「可視化」導入論議を契機にした
新たな治安弾圧体制許さない |
「新時代の刑事司法制度」とは何か?
検察特捜部・公安政治警察解体 |
取調べ可視化
導入を先送り
法務省は、「新時代の刑事司法制度特別部会」を発足させ@犯罪捜査の取り調べ録音・録画(可視化)の法制化の検討A新たな捜査手法B公判のあり方などについて論議し、二年後をめどに答申するという。(六月二九日)。委員には、全面可視化反対派の元検事総長の但木敬一、佐藤英彦・元警察庁長官なども着任させつつ、えん罪被害者の村木さん、周防正行さん(痴漢えん罪事件の映画「それでもボクはやってない」の監督)など全面可視化推進派も着任させバランスをとろうとしているように見える。
このように対応せざるをえないのは、大阪地検特捜部による厚労省元局長の村木厚子えん罪事件と前田・元主任検事の証拠隠滅事件、大坪・元大阪地検特捜部長と佐賀・元副部長の犯人隠避事件による検察権力の危機の進行、および志布志事件、足利事件、氷見事件、布川事件などのえん罪事件によって腐敗・堕落した検察・警察機構への社会的批判の強まりをかわすためであった。しかしえん罪事件を再発させないと言うならば取調べの全面可視化の即時導入が当然であるにもかかわらず、特別部会の答申が二年後だというのだから最初から先送りの姿勢が明白だ。
この手法は、すでに可視化導入に敵対してきた法務省・警察庁官僚らが「検察の在り方検討会議」(法相の私的諮問機関)、警察庁の「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」で繰り広げてきた対応の延長線にある。
検察・警察批判
への巻き返し 特別部会が「欠陥」答申を出してくると予想できるが、継続して注意深く監視していかなければならない。そのためにも法務省の「検察の在り方検討会議」、警察庁の「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」の報告を見ればその本音が見えてくる。
「検察の在り方検討会議」は、大阪地検特捜部による村木さんえん罪事件を契機に設置された。座長が千葉景子元法相。可視化反対派として但木敬一元検事総長、佐藤元警察庁長官、井上正仁(東京大学大学院教授)、後藤昭(一橋大学大学院教授)、龍岡資晃元福岡高等裁判所長官、原田國男元東京高等裁判所判事らが着任。推進派は宮崎誠(前日弁連会長)、江川紹子(ジャーナリスト)などであった。
論議では、反対派による推進派の発言を個別撃破することがくり返された。とくに但木、佐藤、井上は、可視化導入するなら「客観証拠を集める捜査側の武器も必要だ」などと抵抗し、「新たな捜査手法」として司法取引(被告人が有罪を認め、共犯者の摘発のために捜査に協力した場合に量刑を軽減する捜査手法)・おとり捜査・通信傍受の現行範囲の拡大を主張した。結局、「可視化範囲の拡大」という文言をバーターにして「新たな時代の捜査・公判への移行が必要」だと明記させることに成功したのである。警察官僚や法務官僚の意図を代弁する形で反対派が「勝利」したのであった。
だから提言(三月三一日)は、@全面可視化導入やその時期には触れなかったA「知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等に対する検察官の取調べ」において広範囲な録音・録画の試行B供述調書に過度に依存した捜査・公判から脱却し刑事司法制度を根本から改める必要があるC客観証拠を得るための新たな捜査手法の導入の検討――などを骨子とするものでしなかった。江田法相は提言を受け司法制度改革にむけた法制審議会への諮問を指示した(五月二〇日)。
笠間治雄検事総長は一部可視化の試行を一定の期限内に実行するよう指示し、東京、大阪、名古屋各地検の特捜部は「真相解明機能を損なわない範囲内」で試行することになった。取り調べの一部可視化は、すでに検察庁、警察庁が裁判員裁判の強行を踏まえて取調べの自白部分、供述調書を被疑者に読み聞かせ、署名・押印させ、自己の供述内容に間違いないと語っているような状況を録音・録画するということでしかない。取調べ側の立証に都合がいい「よいとこ撮り」であり、人権侵害に満ちた自白の誘導と強要、「拷問」に近い脅迫場面を記録することはない。完璧にえん罪防止策などといえない代物なのだ。だから法務省と最高検は、一部可視化法制化に踏み切ろうとしているのである。
