橋下・維新の会「船中八策」批判
民主主義の解体と憲法改悪許すな |
一〇月二一日、橋下と日本維新の会は衆議院選に向けて鹿児島を皮切りに九州一帯の街頭演説を開始した。マスコミは一斉に支持率の低下を報ずるが、依然として衆議院選の「台風の目」であることに変わりはない。ここでは新党の綱領である「船中八策」を検討する。
「維新八策」の骨子
――大阪維新の会の理念を実現するために―― 1、統治機構の作り直し ?首相公選制?参議院廃止を視野に入れた衆議院優位の強化?大阪都構想?道州制
2、財政・行政・政治改革 ?大阪府・市方式の徹底した行財政改革?国民総背番号制導入?衆議院の議員数を二四〇人に削減
3、公務員制度改革 ?公務員の強固な身分保障の廃止?公務員労働組合の選挙活動の総点検
4、教育改革 ?教育委員会制度の廃止?教職員労働組合の活動の総点検
5、社会保障制度改革 ?生活保護世帯と低所得世帯の不公平の是正?年金一元化、賦課方式から積み立て方式に長期的に移行?(生活保護の)支給基準の見直し
6、経済政策・雇用政策・税制 ?TPP参加、FTA拡大?先進国をリードする脱原発依存体制の構築?少子高齢化に対応、資産課税も重視
7、外交・防衛 ?日本の主権と領土を自分で守る防衛力と政策の準備?日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る防衛力と政策の整備
8、憲法改正 ?憲法改正発議要件(96条)を3分の2から2分の1に?首相公選制(再掲載)?憲法の条を変えるか否かの国民投票
民主・自民に代わる「第三極」
九月一〇日、橋下徹大阪市長はそれまでの「大阪都構想を実現するための大阪維新の会」から「明治以来続いた中央集権体制という統治機構を変える」ために国政政党「日本維新の会」を結成することを明らかにした。そして一〇月一五日東京事務所を開設し、国会内ですべての政党にあいさつ回りをし、みんなの党の渡辺喜美代表との会談では次期衆院選に向けて連携協議を再開することで一致し、ただちに共通政策を作成していくことを決めた。
東日本ではみんなの党と協力し、西日本では「日本維新の会」を中心に「第三極」として衆議院選に打って出る可能性について言及した。橋下のいう「第三極」はアメリカの極右グループ=ティーパーティが共和党内の一翼であるのと違い、民主・自民と対抗する勢力をめざすということである。その政治性格は新党結成に向けて参加を呼びかけた石原都知事、元首相の安倍晋三などに代表される右派勢力、そして小泉政権を支えた竹中平蔵や今日まで自民党内の「上げ潮派」を自称する中川秀直などの新自由主義勢力にそのまま体現されている。
「第三極」としての日本維新の会は、民主・自民という保守勢力の別働隊であり、あわよくば衆院選挙後の政局において、キャスティングボートを握ろうとしていることは明白である。全国で三五〇人もの立候補を計画していると豪語するねらいもここにある。ここでは日本維新の会の綱領とも言うべき「船中八策」を検討してみる。
「骨子」を見てもらうと分かるように「船中八策」は「1から8」の八項目で構成され、各項目は「理念」と「基本方針」の二つで成り立っている。だが「船中八策」は箇条書的メモであり、成文化されたものではない。そのため重要な箇所がどのようにも読み取れるという問題を抱えている。
「あいまいさ」の裏に何が
「船中八策」の前文には「中央集権と複雑な規制で身動き取れなくなった旧来の日本国家運営モデルは、もはや機能せず、弊害の方が目立つ」というように戦後民主主義、議会主義の機能麻痺という現状認識が記され、「1 統治機構の作り直し」が必要であり、「理念 中央集権型国家から地方分権型国家へ」、そして「基本方針」として「首相公選制」「現在の参議院廃止を視野に入れた衆議院優位の強化」「道州制が最終形」と続く。
「統治機構の作り直し」が企図しているのは、機能麻痺や財政悪化の原因である政府―官僚―資本のゆ着構造の打破であり、政府―与党―野党が表裏一体となって形成された利益誘導や所得再配分システムの解体である。政権交代しても機能しない議会制民主主義の機能不全に対して「決められる政治」「強力な指導者願望」という国民の期待を利用して出されたのが、アメリカなどの大統領制にも匹敵する強力な権限を持つ「首相」を実現する「公選制」である。さらに「難問を先送りせず決定できる統治機構」としての衆議院一院制であり、参議院の解体である。議会制民主主義の行き詰まりの中で「民主主義」を縮小・削減し、逆に強権的支配体制に置き換えようというのである。
さらにこれに対応する形で出されているのが橋下が以前から唱えてきた「大阪都構想」を軸とする「道州制」の導入である。中央支配システムを利権・利害から切り離し、外交・軍事、エネルギー、金融に特化し、住民の統制・監視を地方自治体が全面的に担うためにより強力な権限を持つ「道州制」に再編しようというのである。それは「住民自治」とは反対に住民の管理・統制を強めることを意味するだけではなく、この再編過程を通して「膠着した日本社会」を克服するための「新たな経済成長の原資」をつくり出そうとねらっていることは明白である。橋下が大阪府知事、市長として行った一連の攻撃がこれを立証している。
