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   かけはし2011.1.1号

蓄積した運動の成果を新法に結実させよう!

先行き不透明感増す「障がい者制度改革」
私たちのことを私たちぬきに決めるな
「隔離・分離」政策をやめろ!
差別をなくし所得・権利保障を

「自立支援法」
延命に反対する

 「障がい者制度改革を推進し インクルーシブ(注)な社会を実現しよう」
 これは、十二月四日から五日にかけ東京で開催された、第十六回障がい者政策研究全国集会のメインスローガンであった。多くの障がい者の切実な願いがここに凝縮されている。民主党政権による障がい者制度改革への期待感がそれほど高い一方、「本当に実現するのだろうか?」との不安も存在している。その不安が増す事態が十一月に発生した。
 民主党政権が廃止を表明している障がい者自立支援法(以下支援法と略す)の改正案が、今国会に議員立法で提案され、自民・公明・民主の賛成多数で、わずか四十五分の審議で参議院厚労委員会が可決、国会最終日の十二月三日に本会議で可決成立した。
 「ねじれ国会」でなんとか成立した法案の数を増やしたい政府与党が、自民党の支援法改正案に「乗っかった」わけだ。多くの障がい者団体がこの改正案に反対した。それは批判が多かった支援法の延命策であることに加え、次の大きな問題があるからだ。
 支援法にかわる新たな法律「障がい者総合福祉法」などを検討するために、首相を本部長とする障がい者制度改革推進本部が二〇〇九年十二月に設けられ、そのもとに障がい者が過半数を占める推進会議が二〇一〇年一月に発足した。
 障がい者の声に背を向け施行された支援法に反対する運動のスローガンが「私たちのことを 私たちぬきに決めるな」であった。政権交代で、自民党との違いを際立てたい民主党はこの主張を取り込み、推進会議の構成を「障がい者が過半数」としたのである。
 推進会議は新法の検討に入ると同時に、新法施行までの間に講じるべき緊急処置の検討も行ってきた。その過程をまったく無視する今回のやりかたに怒りの声が上がったのは当然である。まさに「私たちぬきに」支援法改正案が強行採決されてしまったのである。
 民主党の社会保障政策が未確定であることに加え、国会対策のためには「何でもあり」の状況であることにより、障がい者制度改革の行方がまったく混沌となってきている。

障がい者制度
改革の背景


 推進会議は、六月七日に第一次意見書をまとめ、それを受け六月二十九日には「障がい者制度改革推進のための基本的な方向について」が閣議決定された。
 重要な点は制度改革の具体的な工程表が打ち出されたことだ。それによると、二〇一一年に障がい者基本法(障がい者福祉の理念をまとめたもの)の抜本改正案、二〇一二年に障がい者総合福祉法、二〇一三年に障がい者差別禁止法をそれぞれ国会に提出することになっている。
 急ピッチの障がい者制度改革の背景にあるのが、二〇〇六年に国連が採択した障がい者権利条約への日本の締結問題だ。条約の締結は、それに関わる国内法の改正が必要となってくるので、日本の遅れた障がい者制度の改革が迫られているのである。
 推進会議では改善すべき課題は約百項目以上あるとしており、部会やワーキンググループを組織して集中的な議論を行っている。その中で大きな問題になっているのが、障がい者の自立の権利、インクルーシブ教育の導入、障がい者の所得保障、「福祉的就労」の場における働く障がい者への労基法・最賃制の適用問題、そして障がい者差別禁止法に盛り込まれようとしている「合理的配慮がなされない場合は差別にあたる」という考え方である。

隔離・収容政策
からの決別を

 日本の障がい者福祉政策は、戦後一貫して障がい者を地域から排除して、山奥の施設に入れる「隔離収容」であった。東京都民の障がい者が秋田にある「都民施設」で三十年暮らしていたり、三十五万人もの精神障がい者が精神病院に入院(その多くが長期入院)しているという実態は、支援法施行後も大きな変化は見られない。
 国連障がい者権利条約第十九条では次のように述べている。
 「障がい者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活様式で生活する義務を負わないこと」
 同条約を締結するということは、「特定の生活様式で生活する」入所施設や精神病院のありかたの大転換なしにはありえないし、またそのように運動的に迫っていくべきであろう。

