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   かけはし2011.1.17号

「北」の勝利と「南」の一方的妥協
唯一抵抗したのはボリビア政府

気候変動枠組み条約

メキシコ・カンクンCOP16



「先進国」は拘束力のある協定を回避、「新興国」・「途上国」に責任を押し付け
国連気候変動枠組み条約第十六回締約国会議(COP16)が昨年十一月二十九日から十二月十一日までメキシコ・カンクンで開催された。
 国連のイニシアチブの下での気候変動問題をめぐる国際的な取り組みは、〇九年のCOP15(コペンハーゲン)の実質的な決裂以降、失速し、COP16に向けては早々と悲観論が支配的となっていた。
 この状況に抗して、ボリビア政府は二〇一〇年四月にコチャバンバで世界民衆会議を開催し、ラディカルな目標と要求を掲げ、「南」の諸国や世界の「クライメート・ジャスティス(公正な気候政策)」運動に結集軸を提供した(COP15とコチャバンバ会議については本紙2010年1月1日号および5月17日号を参照されたい)。
 COP16に向けては、「ビアカンペシナ(農民の道)」をはじめとする社会運動団体が、市場原理に基づくまやかしの気候変動対策に反対し、小農民や先住民の権利を守る闘いこそが地球環境を守る上で最も重要であり最も確実な方法であることを訴えた。
 COP15と16では、京都議定書の第一約束期間の終了(2012年)以降の温暖化ガス排出削減目標と削減計画をめぐって、米国も参加し「新興国」や「途上国」も削減義務を負う「新しい枠組み」を主張するEU・日本と、「先進国」の大幅な排出削減と「南」の諸国への支援・協力を求める「新興国」・「途上国」の間で激しい対立が続き、具体的な目標・計画の合意には至らず、今年十二月に南アフリカで開催されるCOP17に持ち越されることになった。
 しかし、今回のCOPは、
実質的には「北」側の勝利であり、「北」側諸国は、国内での温室効果ガス排出の大幅削減の義務を負うことなく、したがって成長路線と大量消費のシステムを放棄することなく、市場メカニズムを通じて排出削減の責任を「南」の諸国に押し付けるための道をつけることに成功した。
 ボリビアを除くすべての参加国が承認した「カンクン合意」は、次のような内容から成っている。
?途上国と先進国が自主的に提出した排出削減目標や削減計画に留意する(法的拘束力はない)。
?京都議定書延長について、「空白期間」が生じないよう早く結論を出す(議定書延長に反対する日本の要請で、一三年以降の削減目標に同意しなくて良い権利のあることが脚注に書き込まれた)。
?先進国全体では、二〇年までに九〇年比二五〜四〇%削減する。
?先進国は削減目標を掲げ、排出量を毎年報告し、国際的な検証を受ける。
?途上国も二〇年の見込み排出量から削減目標を掲げ、達成状況を二年に一度報告し、国際的な検証を受ける。
?途上国の排出削減を支援する「グリーン気候基金」や、温暖化による被害対策の枠組みを新たに設立する。
 これは議長国メキシコのイニシアチブによる調停案で、両者の主張に配慮した妥協案であると言われている。しかし、議長国メキシコが米国政府の指示のもとに行動したことは明白であり、内容的にも「南」側諸国が一方的に譲歩したものである。
日本政府・経団連による
京都議定書の幕引き宣言
 今回のCOPの直前に日本政府は、京都議定書の延長に反対し、新しいルール作りを要求するという立場を表明した。これは京都議定書が経済成長を妨げ「先進国」に不利であるという経団連や電力業界の主張を全面的に受け入れた反動的かつ無責任な主張である。
 自ら批准した京都議定書を「不平等条約」と罵り、第二約束期間の目標設定を拒否する日本政府の反動的立場が、COP16における論争の枠組みを形成し、交渉全体を大きく後退させた。
 COP16の経過について、気候変動問題に取り組んでいる最大NGOの一つであるWWF(世界自然保護基金)ジャパンは次のように報告している。
 「……会期の初日に日本が『京都議定書の第二約束期間に目標を持たない』と断定した発言をしたことで、最初から紛糾しました。途上国側は、『歴史的に排出責任のある先進国が率先して削減する』シンボルとなっている、京都議定書の存続を否定する発言なので、当然態度を硬化させ、交渉はこの議論で持ちきりになってしまいました。……京都議定書の存続に反対していたのは、日本とロシア、カナダだけでした。日本は孤立が際立つ中、議論はそのことに集中し、他の重要な論点の議論が妨げられてしまいました。途上国、EUや他の先進国、そして世界のNGOは、日本が頑なな態度をとり続けると、会議は決裂してしまうと説得を続けました。二週目の最終日になって、日本は態度を軟化させ、徹夜の交渉の結果、COP決定として採択されるべきドラフトがまとまったようで……」
 こうして、最終的には議長国であるメキシコが提案したドラフトにもとづくカンクン合意が、ボリビアを除く各国によって承認された。
 WWFジャパンはCOP16とカンクン合意について、次のように評価している。
 「……議長であるメキシコのエスピノーザ外務大臣の手腕により、過去五年間で最も交渉が進展した会議となりました。…交渉文書が締約国会議の決定として採択されたのです。合意内容は、二〇一一年の南アフリカCOP17へ向けての必要なステップとなったということができます。特に、排出量削減と資金に関するMRV(測定・報告・検証)、適応、資金(新しい「グリーン気候基金」の設立)、REDD+等の分野で一定の進展が見られました。その内容は不十分な点も多々ありますが、まずアメリカを含む先進国全体の目標と、途上国の削減行動が、決定文書の中に書き込まれました」(WWFのウェブより)。
 京都議定書を葬ろうとした日本政府(と米国政府)の策動が阻止され、「COP17での次期枠組み合意のために必要な足がかり」が確保されたという点では、WWFの評価は必ずしも不当ではない。われわれも、「COP17での次期枠組み合意のために」共に闘っていくべきである。
 しかし、カンクン合意は内容においても形式においても、気候変動の影響を最も直接に受けている「南」の諸国や、「クライメート・ジャスティス」を掲げる世界的な運動の要求とはかけ離れており、対立している。

