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                                  かけはし2002.12.2号より

小泉政権の「総合デフレ対策」-経済的破局の深みへさらに一歩

大不況を激化させる竹中=小泉の論理-2-

十一月八日、金融庁は不良債権に関する銀行の自己査定と金融庁による調査との「格差」を初めて公表した。それによれば、金融庁が必要だと判断する貸し倒れ引当金総額と自己査定による必要額との「格差」は二三・七%とかなり大きい。マスコミは、銀行による自己査定の「甘さ」を一斉に指摘した。そして竹中の「金融再生プラン」では、この「格差」が是正されない場合、「業務改善命令」が出されることになっている。
すでに銀行の自己資本は、度重なる不良債権処理で大きく減少し続けている。四大メガバンクのうち公的資金を返済した東京三菱を除く、三井住友、みずほ、UFJの三グループは、中核的自己資本をはるかに超える公的資金と繰り延べ税金資産(前号参照)で、かろうじて資産に対する自己資本比率を維持している。そして東京三菱も、自己資本の三〇%が繰り延べ税金資産という幻である。
 したがって、不良債権査定を厳格化して巨額の引当金を積ませ、繰り延べ税金資産の査定を厳格化すれば、たちまち自己資本不足に陥って公的資金の注入を受けざるを得なくなる。現在でも、優先株となっている公的資金を普通株に転換すれば、政府が各行平均三二・八%の議決権を持つ大株主になり、銀行は国有化されてしまうのである。
不良債権処理の「加速化」によって、すべての大銀行の自己資本比率が国際基準の八%を割って公的資金を注入され、国有化される可能性がある。これを回避するため各行は、分母である資産=貸し出しの圧縮、すなわち「貸しはがし」を加速している。今年度の資産圧縮計画は、四大メガバンクだけで三十兆円に達するが、圧縮幅のより一層の上積みも検討されている。
竹中平蔵は、郵政民営化をはじめ、社会保障も含むあらゆる公共的社会サービスを民営化しようとする「市場原理主義者」だったはずである。なぜこの「市場原理主義者」が、銀行を国有化してまで「不良債権処理」を強行し、倒産ラッシュを作り出そうとしているのだろうか。
それは竹中=小泉が、「銀行が不良債権を一気に処理すれば、資金の流れが円滑になり、景気も良くなるはずだ」という幻想から出発しているということである。
 不良債権処理とは、破綻懸念先や要管理先とされた企業への貸し出し債権の回収をあきらめ、銀行のバランスシート(帳簿)から消してしまうことである。したがって不良債権処理は銀行の損失を拡大し、自己資本を減少させる。自己資本が減少すれば、銀行は減った自己資本の何倍もの貸し出し=資産を減らさなければならない。そして自己資本比率が八%を割り込めば、国際業務から撤退しなければならないのである。
たとえば、資産一兆円で自己資本八百億円、自己資本比率八%の銀行が百億円の不良債権を処理すると、その百億円は損失となり、資産は九千九百億円に減少、自己資本も七百億円に減少することになる。
 七百億円に減った自己資本が八%にあたる資産は、八千七百五十億円である。百億円の不良債権を処理しただけで、自己資本比率八%を維持するためには千百五十億円もの貸し出しを減らさなければならなくなるのである。だからこそ、四大メガバンクだけで今年度に三十兆円もの資産圧縮を行う計画なのである。このすさまじい貸しはがしが、戦後最悪の倒産ラッシュを作り出している。
小泉政権が昨年六月に打ち出した経済財政諮問会議の「骨太方針」は言う。
 「停滞する産業・商品に代わり新しい成長産業・商品が不断に登場する経済のダイナミズムを『創造的破壊』と呼ぶ。これが経済成長の源泉である。創造的破壊を通して労働や資本など経済資源は成長分野に流れていく。こうした資源の移動は市場を通して行われる。市場の障害物や成長を抑制するものを取り除くことが経済の『構造改革』にほかならない」。
そして「不良債権を生んだ産業の多くが非効率であり低収益の構造にある」とし、「不良債権の最終処理を行うことにより資源が成長分野に流れていくことが期待される」と主張している。
 すなわち竹中=小泉にとって、巨額の債務を抱えて身動きが取れなくなっているように見える大企業や、不況下で赤字を抱えて苦闘する中小企業は経済成長を抑制する「障害物」なのであり、一刻も早く「取り除く」、すなわち倒産させるべきものなのである。だからこそ小泉は、大型倒産を「構造改革が進んだ証拠」として歓迎したのであった。
 不良債権処理の「加速」によって、「破壊」すなわち倒産ラッシュを作り出しても「労働や資本などの経済資源が流れていく成長分野」が自然に「創造」されるはずがない。したがって景気が良くなるどころか、不況はますます泥沼に入り込んでいる。竹中=小泉はアメリカのITバブルに幻惑され、IT関連産業を「成長分野」と信じて「IT革命」を叫んだ。しかし世界的ITバブルは崩壊し、深刻なIT不況と世界的株安が進行している。
