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    かけはし2012.年11月26日号

共和党右派の攻勢は頓挫


アメリカ大統領選結果について

オバマ政権の限界と大衆的直接行動の持続


オバマへの失望と
ロムニーへの嫌悪


 一一月六日に行われた米国大統領選挙で、民主党のオバマが再選された。
 オバマの得票数は約六二〇〇万票(五〇・六%)で、獲得した選挙人数は(開票結果の発表が遅れたフロリダ州を含めて)三三二人だった。前回の〇八年の得票数は約六九〇〇万票(五三・〇%)である。
 共和党のロムニーは得票数が約五九〇〇万票(四七・九%)、選挙人数二〇六人だった。〇八年の共和党候補の得票数は約六〇〇〇万票(四五・七%)である。
 緑の党のジル・ステイン候補は約四〇万票(〇・三%)、「平和と自由」党のロザンヌ・バー候補は約五万票を獲得した。
 同時に実施された上下両院選挙では、上院で民主党が議席を微増し、下院はほぼ現状のまま(共和党が多数)となった。社会主義を掲げる唯一の上院議員のバーナード・サンダース(無所属、バーモント州)は約二〇万票(七一・一%)を獲得して再選された。
 民主党のエリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州)、タミー・ボールドウィン(ウィスコンシン州)をはじめ多くの女性候補が上院議員に選出され、上院の女性議員の数が過去最高の二〇人となった。
 〇八年の大統領選挙で「変革」を掲げ、大きな期待と注目を集めて勝利したオバマは、政権に就いて以降の四年間、金融ロビー・企業ロビーに牛耳られた議会の宥和に腐心し、支持者たちの期待を裏切ってきた。
 中東政策においては共和党・ブッシュ政権の政策を踏襲し(オバマが自らの政権の成果として宣伝したイラクからの撤退を含めてである)、アフガンへの増派と無人爆撃機によるパキスタンへの戦争拡大、パレスチナにおけるイスラエルの入植地拡大の容認、イランに対する強硬政策を続けてきた。
 経済政策においては、GMの救済に巨額の税を投入する一方で、雇用創出には大きな成果はなく、失業率は依然として高水準にとどまっている。
 健康保険制度の改革は、保険会社や医療関連企業の強力なロビー活動によって無残に骨抜きにされた。
 ロムニーと共和党はオバマ政権の「失政」を集中的に攻撃した。多くのメディアの直前の予想では、獲得する選挙人の数ではオバマがわずかの差で勝利するが、得票数ではロムニーが上回ると言われていた。
 ロムニーは、支出削減による財政再建を訴え、「小さな政府か大きな政府か」を選挙の争点に設定しようとした。また、ティーパーティーによって主導された極右派の強い影響力の下で、露骨な富裕層優遇政策、オバマ政権の下で導入された医療保険改革の廃止、さらにはイランへの軍事攻撃などの政策を打ち出した。
 そのような政策が、とりわけ激戦区とされたいくつかの州の中間層や低所得層を離反させた。しかも、「四七%発言」(ロムニーが支持者の集まりで、「有権者の四七%は税金も納めず、政府に寄生することばかり考えていて、誰が大統領になるかには関心はない。私はこういう人たちのことを気にかけない」と発言した)等の「失言」、上下院議員選挙における共和党候補の相次ぐ女性差別(レイプ容認など)発言は、とりわけ低所得層や女性の間でのロムニーへの嫌悪感を拡大した。
 こうして〇八年の大統領選挙直後から始まった共和党右派による攻勢は頓挫した。
 米国のメディアによる出口調査は非常に興味深い結果を示している。男性の五二%がロムニーに投票し、女性の五五%がオバマに投票した。白人の五九%がロムニーに投票し、アフリカ系米国人の九三%、ヒスパニック系の七一%、アジア系の七三%がオバマに投票した。一八歳から二九歳の六〇%がオバマに投票し、六五歳以上の五六%がロムニーに投票した。年収五万ドル未満層の六〇%がオバマに投票し、一〇万ドル以上層の五六%がロムニーに投票した。また、イスラエルのネタニエフ首相が執拗にオバマ批判を展開してきたにも関わらず、ユダヤ教徒の六九%がオバマに投票していることも注目される(数字は「毎日」一一月八日付による)。
 以上のデータから、オバマの勝利をもたらしたのが女性、非白人、若者、低所得層における支持であることは明らかである。この層の間で、オバマへの期待が裏切られた失望感よりも、ロムニーや共和党が体現する富裕層優遇、弱者切り捨て、女性蔑視への嫌悪感が上回ったのである。