ボリビア政府のカンクン合意拒否は広
範な社会運動団体に支持されている

 COP16で、論争の極となったのは日本とボリビアである。
 ボリビア政府は、二〇一
〇年四月のコチャバンバ会議の総意を代表して、「マザーアースの権利」を基本にしたラディカルな提案を掲げ、「先進国」の責任・義務を主張した。
 モラレス大統領が自らカンクンに赴き、アンデスの氷山融解と旱魃にさらされているボリビアの切迫した状況を訴えた。
 ボリビア代表は、最終段階での議長国メキシコによるカンクン合意案に対しても、その内容と手続きに問題があることを主張し、カンクン合意に唯一反対した。同国のパブロ・ソロン国連大使はカンクン合意について、次のように指摘している。
1 合意案が各国代表団に提示されたのは十二月十日午後であり、検討の時間がわずか二時間しか与えられなかった。何かを、直ちに採択しなければならないという圧力の下で、ボリビアの代表は慎重な議論を要求したが、議長は討論を打ち切った。
2 カンクン合意は排出削減のための拘束力のあるメカニズムではなく、自発的な約束を提唱しているが、これは全く不十分である。
3 気温上昇を二度以内に抑えるという目標にも関わらず、自発的目標が守られたとしても四度の気温上昇は避けられない。
4 先進国が排出量取引やREDDなどの市場メカニズムを通じて排出削減の責任を逃れるための抜け穴がいっぱいある。
 同大使は、ボリビアの主張は科学者たちの予測と警告によって支持されており、また、多くの社会運動から支持されていることを強調している(「ガーディアン」紙12月21日付)。
 「第三世界ネットワーク」、「地球の友」などのNGOも、同様の観点からカンクン合意を厳しく批判している。
 「地球の友」のニンモ・バッセイ代表は、カンクンのCOP16は、地球が直面している課題に取り組むことよりも、商業上の関心に結び付けられていたと指摘している(「地球の友」のウェブより)。COP16の成果として謳われている基金も、世界銀行の下に運営され、各国の拠出額・拠出方法や基金の目的も不明確である。

