「TPPに反対する人々の運動」緊急シンポ
「震災復興」に名を借りた農業・雇用・生活破壊の一挙的拡大 |
国の形を作り
かえる攻撃だ
一〇月三一日夜、「TPPに反対する人々の運動」主催による「緊急シンポジウム・やっぱりTPPでは生きられない─震災復興に乗じたTPPにNO!」が開かれた。開始時間前から続々と参加者が駆けつけ、最終的に四五〇人近くの農民組織、消費者団体、労働者、市民、メディア関係者らが参加した。北海道農民連盟に所属する六〇人近くの農家は日中の中央省庁交渉を終えてこの集会に参加した。会場となった東京・文京区民センターの大会議室は、あふれんばかりの熱気に包まれた。
「TPPに反対する人々の運動」共同代表で新潟百姓の天明伸浩さんが冒頭にあいさつに立った。「三月一一日、大震災と大津波、そして原発事故が日本を襲った。価値観が大きく転換した。それまでの『豊かさ』の概念がいかに底の浅いものだったかを痛感する。いま政府はTPP交渉への参加に進もうとしている。問われているのは農業だけではない。製造業、金融、雇用など幅広い二四分野について交渉が行われる。つまりこの国の形を作りかえようとするものだ。先日、仙台から福島にかけて歩き、厳しい被災地の現実を見てきた。被災地の人々を置き去りにするであろうTPP交渉への参加は絶対に反対だ」。
農地解放以前
への逆戻りだ
続いて第一部の各界からの「意見提起」。司会は「日刊ベリタ」編集長で地域とグローバルな観点から活動を続けている農業ジャーナリストの大野和興さんが務めた。
一人目の意見提起は「佐賀の一百姓の立場」として山下惣一さん。この運動の共同代表の一人でもある。「この間TPPと名のつくものほとんどすべて読んできたが、反対や弊害を訴えるものが大半で、簡潔明瞭に『TPPでこれだけ良くなりますよ』と書かれたものはほとんどない」と指摘した。関税障壁については、「製造業と違い農業はそれぞれの国や地域で生産条件が大きく異なる。そういう条件をカバーするのが関税。日本では数百パーセントという極めて高い関税を課す重要品目は九品目だけ。野菜は三%程度」と経産省や財界の考えを批判した。
菅直人前首相が「平成の開国」と豪語したTPPが、実は時代の社会的交代を招くと警鐘を鳴らした。「先物取引を通じて主食であるコメの生産調整を進めようとしている。コメの値段が下がるだろうが農家は破綻する。その空白に企業が乗り出す。その際に邪魔になるのが農地法。規制緩和の対象になる。農地解放以前の時代に逆戻りする」。
賃下げと労働
条件引き下げ
続いて雇用の観点から、コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク共同代表の鴨桃代さん。TPPについては全国ユニオンでも討論されていないのであくまで個人の意見だがと断った上で、雇用悪化につながる可能性のあるTPPに懸念を表明した。
「わたしが言いたいのはただでさえ不安定で劣悪な日本の雇用状況をさらに劣化させてはならない」ということ。労働環境は大震災・原発事故以降も劣化し続けているという。「アメリカでは格差に怒る九九%の人々の運動が盛り上がっている。日本では『とりあえず仕事さえあればいいのではないか』という考えがまだ根強い。震災後の三月二六日に実施した『雇用を守る震災ホットライン』電話相談件数二九三件のうち一〇七件が派遣労働者からの相談。東電の計画停電にともなう無給休業や解雇、被災地でもないのに便乗解雇がみられた」。
移住労働者たちの劣悪な労働人権状況が日本全体の労働環境を劣化させていると指摘する。「労働者の移動についても交渉の対象となっている。日本の外国人労働者は日本人非正規労働者以上に厳しい条件で働いているケースが多い。無権利状態をそのままにして、さらに海外からてっとり早く労働力を確保することで、日本全体の労働条件の引き下げにつながる」。
「憲法二五条は『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』と謳っている。しかしパート労働者の時給では不可能だ。全国ユニオンは、せめて年収二五〇万円に届くようにと最低時給一二〇〇円を目指している。経営者からは『会社がつぶれてしまう』『国際競争力が落ちる』と反論される。つまり今のグローバル化や自由化というのは、賃下げと労働条件の引き下げ競争ということだ」と企業のグローバル化を厳しく批判した。
国民皆保険制
度を解体する
長野県佐久総合病院の色平哲郎さんは医療保健の観点からTPPに警鐘を鳴らした。日本の皆保険制度がねらわれる可能性があると指摘した。
