向かうべきは民衆に依拠し
トロイカと絶縁する政権だ |
二〇一二年五月六日投票日の前夜、ドイツ財務相のヴォルフガング・シェウブルはギリシャ人に向かって、「現連立政権が国際的債権者と交わした約束を尊重する」多数派を選出するよう呼びかけた(注一)。しかし彼は無駄に言葉を費やすこととなった。ギリシャ人の六五%以上がEU、欧州中央銀行、IMFの指令に反対する投票を行ったからだ。アテネでは五月六日新しい時期が幕を開けた。それを討論するために、ANTARSYAの一部であるOKDE・スパルタコスのディミトリス・ヒラリスにインタビューした
労働者の選挙行
動に決定的変化
五月六日の投票結果についてあなたがとりあえず引き出した評価とはどのようなものですか。
ディミトリス(以下D)――三つの事実を強調しなければならない。第一に、五月六日の結果はトロイカに対する辛辣な譴責だったということだ。それは、われわれに課された緊縮策に対する反対投票だった。それは、過去数カ月の決起の頂点だった。次いで、独裁体制崩壊以後では初めて、民衆階級の票の多数派を占めたのはPASOKではなく、社会民主主義の左に位置を取る勢力だった。この事実を強調しなければならない。SYRIZA(急進左翼連合)共産党、さらに反資本主義左翼連合であるANTARSYAは、合わせてほぼ三〇%を獲得した。みどりを加えれば三五%近くになる。これは決定的に、労働者の選挙行動における一つの変化だ。
第三の重要事実とは?
D――上の事実から帰結するものであり、左翼と右翼における政治生活の分極化だ。親緊縮派諸政党が崩壊しつつある現瞬間、政治的色合いの広がりの中で論争を分極化しているのは急進左翼だ。そして右翼の方で成功しているのがナチスだ。
まさに彼らは七%を得た。それは非常に大きい。そうではないですか?
D――七%というのは「黄金の夜明け」だけのものだ。そこにはさらに、二つの他の極右小政党の結果を付け加えなければならない。まさに、急進左翼は浮上したが、同時に極右も浮上した。
中産階級が権威主義的回答に傾いているということですか?
D――私見では、極右が得票した層は三つある。まず、大学内での極右の活動に影響を受けた学生、またトロイカにとらわれた保守の右派をもはや信用していないいわば「社会的」右派の一部、そして最後に、PASOKの、またそれだけではなく共産党の幻滅した支持者。彼らにとっては、極右に投票する上で反システムという論理がある。極右は五〇万票を得たが、その投票者はまだ安定した固い支持者ではない。
六月一七日の選挙では彼らはおそらく票を失うだろう。しかし彼らが議席を得ることはほぼ確実だ。そのためには三%で十分なのだ。
何人かの人たちはギリシャと、ヒトラーの権力到来に対する序曲となったワイマール共和国の間に類似点を見ています……。
D――比較は非常に慎重に行われるべきだ。われわれは今、五年近い戦争から抜け出たわけではない。そして、一九一九〜一九二三年のドイツとは違って、あのような悲惨な経済情勢の中にいるわけでもない。その上あの時期とは異なりギリシャには、たとえば一九一九年に存在したような準軍事集団による活動もない。似たような動きはあるが……、しかし慎重に見よう。
社会運動の中で
左翼政府論争を
そこで、二〇〇四年創立の急進左翼連合の反自由主義派、SYRIZAだが?
D――それは、今起きている運動、PASOKと新民主党のヘゲモニーを粉砕した運動の勢いを利用できた政党だ。SYRIZAは人々と歩調をそろえることができた。共産党は遠くにある天国という展望を提供し、われわれANTARSYAが大きな部分で宣伝的な段階に留まっている一方で、SYRIZAは、左翼政府というスローガンを通して信頼性のある回答を提供できた。しかし同時に、その反応は時に混乱している。強い圧力の下に置かれた際には、SYRIZAの指導者たちから不協和音が聞こえるのだ。ある者は、トロイカとの協定や債務を一方的に取り消すと主張する。もっと保守的な他方は、EUへの残留に優先性を与えている。状況は複雑であり、われわれはセクト主義を排してこの問題に取り組まなければならない。
どのような手段でか?
