かけはし重要記事

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                         かけはし2002.11.18号より

「韓国教会による弾圧をやめさせて」

カトリック系病院保健労組がバチカン教皇庁へ直接交渉に

 「みんなが余りにも多く歩いたせいか疲労ぎみで眠りたがっている。これが闘争でなく旅行だったら、どんなに楽しかっただろうか。見知らぬ文明、国を見物する面白さもあったけれども、一方では気持ちが重い」。
 バチカンと直接、カトリック系病院のスト問題を交渉するために遠征団の一員として参加したソウル江南病院ハン・ユンギョン労組員の日記の1章だ。未知に対する好奇心を抑えられないながらも、一方では重い負担感を抱いたまま旅程に上った保健労組のスト労働者たち。
 10月21日夜、パリに到着した遠征団は翌日、パリの保健医療労組とフランス労総(CFDT)の指導者たちに韓国で起きた保健労組のストを説明し、フランス労総の連帯と支援との約束をとりつけた。この場に参加したフランスの労組指導者たちは、あらかじめブリーフィング資料を手渡されていたけれども、すべての説明に注意を傾けた。彼らの話によれば、ただの1度もカトリック教会と労働者の対決が繰り広げられた歴史はないと言う。労組指導者たちは9月11日に行われたカトリック中央医療院に対する警察力投入を撮影したビデオを見て、ほとんど言葉を失ったかのようだ。
 韓国で起きた保健労組の事態に関心を持ったフランス保健労組の事務総長セバスチャン・パシュイの反応は予想外だった。彼は「私が到底理解できないのは、韓国カトリック側の一方的な対話拒否や聖堂内への警察投入」だと語るとともに「フランスでは歴史的に一回もこのような事例を探し求めることはできないし、またありえないこと」だと強調した。その日、止むことを忘れたかのようなパリの雨脚は遠征団員らを一層、憂鬱にさせた。
 10月23日午後、遠征団はローマに到着するやいなや、イタリア労総(CGIL)との懇談会を始めた。もちろん予想した通り、イタリアの労組指導者たちの反応もフランスでのそれと同じだった。韓国の保健労組の事態を理解しがたい様子だった。
 彼らもこのような事例をイタリアでは一度も見出すことはできないと語った。警察を通じて労働問題を解決した例はほとんがなかったため、9月11日の公権力投入に強い問題意識を感じていた。イタリアの労組指導者たちは、韓国のカトリック教会が労働者たちを尊重してないという事実を共通して認識しているようだった。
 10月24日、バチカン側との会合の約束は遠征団に大いなる期待感を呼び起こした。遠征団とバチカン正義平和委員会(正平委)の実務者との会合は、これまで韓国カトリック側の対話拒否によってキチンと交渉さえできなかった保健労働者には大きな意味があった。同日、バチカン正平委は韓国保健労組の状況を注意深く聞いた。彼らが、今後、続けられる論議の過程でいかなる措置をとるのか注目される。
 保健医療労組は、5月23日からストが始められたが、その間、ただの1度も交渉が正常に進められたことはなかったと主張する。カトリック各病院の実質的責任者である神父や修道女たちが1度も対話の意志を示したことはなく、対話をもたらしたこともないというのだ。
 また9月11日に起きた警察力投入は、今日まで7人の拘束者を生み、その後も2人がさらに拘束されるという状況で、9人の労組員が拘束されたままだ。その後、28人の組合員たちが命を賭けたハンスト闘争を行い、チャ・スリョン保健労組委員長をはじめ数人は命が危機に瀕する状況にまで至った。600人の労組員らは明洞聖堂で昼夜を分かたずカトリック側に解決を促す籠城をしている。だが最近では明洞聖堂に警察力が投入される徴候さえ見られる危機状況へと迫っている。現在、木浦カトリック病院はスト150日を超えており、聖架病院は労使合意がなされたにもかかわらず、労組幹部4人を解雇したことにより、紛争が再発した。
 ローマ遠征団は、もうこれ以上、やるべき手はないという切迫感に立たされた。長期間のハンスト闘争をはじめ、これまでやるだけのことはすべてやってみたけれども、カトリック側からは何の反応もなかった。むしろ「職権仲裁」という悪法を利用して、対話よりは物理的にさらに強く弾圧するだろう、との予想も出てきた。また労働界では現在のような状況がさらに延長されたからと言って、カトリック界が反応するだろうとの期待はないとの判断だ。
 したがって最後の手段として労働者たちが直接カトリックの総本山であるバチカンに訴え、韓国のカトリック教界を圧迫すれば今度の保健労組の事態が解決されるだろうとの考えを抱かせたのだ。一方、遠征隊は今回の闘争が「保健労働者たちの反カトリック闘争」という形に映りかねないということに深刻な憂慮を表明している。
 現在、保健労働者たちは長期ストによって心身ともに完全に疲れ切っている状態だ。彼らが望んでいるのはカトリック界が対話のテーブルに現われることだ。つまり、これが問題解決の始まり、というわけだ。「平凡な生活に立ち戻ることが夢」だという、ある看護士の言葉から、現在進行中の労使紛争がどれほど残酷な状況にあるのかを理解できる。
 だが労働者の希望とは違って、明洞聖堂が公権力の投入を要請するだろうとのウワサが出回り、遠征団員らはピリピリと緊張している。「人権や平和運動の先頭で韓国の民主化に大いに貢献をしてきたカトリック教会が、こと労働問題に限っては中世封建時代に回帰している」として、労働者たちはカトリックのあるべき姿を訴えている。そしてヨーロッパの場合のように韓国のカトリック傘下の各企業も所有と経営が分離されれば「教会と労働者の対立の構図」や「労働者を弾圧する神父たち」という言葉は出てこないだろうとの声も聞かれる。(「ハンギョレ21」第432号、02年11月7日付、バチカン市ニハ・ヨンシク「ハンギョレ新聞」専門委員)。