「保険の話をする際に公的保険と私的保険との区別が必要になる。日本国内で話をする場合は公的保険でいいが、外国で保険制度の話をするときには私的保険のことだと考える必要がある。この二つの考えは全く異なる。日本の皆保険制度は海外から賞賛の目で見られている。さまざまな問題点も指摘されその解体も進んでいるが、それでも高齢者がよりよく暮らせる社会のためにも必要な制度だ」。
一方「私的保険の考え方はまったく違う」と述べてこう語る。「私的保険は、保険料はたくさん集めたいが、保険金給付はできるだけ少なくしたいと考える。そもそもぜんぜん違う概念だ」。そしてTPPが企業や国家や憲法に優先する危険な協定であることを指摘した。
地域分散型ネッ
トワーク社会へ
三人の意見提起に続き、慶應義塾大学経済学部教授の金子勝さんが講演した。
金子さんは不良債権処理や小泉構造改革など、これまでの「霞が関」の経済政策は失敗の連続で、いまも失敗し続けているが「それを国民にひた隠しにしている」と痛罵した。「TPPにしろ原発事故時にしろ、すべて情報隠しによって進められている。外交交渉の能力もなく、アメリカにつき従い、アメリカの要求を国民に納得させることが官僚の仕事になっている。国家を背負うという気概が全く見られない。原発事故後の無責任な対応を取ってきた経済産業省がTPP交渉を担当するというのだからあきれてしまう」。
先ごろ両国で締結された米韓FTAに「遅れるな」とばかりにTPP交渉参加を推進する意見があるが、それに対しては「韓国では農業をはじめかなりの産業に大きな影響が出るだろう。生き残るのはサムスンなど、ごく一部の多国籍企業になるかもしれない。いびつな経済構造になる」と指摘した。
TPPにおける自由化交渉の方法が極めて危険であることをわかりやすく提起した。「WTOやFTA、そしてTPPもそうだが、自由化交渉の方法は二つある。ポジティブリスト方式とネガティブリスト方式というものだ。ポジティブリスト方式というのは『これとこれは自由化しますよ』という風に自由化するものをリストアップするというもの。リストに記載されていないものは自由化しない。WTO交渉などがこの方式を採っている。一方、ネガティブリスト方式とは原則すべての分野を自由化するが『これとこれは自由化しませんよ』というふうに自由化しないものをリストアップする。TPPはこの方式を採用している。民主党政権に対して、絶対開放させない分野を明言させるという『攻め』も必要だろう」。
講演の後半、金子さんは「運動はビジョンを語れ」と提起した。「二〇〇八年八月のリーマンショック以降、世界経済は大きな転換を迎えている。二〇一一年三月一一日の東日本大震災とそれに続く原発事故によってこの国も転換を迎えている。金融資本主義は終わりを告げている。大量生産や大規模化ではなく、地産地消の地域分散型ネットワーク社会を目指すことになるだろう。他人を出し抜いたり自己責任を迫ったりする金融資本主義ではなく、高齢者や子どもたちが楽しく生きられ、公共公益と環境を重視し、私的利益を社会的貢献にあてるごくあたりまえの資本主義が必要だ。地域分散型ネットワーク社会という新しいビジョンを提示しながら運動する必要がある」。
APEC対抗
フォーラムへ
会場からの発言では、日本消費者連盟の山浦康明さんが、米国の対中国覇権争いでもあるTPP交渉に人々を巻き込むなと批判し、生産者と消費者運動が一緒にTPPに反対を訴えることの重要性を語った。
司会の大野さんからは、一一月中旬に米国ホノルルで開催されるAPECに対抗して開かれる民衆フォーラムに代表団を派遣し、地震津波災害と原発災害にいまだ苦しむ日本社会の声としてTPP絶対反対を訴えることが報告された。つづいて共同代表の一人で山形の百姓である菅野芳秀さんが集会宣言を読み上げ、会場全体の拍手で確認された。最後に「労働情報」の浅井真由美さんが「労働運動の仲間の参加がまだまだ少ない。今後も運動を広げてTPPに反対していきましょう」と閉会のあいさつを行った。 (H)
10・31「やっぱりTPPでは
生きられない」座談会 宣言
いま政府は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加をめざし、しゃにむに突き進んでいます。貿易と投資、企業活動の完全な「自由」を作り上げようとするTPPが現実のものになったとき、わたしたちのくらしに何が起こるのか。今日、わたしたちはさまざまな側面からの問題提起を受け、討論しました。
