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    かけはし2011.2.21号

先住民族アイヌの権利回復を

アイヌ文化から北方諸島問題を考える
「私たちを無視した返還
運動など全く間違いだ」



「領土問題」に
別の視点が必要
 二月六日、渋谷・神宮前区民会館で「アイヌ文化から北方諸島の問題を考える」集いが、同実行委員会の主催で行われ、三一人が参加した。
 昨年十一月、ロシアのメドベージェフ大統領が北方諸島を訪問したのに対して、日本政府が「北方領土の日」とした二月七日、菅首相が「許し難い暴挙」と発言した。ロシアは二月九日、南クリルに対して、軍事・経済面での一層の強化を明らかにした。
 このように、北方諸島問題がふたたび国際紛争の一つとして大きく浮上している。しかし、北方諸島の先住民であるアイヌ民族の意志を無視した、こうした論議に対して、アイヌ民族の歴史的、文化的、現在のあり方から北方諸島問題を考える集いが行われた。


地名・歴史に
刻まれたもの
 集いでは、北海道阿寒湖在住のアイヌ民族、秋辺日出男さんが講演を行った。秋辺さんは世界先住民族ネットワーク:AINU事務局長である。
 「阿寒湖にアイヌコタンがある。それは観光でできた村で、一一〇人のうち半分はアイヌ民族である。そこに三〇〇人が入れる劇場を作り、古典舞踊をやったり、木彫りの販売を行っている。アイヌコタンでは差別はないが、他の地に行くと、『アイヌ』はいじめの言葉として使われ、厳しい差別がある」と自らの体験をまず語った。
 そして「南カラフトを含めた北方諸島は、元々アイヌ民族が住んでおり、アイヌのものだ」と述べた。その根拠を一つは地名から明らかにした。「クナシリ」はアイヌ語だ。「クンネ」は松の木ばかりで黒く見えるので「クンネ」=黒いからきている。「エトロフ」の「エト」は岬につける。雪解け水がつららになり、鼻汁のように見える。その様を「エト」と言う。「シャコタン」は夏の村という「サコタン」がなまったものだろう。また阿寒湖の雄阿寒岳と雌阿寒岳、そしてクナシリ島のチャチャ岳(おじいさん)にまつわるユーカラが残っている。
 二つ目は歴史から明らかにした。紀元六〇〇年代からの歴史を紹介した。松前藩、江戸幕府、悪徳御用商人による苛酷な収奪に対して、一七八九年、アイヌ民族によるクナシリ・メナシの蜂起があり、和人七一人を殺したが三七人のアイヌが処刑された。それ以後、武力で立ち上がることはできなかった。一七八九年に近藤重蔵がエトロフに大日本エトロフの標柱を立てた。一八〇一年にウルップ島にも標柱を立てた。日本はこれを根拠に「日本の領土」であるとしている。そこに住んでいた先住民を無視したこんなことが許されるか。これを前後して、一八〇〇年代、ロシアと日本の争いが激化していった。
 秋辺さんは、二〇一一年二月七日「北方領土の日」にむけての「世界先住民族ネットワーク:AINU」の宣言を読み上げ、アイヌ民族の要求を明らかにした(別掲)。
 そして、現在の課題を次のように述べた。政府はアイヌ政策推進会議をつくり、全国調査と「民族共生の象徴となる空間」作りを行っている。白老に生活館を建てる計画だ。第二段階では日本の中心で、日本国民の人々に分かってもらうために、首都東京(関東)に作るべきだ。
 今、問題なのはアイヌのトータルな組織がないことだ。全国のアイヌをまとめ、政策としてまとめていかないとダメだ。いずれはアイヌの政府のようなものをつくらなければならない、と提起した。
 休憩をはさんで、参加者から提起や報告が行われた。アイヌ・ウタリ連絡会(首都圏アイヌ)が昨年一〇月から「アイヌ生活館の建設」と「アイヌ文化権・教育権を保証するための土地・資源の確保」のため、政府への要請署名を行っていることの説明、先住民サミットinあいち2010の報告、二〇年間アイヌ写真展を開いている宇井眞紀子さんの写真展の報告など。

自治州・政府
めざして闘う
 最後に質疑応答が行われた。アイヌ民族を知らない人が多いことについて――これが一番問題だ。教科書の記述は少し増えているが、もっと知らせる教育をやってほしい。自治権について――内戦状態になってしまうので、独立は望まない。イオル構想のもとで、植栽から始めている。北方四島について――第二の日本国とし、高度の州とすべきだ。戦略的に重要な地だから紛争になる。国連も入れて平和の共有地にしたい。まず「ロシアも日本もアイヌの後についてこい」と言いたい。アイヌ議席の要求について――これは憲法問題もあり、すぐに解決しないのでそれに代わる委員会をつくって具体的案としてまとめてほしい。カラフト・千島の言い方は漢語だ。アイヌ語表記をなぜしないのか。――カラフトの全体を表現するアイヌ語はない。「アイヌ」は「人間」をさす言葉だが、これを民族名としたのは明治以後になって生まれた認識だ。なぜアイヌ民族は全国的な統一組織がないのか。――意見を闘わせるのがヘタだ。アイヌ民族は統一国家を持たなかった。チャランケという言いたい放題の本音で語るやり方をする。そして納得して前に進む。今後について――二〇〇八年の国会決議以後つくられた推進会議がどういう施策をまとめていくのか見ている。われわれは具体的要求を出さないとダメだ。最後にはアイヌ政府、自治州を持ちたい。昨年に続く実行委員会による集いであったが、アイヌ民族との連帯を作り出す重要なものであった。    (M)