そして「日本維新の会」の最終目標は、「8 憲法改正」に他ならない。戦後改憲派の壁となってきた「憲法改正発議要件(96条)を3分の2から2分の1に」という一文が「基本方針」の冒頭に記されていることにそのねらいは鮮明である。そして最後の目的は「憲法9条を変えるのか否かの国民投票」となっている。解釈改憲によって押し進められた「戦争のできる国家体制」を「集団的自衛権」を正面に据えて「合法」的に突破しようとしているのである。彼らのねらいは自衛隊を「国軍」として海外派兵し、「国軍」として日米共同体制を担うことである。
この間の大阪における「日の丸・君が代」問題での全面的な攻撃、そして「7 外交・防衛」の「理念」の中で「日本の主権と領土を自分で守る防衛力と政策の準備」が鮮明にしているのは、「統治機構の作り直し」のためにナショナリズムを煽り、国民の中に広がる右翼的気分を利用推進し、「憲法改正」のキャスティングボートを握り、イニシアチブを握るために石原都知事や自民党の安倍総裁にエールを送り続けているのである。
「船中八策」が箇条書で成文化されていないのは、橋下らが意識的に「そうした」と見る学者も多い。「橋下市長の『民意論』とは、選挙で当選することで市長は『民意』を代表する。……『民意』の執行については公選首長が白衣委任を受けたもの……マニフェストのような細かい制約を政治家に課すのはおかしい。常にフリーハンドを要求するのが『橋下流』なのだ」(澤井勝「破綻が明確になり始めた大阪都構想」、『現代の理論』、2012年春号)。あるいは、橋下が局面ごとにポピュリストらしく「大衆受け」をねらい全く違ったり、正反対の発言をすることを可能にするために、あえてこうしたメモ的箇条書にしたとも見れる。
その曖昧さが端的に現れたのが原発問題である。橋下は昨年から今年にかけて様々な機会に原発の再稼働に反対すると発言し、脱原発社会の実現を主張してきた。だが今夏、関西電力や関西財界が「夏の電力不足」を持ち出すと京都や滋賀の知事らが反対しているにもかかわらず「後から鉄砲を撃つ」ように、大飯の3・4号機の再稼働を容認した。これは維新の会が代表しようとしているものが住民・国民なのか、財界・資本なのかを鮮明にした。だがその後発表された「船中八策」の「6 経済政策・雇用政策・税制」の中では「先進国をリードする脱原発依存体制の構築」とだけ記され、決定的に重要な「期限」には一切触れていない。そして知ってか知らずか九月九日の「八策」の公開討論会の場では「二〇三〇年までにゼロにする」と発言する始末。
同じような曖昧さは「5 社会保障制度の改革」の中の「年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務積算)に長期的に移行」にも表現されている。現行制度は現役世代が払った保険料をそのまま今の「お年寄り」の年金財源に充てる仕送り型の賦課方式であるが、積み立て方式は高齢者への仕送りではなく保険料を自分のために貯蓄し、老後に年金を受け取るシステムである。これを切り換えるためには二〇年〜三〇年にわたり、現役本人分、引き続き高齢者分の「二重負担」の期間が必要であり、その額は年間一〇兆円にも達する。これをどうするのか、赤字国債で賄うのか、財源を言わない限り「政策」にはならない。戦後、一度は積み立て方式を採用しながらインフレに対応できず賦課方式に転換した事実に全く触れてもいない。また同じ「5項」の中で「生活保護世帯と低所得世帯の不公平の是正」と記されている。意図しているのは「生活保護手当の削減である。ストレートに「削減」と表現すれば反発を招くから避けただけである。
また「2 財政・行政・政治改革」の基本方針では「企業・団体献金の禁止、政治資金規正法の抜本的改革(すべての領収書を公開)」「政党交付金の三割削減」と明記し、その理由を公開討論会で「誰にも縛られない政治判断ができる。後援会パーティを開く際には券の購入は個人に限るべきであり、必要な資金は政党交付金で賄うべき」と強弁した。だが翌日政党交付金の支給額は毎年一月一日時点の国会議員数で決まることを指摘されると「年内解散では間に合わないので、今回だけはどうするか議論させてほしい」と言い出す始末。
取り上げた例はごく一部であるが、こうした曖昧な表現は「船中八策」全般に貫徹している。一部は美辞麗句で包み核心を隠し、一部はどちらでも取れるように「チラつかせる」という極めてずるいやり方が見てとれる。政党としての本音を「綱領」でも明らかにせず、煽り欺くやり方こそ「日本維新の会」の姿でもある。
新自由主義と労組解体
「2 財政」「3 公務員制度」「4 教育改革」「5 社会保障」「6 経済改革」を貫いているのは、規制緩和・民営化・民間企業の導入という新自由主義的政策である。
