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    かけはし2012.年9月3日号

「復興・再生」を名目に民衆を切り
捨てる新自由主義プロジェクト

野田政権の「日本再生戦略」を批判する

 さる七月三一日、野田政権が閣議決定した「日本再生戦略」は、グローバルな資本主義の中で、その犠牲を労働者民衆に押しつける新自由主義につらぬかれている。「税と社会保障の一体改革」・消費増税は、大資本を延命させるためのものであることはここからも明確だ。労働者民衆と被災者の団結した闘いを。

デフレ脱却は絵に描いた餅

 野田政権は、七月三一日、国家戦略室が作成の事務局となった「日本再生戦略」を閣議決定した。消費税の税率引き上げ(二〇一四年四月に八%、一五年一〇月に一〇%に引き上げ)と社会保障費を削減する「税・社会保障の一体改革」法の成立を前提に二〇二〇年までに「『共創の国』への具体的な取組 〜11 の成長戦略と38 の重点施策」を掲げ、「デフレ脱却と経済成長への処方箋」というふれこみで、「ゼロ成長の日本経済を平均で実質二%、名目三%の高成長に引き上げ、六三〇万人の雇用を創る」と宣伝している。
 だが戦略の柱は規制緩和、民間資金活用と民営化の拡大、新規産業育成のための投資、新たな利権基盤作りがねらいだ。しかも消費税増税先行の批判をかわすために、その根拠としてでっち上げた成長率を掲げたにすぎない。デフレ化で消費増税すれば、より消費が落ち込み、景気後退の悪循環に突入することは間違いないにもかかわらず、戦略は後追い的に描き出した願望であって実現するための保証はまったくない。本質的には市場原理を前提にした大量生産・大量消費・大量廃棄システムの延長にあり、循環型社会の構築とは程遠い代物だ。戦略の概略をチェックし、政権の一五年度予算編成の野望を警戒しなければならない。

復興事業遅延の言いわけ


 戦略は、政府が「東日本大震災からの復興の基本方針」(一一年七月)を打ち出していたが、「津波被害地域等の本格的な復興は今後の課題となっている」などとあいまいな表現で遅れを認めざるをえなかった。「司令塔」としての復興庁(一二年二月)を設置したが、ここでも「復興事業をこれまで以上に加速する」とした。
 復興支援予算一四兆九二
四三億円を計上していたが、五兆八七二八億円が年度内に使われていなかった。主なものとして@震災復興交付金一兆五六一二億円計上が、一兆三一〇一億円を繰越A災害廃棄物処理事業費三九四一億円計上が全額繰越B除染事業費一六八一億円計上が、全額繰越という執行状況だ(復 興 庁/六月二九日)。要するに被災地の復興は進んでおらず、農漁林業、小売・中小企業支援は不充分なのにまともな予算執行ができていないのである。
 事業の遅れの原因について「政府が被災地との調整に手間取り」とか、「省庁間の縦割り行政の弊害」や「人員が足りない」などのためと言うが、つまり官僚機構の権益維持を前提しているためにブレーキをかけてきたのが実態だ。被災地自治体や地域住民とともに、その諸要求を実現するための共同した予算編成作業、配分システムを構築することを優先すればいいのだ。ゼネコンや大企業を通したピンハネ黙認の発注ではなく、地元中小企業への事業発注システムを積み上げていくことが必要だ。
 問題はこれだけではない。予算の大半は今年度予算に繰り越されるが、そのうち予定していた事業に充てない不要額として一兆一〇三四億円計上を全額特別会計に繰り入れていた。例えば、官僚の天下り法人の『沖縄教育振興事業費』 に三一・五億円、『独法国際交流基金運営費』に約一・二億円、『独法酒類総合研究所運営費』に五七〇〇万円などに配布していた。復興予算の財源は、民衆の所得税、住民税から徴収からだが、目的とは違う使い道で特別会計にまわしていた。こんな詐欺行為を許してはならない。