空前の金権選挙と企業に
よる民主主義の乗っ取り


 今回の大統領選挙の最大の特徴は、民主・共和両党による空前の金権選挙である。両陣営を合わせると一〇〇億ドルを超える資金が投入され、その大半がテレビでのネガティブ・キャンペーンに注ぎ込まれた。
 二〇一〇年一月の連邦最高裁における「市民連合」判決で、企業による政治献金団体への寄付を制限する法律が違憲とされ(「言論の自由」がこの判決の根拠となっている)、個人や企業から政治資金を無制限に集めることが可能になった。
 企業の「言論の自由」(!)なるものが無制限に保護された結果、選挙は有力企業と、その意向を代表するコンサルタント、広告代理店、世論調査会社が演出する巨大な政治ショーと化した。しかも、共和党は投票率を下げるために、期日前投票の制限や、有権者登録の手続きの煩雑化を試みてきた。そこに貫かれているのは、ロムニーの「四七%発言」に端的に表現されている民主主義への嫌悪である。
 重要なことは、このような金権選挙が共和党だけでなく、民主党にも貫徹しているということである。巨額の資金が選挙の勝敗に影響を及ぼすだけでなく、もっと重要なことは選出された大統領や議員の政策をも拘束するということである。上下両院の議員にとって、企業の意向に反して行動すれば、次の選挙での敗北が約束されている。大統領が何を公約しようが、企業の意向に沿わない限り、上下両院の承認を得ることは至難の業である。こうして民主主義は四年に一度の巨大な政治ショーへの参加に切り縮められてきた。
 さらに、州レベルでは、ALEC(米国議員交流評議会)なる右派のシンクタンクが、各産業分野から出される要求に基づいて州レベルで導入するべき法律のモデルを作成し、それがそのまま各州議会に提案され、その多くが採択されている。特に、労働組合の権利への制限や、公教育の解体に関連する法律が多くの州で制定されようとしている。州議会はこのような閉鎖的で特権的なサークルへの従属を深めている。
 カリフォルニア州では選挙に合わせて実施される住民投票の一環として、労働組合の政治活動の規制(組合費を政治活動に使うことを禁止する)を目的とした提案三二号が提出された(五六%の反対で否決された)。
 今回の大統領選挙と上下両院議員選挙の中で、スーパーPAC(特別政治活動委員会)と呼ばれるさまざまな政治献金団体が推薦した多くの候補が落選した。これは目に余る金権選挙への批判の高まりを反映している。また、オバマは選挙キャンペーンの中で、「市民連合」判決を取り消して企業の政治献金を規制するために、憲法修正条項を提案することを約束した。

ウォール街占拠闘争が
流れを変えた

 〇八年の大統領選挙以降、共和党はティーパーティーに支持された右派の主導の下で、企業活動の自由、国家による経済への介入・規制の排除を求めて攻勢を強めてきた。一〇年の中間選挙における共和党の勝利によって、オバマ政権は政策遂行能力をほぼ失い、州レベルでもウィスコンシン州等でティーパーティー系知事の下で一連の反動的政策が導入された。
これに対して反撃を開始したのは民主党ではなく、新自由主義政策の矛盾の拡大と二大政党制の下での民主主義の衰退への危機感を強めた労働者・市民による直接行動だった。
 一一年二〜三月にウィスコンシン州で、共和党のウォーカー知事による公務員の労働組合への攻撃(財政再建を口実にしていた)に対して労働組合と市民が州議事堂占拠を含む広範な闘いを展開した。昨年秋にはウォール街占拠を掲げた広場占拠の闘いを契機に、一%の富裕層を代表する金融機関に対する直接行動が全国に広がった。
 これらの闘いは、オバマ政権への期待を裏切られた多くの労働者・市民の共感を呼び、勇気づけた。広場占拠に参加した活動家の多くは、選挙では変革は実現できないという観点から、大統領選挙に積極的には参加しなかった。大統領選挙ボイコットという主張も広範に展開された。一方、この闘いに鼓吹された戦闘的労働組合の多くは、この闘いを大統領選挙や上下両院選挙と結びつけることによって、オバマ政権と民主党に労働者・市民の要求の実現を迫るという戦略を取った。
 ウォール街占拠闘争を契機に一%の富裕層と中産階級・低所得層の間の分裂と対立が一挙に先鋭化する中で、オバマは選挙向けに、富裕層と対決する姿勢を打ち出した。
 ロムニーが「財政再建」をめぐって、減税打ち切りに反対し、社会的支出の削減を強調するのに対して、オバマは教育やグリーン経済のための支出と富裕層増税を争点化しようとした。
 投票において経済問題を主要な判断基準とした人々の間ではロムニーが優勢だったと言われている。
 しかし、「ニューヨークタイムズ」一一月七日付の寄稿欄で、世論調査会社の経営者であるジョエル・ベネソンは、次のように指摘している。「(八百人の有権者を対象とした全国世論調査の結果)有権者の七四%が、〇八年以来この国が直面している状況は、数年のサイクルで起こる通常の景気後退ではなく、この数十年経験したことのない異常な危機であると考えている。同時に、五七%の人が、危機はあまりに深いので、誰が大統領になっても一期で解決できるとは思わないと答えている」。
 ベネソンは、このデータから、有権者は目先の財政再建よりも、将来に向けた教育や医療への投資を重視しており、オバマの前向きのメッセージが支持されたと論じている。この分析はかなり主観的であると思われる。しかし、教育やグリーン経済のための支出と富裕層増税を争点化し、ロムニーを富裕層の代表として描き出したオバマの戦略が、ウォール街占拠の闘いに共感する多くの中間層や低所得層を、棄権ではなく投票場へと向かわせる小さくない要因となったことは想像できる。

