アジア太平洋の一連の首脳会議が示すもの
「日米同盟深化」と連動した野田の「交渉参加」宣言 |
米海兵隊の豪州駐留
一一月一二、一三の両日、野田首相がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加に向けた交渉開始を確約したハワイ・ホノルルでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に続き、アジア太平洋地域の経済統合と軍事的対抗戦略をめぐる米中間の攻防が、ASEAN首脳会議・東アジアサミットを舞台に展開された。
まず大統領就任後初めてオーストラリアを訪問したオバマ米大統領は、一一月一六日にキャンベラでギラード豪首相と会談し、二〇一二年半ばからオーストラリア北部ダーウィンを中心とする豪軍基地に海兵隊約二五〇人を駐留させ、漸次その数を増やして二五〇〇人まで増強する、と発表した。それと合わせて米空軍もオーストラリア北部の空軍基地への立ち寄りを増やし、資機材の備蓄も進めるという。オーストラリアへの米軍の常時駐留は初めてのことだし、海兵隊の日本・沖縄以外への平時駐留もきわめて異例のことだ。
翌一一月一七日、オバマはオーストラリア議会で演説し、米国の「アジア太平洋政策」にかかわる重要演説を行った。その中でオバマは「米国は太平洋国家として、地域とその未来を形づくる際、より大きく、長期的役割を果たすとの計画的・戦略的決定を下した」と語り、財政危機による国防費の総額的削減は進めざるをえないにしても「アジア太平洋での米軍の兵力展開の維持に必要な資源を振り当てる」と強調したのである。
この演説は、米国のグローバルな安保政策のあり方を転換し、アジア太平洋にその軍事戦略の最重点を置くという宣言である。オバマは、「日本と韓国での強固な兵力展開を維持」するとともに、東南アジアと南太平洋ではその軍事的プレゼンスを「強化」するとうたった。オーストラリア議会での演説に続き、同日午後にダーウィンの豪空軍基地を訪問したオバマは、約二〇〇〇人の米豪軍兵士を前に、あらためてアジア太平洋が米国にとって「最優先」の戦略的地域であることを強調した。
オバマが言う米国の戦略的転換は、アフガニスタンでの「対テロ」戦争の泥沼化、イラク戦争の破綻と中東における民衆革命によるチュニジア、エジプトでの親米独裁政権の打倒によって中東・南西アジアでの覇権の維持が危機的な段階に入ったこと、そして「第二の経済大国」となった中国の東南アジア、南太平洋地域への政治的・経済的かつ軍事的進出への対決を迫られていることによるものである。
アジア太平洋地域は、グローバル資本主義経済にとっての最大の「成長センター」であり、ここでの中国の影響力の拡大を抑え込み、主導権を確保することこそが米国にとって死活をかけた中長期的な戦略的課題なのだ。
「ダーウィンへの米軍の駐留は、弾道ミサイルなどで列島線内への米軍の接近をよせつけない能力を磨く中国軍に、遠方からにらみをきかせる狙いがある」「日本とは一〇月、日米防衛相会談で防衛施設の共用を進めることで合意。サイバー攻撃対策でも日・韓・豪と連携強化で足並みをそろえた。中国に対抗する具体策ともいえる空海両軍による『エアシーバトル(統合海空戦闘)』構想でも、同盟国の協力は不可欠だ」(「朝日」一一月一八日)。
こうしてAPECからバリ島での東アジアサミットにいたる一週間は、オバマとクリントン国務長官にとって、フィリピンやタイをも巻き込んで対中国包囲戦略を具体化していくための舞台となったのである。
ASEANめぐる角逐
APEC、ASEAN(東南アジア諸国連合)、東アジアサミットと連続した首脳会議はASEAN諸国をいかに取り込むかをめぐる米中両国の緊張した駆け引きの場であった。その中で一一月一七日のASEAN首脳会議はASEAN一〇カ国(フィリピン、ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、インドネシア、ミャンマー)に中国、韓国、日本、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた最大一六カ国からなる「広域自由貿易圏」づくりを進めることで合意した。二〇一三年以降に創設をめざすとされるこの「アジア大経済圏」は、TPP交渉に日本が参加表明し、それに刺激されてカナダ、メキシコが参加の意向を示したことにより「米国にアジアの主導権を奪われるのをおそれたASEANが今までの方針を変えて、急きょ合意に至ったものと評価されている。
