力を強めている。
 これらはすべて、二〇〇二年一月の「核戦力見直し報告」、ラムズフェルドの演説、フィナンシャルタイムズ紙(二〇〇二年九月二十三日)のコンドリーザ・ライスのインタビューに述べられていることに一致する。ブリティッシュデイリー紙は次のように要約している。「簡単に言えば、ミズ・ライスとミスター・ブッシュは、他の国を支配し、かつそれらの国々と同盟を構築することができると信じているのである。彼らは、米国軍事力の至上権こそが他の国に独自の軍事的プログラムの追求を思いとどまらせ、他の領域で協力させることになると言っている。」
 新しい対イラク戦争の姿は、アメリカ帝国主義のこの総合的な方針の中で明らかになる。戦争によって一国レベルまたは地域レベルで引き起こされる不均衡と政治的不安定は、このような戦略の中に統合される。力関係を米国および/または特権を与えられた同盟者に有利に再構成し、一部の国々の支配(「体制変革」)と資源の支配を保証し、新たな同盟を確立し、実在および潜在的なライバルの位置を弱める機会が提供される。
 「勢力範囲」、征服と略奪に基づいた典型的な帝国主義的思想がここには存在する。ここではすべてがこの文脈の中にある。そこでは金融資本は「規制緩和」のルールを課し、支配される「周辺部」人民および米国労働者階級の「圧力」は、官僚的集団主義的社会の破裂と時を同じくして弱まっていく。
 現在のアメリカの優位の構造の中では、軍事的次元が重要である。これが帝国主義間矛盾を米国に有利に再形成している。なぜなら、歴史上例外的に、米国は世界最大の大国であると同時に最大の債務国でもある。ヨーロッパ、日本、および世界の他の部分からの金融の流れが米国の赤字を埋め合わせている。したがって、化学からエレクトロニクス、自動車にいたる基幹工業にとって中心問題である石油などのエネルギー源のような他の流れを支配することの利益が決定的に重要になる。
 米国がウォール街への金融の流れに依存しているとすれば、同時にエネルギー需要をまかなう石油輸入にも依存している。二〇〇一年五月の国家エネルギー政策報告(チェイニー報告として知られている)は、二つの優先事項として、ペルシャ湾地域の石油資源へのアクセスを長期的に増大および保証すること、および供給源の分散化を挙げている。
 イラクは世界第二の石油埋蔵量(千百二十億バレル)を保持している。二十年以上にわたって地理的調査は中断しており、七十三の油井のうち二十四しか機能していない。いくつかの推定では、イラクの埋蔵量は二千五百億バレルに達する(これに対してロシアの埋蔵量は四百九十億バレル)。それだけでなく、品質が非常に高く、採掘のコストが非常に低く、輸送も容易である。言い換えれば、イラクの石油資源を支配することは、二十一世紀のエネルギー市場に決定的影響力を持つことになる。
 したがって、この石油は多くの策謀の的になっている。二〇〇一年六月のイラクに対する「スマートな懲罰」に関する国連の議論の中で、フランスは石油への外国投資を許容する決議を提案したが、米国と英国がこれに反対した。これらの障害にも関わらず、種々の石油会社がイラク政府と契約を結んでいる。これらの会社は直接試掘し採掘する権利を取得しており、したがってイラク国営会社の従来の政策とは異なっている。
 しかし、これらの計画はすべてうまくいかない可能性がある。米国はイラクの「体制の変革」に関心を持っており、特定の油田の採掘に関する米国、ヨーロッパ、ロシアおよび中国の会社との契約(国際エネルギー機関によれば合計四百四十億バレルに達し、米国、カナダ、ノルウェーの埋蔵量の合計に匹敵する)は、このような「体制の変革」が起こった場合は無効と宣言されるだろう。
 イラク国民会議(米国の石油会社が資金提供し、ブッシュ政権が支持している)のリーダーであるアーメド・チャラビは、米国コンソーシアムをひいきし、サダム・フセインがサインした契約は法律的に有効とは見なされないだろうということを慇懃に表明している。ディック・チェイニーの会社ハリブルトンや同社が買収した石油・ガスの埋蔵調査専門会社であるランドマーク・グラフィックス社やヌマール・コーポレーションは、広範な地域の石油試掘の最前線に立つだろう。
 ジェームズ・ウズレーは、イラクの「大量破壊兵器撤去」と「体制変革」の観点から米国の同盟政策のもう一つの面に光を当てている。CIA前長官ウズレーは、国連安全保障理事会のメンバー間の交渉が冷酷な取引を基礎にして行われたことを明確に語っている。米国と同盟する国は戦利品の分け前にあずかることができ、他の国々は将来の同盟に期待しなければならない。
 実際、イラク石油の支配権は、米国にとってサウジアラビアとの間で危機が発生した際に安定した供給を保証するだけでなく、石油価格に対する圧力の手段をも提供する。OPECは弱体化し、それとともにベネズエラのチャベス政権も弱くなるだろう。サウジアラビアについて言えば、石油価格がバレルあたり十八ドルを下回ると財政の安定性が揺らぐだろう。
 したがって、米国は別のタイプの体制変革のテコを手に入れることになる。石油価格が下がれば、シベリアでの採掘コストは高いので、ロシアの石油供給の値打ちは急速に下がる可能性がある。ロシア経済全体がこのことを感じている。プーチンおよびルクオイル社の彼の部下たちもこのことを知っている。米国は、バクー(カスピ海)―トビリシ(グルジア)―ジェイハン(トルコ)のパイプラインによる石油輸送のロシア独占を侵害することにすでに成功している。
 ドイツの選挙のときには、ブッシュの断固たるイニシアティブに対するシュレーダーの不安は明らかであったが、二〇〇二年九月二十四日のブレア訪問は、同盟再編成の第一段階となった。強力なシーメンス・グループのCEOハインリッヒ・フォン・ピエールは次のようにアピールした。
 「ドイツと米国の関係は特に重要である。基本的政治的価値および経済的関係は軽々しく投げ捨てるべきではない。米国のイラク政策に対するシュレーダー氏の最近の論評は、明らかに選挙運動の過熱の中で行われたものであった」。
 米国の位置をめぐる再編成は、一部の人々が考えたよりすばやく行われた。ヨーロッパ帝国主義諸国の位置をめぐるマヌーバーは、左翼のご機嫌をとることには役立たなかった。

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