「我が国の安全保障に資する」とは何か?
規制委員会設置法の道連れに基本法改悪 |
原子力行政に
重大な変更が
六月二〇日、民主、自民、公明三党提出の議員立法として原子力規制委員会設置法が成立した。自公案をもとにした同法案の成立により、新たな原発の再稼働のための「安全基準」は、今後は同委員会の下で作成されることになるが、この法案の成立によって日本の原子力行政にとって、きわめて重大な変更がもたらされようとしていることに注意しなければならない。
それは原子力規制委員会設置法の第一条に「我が国の安全保障に資する」との一文が盛り込まれたことである。それとともに一九五五年に制定された「原子力基本法」で原子力開発における「民主・自主・公開」の三原則をうたった第二条も変更され、同様の規定が挿入されることになった。これは明らかに「原子力の軍事利用」、すなわち核兵器開発を合法化する文面にほかならない。
法案を提出した吉野正芳衆院議員(自民党・福島三区)は、質問に対して「軍事転用を考えているわけではない。核物質の軍事転用を防ぐ国際原子力機関(IAEA)の保障措置を、現在の文科省などから原子力規制委員会に移管するため」と説明し、細野豪志環境相も「核不拡散のためだ」、としている。しかし「不拡散」などに関わる「保障措置」は英文では「セーフガード safeguard」とされ、明確に軍事的意味合いを持つ「安全保障」(security セキュリティー)」とは異なる(朝日新聞 六月二一日)。 原子力基本法
の成立経過
もともと原子力基本法の基本的骨子は、一九五五年八月にジュネーブで開催された原子力平和利用国際会議に出席した四人の衆院議員からなる超党派の国会議員団(民主党の中曽根康弘、自由党の前田正男、左派社会党の志村茂治、右派社会党の松前重義)が海外視察中にまとめたものであった。四人の「国会代表団」は九月一二日帰国した羽田で、「国会議員団共同声明」を発表したが、中曽根康弘の意思が強く反映していた同「共同声明」には次のような文言が含まれていた。
「(二)総合的基本法たる原子力法を至急制定し、平和利用及び日本学術会議の所謂(いわゆる)三原則の基本線を厳守するとともに、資源、燃料、技術の国家管理、安全保障、教育及び技術者養成、国際協力等の事項を規定すること」。
藤田祐幸は「戦後日本の核政策史」(『隠して核武装する日本』所収 影書房刊、二〇〇七年)の中で、「中曽根の思いは、この声明の中では、“資源、燃料、技術の国家管理”、および、唐突に現れる“安全保障”、という言辞に集約されていると見てよいだろう」としている。しかし実際の原子力基本法案は、日本学術会議の原子力平和利用に関する「三原則」を全面的に受け入れて、「政争の具」にならぬよう超党派の議員立法として提出された。「安全保障」の文言は入らなかった。藤田は前掲論文で「原子力の軍事的側面についての国会質疑はこの後行われることはなかった」と付記している。 開かれた核兵
器開発への道
すでに多くの出版物で明らかになっているように、日本の原子力開発=原発政策は、「潜在的核武装能力の保持」という目標をふくんで進められた。中曽根康弘がそうであり、岸信介、佐藤栄作兄弟もその意図を隠すことはなかった。「自衛のための小型核兵器の保持は合憲」という歴代自民党政府の立場は、その表現でもあった。しかし現実の原子力行政において「安全保障」という用語を再び取り入れて、原子力開発の軍事的側面を表舞台に登場させるようになったのは、今回の原子力規制委員会設置法と原子力基本法改悪が初めてである。
民主党政権の下で、福島第一原発事故に伴う「原子力政策見直し」の一環として、ほとんどなんの論議もなく「原子力軍事利用=核兵器開発」に道を開く法改悪がなされたことに、あらためて強く反対しよう。
このことは二〇〇八年の宇宙基本法に「我が国の安全保障に資する」という文章が盛り込まれ、今国会で成立した改正宇宙研究開発機構(JAXA)法に、「JAXA」の活動を平和利用の目的に限るとした条項が削除され、人工衛星等の軍事目的による利用を合法化したことと同じやり方である。
