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不良債権処理加速と「竹中恐慌」 -1-        かけはし2002.11.25号より

小泉政権の「総合デフレ対策」--経済的破局の深みへさらに一歩


小泉政権は十月三十日、不良債権処理加速策や、雇用・中小企業対策などのセーフティーネット整備を柱としたとする総合デフレ対策「改革加速のための総合対応策」を決定した。「デフレ対策」といいながら、その一番目にデフレスパイラルを激化させる不良債権処理の加速を掲げていることに端的に示されるように、まさに支離滅裂である。それは、今日の資本主義が陥った危機の深さと資本家政府の政策的袋小路を象徴している。労働者人民に求められているのは、資本主義再生の道を探ることではなく、「もう一つの世界」をめざす闘いの道である。
 「総合デフレ対策」は、@不良債権処理の加速A産業・企業再生への早期対応Bセーフティーネットの拡充――の三本柱ということになっている。
最大の柱とされる@では、〇四年度内に主要行の不良債権比率を現在の「半分程度に低下」させる方針を明記した。具体的な加速策として、融資先企業が将来生み出す価値を予測して現時点の価値を算定する「ディスカウント・キャッシュ・フロー」(DCF)方式を導入するなど、資産査定を厳格化する方針を打ち出している。
不良債権は、「破綻先・実質破綻先」「破綻懸念先」「要管理先」「要注意先」に区分されている。経営状態と、返済や金利の支払いの状態、担保の状況などで判断される。これらの不良債権には、処理する事態になった時に備えて「貸し倒れ引当金」を積むことを求められる。
グレーゾーンの要注意先は貸し出し債権の五%、金利減免などの措置が必要になった要管理先には一五%、破綻懸念先には七〇%、破綻先・破綻懸念先には一〇〇%の引当金を積むことが要求される。
金融機関はこの引当金を、本業のもうけと自己資本でまかなわなければならない。たとえばある企業が二期連続で赤字を出せば、要注意先となる。全企業の約七割が赤字である。DCF方式などで資産査定を厳格化すれば、何十兆円もの引当金を新たに積まなければならず、BIS(国際決済銀行)の基準である自己資本比率八%を割り込むどころか、債務超過に陥って銀行は破綻する。
自己資本比率を引き上げるためには、まず第一に資産=貸し出しを圧縮しなければならない。小泉政権の不良債権「早期最終処理」方針のもとで銀行はこの間、猛烈な資産圧縮、すなわち貸し出しの圧縮を行ってきた。大手十二行だけで昨年一年間に三十兆円もの貸し出し圧縮を行った。今年は二十兆円を圧縮する計画を進めてきたが、これが「総合デフレ対策」でさらに加速される。
九六年に五百三十七兆円あった銀行の貸し出しは、今年六月には四百二十三兆円へと百十四兆円も圧縮されている。このすさまじい「貸しはがし」は、言うまでもなく企業の資金繰りの悪化による倒産と失業の激増をもたらしている。
地価の低下による担保不足によって、業務では黒字を出し株価も高い一部上場企業が突然、決裁資金の融資を断られて倒産するなどというケースも、すでに出始めている。資産査定が厳格化されることで、低金利のなかで貸し出しから得られる収益よりも引当金の負担の方が大きくなることも多い。そうなれば、貸し出し金利を大幅に引き上げるか債権を一気に回収するしかなくなってしまうのである。また「破綻懸念先」に分類されれば新たな融資を受けることができなくなり、結果として倒産を運命づけられることになる。

