| 北朝鮮による日本人拉致問題 かけはし2002.12.9号より |
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金正日体制の犯罪を徹底追及し戦争国家体制形成と対決しよう |
九月十七日の小泉首相と金正日総書記との日朝首脳会談で、金正日自らが北朝鮮の国家機関による日本人拉致を認め、十三人の拉致被害者のうち八人が死亡したと言明した問題は、北朝鮮の金日成・金正日父子独裁体制の犯罪的性格を日本の世論の中に強烈な衝撃をもって印象づけた。
日朝首脳会談の直後、ただちに朝鮮総連や在日朝鮮人学校への脅迫や在日朝鮮人生徒たちへの暴行事件が起こったとはいえ、世論の動向は「日朝国交交渉の推進」それ自体に否定的だったわけではない。日本人拉致に関して北朝鮮の国家犯罪に率直な怒りを表明しつつ、国交交渉の再開についてはむしろ「小泉首相の英断」を支持し、国交交渉の再開を是とする意見が世論調査で軒並み多数を示したことに、それは示されている。
しかし、平壌宣言の直後からマスメディアは新たなキャンペーンに打って出た。それは、「世論を味方につけた外交」という言葉で表現されている。このことは、拉致被害者家族の「子どもたちを戻せ」という正当な主張が世論を獲得し、それがメディアを動かし、政府の方針を変更させたということを意味する。しかし、メディアの動きには当然、別の機能がふくまれていた。つまり「国民の悲しみと怒りの感情」を「北朝鮮という国家の犯罪行為」へ向けさせ、その`国論一致aの圧力で北朝鮮と交渉せよ、という選択である(毎日新聞9月20日、「クローズアップ2002」欄「国民に『信』置いた外交を」)。
だが、この選択は容易に「邪悪な犯罪国家・北朝鮮」によって一方的な被害者とされた「日本国家と日本人の尊厳」を取り戻すことにひたすら問題を絞り込むキャンペーンに転化した。北朝鮮による核開発や「工作船」の自認という「瀬戸際外交」は、北朝鮮との国交交渉を直ちに打ち切り、ブッシュの対テロ戦争戦略を背景に徹底的に力で押しまくれという気運を増長させていった。
十月十五日の五人の拉致被害者の帰国以後、この流れはさらに勢いを増した。対北朝鮮強硬派としての安倍官房副長官が「英雄」に祭り上げられるとともに、田中均アジア大洋州局長ら外務省内の「交渉重視」派と目される傾向に対しては徹底的なバッシングが行われている。さらに少しでも日本の暴虐な植民地支配、強制連行、「軍隊慰安婦」問題についての責任について言及する主張は報道の場からは意識的に排除されている。
二〇〇〇年十二月の「女性国際戦犯法廷」と二〇〇一年十二月のハーグ最終判決で下された日本国家の戦時性暴力への補償責任、天皇ならびに軍指導者への有罪の主張に凝縮された、軍隊「慰安婦」サバイバーを先頭とする日本の侵略・植民地支配の責任を追及するための営々たる努力の成果は、いまや主流派メディア空間からは、ほぼ完全といっていいほど無視されてしまったのである。
神谷不二慶大名誉教授は「一九世紀から二〇世紀初頭にかけては、植民地所有が先進諸国の追求すべき価値として広く認められた時代だった」から「かつての植民地支配を現代の時代精神だけで裁断するのは、歴史評価の正しい態度ではな」い、そうした植民地支配と「国家的犯罪性を徹底的に追及されねばならぬ拉致やテロ行為との間に、明確な質的相違がある」と述べる(朝日新聞9月21日夕刊)。
本来「対比」すべきでない問題を敢えて「対比」してその「質的差異」を論じるという方法によって、日本人拉致が起こったから「過去」の植民地支配・強制連行の責任を帳消しにしようというこの方法は、きわめて悪質なものである。
「産経」や『正論』、『諸君!』、『SAPIO』などの右翼メディアはさらに露骨である。彼らは、北朝鮮・金日成・金正日父子専制体制の国家的犯罪と虐政への怒りを`日本国家・日本民族の尊厳と誇りを回復するaための格好のチャンスと捉えた。彼らは北朝鮮をイラクに次ぐ「対テロ戦争」の対象として設定し、日本を「参戦国家」にしていく小泉政権の動きを牽引していく役割を強めている。それはブッシュの対イラク侵略戦争に日本が全面的に協力すべきという主張と連動している。例えば中西輝政京大教授はブッシュの対北朝鮮強硬路線を引き合いに出し、それを支持して次のように述べている。
