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   かけはし2011.1.1号

将来の消費税増税に道を開く

2011年度税制改正大綱の問題点
財界が主導する「新成長戦略」とタイアップする菅政権

今回は法人税減税
次回に消費税増税

 菅民主党政権は海上保安庁のビデオ流出をめぐる仙谷官房長官と馬淵国交相の問責決議、柳田法務相の舌禍事件による辞任などで揺れ続け、かろうじて十二月三日補正予算を成立させ臨時国会を乗り切った。次の最大の課題は年末に予定されている二〇一一年度の予算案の作成であり、この基礎となる二〇一一年度税政大綱の取りまとめである。
 これに先立って十二月十日、菅首相が本部長をつとめる政府・与党社会保障改革検討本部の会議が開かれた。この会議は基礎年金の国庫負担割合を再び三分の一に戻すのか二分の一を維持するのかという財務省と厚労省の対立に対して、「二分の一を維持する」という基本方針を決定した。基礎年金の給付費と保険料は国庫(税金)で支えられている。国庫負担割合の二分の一を維持するために必要な財源は約二・四兆円である。二・四兆円という額は消費税の一%に相当し、かつ社会保障費自身は高齢化のために毎年一兆円ずつ増えると見込まれている(厚労省試算)。
 去年民主党政権は三分の一から二分の一に修正した時、その財源を「事業仕分け」に求めた。しかし四年間で十六兆円をつくり出すという見込みは大きくはずれ一年目は六千八百億円にとどまり、結局一時しのぎの「埋蔵金」と赤字国債に依拠せざるを得なかった。この「行き詰まり」を政治的に突破しようとしたのが参院選における菅首相の消費税増税発言であった。だが民主党の敗北によって消費税増税は封印され、二・四兆円と毎年増え続ける社会保障費の財源をどうするのか、これに対する政治的結論なくして二〇一一年度予算案の作成に手をつけることはできなかったのである。加えて、子ども手当てや農家戸別補償制度などのマニフェストにあげたバラ撒きも残っている。
 十二月十日の検討本部の出した基本方針は、「消費税」の文字を避けながらも「二〇一一年半ばまでに成案を得、国民的合意を得たうえで実現を図る」と明記している。さらに抜本的税制改革の実現に当たっては、「国民の理解と協力が必要」であり「一つの党の力では困難である」とも記している。この基本方針を発表した記者会見で菅首相は「幾多の政権で越えられなかった。何としても越えていく」と決意を語っている。つまり一度は封印してきた消費税増税を実質的に解禁したのである。
 しかしこれを遂行していくために巧妙な作戦がはりめぐらされている。菅政権は消費税増税のために新法をつくるのではなく、麻生政権時代の二〇〇九年三月に成立した税制改正法の付則一〇四条を使用することにしたのである。付則一〇四条では「二〇一一年半ばまでに税制改革案をつくって一三年度から消費税を実現させる」となっている。十一月十八日、菅首相は与謝野前官房長官と会談した。一部のマスメディアはすわ「連立か」と騒いだが、実際にはこの法案を作成した与謝野に対する協力要請であった。
 付則一〇四条を利用すると通常国会で二〇一一年度予算案の審議の際に消費税問題を避けることができるし、四月の統一地方選での影響も最小限度に抑えることができるというしたたかな計算がなされている。つまり労働者人民が最も関心の高い年金と社会保障制度を前面に出し、消費税増税を後に隠したのである。法人税の減税と消費税増税がいっしょになれば批判が渦巻くのは明白であり、二〇一一年度予算では法人税引き下げ、そして次の回に消費税増税と二段階に進めることを選択したのである。おそらく十二月十六日に出される税制改正大綱は法人実効税率五%引き下げで不足する一兆五千億円をどう捻出するかの帳尻合わせになるであろうことは明白であり、二〇一一年度の予算で生ずる財源不足は「埋蔵金」と「予備費」でつなぐことにしたのである。