したがって倒産と失業は激増し、不況はさらに深刻化する。今年八月の企業倒産による負債総額は一兆五百九十二億円で前年同月比四四%増。八月としては戦後二番目のワースト記録となった。九月の完全失業率は過去最悪水準の五・四%。完全失業者数は三百六十五万人。就業者数は一年前より四十三万人減少した。
小泉政権の「不良債権早期最終処理」方針のもとで、すでに倒産と失業が激増して景気悪化が加速し、そのために企業の業績がさらに悪化し、不良債権が増加するという「不良債権処理スパイラル」が進行している。銀行は昨年一年間に十兆円の「不良債権処理」を行ったが、新たに二十兆円の不良債権が発生し、不良債権総額は三十二兆円から四十二兆円に十兆円も増加してしまった。この大不況をさらに「加速」するというのが、小泉=竹中の「総合デフレ対策」なのである。
 銀行が抱える「問題債権」のうち、再生可能な企業の分は新設される「産業再生機構」が引き取り、それが難しいものは整理回収機構(RCC)に引き取らせると言う。塩川財務相は「企業の生き死にを判断する閻魔大王が必要やな」と述べたと報じられている。
竹中平蔵の「金融分野緊急対策プロジェクトチーム」メンバーとなった元日銀官僚で金融コンサルタントの木村剛が掲げる「三十社リスト」や、新たに取りざたされる「五十一社リスト」に入っている大企業が、次々に倒産に追いやられる。投資家がそう判断したからこそ、株式市場ではパニック売りが発生し株価が暴落したのである。
 金融庁が押しつけた「不良債権査定の厳格化」によって突然、多額の貸し倒れ引当金の積み増しを要求されて「債務超過」に追い込まれ、すでにこの一年余りで五十六の信用金庫、信用組合などの地域の金融機関が破綻させられ、地域の不況が加速されてきた。同様の機械的査定が強行されれば、巨額の債務を抱えた大企業の倒産ラッシュが発生し、それが銀行に波及してすさまじい金融危機と「竹中恐慌」に至るだろう。
 今回の「総合デフレ対策」で銀行と竹中プロジェクトチーム最大の争点になった「繰り延べ税金資産」(注)を十分の一に圧縮する方針は先送りとなったが、これを含む竹中プランがそのまま実施された場合どうなるかということを日本総合研究所が試算した。それによれば新たな離職者は三百三十二万人、完全失業率は四・九%増加して一〇・三%に達する。GDPも六・四%押し下げられる。
今回の決定を実行するだけでも、二年間で百六十五万人の離職者が発生し、完全失業率は七%を超えるという試算が行われている。運よく塩川の言う「閻魔大王」に「再生可能」と認定されたとしても、その「企業再生」の最大の手段は大規模なリストラである。いずれにせよ、空前の大失業の嵐が吹き荒れることになる。
強引な不良債権処理を押し進めれば、銀行は自己資本不足になって破綻に追い込まれ、金融破綻が引き起こされる。それを防ぐために巨額の公的資金を投入することになっている。投入が必要になる公的資金の額は二十兆円、三十兆円、それ以上とも言われている。また、産業再生機構が不良債権を買い取るための資金も公的資金であり、「再生」に失敗すれば国民負担としてつけが回されてくる。
このように、巨額の税金を投入してでも倒産ラッシュを作り出し、大恐慌を引き起こそうというのが、小泉=竹中の「総合デフレ対策」なのである。(つづく)
(11月18日 高島義一)

注 繰り延べ税金資産 銀行が計上している貸し倒れ引当金は、「破綻懸念先」などが実際に破綻しなければ損金として認められない。破綻した時点で、利益の中から支払った払い過ぎた分が戻ってくる。この将来戻ってくる税金分を自己資本に計上するのが、繰り延べ税金資産である。これが、全銀行の自己資本のうち約四〇%に達している。貸し倒れ引当金を積めば積むほど自己資本が増える構造になっている。竹中の当初案では、資本金や剰余金などのいわゆる「中核的自己資本」の一〇%までしか計上を認めないというものだった。そうなれば、ほとんどの大手銀行の自己資本が八%割れとなり、国際業務からの撤退を余儀なくされ、実質的に破綻の危機に直面する。自己資本比率を引き上げるためには貸し出しの大幅な圧縮と巨額の公的資金の注入が必要になる。


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