かけはし重要記事

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産直産地農家などが緊急フォーラム         かけはし2002.12.16号より

農と食の安全のために

「農薬適正管理と脱農薬への取り組み」めぐって

 十一月二十六日、東京・四谷のプラザエフ(主婦会館)ホールで、農薬問題緊急フォーラム「農薬適正管理と脱農薬への取り組み」が行われた。主催は全国産直産地リーダー協議会。この「緊急フォーラム」は、急増する中国輸入野菜の農薬汚染問題、さらにダイホルタン(発ガン性農薬)、PCNB(ダイオキシン農薬)などの無登録農薬不法販売・不適切使用の発覚を受けて、「より良い農と食のあり方」のあり方を産直産地の立場から追求してきた主催者が、「農薬の適正使用の確立と脱農薬の取り組み強化」に向けた課題と展望を示そうということで、開催された。会場には、有機産直農業の取り組みを進めている農民、消費者運動・生協運動、脱農薬の市民運動グループや研究者など約二百人が集まり、椅子が足りないほどの盛況となった。
 総論的問題提起を、茨城大学教員の中島紀一さんが行った。中島さんは、農薬取締法、食品衛生法を通じた現行の「農薬安全使用」規制には、環境保全についてはほとんど規制がないなどの制度的欠陥があると指摘するとともに、@「農薬は毒性物質」A「脱農薬は可能」――の二つの基本認識が前提とならなければならない、と強調した。
 中島さんはさらに「農業についてのわれわれの認識は『農薬必要悪』ではなく『農薬構造悪』とすべきで、それを踏まえて、たんなる『賢い農薬使用』ではなく、農薬使用の社会的強制を打破する、新しい技術・生産・消費・流通の仕組みを作りだす、社会的取り組みとしての『脱農薬』の取り組みが追求されるべき」と強調した。中島さんはまた「農薬を使わなければ栽培できない農産物を要求する市場のあり方を消費者をふくめて問い、『脱農薬』を国民的な課題としなければならない」と強調した。

 次に各論的アプローチとして四人が報告した。
 反農薬東京グループの辻万千子さんは、農薬の空中散布に反対する運動や生活現場の農薬問題に取り組んできた活動について紹介するとともに、農薬に対する情報公開がなされておらず、農水省は徹底的に農薬業者の立場に立っていると批判した。そして、農家・一般使用者の資格免許制度の導入、自然環境汚染防止・生態系保護の観点からする農薬規制、生活環境での農薬使用規制などを骨子とした「農薬取締法抜本改定骨子案」を提起した。
 「農薬毒性論」をテーマに報告した泉邦彦さん(池坊短期大学教員)は、農薬について「劇薬性化学商品」、「環境放出型化学商品」と規定し、農薬汚染の影響が農業生産以外にも、ゴルフ場、公園、道路、河川堤防、駐車場や学校、さらには家庭用殺虫剤などを通じて多様な領域に広がっていると警告した。
 泉さんは、その毒性が、発ガン性や遺伝子変異、不妊、胎児や乳児への障害、学習能力・行動能力への悪影響、ホルモンのはたらきに影響を及ぼす「内分泌かく乱」などに及んでいることを最新のデータに基づいて報告した。
 田坂興亜さん(アジア学院)は、「国際化時代の農業問題」をテーマに報告した。田坂さんは、外務省によるカンボジアやモザンビークなどアフリカ諸国への「食料増産援助」が化学肥料、農薬の過剰投入を不可避とするものであること、そしてそれが農薬製造などの化学資本の利益のためになされていることを批判し、アジア諸国の農業の脱農薬による自立を支える協力が求められている、と訴えた。
 最後に主催者の全国産直産地リーダー協議会の事務局長でJA山武郡市直販開発部の下山久信さんが「環境創造型農業――脱農薬の取り組み」と題して報告した。
 下山さんは、農地法の「改正」や特区制の導入を通じて、農業がグローバル化の波に飲み込まれていく現状を報告し、その中で環境創造型農業を推進していく必要性を訴えた。下山さんは、現在の青果流通システムは「見てくれ優先」で、そもそも農薬を使わざるをえないようさせられていることを指摘し、これほどの出荷規格が必要なのか、と批判した。それは農水省のキャリア官僚の有力な天下り先として農薬企業があることとも関係している。
 下山さんは、現在の有機JAS制度に基づいた有機認定農家がわずか三千八百三十九戸(10月18日現在)、有機農産物の生産量は二〇〇一年度で三万三千トンで国内生産量に占める割合は〇・一%に過ぎないことを紹介し、環境創造型農業の「点から面」への展開が必要であり、地域全体の取り組みが求められていることを強調した。
 WTOの下での農産物貿易の自由化と規制緩和の嵐が日本農業を破壊する中で、「農と食の安全」がますます脅かされている。「農」を守るという課題が、現在の農薬づけの農業生産のあり方を変革し、生産者と消費者が結びついた運動と一体のものでなければならないことを実感させたフォーラムだった。 (K)


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