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    かけはし2012.年7月9日号

天皇制国家への統合促進し
思想・良心・表現の自由抑圧

「国旗損壊罪」の新設を許さない!

自民党極右派
の年来の悲願


 自民党は、五月二九日、天皇制と侵略戦争を賛美する「日の丸」旗を傷つけたり汚したりしたら処罰することができる「国旗損壊」罪を新設する刑法改正案を国会に提出した。法案は、「日本国に対して侮辱を加える目的で、国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する」など「思想・表現の自由」を否定する明確な憲法違反の法案だ。しかも構成要件及び刑罰は、現行刑法第92条に規定されている外国国章損壊罪に準拠すると規定し、外国の国旗と自国の国旗を同列に設定した。
 すでに改正法案は昨年三月の自民党法務部会の法律案審査に提出されていたが一部議員から「自民党が右傾化したと思われる」との反対論が出たため全会一致の賛同を得られず、石破茂政調会長(当時)預かりとなっていた代物だ。この時は、国旗の損壊とともに国歌の替え歌も処罰の対象にねらっていた(朝日二〇一一年三月二日)。石破は、「国旗国歌法で日本の国旗が日章旗だと定められた時(一九九九年)に(国旗損壊罪を)立法しておくべきだった」と悔しがっていた。
 今回も高市早苗、長勢甚遠、平沢勝栄、柴山昌彦衆院議員による議員立法提出だ。いずれも日本会議議員懇談会、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会に属している札付きの天皇主義右翼である。高市らは、自民党の天皇元首化、基本的人権否定、現憲法九条改悪などを網羅した「日本国憲法改正草案」(四月二七日)の第3条で「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と明記していることを根拠にして総務会で了承させた。天皇制統合力を利用しながらグローバル派兵国家の建設とセットで排外主義的なナショナリズムへと収斂していくことにある。

憲法改悪の狙い
と一体化の攻撃


 法案の提出理由を高市は、「現行の刑法では、外国国旗の損壊は処罰の対象とされている一方、日本国国旗の損壊については規定がなく、処罰の対象とされていません。外国国旗であれ、日本国旗であれ、国旗を損壊する行為は、国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用を損なうものであるとともに、国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するものです」などと天皇制と国家への忠誠を強要する暴論を主張し、平沢も「日本の刑法は諸外国からみれば常識外れ。それを普通の形に直したい」と手前勝手な珍説を強調した。
 そもそも現行の刑法九十二条「外国国章損壊等」は、「外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する」「前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない」という規定になっている。つまり、外国国章損壊行為によって、その国との外交問題になることを避けるために刑法罰則を設けており、自国の外交利益を防衛することを目的にしている。だから外国政府の抗議があった場合、見せしめとして刑罰によって取り締まるために親告罪になっている。
 ところが改正案は、外国国章損壊の条文を引き写して「日本国に対して侮辱を加える目的で」とする条文を加え、「日の丸」旗の損壊が「国家の存立基盤・国家作用を損なう」、(国旗への)「尊重の念を害する」から違法だというのだ。「日の丸」旗への「損壊」は抗議の一形態でしかない。この行為そのものを刑事罰で禁止するのは、憲法一九条「思想良心の自由」、憲法二〇条「表現の自由」の否定だ。違憲に満ちた改正法そのものが成立根拠がないのである。
 しかも親告罪とするならば、告訴するのは自分たちだとでもいうのか。いったい誰が、どういう概念で規定するのか。そんな文言は、まったくない。仮に「日本国に対して侮辱を加える目的」がないパロディーのケースは、どうするんだ。あくまでも天皇主義右翼らの主観的なレベルのレッテル張りのやりたい放題を認めさせ、身勝手な妄想によって「国旗損壊」罪を適用することでしかない。公安政治警察も仕事が増えて大喜びだ。要するに自民党の「日本国憲法改正草案」を前提としなければ改正法案の成立根拠が発生しないトンデモない反動法なのである。こんなフザケた法案を自民党が認めたところに憲法改悪攻撃の踏み込みがある。