 アメリカでは光ファイバー網の建設競争で総延長が地球千六百周分になり、通信速度も速まって通信容量はこの四年間で五百倍に増えた。しかし需要は四倍にしかならず、稼働率はわずか五%という状況に陥っている。この中で、ワールドコムの巨額粉飾決算が発覚し、史上最大の倒産劇が引き起こされた。
 ヨーロッパではブロードバンド新幹線網の建設競争で、実需の百倍の設備が建設されてしまった。欧州全土の株式ブームを引き起こしたドイツテレコムやフランステレコムの株価は、最高値から九〇%以上も崩落した。IT革命のかけ声に乗って設備増強に走った日本の電機産業も、深刻なIT不況の中にあり、リストラにつぐリストラを続けている。竹中や小泉が「成長分野」として期待したIT関連産業もまた、世界的過剰生産恐慌に陥っているのである。
アメリカの情報通信産業の借入金総額は、日本の不良債権問題の中心である不動産・建設・ノンバンクが借り入れた金額を上回る(「テレコムバブル崩壊―百五十兆円過大投資の宴のあと」『エコノミスト』02年8月20日号)。米連邦準備制度理事会(FRB)と財務省と通貨監督庁の年次合同金融調査では、情報通信産業の問題債権比率は三二・九%に上っている。竹中流「創造的破壊」路線で行けば、アメリカはIT関連産業をもっと「破壊」して新しい「成長分野」の登場に期待すべきだということになる。
政策的袋小路はますます深刻になっている。小泉は「竹中恐慌」に脅える与党三党多数派に押しきられ、否定し続けてきた景気対策としての補正予算編成に踏み切った。「公約」として掲げてきた「国債発行三十兆円枠」も放棄した。もっとも、小泉=竹中が「加速」した不況による二兆円を超える税収減のため、国債を増発しなければ予算に穴が開いてしまう状況に追い込まれていたのである。
九月二十日、財務省が行った「十年物国債」の入札で、史上初めて応募額が入札枠に満たない「未達」が発生した。G7で群を抜いて最悪となった財政危機の中で、日本国債の各付けは日本自身大量のODAを供与しているアフリカの途上国ボツワナ以下に引き下げられるという事態になっている。
 金融構造の変化と不況のため、銀行にはデリバティブなどの金融投機や国債しか投資先がなく、国債を買い続けるしかなくなって国債価格が上昇し(金利は低下)、「国債バブル」「高所恐怖症」と言われる状態が続いて来た。史上初の「未達」で売り注文が殺到して債券価格が値崩れし、金利も前日より〇・一二%高い一・三%に急騰した。今後の国債大増発で「未達」が続発し、国債価格が暴落して長期金利が暴騰する可能性はだれも否定できない。
七八年に利率六・一%で発行した十年物国債が、公定歩合が二年間に六回も引き上げられて九%に急上昇したため価格が四〇%近く暴落したことがある(ロクイチ国債暴落)。いまや四百十三兆円にふくれ上がった国債発行残高のうち、銀行や生損保などの金融機関が三九・七%、政府が三七%、日銀が一五・一%保有している。国債バブルが崩壊し、ロクイチ国債暴落のような事態が発生したら、数百兆円もの処理不能の国債含み損が発生し、金融危機の爆発を超えて日本経済の全面的破綻が引き起こされるだろう。
国債発行残高を無限に増やし続けることはできない。史上初の「未達」の発生は、国債バブルの崩壊が迫っていることをはっきりと予告した。
 十一月十九日、政府税調が〇三年度税制改正答申を決定し、小泉首相に手渡した。所得税の課税最低限引き上げ、配偶者特別控除の廃止、高校生や大学生のいる世帯に配慮した特定扶養控除の廃止などの大規模な増税、大多数が中小零細企業である赤字法人に課税する外形標準課税の導入など、明確な大衆増税路線が打ち出されている。その一方で、一握りの大金持ちだけが恩恵を受ける相続税最高税率の引き下げや、IT投資減税、研究開発減税、登録免許税・不動産取得税・配当課税の軽減など、財界の要求通りの減税メニューが並んでいる。
過剰債務、過剰設備の圧力のなかで、この企業減税・金持ち減税は債務の返済に回るだけで景気回復に結びつく可能性はない。また、二つの控除廃止だけで一兆円を超えるという大衆増税路線は消費を一層冷え込ませ、外形標準課税は中小零細企業に新たな大打撃となって倒産ラッシュと失業の大波をさらに「加速」することにならざるを得ない。
どこにも「創造」はなく、ただ「破壊」だけが加速している。「改革なくして成長なし。改革路線に一切変更はない」という小泉の空叫びだけが、ますますむなしく、力なく響いている。(つづく)(11月25日高島義一)

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