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    かけはし2012.年3月26日号

長期賃金不払いに対抗し
総合病院を労働者管理に


ギリシャ

広がり深まる社会的対立

 
  メディアで伝えられているギリシャ情勢は、債務問題をめぐる欧州支配層内部のドタバタか、民衆のデモに限られている。しかし現地での社会的対立と闘争はもっと深いところまで進んでいる。それを示すものとして、生産に対する労働者管理を伝える二つの報告を紹介する。(「かけはし」編集部)

労働者総会の下
にすべてを決定

 ギリシャのキルキスの総合病院は今労働者管理下にある。病院の労働者は、国民保健システム(ESY)が抱える長年の諸問題が解決される可能性はない、と明らかにしてきた。
 労働者は、政権のファシズム加速に対して、病院を占拠し、労働者による直接かつ完全な管理の下でそれを追い出すことで対応した。すべての決定は「労働者総会」によって行われる。
 病院はこれまで以下のように述べてきた。すなわち、「政府は財政責任から免れるわけにはいかない。彼らの要求が満たされないのであれば、彼らは、無料の公的医療を守る病院を救うために、さらに政府とあらゆる新自由主義政策を打ち倒すために、あらゆる可能な方法での支援を求めて当地とより幅広い共同体に向きを転じるだろう」と。
 病院労働者は二月六日から、彼らの賃金並びに支払い義務のある諸手当が支払われるまで、緊急医療以外の処置は行わないだろう。彼らはまた、緊縮政策実施以前の賃金水準への復帰も要求している。
 次回総会は二月一三日に予定され、それに関連する記者会見が一五日に行われる予定だ。

労働者の声明

全体主義には民主主
義をもって回答する

1.ESYと関係諸組織が抱える現在と長年の諸問題は、特定の個々バラバラの要求、あるいはわれわれの利害に向けられた要求を基にして解決されることなど不可能だ。なぜならばそれらは、反民衆的政府のもっと全般的な政策並びにむこうみずな世界的新自由主義の産物だからだ。
2.同様にわれわれは、その種の要求を押し進めるよう主張することで、われわれが無慈悲な当局との勝負に本質的な点で参加していることをも認識している。弱体化し分裂しているその当局は、その敵――つまり民衆――に立ち向かうために一つのことを願っている。それは、当局の政策がもたらしている社会的貧困化に反対する要求および共通の利害を基にした、国民的かつ世界的レベルでの普遍的な労働者と民衆の戦線創出、を妨げることだ。
3.この理由からわれわれはわれわれの特定の利害を、今日資本の最も暴力的な攻撃の下にいるギリシャ民衆の圧倒的な部分が提起している政治的かつ経済的な諸要求の枠組み内部に置く。提起されている諸要求は、それが豊かな成果を見るためには、最後までわれわれの社会の中・下層一体となった協力の中で押し進められるべきものだ。
4.これを達成する唯一の道は、行動の中で、加速されたペースで全体主義へと進んでいる専横な権威主義的かつ反民衆的な権力と階層組織の政治的正統性を、またそれだけではなくその合法性を疑問に付すことだ。
5.キルキス総合病院の労働者は、この全体主義に対して民主主義をもって回答する。われわれは公共病院を占拠し、それを直接かつ絶対的な管理の下に置く。キルキス総合病院はこれ以後、自主管理される。管理の決定を行う唯一の正統な手段は、その労働者の総会となるだろう。
6.政府は、病院に資材を供給しその要員を確保する経済的義務から解放されない。しかし彼らがこれらの義務を無視し続けるのであれば、われわれはやむなく、そのことを公衆に知らせ、当地の自治体権力に、しかしもっとも重要なことだが社会に、可能なあらゆる方法でわれわれを支えるよう訴えなければならない。それは、a)われわれの病院生き残り、b)公的かつ無料の医療の権利に対する全般的な支持、c)共通の民衆的闘争を通した、現政権の打倒、並びにそれがどこから来るものであれ、他のあらゆる新自由主義政策の取止め、d)深く実質的な民主化、つまり、第三党ではなく、それ自身の未来のために決定を行う責任を負う社会をもつ民主化、のためだ。
7.キルキス総合病院の労働組合は二月六日から、働いた時間に対する完全な支払いまで、またトロイカ(EU、ECB、IMF)がやってくる前にあった水準へのわれわれの所得引き上げまで、緊急医療への対応を除いてわれわれの仕事の留保を開始する。一方、われわれの社会的使命と道義的義務が何であるかを十分にわきまえつつ、われわれは、病院にやってくる市民に無料の医療を提供し実際にかれらの願いを聞き届けつつ、一方で政府にその責任を最終的に受け容れるよう要求し最後の瞬間までその法外な無慈悲さに打ち勝ちつつ、市民の健康を守るつもりだ。
8.われわれは、新しい総会を二月一三日一一時から、病院の新しい建物にある集会ホールで開くことを決定した。その目的は、管理業務の占拠を効率的に実行し、その日から始まる病院の自主管理を成功裏に実現するために必要な諸手続を決定することだ。総会は毎日開かれるだろう。そしてそれが、従業員と病院運営に関する決定を行う最高の機関となるだろう。