経済支援を通じた「南」
諸国への買収と脅迫

 〇八年から〇九年にかけての金融危機を乗り切った金融資本や多国籍企業は、新自由主義的政策の復活を各国政府に対して強力に要求しており、その圧力の下で各国政府は、温暖化対策が成長を妨げ、自国の競争力を弱めるという観点から、温暖化対策を次々と後退させ、「新興国」や「途上国」に責任を押し付けようとしている。京都議定書で例外的な措置として導入された排出量取引やクリーン開発メカニズム、REDDなどの市場メカニズムを駆使することによって自国での削減義務を回避しようとしている。
 今回のCOPの大きな特徴は、「南」の諸国、あるいは「G77プラス中国」ブロックが従来の主張を弱め、それぞれに「北」の諸国との妥協を追求しようとしたことである。
 COP15において、米国政府はアフリカのいくつかの主要国(エチオピアなど)に対して露骨な買収をしかけ、G77の結束を弱めようとした。その後、米国はコペンハーゲン合意に反対したエクアドル、ボリビアに対して気候変動対策に関連する援助を停止した。この周知の事実は、ウィキリークスによる機密情報の暴露によっても裏付けられた。
 また、日本政府はケニア政府に対してODA供与の条件として、京都議定書の延長を要求しないことを約束させた。COP16において、ケニアの代表は「京都議定書の第二約束期間は不可欠の条件ではない」と発言し、また昨年のコペンハーゲンCOPで約束された「途上国」への一千億ドルの援助は十分な金額であると述べた。「地球の友」のニンモ・バッセイ氏によると、このケニア代表の発言の原稿は日本の経済アドバイザーによって書かれたものだと言われている(「ガーディアン」12月10日付)。
 さらに、パプア・ニューギニア政府の代表はCOP16において、「少数の国の反対によって合意が阻止されるべきでない」と主張し、合意が得られない場合は多数決を導入することを提案した。これはボリビア、エクアドルの反対によって合意が成立しなかったCOP15の再現を封じることを意図していた(この提案はボリビア、インド、サウジアラビア等の反対で承認されなかった)。
 いかなる譲歩も拒否する米国・日本の強い決意を前に、多くの国が交渉の決裂を恐れ、メキシコ政府の「調停案」に乗った。多くの「新興国」および「途上国」の政府や企業は、G77の結束よりも、「北」の諸国がクリーン開発メカニズムやREDD(森林減少と森林劣化による排出の削減)を通じてもたらす利権に主要な関心を移しつつある。
 REDDについては、ボリビア政府やビアカンペシナ、世界各地の先住民運動が、これまで森林を守ってきた先住民や農民の居住権・生活権を奪い、主権を脅かすものであると批判している。一方、アマゾンの森林を保全するヤスニITT計画を進めようとしているエクアドル政府は、森林保全のためにREDDや市場メカニズムを導入することを積極的に支持している。
 南米の左派政権の間でも、また、左派政権と社会運動の間でも開発・経済成長と環境保全・持続可能な経済モデルへの転換をめぐって複雑な矛盾・対立が顕在化しつつある。
 これらの要因の結果として、COP15からCOP16への過程で、気候変動問題をめぐるイニシアチブは「北」の諸国へ明らかに移行した。今年十二月に南アフリカ・ダーバンで開催されるCOP17は、気候変動問題の資本主義的解決、すなわち環境に対する責任を放棄し、ジオエンジニアリング(先端技術による地球環境の改造)を含む新たなビジネス・チャンスとして、また「南」の諸国との支配・従属関係を永続化させる手段として活用するという解決策に向けた仕上げとして位置付けられるだろう。

