イスラム運動のアンナハダが勝利、議員の中に女性はわずか
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アラブの春の先陣を切ったチュニジアでは、一〇月、憲法制定議会の選挙が行われ、イスラム政党が勝利を収めた。中東の今後を見る上で重要な出来事と思われるが、日本のマスメディアでの分析は少ない。以下に、速報としての現地に密着した報告を紹介する。(「かけはし」編集部)
初めての自由選挙は、チュニジア住民のほとんどを投票所に引き出した(注)。速報は、イスラム政党のアンナハダのリードを示している。
チュニジア革命の歩みの勃発とベンアリの出国から九カ月後、民主主義に対する熱望は、チュニジア人をこの選挙に加わるよう突き動かした。この記事が書かれている時点では最終結果はまだ分からず、あらゆる種類の噂がある。一つのことは確かであり、憲法制定議会の議員の中に女性は、ほんのわずかしかいないこととなるだろう。実際に、男と女の同権について長々と演説している諸政党を含んで、候補者名簿のわずか七%だけが、その首位に女性を置いた!
アンナハダ成功
の政治的背景
この選挙は特に、大きなリードをもって出現したイスラム運動のアンナハダに利益を与えた。この政党はベンアリを打倒した決起には参加しなかったとはいえ、独裁体制の下でその命を捧げた戦士や、同じく投獄され拷問を加えられた他の何千という人びとの故に尊敬を集めた。それ以上にこの政党は、並外れた財政資源から利益を得た。これは特にRCD(ベンアリの党)の裕福な元の指導者たちから届き、この党が慈善事業を行うことを可能とし、社会の最貧困層からの支持を固めた。
アンナハダはまた、この党の得意のテーマ、アラブ――ムスリムの独自性にキャンペーンを向けた当局の宣伝からも利益を受けた。そして、アンナハダがモンセフ・マルゾウキのCPRと連携するならば、これら二つの勢力は憲法制定議会の絶対多数派を握る可能性がある。アンナハダはその上今日、帝国主義諸国の支持からも利益を得ている。このことに関しては、私有化の継続、レイオフ、また公共サービスの解体など、その経済綱領がIMFや世界銀行が推奨する解決策と緊密につながっている党である以上、驚くことは何もない。それゆえまた、今回の選挙結果に関して、チュニジア人を祝福した最初の人物がバラク・オバマであったという事実についても、驚くことは何もない。独自性を基礎とした姿勢の後退、並びに特に女性の権利を今や危険にさらす内容がアンナハダの綱領の中に込められている、そのような深刻な脅威が加えられているとき、「仕事は権利、泥棒集団!」との叫びをもって反乱に立ち上がった労働者は、チュニジアにおける帝国主義の利益を代表し保証するそのような党に、長い間信頼を寄せるだろうか?
選挙戦術の失敗と急進左翼の後退
同時に現れていることは、今回の選挙の最大の敗者が急進左翼の諸組織だということだ。それらは、各組織が急進性の根本的要素を体現させているのは自分たちだけだと考えながら、バラバラに選挙を闘った。いくつかは、労働者左翼同盟(LGO)のように、結局選挙をボイコットする決定を行った。結果として、急進左翼から選出されたメンバーは四人だけだった(チュニジア労働者共産党の三人と民主的愛国者運動の一人)。
新自由主義との
闘争の継続を
選挙の後でも労働者の状況に変化はなかった。それは労働者の多くにとって大きな幻滅となるだろう。それゆえ革命的戦士の役割はかつて以上に決定的となるだろう。実際、予想可能な女性の権利に対する攻撃と並んで、アンナハダが実行を意図している新自由主義の諸政策の継続に対して、闘うことが必要となる。多くの労働組合と政治活動家、そして選挙運動に取りかかるために夏の始め以降闘争の領域を多少とも捨てた人びとは、必ずや発展するはずの動員を助けるという重い任務を負うこととなるだろう。
NPAマグレブ委員会
※上記の記事は、フランスNPA(反資本主義新党)週刊紙、『トテタヌー』一〇月二七日号に掲載された記事の最新版(一〇月三一日現在)。
▼NPAマグレブ委員会は、北アフリカ、特に旧フランス植民地の情勢を注意深く追っている。同時に、移民の共同体に基礎を置く諸政治組織と共に活動している。
(注)登録済みの四一〇万人の中では九〇%以上が投票した。まだ登録が済んでいなかった三〇〇万人のかなりの部分もまた投票した。ある人たちは、全国規模で七〇―八〇%の選挙参加があったと言われている、と報告している。
(「インターナショナルビューポイント」二〇一一年一一月号)
イタリア
グッバイ、ベルルスコーニ
今こそ銀行家政権と闘おう
シニストラ・クリティカ(批判的左翼)
欧州に広がる金融不安はイタリアに波及し、何年もイタリア政治の中心にいたベルルスコーニをついに首相の座から引き下ろした。それは、イタリアの労働者民衆に即座の闘争を求める事態である。イタリアの反資本主義左翼であるシニストラ・クリティカは、直ちに労働者民衆に対する呼びかけを発した。(「かけはし」編集部)
資本と欧州の
求めに応じる
実に多くの都市の広場で、何千人という女性と男性が当然のように、首相であったときも野党にあったときも何年にもわたって、まったく多大な損害を作りだしてきた男の辞任を祝った。
今も祝っている多くの人びととは違って、われわれは、ベルルスコーニが去ったやり方、あるいは彼を引き継ぐ者に関わるやり方を気にかけない、というわけにはいかない。同じくわれわれは、大統領、ナポリターノを褒めそやすこともない。彼は、資本と欧州の政治的指導部の求めに応じて、ベルルスコーニ追い落としを助けたのだ。彼らはベルルスコーニと彼の政権を、欧州を覆う危機に対する「唯一の回答」である、社会的サービスの破壊並びに緊縮計画を遂行する能力がないと見なした。