 われわれは、あらゆる分野の人々と労働者の連帯、すべての労働組合と進歩的諸組織の協力、またそれだけではなく真実を伝えることを選択したすべてのメディア組織からの支援、それらを求める。われわれは、われわれの国と人民を売り飛ばした裏切り者たちが去るまで闘いを続ける決意だ。去るのは彼らかわれわれか、どちらかなのだ。
 上述した決定は記者会見を通して公表されるだろう。一五日午後一二時三〇分に開かれるその場には、すべてのマスメディア(地方と全国の)が招待される。われわれの毎日の総会は一三日に始まる。われわれはニュース発表や会見という手段を使って、わが病院で起きる重要事項はすべて市民に伝えるつもりだ。さらにわれわれは、この決起を成功に導くために、これらの出来事を周知させる上で利用可能なあらゆる手段を使うだろう。
 われわれは次のことを訴える。
a)わが同胞の市民たちに、われわれの努力に対する連帯を示すことを。
b)紛争と反対の中で不公正に扱われているわが国のすべての市民たちに、抑圧者に対決し行動を対置することを。
c)他の病院の仲間の労働者たちに、同様の決定を行うことを。
d)公的部門と私有部門の他の分野の被雇用者たち、並びに進歩的諸組織や労働者組織への参加者たちに、同じように行動することを。
 その目的は、今日われわれの国と全世界を抑圧している経済的な、また政治的なエリートに反対するわれわれの最終的勝利まで、われわれの決起が普遍的な労働者と民衆の抵抗と蜂起の形態を取ることを助けることにある。
(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年二月号)

ギリシャ

有力紙のストライキ新段階へ

労働者は彼ら自身の新聞
をたずさえて戻ってきた

モイッシス・リトシス

 

やった! それはここにある! ギリシャ日刊紙の中で最大ののもの一つであり、最も権威のあるEleftherotypiaの労働者が、彼ら自身の新聞、「Eleftherotypiaの労働者」紙を編集する偉大な努力を引き受ける道を進んでいる!