COP17(12月・南アフリカ)
に向け、闘争の戦略の再構築を

 日本政府と経団連は、京都議定書の幕引きをはかるという明確な方針と重大な決意を持ってCOP16に臨んだ。
 このことと関連して、COP16に関する日本のメディアの扱いが異様であったことを指摘しておかなければならない。報道の量がCOP15の際と比較して極端に少なかっただけでなく、日本政府の京都議定書延長拒否を翼賛する内容がほとんどであった。
 日本政府は「COP16の成果」として、「京都議定書に関する我が国の立場を確保しつつ、すべての主要国が参加する公平で実効的な新たな国際枠組みの構築に向けて前進することが出来た」。京都議定書締約国会合(CMP)決定は「一部の先進国のみが削減義務を負う現行の枠組みを固定化する第二約束期間の設定は受け入れられないとの我が国の立場を十分反映したものとなっている」と評価している。
 この評価を読む限りでは、日本政府が(NGOの説得によって)「態度を軟化させた」形跡はない。多くのメディアでも、日本政府が非妥協的な姿勢を貫いたことが称賛されている。
 われわれは、日本政府と経団連の決意を甘く見るべきではない。鳩山政権がマニフェストに基づいて「温暖化ガス排出二五%削減」を打ち出したとき、多くのNGOや市民団体の活動家はこれを歓迎し、政府との協力的な関係を追求した。しかし、それは今では全く過去のことである。菅政権の下で、環境よりも成長という政策が、自公政権の時代よりも露骨に進められている。
 日本も批准している京都議定書が「一部の先進国のみが削減義務を負う現行の枠組み」であると批判する前に、現在の約束期間の削減義務を誠実に履行するべきだという「南」の諸国からの批判は全く正当である。
 「すべての主要国が参加する公平で実効的な新たな国際枠組み」を主張するなら、まず米国に対して京都議定書への署名と批准を求めるべきである。
 気候変動に対する歴史的責任や一人当たりの排出量の差を無視して、米国と中国を同列に論じるやり方は恥知らずなデマゴギーそのものである。
 米国においても、オバマ改革が頓挫し、共和党優位の議会の下でEPA(環境保護局)の権限を制限する一連の法案が上程されている。「温暖化否定論」が勢いを増し、大学・研究機関での科学的研究や研究発表への介入が強化されようとしている。
 われわれは、COP15からCOP16への過程で明確になった「北」の諸国へのイニシアチブの移行に抗して、闘争の戦略を再構築する必要がある。
 地球温暖化とその影響は、毎年世界の各地を襲う異常気象や災害によって、特に「南」の諸国に多くの犠牲をもたらし、人々の生活を脅かしている。温暖化を止めるために、その責任の大部分を負っている「北」の「先進国」がただちに化石燃料の大量生産・大量消費を基礎とした持続不可能な経済システムを転換し、温室効果ガスの排出を大幅に削減する必要があることは、すでに多くの社会運動によって指摘されてきた。京都議定書は不十分ながらも、この認識をベースとして、世界のすべての国が「共通だが差異ある責任」を担っていくという観点から、「先進国」に排出削減義務を求めている。
 京都議定書の第一約束期間があと二年で終了しようとしている現在、世界の温暖化ガス排出量は依然として増え続けている(〇九年に経済危機の結果として、対前年比でわずかな減少となったことを除いて)。
 この間に日本で行われてきたことは、「エコ消費」を煽り、ドサクサ紛れに原発建設・輸出を容認させるための「洗脳」を繰り返し、大量生産・大量消費の経済モデルを維持することだけだった。
 京都議定書の第二約束期間は、第一約束期間の総括に踏まえて、第一約束期間よりも高い目標を掲げ、目標を国内で達成することを明確にし、例外的に設けられた市場メカニズムを最小限にする必要がある。「新興国」や「途上国」の「開発の権利」にも配慮した、より公正な対策が確立されなければならない。「途上国」への支援・援助と称して世界銀行や「北」の諸国が途上国の環境政策や経済政策に干渉することを許してはならない。
 「新興国」や「途上国」の経済発展に伴って、これらの諸国における温室効果ガス排出の総量が大幅に増えることが予想されている。しかし、その多くの部分が、「北」の諸国への輸出のための生産に伴うものであり、この点からも「北」における消費の大幅削減が最重要である。また、「北」の諸国は「南」の諸国が、より環境負荷の少ない方法で「北」と同レベルの物質的豊かさを享受できるように、あらゆる技術的支援を無条件で提供する道義的責任がある。
 今日、南の諸国の中で、またNGOや社会運動団体の中で、環境保全と経済成長が両立するかどうか(「グリーン・ニューディールの現実性)、あるいは「南」の諸国は経済成長を目指すべきかどうかをめぐって議論が分かれている。しかし、「北」の運動団体は「南」の諸国の経済成長のモデルについて発言する前に、「南」の諸国が経済成長のモデルを自らの意志で選択できる条件を保証する責任がある。
 気候変動をめぐる闘いは、北と南の国家間、あるいは政府間の対立から、気候変動対策をビジネス・チャンスと位置付け、市場原理を通じて森林や大気をも支配しようとする「北」と「南」のエリートたちと、クライメート・ジャスティスを掲げる世界の社会運動との対立へと移行した。後者の先頭に立っているのはボリビア政府であり、ビアカンペシナをはじめとする農民運動であり、世界の先住民運動である。「北」の諸国の労働組合や市民運動、NGOは、このいずれの立場に立つのかが問われている。
(1月10日 小林秀史)


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