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    かけはし2012.年6月25日号

民主主義破壊し大衆収奪

密室談合で民主・自民・公明の三党合意
消費税増税だけが決定された
社会保障政策の多くは棚上げ


 六月一五日、民主、自民、公明の三党の実務者協議は消費税増税関連法案について基本的に合意した。税制については政府が提出していた二〇一四年四月に消費税率を八%に、二〇一五年一〇月に一〇%に引き上げることを認めた。社会保障問題では政府案はことごとく棚上げされ、新たに設置される「社会保障制度改革国民協議会」に委ねられた。そして国民協議会に提出されるたたき台は自民党の社会保障制度改革基本法案で進めることが確認された。この三党合意によって野田首相が「政治生命を賭ける」と言い続けた「社会保障と税の一体改革」案は今国会での成立に向かって大きく動き出した。残された問題は六月二一日の会期末採決か会期延長かだけだ。だが採決は三党合意に対して「マニフェストの放棄であり、国民の信頼を裏切るものだ」と反発している小沢グループや中間派の反発を招き、民主党の分裂に発展することは必至だ。そして三党合意に突き進んでも解散・総選挙の道が開かれなければ、自民党内では谷垣執行部の責任問題が浮上してくる。いずれにしろ「消費税関連法案」の採決は政局がらみで進展していく。

総選挙と増税を取り引き

 今回の三党合意はどこから見ても「まず消費税増税ありき」「社会保障の置き去り」は明白である。言い換えれば税金の引き上げを労働者大衆に押し付けることだけを決めたのであり、「国民不在」としかいいようがない。
 六月一五日、NHKの番組に出演した谷垣自民党総裁は「バラマキ政策に歯止めをかけることができた。消費税をやるなら首相は解散して国民に信を問うべきだ」と三党合意の目的が衆院解散・総選挙であることを隠さなかった。先回の総選挙で議席を減らし、今や関西・大阪で橋本・維新の会とも手を結んでいる公明党もまた「事実上のマニフェスト取り下げに等しいと理解している」と早期の総選挙に期待を込めた。
 他方事あるごとに「金融市場の力に振り回されない強靭な財政構造を持つ観点から待ったなしだ」と財政再建を力説し、「政治生命」発言を繰り返してきた野田首相にとって、「社会保障と税の一体改革」は看板に過ぎず、実は財務省・財務官僚と同様に「消費税増税」だけが目的であったことは明白である。「政治主導」とは反対に今回三党合意のために裏で奔走したのは財務省である。消費税増税案の実務者会議に民主党の責任者に藤井裕久元財務相を担ぎ、自民党は伊吹文明元幹事長という旧大蔵官僚の先輩後輩を起用させ、手打ちのシナリオを描いたのも彼らである。
 そして背後には財務官僚とともに成長戦略を推進し「大連立」を求める財界・大資本が存在している。「海外ビジネスの現場では、日本の消費税率は低すぎるくらいだ」「増税によって新たな内需拡大策が必要だ」「海外との競争のためにさらなる法人税や企業の研究開発費に関する減税が必要だ」との大合唱だ。
 政府の試算によると消費税率が一〇%になると五%の時からの増税分は一三兆五〇〇〇億円の増収になる。そのうち税率四%分の一〇兆八〇〇〇億円は現在の社会保障を維持するために使う。旧来は一部を維持するために借金を使っていたが、これを今後はやめると述べている。この計算によると新しく社会保障の充実のために使えるのは一%分の二兆七〇〇〇億円しかない。この額では民主党の政策の軸である最低保障年金制度創設や総合子ども園などはできるはずがないことは明白である。自公が「バラマキ」として取り上げ破棄を要求したのは、この一%の使い道であった。自公は選挙対策の大型公共事業費に回したいのであり、野田政権もまた消費税の引き上げのため交換条件として「簡単」に譲ったのである。
 三党合意の核心は「社会保障の置き去り」であり、社会保障の「充実」のためには再度次の局面に消費税を「一五%〜一七%」に引き上げる布石・突破口に他ならない。