自主発行で労働
債権逃れに対抗


 二月一五日水曜日から、国中すべてのキオスクは、通常の新聞の隣に、それ自身の労働者によって書かれたもう一つの新聞を並べ始めている。この新聞は、Eleftherotypia労働者の闘いを前面に出すことを目的とするだけではなく、特にギリシャの今のような危機の時に当たって、真実の情報を提供する新聞であることをも追求している。
 Eleftherotypia紙を編集しているH.K.Tegopoulos社の八〇〇人の男と女の労働者は、ジャーナリストから技術スタッフまで、また清掃作業員から事務員や管理職まで、二〇一一年一二月二二日から無期限ストライキに入っていた。彼らの雇用主が二〇一一年八月、彼らの俸給の支払いを止めたからだ。
 しかし彼らの雇用主は、彼らの債権者から自身を守ることを目的に、破産法九九条の適用を求めた。ところがこの場合の債権者とは事実上、未払い賃金として総額およそ七〇〇万ユーロを負っている彼らが雇用している労働者なのだ! これを見てEleftherotypiaの労働者は、同時にさまざまな動員を続け法的処置も取りながら、自身の新聞の発行を決定した。新しい新聞は新しい取り次ぎ機関によって、ストライキ基金に財政支援を供給する目的の下、紙代一ユーロで(他の新聞の通常一・三ユーロに対して)国中に配布された。
 Eleftherotypiaの女と男の労働者たちはここ七カ月賃金の支払いがなかったため、支援金や現物(食料、毛布その他)を寄付する個人やさまざまな団体からの連帯運動によって援助を受けている。彼ら自身の新聞の発行によって、またその売り上げを通じた資金回収のおかげで彼らは、何らかの仲裁がなくとも、彼らのストライキを財政的に支えることができるだろう。すなわち彼らは、ある種の自主管理に向け歩みを進めつつある。
 この新聞は、非公然新聞の発行をしのばせる雰囲気の下に、友好的な作業場で制作されている。それというのも経営者が、ジャーナリストがためらうことなく彼らの新聞発行という企図に突き進むことに気づくや否や、まず暖房を切り、次いで副主筆が記事を書くために使っていたシステムを切り、そして最後に職場それ自身を閉鎖したからだ。とはいえ、新聞事務所への出入りはさしあたり自由のままにされている。新しい新聞は、印刷労働者諸労組の支援の下、会社に属していない印刷作業として印刷されている。その理由は、印刷作業スタッフが自身の職場の占拠にためらいを感じたからだ。経営者は、新聞の自主管理発行にはらまれたあり得る衝撃を恐れ、法的処置を取ると脅した。つまり彼らは、ストライキ労働者総会が民主的に選出した編集委員会を解雇するとの脅迫を使おうとしている。

メディアの独裁
打ち破る道へ

 しかしながらギリシャの世論は、単にEleftherotypiaの読者に留まらず、その発行を熱心に待ち望んできていた――われわれは、自身の力で新聞発行にこぎ着けたことでジャーナリストを励ますメッセージに圧倒されている――。それは市場の独裁が、ギリシャの真実を読み理解することを困難にしているメディアの独裁と、組になっているからだ。独立したメディアは、二〇一〇年にほとんどのメディアが維持した総意にはふさわしくなかったのだ。そしてその総意は、最初のメモランダムに署名したパパンドレウ政権に代わるものなど一つもない、とする議論が基礎になっていた。彼らのあからさまな破綻は今やすべての人々に知られることとなっている。われわれは、全欧州にとっての惨事であることが証明された政策をひっくり返すために、ギリシャの民衆がはるか前に立ち上がることを見ていたかもしれないのだ。
 Eleftherotypiaの事例はただ一つのものではない。何十という私企業が彼らの従業員に対する支払いを長期にわたって止めている。そして彼らの株主は事実上、事態の好転を待っているその従業員たちを見放している……。新聞においては、状況はもっと悪くすらある。危機を理由に、雇用主が彼らの自腹で支払うことを拒絶し、九九条に訴えることを選択する――株式市場に上場されている最低一〇〇の企業がすでにそうした――一方で、銀行は会社への貸し付けを停止した。ギリシャのあり得る破産、並びにユーロ圏からのあり得る離脱を考慮して、時間を稼ごうとしているのだ。
 Eleftherotypiaは、一九七四年の独裁体制崩壊に続いた急進化の時代に、一九七五年、「その副主筆の新聞」として生まれ出た。今日、「国際債権者団の独裁」を特徴とする時代に、女と男のEleftherotypia労働者は、労働者が情報の運命を手中にするのをまったく見たくないと思っている新聞主たちと経営者たちからの「テロ」に抵抗しつつ、情報の全面的に異なった道の輝かしい事例となる、という野望を抱いている。

▼筆者は、経済分野の編集者であり、「Eleftherotypiaの労働者」編集委員会メンバー。また、ギリシャ新聞労働者組合(ESIEA)執行委員会の予備メンバー。(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年二月号)

 


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