不十分な民主的成果をも一掃し
ようとする軍との対決が必要だ |
SCAFの制度的クーデター 一般紙でも報じられているが、中東一帯の政治・社会情勢の大変動を決定づけたエジプト革命が重大な岐路にさしかかっている。軍事最高評議会が、紛れもない革命への敵対者として民衆の眼前に現れた。緊迫した情勢を現地から伝える報告を以下に紹介する。(「かけはし編集部」)
エジプトの軍事最高評議会(SCAF)は一週間もたたない内に、この国の歴史上最初の「自由な」大統領選挙の最終結果からあらゆる実質的な意味を取り去り、国の権力の手綱を握っているのはこの機関であり、彼らにはことを自由に進ませる意志はない、ということをすべての人に思い起こさせた。
六月一八日月曜日、モハメド・モルシの支持者数百人は、象徴的なタハリール広場でムスリム同胞団の候補者の勝利を祝った。巨大なものとなると期待されたこれらのデモは、ほんの二、三時間続いたにすぎなかった。六月二一日まで公式結果が公表されないこととなったが故の、用心深さの印なのか? シャフィク――ムバラク体制下の最後の首相であり軍の候補者――に対するモルシのリードは確実だと思われたものの、多くの視線はすでに別のところに向いていた。
六月一三日の水曜日、SCAFのねじが加えた最初の締め付けが現れた。前月末で非常事態令が解除されたその一方で、軍に加えて軍警もが、事実上の基礎として戒厳令を再施行させつつ、市民を逮捕拘留することを再度認められた。翌日高等憲法裁判所(HCC)は、ムスリム同胞団支配の議会が四月遅くに通過させた有名な「政治的隔離」法の効力を審査した。その法の目的は、旧体制の人物が選挙に立候補することを止めさせることだった。SCAFが握る道具であるこの裁判所が先の法を無効化しシャフィクがレースに残れるようにすることは、予想できることだった。しかしこの法廷は、選挙法をも無効化する決定を行った。このことは自動的に、議会に加えて憲法起草委員会の解散に導いた。そして後者は、選出されたばかりだった。それは紛れもなく、SCAF陣営の制度的クーデターであり、昨年一二月から今年一月にかけた議会選におけるエジプト人の投票を取り消すものだった。そしてこの選挙は、ムスリム同胞団とアル・ノウルという彼らが連携するサラフィストに多数を与えたのだった。
鍵は国家機構に挑む大衆動員
金曜日の選挙前夜、二週間前ムバラクに下された判決の後にスローガンを叫んでいた数万人の声は、静まった沈黙に道を譲った。言葉が出ないほどがっかりした革命派は決起せず、その一方ムスリム同胞団は、その合法路線に再度忠実に、同胞団はHCC決定を「尊重する」とすでに発表していた。
週末の選挙はしらけた空気の中で行われた。議会を欠いた大統領を選出するという構図はモルシ支持者の志気をくじくことを意図したもの、ということが想定されるかもしれない。SCAFは公式結果も確認するように見えたシャフィクのあり得る敗北を予想し、投票所が閉鎖されるほんの二、三時間前に、新たなカードを切り、二〇一一年三月の憲法的声明に対する一つの「補足」を発表した。軍はそれが差し押さえてきた立法権に加えて、憲法起草委員会指名に責任を果たすと声明し、民主的移行過程を一層ねじ曲げた。SCAFは、その支援なしには作成不可能な宣戦布告に関してだけではなく、「国益」に反する条項に対する拒否権を確立する形で(ムスリム同胞団の勝利という見通しを懸念していたイスラエルを安心させることを意図したように見える条項)、ムルシの勝利に対抗するその領地を、鮮明に刻印した。
ムスリム同胞団は、たとえ彼らの勝利が認められたとしても、いかなる権力もないまま、しかしエジプト社会の中で経済危機を始めとして提起されている諸問題の解決には人々の前で責任を負わされ、次回議会選挙では再度影響力を失う状態に置かれている。この勢力が、その下部を動員し彼らに街頭に出ることを呼びかける――革命的な翼によって乗り越えられるという危険を冒しても――ことで、SCAFと対決する道を選ばないとすればそうなる、ということだ。ナセル主義者の前大統領候補のハムディーン・サバヒはすでに、次期選挙に向けて革命ブロックの形成を呼びかけている。しかしそれは、SCAFが、不十分な民主的成果をわずか数日の内にすでに一掃しつつ、革命の目的を満たす唯一の道は大衆動員と国家機構に対する挑戦を通る道であることを示したこの時には、まったく不十分に見える展望だ。