言うまでもなくこうした動きは、「日米同盟のグローバルな深化」という名目での日米の戦略的・戦術的な運用面での一体化と連動している。世界平和アピール7人委員会は、この法改悪を厳しく批判する声明(別掲)を発した。労働者・市民は、この声明を支持しよう。 (平井純一)
アピール
原子力基本法の基本方針に「安全保障に
資する」と加える改正案の撤回を求める
2012年6月19日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬
衆議院本会議は、先週の6月15日に「原子力規制委員会設置法案」を可決した。この法案は、政府が国会に提出していた「原子力規制庁設置関連法案」に対立して自民・公明両党が提出していたものであり、この日に政府案が取り下げられて、自民・公明両党に民主党も参加した3党案として、衆議院に提出され、即日可決され、直ちに参議院に送られて、この日のうちに趣旨説明が行われたと報じられている。新聞報道によれば、265ページに及ぶこの法案を、みんなの党が受け取ったのは、この日の午前10時であり、質問を考える時間も与えられなかったといわれている。
世界平和アピール七人委員会は、この法案の中に、説明なく「我が国の安全保障に資する」という文言が加えられたことについて、ここに緊急アピールを発表する。
国会議事録はまだ公開されていないが、自民党の資料によれば、「原子力規制委員会設置法案」の第1条には、「この法律は、……原子力規制委員会を設置し、……国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする。」と書かれている。
我が国の原子力関連の個別の法律は、すべて日本国憲法のもとにある原子力基本法の枠の中で作られている。周知のとおり、原子力基本法の基本方針(第2条)は「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。」となっていて、歴代政府は、日本国憲法に抵触しない原子力の軍事利用ができないのは、この法律に抵触するからだとしてきた。
しかし、「我が国の安全保障に資する」という文言は、わが国の独立に脅威が及ばぬように、軍事を含む手段を講じて安全な状態を保障することに貢献すると読む以外ない。このことに気が付いたためと思われるが、今回衆議院を通過した「原子力規制委員会設置法案」の附則第11条は、原子力基本法の一部改正にあてられている。
それによると、原子力基本法の基本方針に、第2条2を追加し、「2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする」と改定するというのである。「我が国の安全保障に資することを目的として、安全の確保を行う」という文言は何を意味するのであろうか。具体的になにを行おうとするのか全く理解できない。
国内外からのたびかさなる批判に耳を傾けることなく、使用済み核燃料から、採算が取れないプルトニウムを大量に製造・保有し、ウラン濃縮技術を保持し、高度なロケット技術を持つ日本の政治家と官僚の中に、核兵器製造能力を維持することを公然と唱えるものがいること、核兵器廃絶への世界の潮流に反して、日本政府が米国に対して拡大抑止(核兵器の傘)の維持を求め続けていることを思い浮かべれば、原子力基本法第2条の基本方針の第1項と第2項の間に、矛盾を持ち込んで実質的な軍事利用に道を開くという可能性を否定できない。
国会決議によって、平和利用に限り、公開・民主・自主の下で進められてきた日本の宇宙研究・開発・利用が、宇宙基本法の目的に、「わが国の安全保障に資すること」を含めることによって、軍事利用の道を開いたことを忘れることもできない。
さらに、「基本法」は憲法と個別法の間にあって、個別法より優先した位置づけがされていることを考えれば、個別法の附則によって基本法の基本方針を、討議せずに変更することはゆるされない。
世界平和アピール七人委員会は、原子力基本法と原子力規制委員会設置法に、何らの説明なく「我が国の安全保障に資する」という表現を含めようとする計画は、国内外から批判を受け、国益を損ない、禍根を残すものと考え、可決にむけて審議中の参議院において直ちに中止することを求める。
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