D――われわれ反資本主義勢力の連合は、この論争に参加しなければならない。六月一七日の選挙からもっと強力な形で現れると思われるSYRIZAは、おそらく統治のために他の勢力と連携するだろう。しかしそこには新しい事実、左翼政府という仮説がある。この問題は、諸政党の指導部から社会運動の中に降りてこなければならない。
左翼政府の創出のためには二つの条件がある。第一にトロイカと絶縁する政治綱領、EUからの排除という危険を冒してもメモランダと債務を取り消す政府、ということだ。
そして次に、下部への権力の移行だ。左翼政府は、下部の人々が権力を持つ程度に応じてのみ、それらの人々の利益を代表できるだけだ。それゆえ必要なことは、民衆総会に対する権力と責任の移行だ。これが、民衆総会からなる全国憲法制定会議を招集することが、左翼政府の最初の任務となるだろう。
▼ディミトリス・ヒラリスは、OKDE・スパルタコス(第四インターナショナルギリシャ支部)の指導部メンバーであると共に、第四インターナショナル国際委員会メンバー。このインタビューは、パオロ・ジラルディが行い、スイスの反資本主義左翼の機関紙、「ラ・アンチキャピタリスト」に掲載された。
注一)事実上、中道左翼のPASOKか中道右派の新民主党への投票呼びかけ。(「インターナショナルビューポイント」12年6月号)
ギリシャ
暴言は見逃せない IMFとラガルドは原因
と結果を逆にしている エリック・トゥサン/ダミアン・ミレ
人びとの生活は
IMFが破壊した
IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルドは、ギリシャとアフリカについて、見逃すわけにはいかないことを公然と言い放った。第三世界の債務危機は三〇年前に始まった。これらの貧しい諸国は、輸出に向けた強くかつ益々高まる圧力の下で、国際金融制度によって組織化された利子率の高騰と商品価格崩落の矢面に立たされた。もちろん、関係諸国の指導者何人かの腐敗、全体主義、また誇大妄想が問題を悪化させた。しかしそれらは元々の原因ではなかった。アフリカは特にその病魔に冒され、生活諸条件は深刻に後退し、いくつもの社会指標はそれに警告を発するものとなりつつある。公衆保健と公教育システムは、IMFが指揮する債権者からの要求によって粉々にされた。
ところがラガルドは、ガーディアン紙からギリシャに関して聞かれ次のように語ったのだ。つまり「私は、三人で一つの椅子を分かちあい、教育を得ようと切実に熱望しつつも、日に二時間しか教育を受けていないニジェールの小さな村の年端のいかない子どもたちのことの方をもっとたくさん考えている」と。しかし彼女は、ニジェールが二五年以上もの間IMFがつくった条件の中で生きてきた、とは語らなかった。ニジェールの生徒の状況はIMFの政策が作り出した結果なのであり、そしてそのことを彼女は十分に分かっているのだ。
四分の一世紀後ギリシャは、厳しい危機にさらされた最初のユーロ圏国家となっている。その危機は二〇〇七〜八年に見えるものとなった。世界の南の諸国で以前見られたように、債務返済が、ギリシャの債権者、特にフランスとドイツの私有銀行の最優先事項として強要された。このために、IMF、EUそして欧州中央銀行(ECB)は、一連の劇的な緊縮計画をギリシャの住民に押しつけた。今日ギリシャは、極めて重大な経済危機の頂の上で、一連の人道的危機をも経験しつつある。ギリシャの人々は、IMFが引き起こした打撃に気づいている。そして、すでに一二回ものゼネラルストライキ、数々の街頭デモ、また公共広場の何度にもわたる占拠を実現した後で、緊縮策の拒絶を示すために投票箱を使うにいたった。
権利尊重を求め
たが故に猛中傷
五月六日の先の選挙でギリシャの有権者は、緊縮計画を適用し、トロイカ(IMF、ECB、EU)の指令に服従した連立勢力に裁断を下した。新民主党とPASOK(全ギリシャ社会主義運動)はこうして、ギリシャの債権者に対する彼らの全面的な屈服に対して対価を支払った。以前権力にあった連立メンバーの極右政党、LAOSは、政治の光景から事実上姿を消した。
主要な急進左翼連合で今やこの国の第二の政治勢力となったSYRIZAは、緊縮政策拒否、返済停止、ギリシャ国家債務の監査を要求し運動してきた。彼らの要求には、EUの機能およびECBの地位に関する条約の作り直し、トロイカとの間で署名された合意の後に切り刻まれた年金と俸給の回復、確実な再配分機能を備えた税制、銀行の監査と公的資金を受けた銀行の国有化、そして最後に、議員と公職代表者が享受してきた免責特権の廃止が含まれている。