米国でも処罰
化に違憲判決


 高市らは、「諸外国の法制度では、むしろ自国国旗損壊に対する刑罰の方が他国国旗損壊に対する刑罰よりも重くなっている」ケースとしてドイツ、イタリア、韓国、中国を取り上げ、「日本の刑法におけるアンバランスを是正することを期し、本法律案を起草しました」などとデマを飛ばしている。
 日本弁護士連合会会長の山岸憲司は、「刑法の一部を改正する法律案(国旗損壊罪新設法案)に関する会長声明」(二〇一二年六月一日)で改正法案反対の立場から高市デマにも照準をあてて「米国では、連邦議会が制定した国旗保護法の適用に対し、連邦最高裁が『国旗冒とくを罰することは、この象徴的存在をかくも崇敬され、また尊敬に値するものとせしめている自由を弱体化させる』として、違憲とする判決を一九九〇年に出している」と批判している。
 さらに米最高裁は、一九八九年に国旗焼却事件裁判で「我々は国旗への冒涜行為を罰することによって、国旗を聖化するものではない。これを罰することは、この大切な象徴が表すところの自由を損なうことになる」と判決を出している。また、同年に上院で可決された国旗規制法を却下し、「国旗を床に敷いたり、踏みつけることも、表現の自由として保護されるものであり、国旗の上を歩く自由も保証される」の判断もしている。親米右翼の連中が意図的に米最高裁判例をパスしているところに改正法案の欠陥を現している。
 このように国旗をシンボル化していく意図は、民衆を国家へと統合し、帰属意識と忠誠を強化させ、国家意志を強制していくものでしかない。天皇制、戦争と軍国主義、愛国心と国威発揚のための国旗はいらないのだ。今国会情勢下では法務委員会で本格的に審議されていないが、たとえ改正法案が成立しなくても、右翼運動の任務のひとつとして法案制定を設定しており、繰り返し国会提出を行ってくるだろう。天皇主義右翼らの意図を暴露・批判し、監視を強化していかなければならない。「国旗損壊」罪に反対していこう。
       (遠山裕樹)

 

6.14反資本主義勢力形成へ学習会

フランスの労働運動・社
会運動の歴史から学ぶ


 
 【大阪】 「反資本主義勢力形成」に向けた取組みとして、大阪でも一昨年のフランス反資本主義新党(NPA)を招いての労働者国際シンポジウム、昨年のフランスへの交流訪問を組織する過程で二回の学習会(一月:杉村昌昭さん、五月:小山師人さん)を行った。その訪問団は昨秋渡仏して、NPAやSUDと交流・意見交換し、多くのことを学んで帰国した。今後もこの活動を継続・発展させていくために学習会が企画され、第一・二回は湯川順夫さん(翻訳家)を招いてとなっており、早速第一回目が六月一四日に協同会館アソシエで行われた。(講演の要旨―別掲)
 講演の後、主にフランスの「ストライキ闘争」「既成左翼とナショナルセンター」について、湯川さんへの質問や意見交流を行った。原発問題で言うと、電力会社での最大組合CGTは推進、SUDやFSUは脱原発の立場だ。次回は七月一八日、今回の続きとして『反資本主義新党形成過程と現状』というテーマで行う予定である。  (努)

湯川順夫さんの報告から

新自由主義グローバル化
との闘いから得た確信


社会運動の広い
裾野を基盤に
 テーマは「フランスの労働運動・社会運動はいま」となっている。今回は労働運動が中心になるが、フランスでは社会運動という言葉がポピュラーだ。失業・移民・女性など様々な運動がある。労働者こそが解放の主体であるという捉え方は現実的ではなく、皆同列で、労働運動も社会運動の一つというものだ。そのような視点に立って、フランスと日本での労働組合のあり方の違いについても見ていきたい。その前提として、フランスについての予備知識。?人口は日本の半分で、面積は一・五倍。(社会への影響力で言えば)フランスでの五〇万人のデモは日本では一〇〇万人、結成時のNPAが一万人は同じように二万人と考えてよい?パリが圧倒的に大都市で、他は圧倒的に人口の少ない小地方。その構造があるので歴史的に中央集権的(パリの政治が基本的に決めていく)な国だ。

フランスの資本
主義の特徴は
 イギリスに産業革命で遅れをとり、国家が保護して産業を育成(資本主義)したが、ドイツやアメリカにも追いつかれてしまった。資本も国内投資より海外貸付に向かい、中小企業が多い。軍隊も普仏戦争以来、二つの世界大戦・アルジェリア戦争・インドシナ戦争で勝つことができなかった。つまり、超一流の帝国主義国にはなれなかった。しかし、それだけに、「弱い犬ほどよく吠える」のたとえがあるように、強権的・差別的(軍隊・警察)な国家だ。記憶に新しいことで言えば、環境団体「虹の戦士号」を爆破したのはフランスの諜報機関だったし、移民たちの「暴動」の発端になったのも警察による日常的な弾圧が原因だった。資本家も頑迷(日産のゴーンも)で、労働者や労働組合の権利もなかなか認めない。