資本のグローバリゼーションを極限まで進めようとするTPPは、国境を越えて制度化され、基本的人権を定めた憲法にさえ優越する存在として、人々の上にかぶさってくる可能性さえあります。
いまTPPによって、たくさんの人々の生活と仕事が根底から揺らぎ、くらしと生命の安全と安心が失われてしまうことが明らかになりました。農民、漁民、労働者、商店主、中小企業家、失業者、野宿者など、この社会を構成する圧倒的多数の人々の生存の権利が奪われてしまうことになります。打撃は世代や性別を超え、国境をまたいで広がります。
野田政権と財界は、こうした問題をはらむTPPを震災復興にからめ、「貿易と投資の自由化」により経済の活性化が必要という主張を展開しています。だが、被災地の基盤は農業と漁業であり、TPPはその農業と漁業に二度と立ち上がれない打撃を与えることが、今日の議論で明らかになりました。TPPをめぐり、まやかしの論理が政府自身によって振りまかれている現実を、私たちは見据える必要があります。
いま世界では富と権力が集中する1%に対する99%の異議申し立てが広がっています。TPPで打撃を受けるのは、その99%です。わたしたちは、今日のシンポジウムで明らかになったTPPの持つ問題点を、自らもその一員である99%の人たちに広く訴え、TPP反対の大きな流れをつくりだします。 以上、宣言します。
10・31「やっぱりTPPでは生きられない」座談会参加者一同
コラム 「かつてはジロリアン」
一一月五日、取材に来ているという友人に会うために世田谷の駒沢オリンピック公園で開かれている「東京ラーメンショー2011」の会場に出掛けた。今年の「売り」は、「復興に役立つのは、寿司でも焼き肉でもない。ラーメン屋だ」。被災地を利用した人集めのにおいも多少するが、東日本大震災で店を流された東北からも出店するらしいし、売り上げの一〇%が復興の義援金になるという。友人の取材ねらいもここにある。
二〇年前、この公園近くに一年程住んだことがあったので、駅からの道はなんともなつかしい。だが、公園に入るとほのぼのとした思い出は吹き飛び、驚きの連続。まず人の多さに圧倒され、気付くと私なんか場違いという感じで、まわりはほとんど二〇〜三〇歳代。さらに進むとテントとブースが並び、ラーメン特有のスープのにおいが充満し店ごとに長蛇の列。
友人による今年の特徴は全国の有名店同士がコラボして、期間中だけの限定メニューを出していることだという。だが全国の有名店をはるかにしのいでいるのは、被災地からの出店。仙台市の「五福星」、気仙沼市の「かもめ食堂」、岩手県釜石市の「こんとき」などの店頭には半端ではない長い列ができ、一時間待っても食べられるかどうか。主催者のねらいは完全に実現されている。
熱気に圧倒されベンチでひと休みしていると隣りにラーメン丼ぶりを持った青年が座った。彼は朝から並びこれが四杯目、手に持っているのは「さんまの油」が香ばしい「ちばき屋とかもめ食堂」のコラボラーメン。開催日の一一月三日に三杯、最終日の明日も来るそうで目標にしている一〇杯を達成したいと興奮気味に話してくれた。完全に「おタク」。
一回りして、ラーメンが焼きそばと違ってB―1グランプリにエントリーしない理由に気付いた。ラーメンブームの初期には「札幌」「長浜」「和歌山」などという「ご当地」ごとに特徴をもったものが売り出されたが、今は土地柄よりも個々の店の特徴が全面化し、B―1グランプリの主旨である「町おこし」にはそぐわなくなっている。焼きそばの場合、富士宮は蒸し麺と魚粉、横手は甘辛いたれに目玉焼きと福神漬、栃木はゆでたジャガイモが入り、今年のB―1グランプリの勝者ひるぜんはジンギスカンや味噌だれというふうにそれぞれ強烈な土地柄を残している。
そしてもうひとつ気付いたのは、私自身がラーメンを並んでまで食べようとは思わなくなったこと。かつてこの欄に星さんが、ラーメン二郎の「ぎとぎとラーメン」について書いていたが、私自身も彼に負けずと並んだ記憶がある。「ラーメン二郎に学ぶ経営学」(東洋経済新報社)によると太麺で、五〇〇cの大盛、背脂とニンニクのきつい「ラーメン二郎」に何度も通う熱烈なファンを「ジロリアン」と呼んでいるが、ジロリアンの中心は二〇〜三〇歳代で、四〇歳を超えると急激に減少するという。「ラーメン二郎」の店舗が駅前ではなく大学の周辺に多いのもそれを実証していると書かれている。私もジロリアンを卒業したのかも。(武)
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