パキスタン
現情勢についての声明
首相の辞職はあったが
問題はすべて未解決だ パキスタン労働党
パキスタン最高裁は六月一九日に、法廷侮辱罪で四月に有罪判決を受けていたギラニ首相がすでに議員資格を失っており、憲法上議員でなければならない首相の座にギラニがとどまることはできないとの判決を下した。四月の「法廷侮辱罪」判決とは、汚職などの罪に問われたザルダリ大統領の審理再開手続きを求める最高裁判決にギラニ首相が従わなかったとして、下されたもの。ギラニ首相は首相を解任できるのは国会だけと主張し、与党人民党出身の下院議長も「首相解任手続き」を取る必要はない、としていたため野党が最高裁に提訴していたものである。パキスタン人民党(PPP)政権の腐敗、危機の中でパキスタン情勢の不安定化、軍のクーデターや宗教的原理主義勢力の台頭の危険性などが浮かび上がっている。以下はパキスタン労働党(LPP)の情勢の転換にあたっての声明である。(「かけはし」編集部)
最高裁の行動に
指摘すべき疑念
ギラニ首相の役職解任は、資本主義国家パキスタンの深刻な危機を反映している。国家機構の内部抗争は大衆になんの救済ももたらさず、問題をさらに複雑化させている。ギラニの解任はなにも解決せず、危機をいっそう深めるだけである。大衆にとっての真の問題は国家機構のどの部分によっても提示されてはいない。パキスタン最高裁による資本主義システム改善のための明らかな取り組みは、たいしたことができないだろう。それはパキスタンの支配的エリートのさらなる内部抗争に帰結するだろう。
PPP(パキスタン人民党)政権が極度に不人気になっている時期におけるギラニの解任は、この動きの背後にある真の動機を問うことのないまま、パキスタン国民の多数が最高裁決定を受け入れたことを意味するものだった。
最高裁決定は、過去の幾つかの軍による政権奪取で見られたような選挙された議会の追放ではなく、大統領に対し首相の解任と憲法に従って新首相を指名する手続きを促すものであることに留意すべきだ。しかし、現在権力の座にある部分と同様に腐敗した、支配的エリートの他の部分に対する最高裁の態度に疑いをさしはさむ必要がある。
陸軍の将軍、官僚たち、そして裁判官自身の腐敗は、この数年間、最高裁による追及の対象にならなかった。行方不明となった人びとの事件は取り上げられたが、この課題も、行方不明になった人びとのほとんどが戻らないまま、中途半端なかたちで放置されてきた。最高裁は、PPPの指導者たちの事件に関しては速やかに取り上げたが、他の金持ちたちの政党の指導者たちが関与している事件を取り上げることには、きわめて気乗りのしない態度である。
最高裁は、幾つかの社会的問題についてはよい仕事をしているが、支配的エリートの多数派が行っている階級的搾取については、手つかずのままである。パキスタンのあらゆるところで、エリートたちが設立した工場や機関での労働法侵害事件が見られる。この側面は、完全に無視されている。
民衆への回答は
執政官ではない
パキスタン労働党(LPP)は、今回の動きが将来の反立憲的措置へのステップとなりうることを憂慮している。LPPは、他の民主的諸勢力とともに、あらゆる反民主主義的動きに反対して闘う。LPPは、パキスタン国家が現在直面している政治経済危機を利用した反立憲的暫定政権へのあらゆる可能性に対して、全面的に反対する。選挙によらないどのような政権も、大衆にとっての基本的な課題を解決できない。
われわれは、わが国の歴史の中で最も人気のない文民政権の一つであるPPP政権にきわめて批判的である。そのことは、たとえ不人気な政権であったとしても、反立憲的措置によるその交代を歓迎するということを意味しない。選出された議会における代表を通じた行動によってのみ、パキスタンの民衆は政府を交代させる権利を持つのであって、執政官の強力国家によってではない。