多くのギリシャ人は、以前の諸政権が欧州の崩壊に責任のある国際、国内の現に存在している諸々の実体に示してきたものと同じ忠誠を民衆に示す、そのような政権を望んでいる。ギリシャ人の多数は、彼らの諸権利が尊重されることを求めながら、同時にEUとユーロ圏に残りたいと思っている。これはまた、トロイカと諸銀行の計画を無効にする目的と一体となった、SYRIZAが守る立場でもある。
そしてこれこそが、彼らの民主的な選択が、国際場面、国内双方で猛烈な反対に遭遇している理由だ。ギリシャ人は、無責任、脱税、腐敗、怠け者といった、それらのチャンピオンであるかのようにもっともらしく言われている。人々に間違った選択をさせるべく、ギリシャに対する制裁の脅迫が、EU機関と欧州諸政権の首脳たちによってはっきり表明されている。この脅しのキャンペーンは、自分たちの運命を自分たちで握るという考えを放棄すべきだと、ギリシャ人に説き伏せることに向けられている。この目標を完遂するために使われている脅迫と報道の強力な諸手段は、同時に、他の欧州諸国の民衆を説き伏せること、さらにそれを超え、このシステムを維持している者たちが押しつける選択以外に代わりのものはないということを説き伏せること、これらをも意図したものだ。
人に何かを言う
資格のない組織
ラガルドは、ギリシャの民衆を追い詰めることにも力を貸している。日に二時間の授業しか受けることのできないニジェールの学童に関する先のガーディアン紙のインタビューの中で、彼女はさらに次のように続けた。「彼らのことを私は始終気にかけている。なぜならば、彼らはアテネの人々よりももっと多くの助けを必要としているからだ」と。そしてアテネに関しては「あなたは何を知っているのですか? アテネに関する限り、私は、始終税金を逃れようとする人々すべてについて考えている」と語ったのだ。彼女にはまた、職を奪われ社会的保護のない人々についての一つの考えもある。「思うに、彼らはまた、彼らの税金を全員が払うことで、集団的に自分たちを助けるべきだ…」というわけだ。
これは、ギリシャで起きていることに対する完璧な無知をあらわにするだけではない。というのも、海運の大立て者たちや教会は脱税しているが、住民たちは確実にそうはしていない。そして付加価値税はこれまで大幅に引き上げられ、新たな税率も押しつけられたのだ。その上ラガルドの言葉は、極度に困難な状況にさらしながらそれでも助けているのだとしているある国の人々に対して、IMFが抱いている極度のさげすみをも示している。しかしこれらの諸困難の主要な原因は、IMFが確実に支えた金融システムの規制解体であり、第二には、二〇一〇年五月二〇日以後にIMFと欧州の指導者たちが押しつけた諸方策なのだ。
仕上げとして、ラガルドについて心に留めるべき興味深いことがある。というのも彼女は、年に三二三、二五七ユーロ稼ぎ、それに特別手当(特別費用に対する補償金)が五七、八二九ユーロが加わる。しかし彼女は、国際公務員を理由に所得税を払わないのだ。自分を棚に上げて人にはやるべきことを語る、その典型的な事例だ。ラガルドさん、もうたくさんではないか! あなたには人に説教する資格などないのだ! あなたが指揮する組織、そしてそれが実行する諸政策は、それがアフリカであろうが欧州であろうが、あるいはアジアであろうがラテンアメリカであろうが、その結果に苦しむ数知れない人々によって厳しく異議を唱えられている。IMFはなくされるべきであり、その主要な目標を通貨の安定と基本的人権の尊重に置く、新しい、真に民主的な制度によって置き換えられなければならない。幸いなことに、不正な債務、緊縮計画、そして財政条約に反対する欧州の決起は、攻撃を受けている他の人々すべてと並んでギリシャの人々との連帯の中で、上げ潮にある。
これは、新自由主義から身を解き放つ実のある社会的変革をもたらしそうな、問題に適した反応だろう。
▼ダミアン・ミレは、CADTM(再三世界債務帳消し委員会)フランスのスポークスパーソン。エリック・トゥサンはCADTMベルギー代表。(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年六月号)
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