なお最高検は、村木さんえん罪事件によって特捜部が解体的危機に追い込まれていたが、独自捜査の「特殊・直告班」の縮小、「財政班」「経済班」へと組織再編して延命することになった(7月8日)。笠間検事総長は、村木えん罪事件の検証で「何としても厚生労働省の局長を立件したいという意識があった」「今後は(国税や警察など)関係機関との連携を深め、特捜部は独自捜査をやらないといけないという考えを緩和する」などと特捜部の存在意義さえもなんら積極的に言えず、ひたすらえん罪事件作りを決裁してきた上級庁としての責任を回避し続ける態度でしかない。これでは検察特捜部のえん罪事件デッチアゲの再犯は必至だ。特捜部は解体しかない。
司法取引・おとり
捜査、盗聴拡大
同時平行で開かれていた警察庁の「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」(2010年2月発足)が中間報告をまとめている(四月七日)。
報告は、可視化が「容疑者との信頼関係構築を妨げ、自白を得にくくする」などと言いながら、その本音は人権侵害と手前勝手な密室取調べを守り抜くことにある。そのために欧米やアジア諸国の可視化制度の導入とセットで司法取引、潜入・おとり捜査、容疑者DNAの強制採取、住居に盗聴器を仕掛ける会話傍受などの捜査手法が認められていることを押し出している。
とりわけ広範囲にわたって行われている通信傍受が薬物関連犯罪など組織犯罪に限られているなどと述べ、二〇一〇年の実施は三四件などとウソ報告しながら適用範囲の拡大を主張している。あげくのはてに可視化導入している各国は住居に盗聴器を仕掛ける会話傍受は認めていると述べ、日本も導入すべきだというメッセージを発している。
中間報告は言う。「会話傍受」について「住居や車両内への秘匿による監視機器の設置が可能であり、これによって得た音声を刑事手続きに使用することができるほか、犯罪の予防や国家の安全のため等の行政目的で監視機器の設置を行える国等がある」などと「中立的」なポーズで紹介しながら有効性を強調する。そのうえで「今後の検討課題」の中で「捜査手法の高度化」にむけて「通信傍受制度の見直し、会話傍受制度の導入その他の取調べ以外の場面における被疑者等の言動を補足するための方策」と位置づけて「決意」表明しているほどだ。
可視化論議の中に「捜査手法の高度化」も合わせてやっていくというのは、「悪乗り」ではなく、すでに「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」で「諸外国において活用されている刑事免責、おとり捜査・潜入捜査、通信傍受等の捜査手法の導入又は積極的活用について検討する」と明記し、警察権力の長年の切望として取り組んできたのであった。それをこの間の可視化論議に強引に介入させ実現しようとしているのだ。コンピュータ監視法案の強行成立(六月一七日)にみられるように共謀罪法制定を射程にした盗聴法改悪、会話傍受制度導入を許してはならない。 「誓約書」提出
が意味するもの 警察庁は、特別部会のスタートにぶつける形で全国の警察で実施した取り調べの一部録音・録画についての聞き取り調査で九一%の取調官が反対を表明する検証結果を公表した(六月三〇日)。全面可視化導入論議に対する露骨な敵対だ。取調官に都合がいい「よいとこ撮り」である一部可視化には六一三人が自白の任意性を立証するのに「大きな効果がある」(三七%)、「ある程度の効果はある」(六〇%)と答えている。もはや全面可視化の封じ込めだけが目的であり、えん罪事件でっち上げ再犯の危険性の認識がない。あいかわらず「容疑者との信頼関係づくりに支障を生じる」「真実の供述が得にくくなる」などと述べて人権侵害、脅迫など拷問に近い取調べを続行していくという表明そのものだ。
こんな居直り結果を公表しておきながら警察庁幹部の「決意」を簡単に打ち砕く事態が大阪府警で演じられていた。なんと「不適正な取調べは行わない」などとする「誓約書」を二万人の警察官に書かせていたのだ(六月二九日)。「誓約書」は、「取り調べ時に、容疑者の体に触れたり、容疑者の尊厳を著しく害する言動を取ったりしない」「こうした行為を目撃した場合は上司らに報告する」などという内容だ。こういう人権侵害・違法取調が公然と行われていたことを認めたのである。