LPPは街頭で大衆を動員し、現政権に対して新しい憲法制定議会のための総選挙を即時に行うよう求める。新しい憲法は、民衆の最低限の基本的な社会的・経済的諸権利を保障し、パキスタン国内に住むすべての諸民族の平等な取り扱いを保障すべきである。
パキスタン労働党はバルチスタン(南西部の州、イランと国境を接する)、シンド(南東部の州、インドと国境を接する)、そしてパキスタンの他の地域でのすべての軍事作戦――公式のものも秘密のものも――の停止を求める。LPPは電力危機に効果的に対処するため、すべてのいわゆる独立発電所の国有化を求める。LPPは対外債務の不払いと軍事支出の大幅削減を求める。
LPPは国家予算の少なくとも一〇%を教育に、少なくとも五%を保健・医療に支出するよう求める。LPPは週四〇時間労働と最低賃金一カ月二万ルピー、成人失業者への最低一万ルピーの失業手当を求める。LPPは大衆の真の課題のために闘い、支配階級の内部抗争であれこれの部分へのアドバイスにふけるようなことはしない。
(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年六月号)
コラム
「死なぬよう生きぬよう」 「百姓は死なぬよう生きぬよう収納申しつけよ」(徳川家康)。六公四民など重い年貢をかけて、百姓の生活を苦しめた。百姓たちは何度となく一揆を起こした。一七六四年には、武蔵から信濃四カ国で二〇万人が蜂起し、島原の乱以来と言われる伝馬騒動。百姓だけではなく都市貧民層が中心になり、江戸など全国の大都市で、打ち壊しも盛んに起きた。
消費税増税は人々を「死なぬよう生きぬように」するものだ。六月末衆議院本会議で、消費税を一〇%にアップする増税法案が七割の議員の賛成で通過し、参議院に送られた。民主党政権が自公の「税と社会保障の一体改革」の「社会保障部分」について、民主が政策のすべて取り下げに同意したからだ。小沢一郎・鳩山由紀夫らが反対し、その後小沢らは新党を立ち上げることになった。
消費税増税は下層庶民に対する打撃を与える重い税金で、格差社会をよりいっそう拡大するものだ。買い物をすればそれに税金が付加されるだけではない。生活になくてはならない電気・ガス・水道など公共料金、電車・バス・地下鉄など公共交通など、軒並み値上げされてしまう。
野田政権は消費税増税について、「社会保障の維持」のために充てるとしているが、予算の半分を国債発行に依存している借金漬けの政府・地方財政がそんなことを許しはしない。結局は段階的アップ後には二五%ぐらいにしないという話になるだろう。
では、税金はどう取るべきか。消費税そのものをやめて、金持ちや大企業への累進課税を強めることだ。株などの投機マネーに対するトービン税を導入すること。相続税を高くすること。
政府予算でもおかしなことばかりだ。エコカー減税や電気製品のエコ減税などが景気浮揚のためと繰り返された。テレビのデジタル化の導入のためにテレビの切り替えが強行され、家電メーカーは空前の利益を上げたが、それが終わるとテレビが売れなくなり大赤字とソニーやパナソニックなどは数万人規模のリストラを開始している。こんなデタラメなことがあるか。そればかりではない。いったん中止を決めた八ツ場ダム建設、整備新幹線の着工など無駄な公共事業の再開、東日本大震災の復興予算のうち一兆二〇〇〇億円が余ってしまっていると報道もされている。
また、自衛隊は次期戦闘機をアメリカのF35の導入を決めたが、この購入のために今年度六〇〇億円を使う。いわゆる米軍「思いやり予算」は一八五八億円であるが、それとは別に基地周辺対策費など五〇〇〇億円余が使われている。軍事費を削って社会保障費へだ。
では、なぜこれ程の重税政策に対して、大規模な反対運動が起きていないのか。東京新聞を除く大新聞がこぞって消費税値上げ賛成で、小沢らの反対を政局がらみだけで叩き、消費税がいかに人々の生活を苦しめることになるかを報道しないことが大きな要因となっている。消費税増税反対を脱原発、オスプレイ配備反対と一体として闘いぬこう。 (滝)
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