資料
二〇一一年二月七日「北方領土の日」にむけての「世界先住民族ネットワーク:AINU」の宣言
(歴史)
 我々アイヌ民族は国後島をクンネシリ(黒く見える島)、択捉島をエトゥオロフ(鼻の有る処)、色丹島サクコタン(夏の村)、歯舞諸島等をアポマイ(流氷ある処)とアイヌ語で呼んでいました。これらの島々に日本政府は無理やり漢字を当てはめ日本の固有の領土だと言い張っています。この地域を指して日本政府は「北方領土」と呼んでおり、ロシアは「クリル諸島」と呼んでいます。そのなかでもウルップ島以南の地域は、元々北海道アイヌの先祖伝来の土地と海です。
 それは考古学や歴史資料にある文献からも明らかで、北海道アイヌがラッコ猟に代表される海産物や動物の毛皮の産出を行っていた地域でありましたし、住んでもいました。(ラッコもアイヌ語です)。実際のところ、これはロシア政府も日本国政府も否定のしようのない歴史事実であります。ロシアと日本のやり取りはアイヌ民族から見れば泥棒同士の権利争いでしか有りません。
 それにもかかわらず、日口両政府は、旧ソ連時代も含め、国際条約締結からアイヌをはじめとした北方先住諸民族を無視、排除してきました。一八五五年の日露和親条約では、アイヌ民族を「日本国民である」として国境画定に利用したにもかかわらず、以後、主権者としてのアイヌを無視・排除して条約を締結してきたのです。
 一八七五年の千島・樺太交換条約では、大規模な強制移住事件がおきました。これらの地のアイヌ民族やエンチュ(樺太アイヌ)は国籍選択が求められ、それまでの生活基盤の破壊を強いられました。
 敗戦処理を巡ったヤルタ会談においても、北方先住諸民族は登場せず、国際条約締結おいても存在を顧みられないまま現在に至っております。
 (現在)
 近年は世界の先住民族の大きな解放運動の機運が盛りあがり、二〇〇七年には先住民族の国際法的主体を謳った「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が、国連総会で圧倒的多数で採択されました。我が国政府も賛成したこの宣言の採択は、先住民族の権利回復の第一歩が示された瞬間でした。大輪の花をさかせるべく、世界の先住民族は、躍動を続け、ネットワークを拡げています。
 二〇〇八年の洞爺湖サミットに際し、世界各地から先住民族がアイヌモシリ(北海道)に集い、『先住民族サミット「アイヌモシリ」2008』に会した先住民族一同が日本政府への提言をまとめ、提出しました。そこには、「アイヌ民族は、北海道だけでなく、本州、サハリン(旧樺太)、クリル諸島(旧千島)、カムチャツカなど、広大な地域で生活していた先住民族である。この事実にもとづき、日本政府は、いわゆる「北方領土」の返還交渉にアイヌ民族を主権者として加えるべきである」と表明されています。
 「世界先住民族ネットワーク:AINU」は、二〇〇九年に提出された「アイヌの政策のありかたに関する有識者懇談会」報告書についての見解を表明しました。この中では、「五.その他」として、「いわゆる『北方領土問題』に言及していない点は残念である。クリル諸島の真の主権者はアイヌ民族であるから国際法や『先住民族の権利に関する国際連合宣言』二七条などを根拠にアイヌ民族に返還されることを求めたい。」と明確に態度を示しました。
 昨年一一月、ロシア大統領が「自国の領土」として国後島を訪れ、これに菅首相が「遺憾の意」を表明し、外相が駐日ロシア大使を呼びだし抗議しました。一一月、前原外相がクナシリ島の上空視察をおこないましたが、今度はロシア第一副首相が「私たちロシアの土地」としてクナシリ、エトロフを訪問しました。相次いで閣僚を訪問させて「自国の領土」といわんばかりに実効支配を強めるロシアと「固有の領土」論を繰り返して抗議や遺憾表明を繰り返す日本との間には、北方諸島の主権者たる先住民族アイヌ(エンチュを含む)が登場しません。頭越しに行われており、日口両政府は私たちの存在を無視して領土主張していることに抗議いたします。

 (要求)
 「世界先住民族ネットワークAINU」は、アイヌをはじめ北方諸島の先住諸民族が国際法上からも歴史的事実からもこの地域の主体、主権者であることを訴えます。日口両政府は、わたしたち先住民族に対し、国際法や「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を踏まえて、これらの地域の先住民族としてのわたしたちにふさわしい対応をするべきであります。

 (一)「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が成立してから数年が経過していること、および国際法との関係を踏まえて、日口両政府がいわゆる「北方領土問題」を二国間の問題にとどめず、北方諸島の先住民族を国際法的主体として承認し、この問題への参加を認め、第三者を介した解決策を模索していくことを要求します。
 (二)また特に日本政府と北海道に対しては、現在広く国民・道民に展開している北方領土返還運動がアイヌ民族を全く無視した誤ったものであることを認め、アイヌ民族主体の運動にあらため、アイヌ民族が自らの土地をとりもどす運動としてこれを支援するよう要求いたします。

二〇一一年二月四日

世界先住民族ネットワークAINU
代表 萱野 志朗
事務局長 秋辺日出男
役員一同


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