これは「小泉改革」の継承であると同時に、「小泉改革」の破産を突破する幾つかの重要な政策が押し出されている。その最も大きな点は、税制の項で明らかなように民主党政権が押し進め自公も承認している消費税増税に賛成し、「消費税の地方税化と地方財政調整制度」という政策を提起している。「地方財政調整制度」とは何か定かではないが、「増税分を地方にまわすなら賛成」と言っているのである。そして第二は、「道州制」や「地方都市の自立的経営」に表現されるように戦後の日本社会の再編の基軸を徹底的に「地方」に置き、東国原前宮崎県知事、山田前杉並区長、中田前横浜市長らをメンバーに獲得し、衆議院選の一つの目玉にしようとしていることである。
第三は「教育改革」の最重要課題として「教育委員会制度の廃止」を掲げ、首長が教育行政全般を握ろうとする意図を公然化させ、「教育への政治介入」を既成事実化させようとしている。さらに「教育バウチャー(クーポン)制度の導入」「公私間学校選択の保障」に見られるように徹底的に競争原理を導入し、「公立学校長の権限の拡大・強化、校長公募など、学校マネジメントの確立」を通して「学校の株式会社化を押し進めようとしている。加えて「教職員・公務員労働組合活動の総点検」「国家公務員制度に合わせ地方公務員制度も抜本的改革」に込められているのは、教育も公共サービスも民間資本に提供し、地方も含めた公務員の身分保障をはく奪し、戦後社会の基礎になった年金・社会保障の解体である。とくにTPPへの参加は、農業問題にとどまらず、アメリカ型の医療、保険制度を導入し、その上公的保険のきかない医療を認める混合診療の全面解禁をうたい、国民皆保険制度を解体し「カネがなくては病院に行けない」状況と社会を作り出そうという構想だ。
第四は、教職員・公務員攻撃に抵抗する「戦闘性」を残存させる労働組合の最終的解体をねらっている。中曽根「行革」は、国鉄分割・民営化を通して総評運動の解体を押し進め、小泉改革は郵政民営化によって旧全逓の息の根を止めた。そして橋下はその攻撃を自治体労働組合や教職員労働組合に貫徹しようとしている。昨年大阪ダブル選に勝利した橋下と大阪維新の会は、「府市統合本部」を設置し「教育基本二条例」「職員基本条例」を強行可決した。「正職員の権利擁護をしても、非正規職員の待遇を軽視し」「当局との一定のもたれ合いの中で選挙などの政治活動を展開してきた」労働組合の弱さを突いた攻撃は、労働者の権利のはく奪にとどまらず、労働組合の基盤を奪うものだ。労働組合の解体こそその目的である。
第五に、彼らは一連の新自由主義的政策を押し進めるにあたって自公政権への不信、政権交代によって成立した民主党政権の裏切りに対する怒りを右翼勢力と手を結びながら追求している。これは最終目的が右からの憲法改正であることをあますところなく物語っている。
新しい質の大衆的運動を
大阪だけではなく多くの人々は「日本維新の会」こそ既成政党を「超える」新しい政治勢力であり、総選挙の台風の目であると「期待」した。それは多くの点でメディアが作り出した虚像ではあったが、新党結成のパーティ直後から支持の低下が始まった。読売や産経新聞は手のひらを返したように突然九月下旬に「維新一〇%支持率低下」と報じ、自民党の総裁選、民主党の代表選に政治の焦点を移行させた。さらにそれに拍車をかけるように各マスメディアは投稿欄などで「『維新八策』や橋下徹大阪市長の発言については、耳に心地よいものの、時期の設定や数値目標があまり見られず疑問を感ずる」(「朝日新聞」)という言葉が踊り始めた。
さらに大阪府市統合本部のエネルギー戦略会議に対して松井府知事が「経済界と対立するエネルギー戦略は困る」と圧力をかけることによって統合本部の空中分解が報じられ、日本維新の会の国政政党化のための国会議員の結集も、実は「選挙互助会」「救命ボート」的なものであることが白日となった。さらに「領土」問題をめぐる発言で国会議員と自治体議員の対立が浮上し、極めつけは東京事務所の開設資金が右翼的な「宗教団体」からの寄付金であることが暴露された。そして日経新聞に続きNHKまで一〇月に入ると「一六%から四%」に支持率を訂正した。ここに至ってさすがの橋下も「だんだん虚像が実像に近づきつつある。党運営は決して楽ではない」苦笑するしかなかった。
だが日本維新の会を押し上げているのが「民主主義と議会主義」の機能麻痺に対する怒りであり、閉塞感、不信である限り、メディアの操作による一時の後退はあっても決してなくなりはしない。逆に「決められない政治」や復興予算に見られる腐敗が続く限り、再び支持率を上げる可能性さえある。そしてなによりも肝に命じるべきは、衆議院選挙後「憲法改正」のキャスティングボートを握っているということである。
闘う側に求められているのは、この改憲勢力と対抗する大衆運動を構築し、新たな民主主義のオルタナティブをどのように作り出していくかである。今日「反原発運動」の広がりは、この保守勢力と対抗する広がりを実現し始めている。こうした新しい質と広がりを持った運動と闘いを、全戦線、全国各地で実現していくことが必要なのである。
(松原雄二)
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