増税は公共料金値上げと連動

 今回の消費税増税は二段階になっているが、実質五%から一〇%への二倍の値上げである。これが国民の生活にどのような打撃を与えるのか、増税が具体的にどのくらいの額と形で影響を及ぼすのか政府は一切明らかにしていない。消費税が三%で始まった一九八九年には景気や暮らしへの影響を考慮して、消費税三%分に匹敵する二兆六〇〇〇億円の所得税や法人税の減税を行っている。一九九七年に消費税率を五%に引き上げた時には、ガス抜きの側面があったにしろ所得税の減税と公的年金の「物価スライド」などによって負担軽減をアピールした。
 しかし野田政権は消費税率を一挙に倍にしながら、新たな社会保障政策もなく、ただ一三兆五〇〇〇億円もの税収を増やそうとしているのだ。そして一人当たり、一家族当たりどれ程の打撃になるのか一切の具体的な数字を出していない。消費税増税法案への賛成三二%、反対五六%であり、それはそのまま消費税増税に対する人びとの不安であり、不信そのものである。
 政府発表がないので、ここでは多くの経済研究所が試算として出している数字でどのような打撃が国民に与えられるか見てみる。
 消費税が五%から一〇%に上がった場合、年収三〇〇万円の場合約一一万円、五〇〇万円で約一七万円、八〇〇万円で二五万円の負担増となると算出されている。しかし三党合意と照らし合わせると負担増はこれだけにはとどまらない。中学生以下の子どものいる世帯の住民税や所得税を減額する「年少扶養控除」が廃止されるため一挙に六万六〇〇〇円の負担増が加わる。さらに労働者が払う厚生年金も今年から五万五〇〇〇円も増え、東日本大震災の復興予算のための所得税増税が八八〇〇円が加算される。多くの人は忘れているが小泉政権の二〇〇四年に決定した「二〇一七年まで厚生年金保険料は毎年一万円ほどずっと上がり続ける」のも追加される。
 この結果、年収三〇〇万円の世帯は、一一万円の負担増にとどまらず実質二〇万円を超す。可処分所得(税などを除いた自由に使えるおカネ)で見ると二五七万円しか残らない。五〇〇万円分では三二万円の負担増となり、可処分所得では四〇二万円となっている。五〇〇万円の収入から消費税、所得税、住民税、年金、医療保険などで約一〇〇万円もとられる計算だ。
 そして消費税増税時に必ず起きるのは、電気、ガス、電車など公共料金の値上げである。すでにJR東海などは「消費税が上がった分の値上げはやらせてもらう以外にはない」と宣言している。加えて食料品などの生活必需品の税率を下げる「軽減税率」や「複数税率」の導入も先送りされ、唯一明記された増税時の「簡素な給与措置」は基準となる所得水準も明らかにされず、支給額も決められてはいない。
 前二回の消費税増税時と違って政府が「国民生活に与える影響」を発表できないのは「打撃の大きさ」がこれまでと段違いだからである。さらにバブル崩壊後一貫して労働者の賃金は下降線をたどり、所得の減少が消費しない状況をつくり、それがデフレの原因となるほど人びとの生活は疲弊し切っている。