一層の福祉・賃金
の切り下げ攻撃
またわれわれは、今の緊縮計画がマリオ・モンティの名前を身につけているということも忘れることができない。それは、大銀行の利益を増進するために、また金融システムの規制解体を確実にするために、あらゆる国家助成を禁じた男の名前なのだ。この者は、ジェルミニとマルチオンネの反動的「改革」を持ち上げるために右翼新聞の「コリエレ・デラ・セラ」を使った、その同じマリオ・モンティだ。この人物が何か「より良い」ものを代表するなどと、左翼であれば誰がまじめに考えることができるだろうか。
「次」はない。われわれに今あるのは、勤労民衆の利益に敵対する政権と一体となった今なのだ。その唯一の計画は、労働者階級に敵対する新たなそして破壊的な経済金融方策、欧州資本の要求を満たすための、公的部門の大規模私有化である。それは、われわれがここ二〇年味わってきた以上の、福祉や賃金や年金に対するもっと大きな攻撃があってはじめて現在の危機から抜け出ることができる、このような古くさいイデオロギーを売り込んでいる政権である。
新政府と対決す
る左翼の統一を
労働者、不安定雇用の下にある人びと、若者、移民にとっては、ただ一つ可能な選択がある――モンティ/ナポリターノ政権に対する即時の断固とした対決だ。われわれは、われわれに向けて彼らが保持している諸計画に抵抗するために必要な組織形態、及び諸論点を築き上げなければならない。われわれは、危機を引き起こした者たちにその対価の支払いを義務づける、そのような社会的かつ政治的なオルタナティブについて問題を提起するネットワークを築かなければならない。
国家諸制度はどのような近道も用意していない。ただ一つの道は、即時の選挙、そしてここ四年に起きたことから教訓を引き出そうとする政治綱領の間の力比べ――どのような「国民的統一」も「小手先の」妥協も拒否し、政治的かつ社会的な対決を組織する反資本主義的左翼を伴った――でなければならない。われわれは、危機からの左翼的な脱出を望みモンティ政権を拒絶する人びとの最大限幅広い統一を築き上げることを、すべての人びとに求める。われわれにはそこに参加する意志がある。
シニストラ・クリティカ全国執行委員会
▼シニストラ・クリティカ(批判的左翼)は元々は、プロディ政権への党の参加を拒否した共産主義再建党(PRC)少数派によって組織された潮流。この潮流はPRCから離れ、二〇〇七年一月独立組織となった。
(「インターナショナルビューポイント」二〇一一年一一月号)
コラム
「アジア並み低賃金」攻撃だって?
「『プラン』(経団連が発表した東日本大震災を受けての「復興・創生マスタープラン」)では『日本経済の創生のため』と称して労働者に対して『アジア並みの低賃金に引き下げろ!』と叫んでいる」。
これは「経団連『復興プラン』を許すな」と題する革共同宮城県委員会署名の論文(「前進」二〇一一年一〇月一三日号)に出てくる文章である。その直前にある小見出しは「アジア並みの低賃金を要求」である。
さらに「『復興特区』攻撃粉砕を」と題する「前進」二〇一一年一一月七日号の盛田幸三論文では「労働者には『アジア並み賃金』」との大見出しがついている。同論文は述べる。「日帝ブルジョアジーは現在の大恐慌と帝国主義間争闘戦における脱落状況を乗り切ろうと、TPP加入で大量の失業者を生み出すことをもテコにして、日本の労働者の賃金をさらに劇的に切り下げ、『アジア並み賃金』に近づける政策に踏み切ろうというのだ」。
中核派による「アジア並み低賃金」という言辞は、戦前の講座派の論客・山田盛太郎が『日本資本主義分析』(一九三四年)の中で繰り返しキー概念として使っている「インド以下的労働賃金」という規定を彷彿させる。
われわれは「震災復興」を好機として、被災地に「震災特区」を作り上げ、新自由主義的な「復興モデル」、すなわち徹底的な労働条件の破壊・非正規化の拡大、一切の労働者保護的措置と賃金の切り下げを強制し、それをモデルケースとして全国に拡大しようとする悪らつ極まる大資本の攻撃を打ち破らなければならない。それは当然のことだ。
宮城全労協の仲間たちは七月二三日に「『震災だからこそ』最低賃金の大幅引き上げを」と訴え、宮城地方最低賃金審議会への意見書を提出した(本紙八月八日号)。さらに八月三一日の宮城地方最賃審議会答申に対しては九月一〇日付で異議申出を行った(本紙九月二六日号)。
だが中核派の「アジア並み低賃金」反対の主張には、アジアの労働者に対するグローバル資本の低賃金、長時間労働、人権無視の労働条件による強搾取、それをも利用して帝国主義国労働者の賃金を切り下げる資本の論理への批判がまったく見られない。ここには「アジア並み低賃金」という名でアジアの労働者の低賃金を当然視して危機感をあおる典型的な「帝国主義本国労働運動」の主張が見られる。こうした立場で国境を超えた「底辺への競争」に労働者を駆り立てる新自由主義の攻撃に立ち向かうことはできない。
問われていることは「アジアの低賃金」が象徴する、競争による分断・差別・搾取の強化に対して国境を超えた労働者の共同の闘いを形成し、ともに「公正な賃金」「公正な労働条件」を勝ち取り、口先だけではない団結を作りだしていくことではないのか。
一九七〇年代の「血債主義」を清算してしまった革共同全国委員会(中核派)は、「アジア並み低賃金」などという差別的主張になんの疑問も感じない破綻した一国的労働運動主義の立場を全面開花させてしまったのである。 (純)
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