文科省のインク
ルーシブ反対論


 推進会議の第一次意見書では、教育の分野について次のように述べている。
 「障がいの有無にかかわらず、すべての子どもは地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とし、本人・保護者が望む場合のほか、ろう者または盲ろう者にとって最も適切な言語(手話を指す)やコミュニケーションの環境を必要とする場合には、特別支援学校(旧養護学校)に就学し、又は特別支援学級に在籍することができる制度へと改める」。
 国際的なインクルーシブな教育(共に学ぶ)の流れに日本も合流していくことを打ち出しているわけだが、分離教育を推進してきた文科省はこれに立ちふさがり、あらんかぎりの手練手管を動員した抵抗を行っている
 文科省が立ちげた中央教育審議会特別教育のあり方に関する特別委員会は、十一月十九日に論点整理を発表し、その中でインクルーシブな教育の理念には「基本的に賛成」としながらも、「発達障がいを含め、特別支援教育の更なる環境整備が必要」「特別支援学校のセンター的機能を一層活用することが必要」と分離教育死守を宣言している。
 障がい児を地域の学校から排除して守ろうとしている「教育秩序」とは一体何であろうか?

自立生活可能
な所得保障を

 現在の障がい基礎年金は一カ月に二級で約七万円、一級で約八万円であり、最低限度の生活を保障するとした生活保護の水準を大きく下回っている。支援法導入時に「一割の自己負担を求めるかわりに年金額の増額も検討する」との国会付帯決議がなされたわけだが、一向に前進していない。二〇一三年に提出を予定している年金制度改革にむけ、この問題に取り組ませることが極めて重要だ。また在日外国人障がい者の無年金問題も取り上げさせるべきである。

障がい持つ労働
者の権利保障を


 不況下で障がい者の解雇が相次いでいる。リーマンショック以降に約五万人の障がい者が職を奪われたといわれている。一番弱い立場の障がい者が真っ先に解雇の対象になっている。
 一方、就労支援型の通所施設で働く障がい者が、労基法や最賃制の適用除外になっている問題も解決にむけた取り組みが必要だ。これまで厚労省はこの問題について「ここは福祉的就労の場で、障がい者は職業訓練を受けているのであって、労働者ではない」との苦しい言い逃れをしてきた。
 この問題に対し、二〇〇七年に全国福祉保育労働組合がILOに「職業リハビリテーション及び雇用(障がい者)に関する条約(第159号)に違反している」との提訴を行った。ILOは同条約に違反しているとまでは認定しなかったものの、福祉的就労については同労組の主張をほぼ認めている。
 いわゆる福祉的就労の場で働く障がい者の給与(通常「工賃」と呼ばれている)は、全国平均で月約一万二千円であり、一日五時間労働が主力であるため、時給換算すると約百十円となる。許せないことに、支援法はここに一割の自己負担を課したのである。そして通ってくるための交通費は自己負担であるから、手元には何も残らない。最悪の場合支出が上回る。
 支援法に多くの障がい者が怒ったのは実に当然だ。
 この問題の解決には、賃金補填やイタリアなどの「社会的事業体」を立ち上げるといった大胆な政策を構築する必要がある。これにはベーシックインカムの考え方や、資本主義社会における対抗的な「もうひとつの働き方」といった、「根源的な」という意味でラジカルな問題が含まれている。

障がい者差別
禁止法制定へ


 東京大学大学院の川島聡は、障がい者差別を@直接差別 障がいに表面上言及した別扱いで、障がい者に不利をもたらすもの。A間接差別 障がいに表面上言及しない別扱いで、障がい者に不利をもたらすもの。B合理的配慮の否定 過重な負担を伴わないにもかかわらず、例外措置を講じないことによって、障がい者に不利をもたらすもの。と三つに分類している。
 間接差別については、たとえば女性が働くにはむずかしいハードルを設けて、実質的に女性を職場から排除することなどがあげられる。
 では合理的配慮の否定とは何かと言うと、たとえば、入試で視覚障がい者が受験することが分かっていながら点字の試験問題を用意しない、公共施設に階段しかなくエレベーターの設置を長年怠っているケースなどが上げられよう。
 合理的配慮の概念が盛り込まれた障がい者差別禁止法が成立すれば、以上のような例は同法を根拠に訴訟を起こすことが可能になる。現にアメリカでは、一九九〇年のADA法(障がいをもつアメリカ人法)施行後に「障がい者への合理的配慮がなされていない」との訴訟が相次いでいる。
 障がい者三法は果たして成立するのだろうか?民主党政権の終わりとともに障がい者三法作りが頓挫し、「ああ!あれは一時の夢だったのか」とならないように、政党を強制するような強固な運動の力が求められる。

 (注)インクルーシブとは「含んだ 包括的な」の意。インクルーシブな社会とは、障がい者が、その障がいを理由に社会から排除されたり、単なる保護の対象として扱われるのでなく、健常者と同じ権利を持った社会の一員として包含される社会をいう。
       (赤井岳夫)


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