イタリア保健労組代表カルルロ・フォダに聞く

何でこんなことがありうるのか

 民主労総遠征団はイタリア労働総同盟(CGIL)事務所で開かれたイタリアの代表的な3つの労組連合の代表たちと懇談会を開いた。この場でイタリアの労働運動指導者たちは9月11日に起こった江南聖母病院への公権力投入の現場をビデオで見たりした。数多くの説明よりも、わずか数分の映像がイタリア労働運動の指導者たちの嘆息を呼び起こした。

――公権力投入のビデオを見て感じたことは。

 本当に驚いた。それも聖堂の中で……。98%がカトリック信者であるイタリアの人々には到底、信じられないことだ。質問が1つある。「そもそも韓国国民は、この問題をどう考えているのか」。イタリアでは国民と保健医療労組の関係は相互批判的だが、彼らは保健労働者たちの権利をよく承知して防御してくれる。3月にあったストでは約10万人の保健労働者たちが結集したが、このとき多くの市民らも労働者たちのスト集会を取り巻き絶えざる拍手によって激励してくれた。保健労働者たちが国民に労働者の権利を知らせることが、すべての国民の権利を守ることでもある。

――個人的に事態がどう解決するのを望んでいるか。

 イタリアは労働者らを認める。わが労連に加入した組合のうち、カトリックが運営している病院が1つある。この労組は現在、使用者側であるカトリック財団からキチンと認定されていると思う。カトリックはイタリア国民を尊重する。だが韓国のカトリック教会については、とても驚いた。このようなことが発生するとは、全く想像すらできない。あまりにも胸が痛む。ともあれ支援を訴えるためにやってきた韓国の労働者たちとの連帯を望み、危機の状況に終止符が打たれることを願うばかりだ。

木浦カトリック病院労組員ヤン・ジョンウンに聞く

労組への弾圧、そして病院廃業


――これまで労組活動によって弾圧を受けたことはあるのか。

 病院に入社してから10年だ。労組には最初に作られたときから加入し、活動してきた。作られたときには組合員か200人だったが、いまは160人に減った。その理由は、中間管理者たちを通じた労組弾圧がひどいからだ。昨年、看護士2年目の人が加入したが、その翌日、親しくしていた主任看護師がやってきて注射器を取りあげ「仕事をするな」とののしった。その翌日、その看護師は労組を脱退した。主任看護師にこの事実をつきつけると冷遇はやんだ。もちろん、このほかにも多くの事例がある。しばしば使われる見えない弾圧は労組員らに過酷なスケジュールを組むことなどだ。

――病院が廃業されたときの思いはどうだったか。

 廃業されたときには、むしろ、やったと思った。121日間の長期ストによって怒りは頂点にあった。だが1日過ぎると、もっと疲れた。前は希望もあったけれど、病院が閉鎖され、いまは暗たんたる思いばかりだ。

――本人はカトリック信者なのか。

 大学のとき洗礼を受けてカトリック信者になった。ユン・ゴンヒ大主教が在任していた時は状況ははるかによかったが、いまは完全に違う。問題は神父様たちが対話を拒否しており、病院長も拒否しているのだ。事態が悪化するにつれ市長の面談要求、市民対策委の要請、労使政の仲裁などがあったが、ずっと拒否した。

――ストと廃業を経験して変わってきた自身の生き方を振り返ってみると。

 一緒にストをしている友達とだけ親しくなり、そのほかの友達とは疎遠になった。スト後、今日まで貯えていた預金を取りくずして使っている。以前には映画も見たし、本も買い、音楽も聴いて暮らしていたが、いまはこのような「平凡な生活」がなくなり、だんだん悲惨さを感じるときがある。平凡な生活がどれほど大事かをたいへんな犠牲を払って、初めて学んだ。


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