原発容認の「グリーン成長」


 戦略は、「被災地の復興を日本再生の先駆例へ」と位置づけて、「スマートコミュニティ、環境先進地域(エコタウン)の実現」「復興特区や民間資金の十分な活用を図りながら、新産業の創出などを先取りして実施する」「グリーン、ライフ、科学技術、情報通信等のイノベーションを新たな産業・雇用の創出に結び付け、世界最先端の研究開発拠点を目指す」などと資本のためのメニューを並べたてた。ここには被災地自治体や地域の諸要求、雇用・生活再建を優先していく姿勢は見られない。
 「グリーン成長戦略」では、五〇兆円超の新規市場と一四〇万人の新規雇用を掲げた。その中でも今後、「政策資源を総動員して国民の省エネルギー、再生可能エネルギーの導入を力強く支援していく」として市場拡大が予想される蓄電池の開発企業などを重点的に支援するという。だがその実態は、自動車資本の優遇を前提にして電気自動車など次世代自動車の比率を最大五割に高めるというものだ。
 原子力発電については「依存度を可能な限り低減」すると述べるだけで、原発再稼働、現状維持の姿勢は変わっていない。政府は六月末、二〇三〇年の総発電量に占める原発比率を「〇%」、「一五%」(新規建設をせず、既存の原発を「原則四〇年廃炉」の下で稼働し続ける)、「二〇―二五%」(原発の新規建設を必要)とする三案を提示し、各地で意見聴取会を開いたが、〇%案が七割以上となり、収拾がつかなくなっている。政府は、なんとか「一五%」にまとめようと策動を展開中だ。
 原発再稼働のフィクサーを気取る民主党の仙谷由人政調会長代行は、危機感をあらわに「八〇年代以降にできた原発が三〇基あり、あと一〇年でどんどん止まる原発が出てこざるを得ない。〇%案は非現実的だ」から「一五%案」を支持すると表明した。経団連の米倉弘昌会長は、「(二%の)成長率を実現すれば(電力使用量が増えて)電力不足に陥る。脱原発のために再生戦略を進めるのは本末転倒だ」と迫った。
 いずれも「電力不足危機」の恫喝手法でしかない。七月下旬の時点で西日本の電力六社で一〇〇〇万キロワットも余裕があり、大飯原発三号機(一一八万キロワット)、四号機(同)を再稼働しなくてもよかったことが明らかになった。しかも関西電力は、大飯原発を再稼働してすぐに火力発電八基を停止した。みえみえの営利主義の貫徹だ。政府は、八月末までに「革新的エネルギー・環境戦略」を提出すると言っているが、先送りの可能性もあるという。政府・推進派による「一五%」「二〇―二五%」案への集約を阻止しなければならない。
 工程表では「小売全面自由化、発電分野の市場活性化、送配電部門の広域化・中立化等について具体策を検討中」と並べ立て、「新たなエネルギーシステムを支えるインフラ・市場を構築」と一般的に言うのみだ。例えば、「発送電分離」への態度を避け、電力会社に「所有権」がある送電網について国が管理するのか否かの検討もしていない。要するに電力資本に対する規制・統制の強化をやらないことの表明でしかない。

「雇用拡大」のまやかし

 ライフ成長戦略では、「医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出。新市場約五〇兆円、新規雇用二八四万人」と設定した。だがそのプロセスが見えず、「医療・介護サービスの提供体制の制度改革に係る『社会保障・税一体改革大綱』に基づく見直しの実施」と触れるだけだ。
 しかも「適切な医療・介護サービスが受けられる社会を実現する」と言っておきながら、医療・介護労働者の雇用の拡大、賃金保障、労働条件の向上などについて一切触れず、「民間活力を生かし、その創意工夫において、多様なニーズに対応」していくなどと無責任な態度なのだ。その一方で再生医療の実用化や介護ロボットの普及などを看板にして医療関連企業、薬品関連企業に集中した投資を行っていくとしている。また医療・福祉法の規制を緩和し、膨大な儲けを支えていくことも表明している。
 例えば、二五〜四四歳の女性就業率を七三%に引き上げると言っているが、この数値は菅政権時の新成長戦略で掲げたものであり、現実には達成できなかった。その総括もせず、資本のリストラ、不当解雇の横行を放置しているにもかかわらず、こんなインチキ目標を再度、持ち出してきた。ぬけぬけと「非正規雇用と正規雇用の均等・均衡処遇の実効性を高め、キャリア形成や正規雇用転換を支援する」などと言っているが、日経連の「新時代の『日本的経営』」(一九九五年)路線や労働者派遣法など労働法制改悪の撤回が先だ。