ASEAN諸国にとっては、米国主導のTPPに対抗してASEAN+3(中国・日本・韓国)による中国主導の地域経済圏構想に引きつけられる力学と、南シナ海をめぐる中国との領有権をめぐる対立で、米国に依拠して中国に対抗する力学の双方が働いている。
日本政府は一一月一八日、こうした「自由経済圏」をめぐる米中の角逐を背景に、ASEAN諸国へのインフラ整備に二兆円を支援する方針をASEAN首脳と野田首相との「共同宣言」として表明した。ここではTPPを通じて米国のアジア太平洋に向けた対中国の戦略的イニシアティブを支えながら、「アジア太平洋の成長を取りこむ」新経済成長戦略構想という資本の独自利害を貫く姿勢が明らかである。この対ASEANインフラ整備の主軸をなすのはベトナムとミャンマーを結ぶ「南部回廊」という道路網を通じて、マラッカ海峡を通らずにインド・ASEAN・日本を結ぶ海上・陸上の輸送ルートを整備し、海外進出企業の部品供給を円滑にする意図が込められている。
こうした対ASEAN支援戦略の中にベトナムへの原発輸出も位置付けられていることは言うまでもないだろう。
一連のアジア太平洋地域の首脳会議は一一月一九日の東アジアサミットで幕を閉じた。米大統領が初めて参加した東アジアサミットの「互恵関係に向けた原則に関する宣言」は「東アジア自由貿易圏(EAFTA)構想や東アジア包括的経済連携(CEPEA)構想の研究を含む広域地域経済連携に関する取り組みの進展と協力に向けた一層の努力」をうたいつつ、中国の拡張的「海洋戦略」への牽制を意識して「海洋に関する国際法が、地域の平和と安定の維持のために必須の規範を含むことを認識」との文言を盛り込むものとなった。しかし米国や日本が求めていた「航行の自由」については中国の反発を恐れたASEAN諸国の全体としての合意を得られず、宣言には含まれなかった。
われわれはこの一連の経過の中で、全体としての新自由主義的「自由貿易圏創設」の枠組みの中で、ASEAN諸国をはさんだ中国と米豪日ブロックの覇権をめぐるせめぎ合いが、軍事的対抗関係をふくんで明確に進行していることを読み取ることができる。
安保とTPPは不可分
APECから東アジアサミットまでのアジア太平洋首脳会議の中で、われわれはTPPに代表される究極的な「自由貿易」圏構想と米国のアジア太平洋地域に重点を置いた新軍事戦略構想が一体のものであることを見据える必要がある。
そのことは米海兵隊のオーストラリア駐留方針に明瞭に示されている。毎日新聞の一一月一八日付「社説」は述べている。「『太平洋国家』を掲げるオバマ政権は、東アジアへの関与を強めている。今回の(オーストラリアへの)部隊配備は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)推進と並んで、軍事、経済両面での存在感を増す中国に対する『包囲網』の一環と見ることができる。/東アジアに位置する日本には、こうしたアジア太平洋地域の安保環境の変化を見据えた、賢明な外交戦略が求められている」。
また東アジアサミットに同席した外務省政務三役の一人は「米国と組み、中国を軍事的に圧倒するしかない」と語ったと報じられている(「朝日」一一月二〇日)。
ここから見られるのは、TPPと「日米同盟の深化」の一体性である。TPPはアメリカ帝国主義にとって、アジア太平洋に向けた経済と軍事が一体となった覇権主義的国家戦略であり、それは日本帝国主義の支配者層にとっても同じである。日本の労働者・農漁民・市民の生活・雇用・社会福祉を破壊し多国籍企業のための規制緩和を徹底させる資本の論理と、「中国の軍事的脅威」を煽りながら沖縄の人々に新基地を強制し、自衛隊の南西諸島配備を強行する「日米同盟」深化の論理はまさしく相互にからみあった一体をなすものである。
「すべての物品及びサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる」とオバマに誓ってTPP交渉への参加を表明した野田首相は、同時に辺野古新基地建設についても「年内に環境影響評価書を提出する」と約束した。安保とTPPの背中合わせの一体性をわれわれはここでも確認できる。原発とTPP、そして日米安保の、このからみあった構造にメスを入れ、それぞれに対する闘いの中で連携を作り出していこうとすることにもわれわれは挑戦していかなければならない。 (平井純一)
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