大企業を潤し低所得者に打撃


 今回の三党合意案が実施されるなら低所得者・「弱者」の負担は一層増大し、小泉政権時よりもさらに格差が広がることは明白である。
 最初に三党合意の「税制」に関する修正点を見てみよう。政府案では非常に不充分ではあったが「所得税の最高税率を四〇%から四五%に引き上げ、その課税所得は五〇〇〇万円超を対象とする」となっていたものが、最高税率の引き上げによる累進性の強化に係わる措置は「二〇一二年度中に法制上の措置を講ずる」という形で完全に棚上げされた。「相続税・贈与税」についても同じ様に先送りされた。棚上げ・先送りのための自民党の意見は「富裕層の海外移住につながる」という財界が政府や労働者に向かって使うどう喝と全く同じ言葉である。
 さらに民主党政権が低所得者対策のひとつとして上げていた「給付付き税額控除、複数税率など」は、「資産の把握の問題、執行面での対応の可能性を含め様々な角度から総合的検討」をするという形で完全骨抜きにされてしまった。
 「社会保障分野」「社会保障制度改革」の修正点で見ると民主党マニフェストの軸であった「新年金制度の創立」も「後期高齢者医療制度の廃止」も前記したように「バラマキ」として葬り去られ、自民党の「自助・自立」が前面に浮上している。社会保障に関する「基本的考え方」の項では「自助・共助・公助の最適なバランスに留意。自立を家族相互、国民相互の助け合いの仕組みを通した支援」という形で小泉政権時の「自己責任論」が再び浮上し、社会保障の多くの分野を「国の役割」から排除しようとしている。
 そして結論として「今後公的年金制度、高齢者医療制度の改革は……国民会議を設けて」というワンパターンで棚上げしている。この結果、民主党の「総合子ども園」案は取り下げられ、現在の「認定子ども園」のままにされた。また高所得者の年金額調整の規定は削減され、厚生年金の適用を拡大するパートなどの非正規社員の対象も、企業の経営者への「配慮」に沿って月給七・八万円以上から八・八万円以上に引き上げるに変更されただけである。
 このような対応方針は中小企業に対しても貫徹されている。当初政府は国会答弁の中で中小企業に対する「配慮」を何度も約束したが三党合意では一切触れられていない。二〇一一年に日本商工会議所が行ったアンケートでは、一九九七年に消費税を五%に上げた時に「増税分を製品に転嫁(上乗せ)できたか」という質問に五〇%ができなかったといい、売上高五〇〇〇万円以下の中小企業では七〇%以上が「転嫁できなかった」と答えている。逆に下請け企業が大企業より消費税分の値引きを要求され、増税分を自腹で政府に納付せざるを得なかった中小企業も五〇%を超えている。
 毎年、消費税の還付金は三兆円にも達する。これは消費税の一%強の税収に匹敵する。輸出品は相手国に「消費税分」を請求できないという建前から、輸出品の消費税分が還付されるというシステムによってである。トヨタ自動車、ソニー、東芝などの大手輸出企業一〇社だけで二〇一〇年度の還付金は総額八〇〇〇億円にも達している。消費税が大企業に対する優遇税制だと言われる根拠のひとつもここにある。加えて二〇一四年四月の消費税増税を前提として、すでに昨年度より法人税は五%も減税されていることを忘れるべきではない。

反民主主義的な党利党略


 民主党は政権交代時に四年間は消費税増税はしないと言明し、「無駄使いの削減・根絶」で二〇一一年度までに一六・八兆円をつくり出すと華々しく各省庁の予算・事業の仕分け・査察を行った。だが検証された額は予定の半分以下の六・九兆円にとどまり、逆に次から次へと査定・仕分けで一時中止・打ち切りとなったものが復活し始めている。群馬県の八ッ場ダム、首都圏の東京外部環状道路がその典型であり、再び「消えた」新幹線の延伸計画が動き出している。
 これには与党民主党だけではなく、野党もまた同じように防災や景気対策として大型公共事業を求めて手を貸している。すでに総選挙対策として自民党は総額二〇〇兆円規模の「国土強靭化基本法案」をつくっており、公明党もまた一〇〇兆円規模の集中投資政策で「景気回復をさせよう」と打ち上げ始めている。与野党とも無駄遣いの見直しどころか選挙をにらんで大判振る舞いの競演を始めており、今回の三党合意は同床異夢の第一弾に他ならない。
 政府提案の中には「名目成長率三%、実質成長率二%をめざす」という消費税増税の前提となる「景気条項」が明記されていた。しかし三党合意では判断する時期には全く触れず完全に有名無実化させている事実が、彼らの本音を余すところなく明らかにしている。彼らが興味あるのは消費税増税によって増える税収の「分捕り合戦」だけに過ぎない。
 所詮「財政再建」とは名ばかりで、官僚たちは自らの権益を防衛することが最大の関心事であり、財界と大資本は労働者大衆から取り上げる税収を再度法人税減税の原資として期待する。そして、与野党の国会議員は集票の手段として利用することだけを考えているのである。ギリシャやスペインのデフォルト(債務不履行)も海の向こうの話でしかない。
 政権交代時のマニュフェストを投げ捨て増税に走る野田政権。解散―総選挙のために労働者民衆の圧倒的多数が反対であることを知りながら取り引きに応ずる自民、公明党。増税によって人びとの生活はどうなるのかを一切議論することなしに党利党略のために生活と暮らしに直結する問題を「密室」で談合する。明らかに労働者人民を愚ろうする反民主主義的行為であり、絶対に許してはならない。
 二〇年近くにわたって下がり続ける賃金によって労働者大衆の生活は疲弊し切っている。この状況の中で逆進性を強く伴う消費税の増税は、人びとを奈落の底に突き落とすだけではなく格差と貧困を増大させる。消費税増税を阻止するために日本共産党、社民党を含め全国に闘う戦線をつくっていくことがますます重要になってきている。
(松原雄二)



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