労働組合運動
の独特のあり方
 フランス革命はブルジョア革命だったので、労働者の団結権は長い間禁止されていた。確かに労働組合の歴史(CGTは一八九五年)はあるが、職場に組合事務所を設けられたのは戦後の、それも一九六八年五月の運動、一〇〇〇万人の労働者のストライキがあってからだ(グルネル協定)。頑迷な資本家との攻防になるので、企業別組合ではなく、外(地域)から組織していくことになる。そこには労働組合会館(元は労働取引所)があり、ここが出撃拠点となった。また、ここは兵士や女性の駆け込み寺でもあった。大きな闘争になると、フランスの資本家が頑迷(解決能力がない)なので、政府が出てきて政治闘争となることが多い。
 ドイツでは、経営者の団体と資本家や労働者の団体が交渉することになる。日本のようにクローズドショップ、ユニオンショップのような制度はないので、組合員が個別のオルグをして、組合費を徴収(チェックオフは違法)して組織化していくことになる。組合組織率はというと、九・一%で非常に低い。そして、いくつかのナショナルセンターがある。最大のCGT(共産党系)、CFDT(キリスト教系のCFTCから分裂、社会党系、日本の旧総評に似ている)、CGT―FO(「労働者の力」、CGTから分裂)、CFE―CGC(管理職、技術者の組合)がある。フランスの場合は日本と違って、活動家(ミリタント)が組合員になる。
 運動の中で、組合を越えた職場総会(AG)が決定機関となり、非組合員も参加できる。大きな闘争になると、職種別の組合横断的共闘会議(全国運転士共闘会議、全国看護士共闘会議)などの大衆的な闘争機関がしばしば生まれる。職場では様々な選挙がある。企業委員会・調停委員会等の委員になるため、各組合は選挙を通して労働者の審判をあおぐことになる(どの組合が支持されているかがわかる)。確かに組合組織率は低いが、変動が激しいので組合員を割り出すのは容易ではないし、組合員数が組合の力を表すバロメーターとは言えない。


独立労組の形成
と発展の過程
 フランスでは、これまで(人民戦線とレジスタンスの歴史を持つ)共産党・CGTが圧倒的に強く、労働者階級の多数派だった(日本でも戦後、産別会議を通して共産党の影響力が強かったがすぐにだめになった)。サルトルなどの左翼知識人たちは共産党を支持し、パリ周辺は共産党の拠点(日本で言えば革新自治体)となった。こうして、しばらくは共産党・CGTの影響力は続いた。「一九六八年五月」は学生運動から始まり、(日本とは違って)一〇〇〇万人の労働者のストライキに発展していった。政治闘争では敗北してしまったが、とりわけ若者たちを中心に価値観は大きく変わっていった。例えば、エコロジー、フェミニズム、自主管理的社会主義である。スターリニズム・官僚主義的な共産党・CGTははっきりしなかったが、これらの新しい価値観を取り入れたのが社会党とCFDT内の左派潮流(自主管理派)だった。彼らはリップ時計工場の自主管理闘争を担った。
 しかし、八〇年代になると新自由主義グローバリゼーションの攻勢の中で、CFDTは路線転換し民営化も受け入れるようになった(日本の総評も同じような軌跡を辿った)。八八〜八九年になると、“みんな一緒≠フスローガンを掲げ右傾化したCFDT指導部に反発し、電信・郵政・国鉄・医療・空港などの部門から左派が形成されていった。パリの郵便集配センターの統廃合に反対して、運送を担う労働者たちが中心になってストライキをした。しかし、CFDTの指導部によってパリの闘う組織は解散させられ、こうして独立組合SUD―PTT(郵便・電信・電話労組)が結成された。SUDは連帯・統一・民主の頭文字だ。さらに、SUD―RAIL(鉄道労組)などSUD系の組合が続々と結成されていく。

SUDの新し
さとは何か?
 現場の労働者がどの組合を支持しているのか。例えば、郵便部門の管理評議会選挙(二〇〇〇年)を見るとよくわかる。追い出された方のSUDは二一%で、追い出した方のCFDTの一八・三%を抜いてしまった。なぜこのようになったのか。(日本とは違って)長い経済不況が続いてきたフランスは、八〇年代になると新自由主義の登場、そして工場の海外移転で国内産業基盤の空洞化が進み、既得権への攻撃が強まり、失業者も増加(九%以上)していった。にもかかわらず、共産党・CGTは影響力を失い、社会党・CFDTは右傾化していく。これらの既成組織に頼っていては自分たちを守ることができないからだ。こうして九〇年代になると、新しい社会運動が出てくる。トーピン税(ATTAC)、失業者運動(AC)を始めホームレス、移民、薬害エイズの運動などである。そして、そのような動きの中でSUDの闘いも展開されていった。SUDの新しさとは何だったのか。それは、@組合民主主義の徹底(皆で決定、役職のローテーション化)Aフェミニズム(指導部に女性を)B社会との連帯(失業者、移民、ホームレス、農民)C国際連帯(移民、反NATO空爆、最近ではアラブの春)である。
 一九九五年の公共部門のストライキではCFDTは反対し、SUD―PTTが中心を担った。さらに、農民連盟の支援とデモへの大衆の参加、スト批判に対するATTAC系知識人の対抗キャンペーンによる支持があり、新自由主義のジュペ計画を破綻させた。以降もSUD系組合やFSU(教育労働組合)など独立組合の闘いが労働運動を担っていった。一九九五年を境に、民営化を始め新自由主義グローバリゼーションは抗し難いものではなく、闘えば退けることができるという確信を生んだことは大きい。こうして、ATTACなどの新しい社会運動はますます発展していった。だから、フランスは世界社会フォーラムでも重要な役割を果たしている。(報告要旨、文責編集部)
                          


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