「日本の国益にとってブッシュ政権ほど望ましい政権はこれまでになかった。心ある日本人は今このことをしっかりと認識する必要があるのです」「近い将来、日本が中国と対峙する前に、今現在、イラク攻撃がひしひしと迫っています。日米同盟の立場から、テロと戦うという倫理的な面からも、又同盟国としての立場からも最大限の協力を惜しんではいけない。同時にそれは『日本の自立』という長期的な国家目標にも役立つ」(『諸君!』02年11月号、田久保忠衛、村田良平との対談「ブッシュの『武断』、小泉の『不断』」)。
ここでは、拉致被害者の被害回復の課題や、金正日専制独裁体制の下で飢餓と一切の自由の剥奪に苦しんでいる民衆との連帯という看板すら完全に取り除かれ、拉致問題は「戦争国家」体制確立のための材料として利用されているに過ぎない。
問題は、このような主張が朝日新聞などのリベラル派とされていたメディアをふくめて論壇の全体を席巻していることである。そして社会的・経済的な危機の深まりとともに増幅する鬱屈した行き場のない「国民的」な不安やいらだちの「はけ口」が、拉致被害者や家族の意思とは無関係に北朝鮮や在日朝鮮人を「敵」とした排外主義的国家意識として凝縮される可能性がいっそう増大している。それは、北朝鮮による拉致犯罪と金日成・金正日官僚独裁体制の犯罪性を批判するキャンペーンを主要に展開してきたのが、産経、文春系の極右派メディアであり、朝日新聞や岩波書店の「世界」といった進歩派・リベラル派とされてきたメディアが北朝鮮批判に関してまったく「及び腰」であったことによって増幅されている。
この点では、共産党、社民党のみならず、スターリニズムを批判してきたわれわれをふくむ急進派左翼の反帝国主義の思想と路線の点検が必要であることは言うまでもない。
われわれは拉致被害者の人権を擁護し、被害者の尊厳を回復し、金日成・金正日父子軍事専制体制の犯罪の全容を明らかにすることを通じて、彼らの国家犯罪の補償をかちとることを要求する。そのことは、北朝鮮の民衆の人権と民主主義の獲得、飢餓と独裁からの解放を求める闘いに全面的に連帯することと一体である。
またその闘いは、日本帝国主義の朝鮮侵略と植民地支配、強制連行・強制労働と虐殺の責任を追及し、謝罪と補償を求める運動と同時的に進めなければならないものであって、どちらが先か、どちらが重要か、という比較の対象ではない。拉致被害者の人権と尊厳の回復の要求は、在日の人びとに対する差別と排外主義の強化や北朝鮮に対する「交渉打ち切り」「戦争遂行」キャンペーンと対決する訴えのいっそうの強化と平行して、進める必要がある。
日本帝国主義の植民地支配・強制連行の正当化やブッシュの「対テロ戦争」戦略に乗じて、北朝鮮を対象とした「戦争国家体制」の構築をめざす排外主義を許さない左翼こそが、金正日軍事専制体制の国家犯罪を徹底的に糾弾し、被害者の人権回復と尊厳の保証のために闘おうとすることをハッキリさせなければならない。
拉致家族の金正日軍事専制体制への当然の怒りがマスメディアによって連日報道される中で世論が作りだされ、それが極右・保守派によって国家主義と排外主義の基盤に動員されようとしている現在だからこそ、われわれはさまざまな広がりを持った「拉致と植民地支配の相殺論」や「戦争・植民地支配責任の清算論」を批判しなければならないのである。
その際、金日成・金正日の拉致犯罪と日本帝国主義の朝鮮人強制連行・強制労働の犯罪を、「国家犯罪」一般でくくることには反対である。民衆に対するこれらの犯罪行為は、一般的な「国家悪」としてではなく、北朝鮮の金正日軍事専制体制による犯罪として追及しなければならないのであり、また天皇制日本帝国主義の犯した犯罪として、その全容とメカニズムを具体的に解明し、責任者の処罰と被害者への補償を実現しなければならない。そうでないかぎり、被害者の人権と尊厳の回復は空語に終わらざるをえないだろう。東アジアにおける民衆的な「平和と和解」への道は、このような作業の積み重ねを通じて現実のものとなっていくだろう。
われわれは北朝鮮・金正日体制の拉致犯罪を追及する闘いと、ブッシュと小泉の「対テロ戦争」体制の中での排外主義キャンペーンと「戦争国家体制」作りに対決する運動を同時的に遂行することを自らの課題としなければならない。
それはまさに「グローバルな平和・人権・公正・民主主義」を共同で闘い取っていくことの一環なのである。(平井純一) |