TPPによる農漁林業破壊

 アジア太平洋経済戦略では、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築、ヒト・モノ・カネの流れ倍増、経済連携協定(EPA)カバー率八〇%程度、パッケージ型インフラ海外展開による市場規模一九・七兆円を掲げた。要するに経済連携協定の拡大と称して、なんら根拠を提示することもなく締結国との貿易割合を八〇%まで引き上げるというのだ。環太平洋経済連携協定(TPP)の参加と新自由主義的構造改革を推し進めることを前提にしていることは言うまでもない。戦略は、TPPについて「交渉参加に向けた関係国との協議を進める」という表現であいまい化しつつ、だが既定方針として強行突破していくつもりだ。農業・生活・医療を破壊するTPP参加を許してはならない。
 これらとセットで農林漁業戦略では、カロリーベースの食料自給率を五〇%に引き上げ、農林水産物と食品の輸出額を一兆円台にするとした。ここでもまともな根拠もなく、こんな数値をでっちあげたことが、すぐにバレてしまった。農林水産省は食料自給率が二年連続で四〇%割れであることを明らかにした(八月一〇日)。戸別所得補償制度を導入したが成果が出ていない現われだ。新自由主義的農林漁業政策に反対し、食糧主権の確立と中小農林漁業への継続した支援政策が必要なのだ。
 とりわけ戦略は、農林業参入資本のために生産・食品加工・流通・販売システムを構築していく六次産業化を推し進めようとしている。「経営体の体質改善の促進」と言いながら中小農林業を一掃し、企業の農業参入のためのファンドによる金融支援、規制緩和、優遇措置を強化し、大規模化していくことを強調している。そのために一戸当たりの農地面積を平野部で二〇〜三〇ヘクタール増大させ生産の大規模化、土地利用に関する規制緩和の促進なども掲げた。すでに国と金融機関、民間企業が共同で出資するファンドを創設するための株式会社農林漁業成長産業化支援機構法(六次化ファンド法)を成立させ、農林漁業者と加工・流通業者などによる合併企業への出資や貸付をスタートさせようとしている。官僚にとっては天下り先と利権パイプの拡大だ。
 戦略は、農産物の自由化政策下、企業の参入による大規模農業の強化中小農林水産業の切り捨て破壊ビジョンであり、資本の忠実な代弁でしかない。

消費増税と開発投資復活

 国土・地域活力戦略は、首都圏空港や国際戦略港湾の機能拡充・強化、大都市圏の環状道路の整備などの大型公共事業を押し進めていくことを強調している。この路線は、すでに民主・自民・公明党が消費税増税法案の付則に「成長戦略、事前防災・減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」という条項を盛り込んでいたことで、その意図が明らかであった。
 つまり、密室談合で消費税率を一〇%に引き上げによって年間約一三兆五〇〇〇億円増収の中から公共事業にも使い込むことをねらっていた。だから戦略では、その前段として公共事業拡大を描き出していた。再生戦略と消費税増税付則は、一体だったのだ。
 すでに野田政権は新幹線(約三兆円)や東京外郭環状道路(一兆二八〇〇億円)などの大型公共事業の拡大を決めている。自民党も一〇年間でインフラ整備に二〇〇兆円を投じる国土強靭化法案を提出した。公明党も一〇〇兆円を投じる防災・減災ニューディール推進基本法案を国会に提出している。これは一三年度概算予算作りを踏まえ、大資本・ゼネコンへのバラマキを拡大し、総選挙に向けての資金作りと集票マシーンの確保のための動きと連動していることは間違いない。

生存権を守るための闘い


 戦略は約四五〇の政策、工程表や数値目標を並べたてているが、ほとんどが菅前政権が二年前に策定した「新成長戦略」の引き写しでしかない。しかも新成長戦略で打ち出した施策の成果を確認できたのが約一割にも満たない状況だ。最初からインチキなものを野田政権延命と一三年度予算編成のために強引に引っ張り出してきのだ。
 政府は、二〇一五年度予算の概算要求基準を閣議決定(八月一七日)したが、「日本再生戦略」で打ち出した環境、医療、農林漁業を「特別重点要求」として位置づけ、各省庁が既存予算を削減した額の一・五倍〜四倍の要求を可能とし、総額が二兆〜四兆円になるという。逆に、再生戦略で「社会保障分野を含め、聖域を設けずに歳出全般を見直す」と宣言したように真っ先に生活保護費の削減、高齢者医療費の引き上げを策動してきた。民衆の生存権を破壊していく予算編成の性格を露骨に押し出してきた。戦略の資本支援と民衆生活破壊政策を批判し、資本のための一五年度予算編成を許してはならない。
       (遠山裕樹)


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