こんな漫画的な取り組みは、この間の大阪府東警察署の取調官の脅迫事件(一〇年九月)、大阪府警関西空港署の取調官の外国人容疑者に対する暴行事件(一一年五月)など立て続けに発生し公然化してしまった大阪府警の拷問的取調べの常習犯としての体質への社会的批判をかわすために、防止策ならざる「誓約書」で逃げ切ることが目的だ。逆に全面可視化だけは絶対に圧殺する意思を証明してしまったのである。
「全面可視化」
こそが必要だ
法務省・警察官僚は、この全面可視化論議の中に検察・警察の権限強化のための「新しい捜査」と称して新たな治安弾圧体制作りの一環である刑事司法改悪を前面に押し出しつつある。可視化反対派の急先鋒である佐藤は「刑事司法制度の一部が時代に合わず陳腐になった面はある。可視化だけにこだわらない話し合いを進めたい」と述べ「新たな捜査手法」導入にむけてひた走ろうとしている。
そもそも「えん罪再発防止」を掲げるならばえん罪被害者が繰り返し主張してきたように警察の任意の取調べも含めて全過程の録音・録画の即時導入は当然のことだ。さらに不当な捜査を恒常化させ脅迫と恫喝の取調べでデッチアゲ事件をくり返してきた検察特捜部と公安政治警察の解体、虚偽自白を生み出し人権侵害に満ちた取調べの温床である代用監獄の廃止、証拠の全面開示、取調べ及び供述調書に依存しない捜査・公判、弁護人立会権、不当な勾留保釈制度改正、裁判所の各種令状乱発装置の弊害なども含めて検察・警察権力の横暴の温床構造自体を対象としなければならない。可視化論議を通した法務省・警察官僚の野望を許してはならない。
(遠山裕樹) コラム
地デジ化騒動
実家の母親が、地デジ化騒動に巻き込まれ混乱している。安否確認を兼ね週に数回、職場からかける電話。「今お客さんが来ているから」と、ある日一方的に切られてしまった。週末に訪ねると、ケーブルテレビの業者が来て、「近所の人も地デジ化の手続きが済んでいる」と説得。差し出された契約書に押印したという。
古い一戸建ての実家では、私が取り付けた八木アンテナが物干し台で錆びつき、あさっての方向で止まっている。常時テレビの映りが悪く、手動で向きを変えていた頃。風雨が強いと勝手に回転し、私を悩ませていた代物だ。
六年前に実家を出た後、西側に一五階建てのマンションが建ち、周辺住宅にはケーブルが施設された。「受信障害地域対策」である。おかげで既存の各局と地域のCATV、通販チャンネルまで鮮明に再現され、かつての私の部屋で母は今、大好きな「笑点」と演歌番組を楽しんでいる。
そんな矢先の地デジ化計画。ケーブル会社の触れ込みは、「地デジ化以降もこのまま無料でテレビを楽しめる」とのこと。だが、そんなにうまい話があるのだろうか。
今の固定電話契約をK社に乗り変えれば、電話代も基本料金も安くなるという。案の定、「IP電話化」と抱き合わせの受信契約だった。それでも新たにアンテナを立てる必要も、テレビを買い替える必要もない。そのうえ月々の電話代が、わずかだが安くなるとなれば、隣近所が同意したのも頷ける。
実家でもすでに付属機器を設置する段階になっていたが、私はこの契約を破棄した。IP電話は既設のケーブルを使うため、停電の際には使えず、救急コールにも制限があるなど問題も多い。
「3・11」の日。携帯電話が通じず、人々は時代から見捨てられかけていた公衆電話に殺到した。実家は今なおNTTのアナログかつダイヤル回線。回線じたいに電流が流れている。だからこそ、あの悪名高き「計画停電」の実施中にも、電話だけは通じたのだ。
「地デジだの、ケーブルだの、あたしらにはさっぱりわからないよ。」――何度説明しても怒りではねつける彼女。会話の最後には「あたしはラジオ派だから」と肩を落とす。カウントダウン表示の威嚇効果は、絶大であった。大手量販店のテレビ売場は連日超満員。だが、被災地の惨状を思えば、地デジどころではないはずだ。総務省の罪は重く深い。
テレビやラジオ放送は、緊急時には国民がその生命にかかわる情報を得る命綱でもある。だから私は、問答無用の一斉地デジ化に反対し続けてきたのだ。家族との連絡手段の確保、そして癒しのために、とりあえず一年間の有料視聴契約を結んだ。ちなみに私自身は、この原稿を書きながら、何の対策もしていない。 (隆)
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