選挙をめぐる戦術と
大衆運動


 労働組合や市民運動の左翼的活動家の多くは、オバマへの投票を呼びかけた。ウォール街占拠運動の活動家の多くは積極的または消極的に選挙をボイコットした。緑の党、「平和と自由」党、アメリカ社会党は大統領選挙に独自候補を立て、いくつかの政党が上下院議員選挙や州議会選挙に候補を立てた。
 二大政党以外の候補を事実上排除している非民主主義的な選挙制度の下で、しかも選挙運動が途方もない資金を必要とするという条件の中で、左翼勢力が取りうる選択肢は限られており、いずれも一長一短である。
 今回の選挙においては、ウィスコンシンの闘いとウォール街占拠運動によって始まった新しい大衆運動をどのように発展させ、結実させていくのかが、左翼勢力にとって中心的な課題だった。
 オバマへの投票を呼びかけた活動家たちは、新しい大衆運動が作り出した力関係の下で、富裕層への課税や、雇用・教育・医療への支出、移住者の権利の保護等の要求を実現していく上で、オバマの勝利がより有利な条件を作り出すと考えた。特に、民主党内の進歩的議員に支持を集中した。それは選挙後の運動の発展という観点からの議論であり、オバマや民主党への幻想を煽ったわけではない。また、民主党やオバマ政権に対する批判を手控えたわけでもない。
 一方、ボイコットを主張した活動家たちは、新しい大衆運動が既成の政治システムに回収されてしまうことを危惧し、ラディカルな行動を継続することに強調を置いた。一%の富裕層や金融機関に対する矛先は、当然にも、共和党だけでなく、民主党に対しても向けられた。
 ウォール街占拠をはじめとする全米各地での占拠運動は、警察によって広場という結集点を奪われたが、地域の総会やさまざまな委員会の集まりは定期的に開催されており、地域における住宅強制立ち退きに反対する闘いや学校閉鎖に対する闘い、金融機関に対する闘い、労働争議への支援、そして投票日直前に米国東部を襲ったハリケーンの被災地への支援と自主的な住民委員会の組織化などへ領域を拡大し、運動の活力を維持している。
 緑の党は大統領選挙のほか、下院議員選挙で合計約三八万票、上院議員選挙で合計約二一万票を獲得し、州議会選挙にも多数の候補を立てた。
 労働組合の左派活動家を中心とする「レイバーノーツ」誌の編集者のマーク・ブレンナーは、選挙で一度ぐらい敗北することを恐れず、「次」に備えて可能なところから新しい試みを始めようと提起している。具体的には州レベルで国民皆保険制度のモデルを実現すること(バーモント州とオレゴン州でそのようなキャンペーンが行われている)や、市レベルの最低賃金制の導入(ウィスコンシン州マディソンで実現されている)、AFL・CIOの政治闘争資金を選挙に集中するのではなく、未組織労働者の組織化に振り向けること等である(同誌ウェブ版一〇月八日付)。
 華やかな政治ショーの中にではなく、これらの模索の中にこそ、二大政党制の枠組みを超える新たな民主主義的なシステムと政治的結集の萌芽が含まれている。

米国の太平洋戦略と
東アジアの平和


 予備選挙の開始以降一〇カ月に及ぶ巨大な政治ショーを終えて、オバマ政権の継続が確定した。オバマは勝利宣言の直後から、共和党の融和のために精力的な活動を始めている。
 米国社会における格差の拡大、一%の富裕層に対する反乱の開始の中で、資本家階級がオバマに与えた役割は国民の融和であり、それは富裕層や共和党右派の要求への最大限の配慮を通じてなされる。「財政の崖」への対応と称して、富裕層へのわずかな増税と引き換えに、新たな緊縮財政政策が導入されるだろう。
 軍事・外交政策においては、中国の封じ込めを意図した太平洋重視へのシフトが継続される。TPPも対中国戦略の一環として位置付けられている。
 米国の一極支配の終焉の中で、軍事的優位と政治的主導権を維持するためには国内経済の立て直しが不可欠である。その手段として、中国に対して通貨切り上げを要求し(米国産業の競争力を回復するため)、金融市場開放を迫り(中国国内に蓄積されてきた金融資産を略取するため)、軍事的圧力や政治的圧力を強化することによって中国の影響力拡大を牽制する(同時に、日本に対して最大限の負担を要求する)というのがオバマの戦略である。この戦略は安定した日米同盟を不可欠の前提条件としている。
 オバマ政権は発足当初から、中東戦略の変化や核戦略の変化への期待を裏切ってきた。オバマ政権のアジア太平洋重視戦略はこの地域における軍事的緊張を増幅し、偶発的戦争の危険を煽っている。それはまた中国官僚体制に、民主主義的改革を拒否し、民主主義を求める運動を弾圧するための格好の口実を与えている。
 われわれはオバマ政権の限界を超えて闘おうとする多くの米国の労働者・市民と連帯して、オバマのアジア太平洋戦略と日米同盟に対決し、TPPに反対し、東アジアの平和の実現を目指して闘い続ける
       (小林秀史)


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