日本の法人税は
すでにEU並み


 法人実効税率は通常四〇%と言われている。正確には国税としての法人税が二七・八九%、地方税が一二・八〇%(都道府県民税1・67%、市町村民税4・1%、事業税7・03%)でトータル四〇・六九%である。
 菅首相はこれを主要国の水準にまで引き下げると主張している。ちなみに主要国の法人実効税率をみるとアメリカ四一%、フランス三三%、ドイツ二九%、イギリス二八%であり、アジアでは中国二五%、韓国二四%、タイ三〇%、シンガポールと台湾が一七%。一見すると日本はアメリカとほぼ同率でヨーロッパ各国とはかなりの差があるようにみえるが経済学者内橋克人によるとヨーロッパにはほとんどない何種類もの優遇税制があり、それを合算すると七%にも達すると指摘している。さらに彼によると健康保険、厚生年金、雇用保険など企業が負担している社会保障費の率は日本が約三%なのに対してフランス七%、ドイツ八・五%、イタリア一一%で日本の二〜三倍も負担している。法人税、優遇税制、社会保障費負担を一体としてみると企業負担はすでにフランス、ドイツと同等かそれよりも少なくなっている。菅政権も財界も「主要国」を引き合いに出すがすでにアジア諸国をターゲットにして動き出しているのである。
 八〇年代半ば、自民党政権と財界が新自由主義的政策の推進に向かって舵をとるとそれと平行して法人税減税は一挙に進んだ。とくに八九年に消費税が導入されると基幹税は所得税・資産税から消費税に移り、この税構造に一層拍車がかかった。法人税は八〇年代の四二%から九〇年代には三七・五%に、九九年には三〇%となり地方税を合わせた法人実効税率は現在と同じ四〇%となり、約十年で五〇%強もあった税率は一〇%以上も引き下げられたのである。二〇〇〇年代に入ると法人実効税率の引き下げはなかったが、世間の批判や労働者人民の圧力をかわすために企業に対する優遇税制度が全面化した。とくに小泉政権の下では親会社・子会社の通算を認める連結納税制、研究開発減税や従来からの租税特別措置が拡充され、多くの分野で非課税措置が広げられた。
 新自由主義はたえず「国際競争」の掛声のもと政府には法人税等の減税を要求し、他方では非正規雇用など不安定雇用を労働者に強制した。その結果、今日に繋がる貧困の増大、格差の拡大をつくり出したのである。「政権交代」で新自由主義からの決別を期待された民主党政権は、今やその期待を投げ捨て財界が主導する「新成長戦略」を担い「強い経済」を掲げて法人税の引き下げに踏み切ろうとしている。法人税引き下げは民主党政権が資本や企業とともに全面的に新自由主義に突き進む宣言である。横浜APECでTPPへの検討を表明したのは決して偶然ではない。

五%引き下げ分
は内部留保金に

 菅首相は税制改正大綱の考え方として十二月十二日の記者会見で「企業が海外に行って雇用が失われることは経済にも雇用にもプラスではない。思い切って税率を五%下げて、雇用を拡大することで働く人の給料を増やして経済成長を促し、デフレを脱却する。そういう方向にしてもらいたい」と述べた。
 また、その方向で進むなら法人実効税率五%引き下げは三年間でGDPレベルで十四兆五千億円も押し上げ、法人税でも一兆四千億円も増収となるだろうと胸をはった。民主党のブレインたちは税率五%の引き下げで百二十万人の雇用が創出されるとも付け加えている。とらぬ狸の皮算用とはこのことだ。
 十二月六日、日本経団連の定例会見で米倉弘昌会長は「単年度の収支の原則だけに固執して問題を解決しようというのは非常に解せない。心外だ」と反発し、政府税調や財務省が主張していた欠損金の繰り越し制度の縮小についても「利益が上がらないと税金を払わないというのが原則」、さらに「揮発油税・石炭税のナフサ免税の見直し」などは一部の業界に不利に働くとして拒否の態度を明確にし、課税ベースの拡大に対しても「慎重にすべきだ」と釘をさした。この米倉発言の裏にあるのは次の事実である。日本において法人税を納めているのは三〇%に過ぎず、七〇%の企業が納付していない。大企業でさえ法人税を納付しているのは五〇%であり、金融業に至ってはさらにその数字は低い。
 だが十二月十三日、政府税調が法人税率五%引き下げを発表すると掌を返したように「支持」を表明し、米倉会長自身が大畠経産相を訪ね「投資に、雇用に努力する」と発言した。政府税調と財界はこの一週間一兆五千億円の法人減税に対して企業側がいくら負担するのか、どの点とどの項目を互いに容認するのか裏交渉を続けてきた。野田財務相が繰り返し「要請する側も汗をかいてもらわないと困る」と発言したのはこの事実を裏付けている。
 十二月初旬、毎日新聞の「社説」は経済産業省や民間シンクタンクの「五%の引き下げがどれ程の効果があるのか」というアンケートや調査結果を取り上げている。それによると「企業が今後海外移転を決める時に考慮する要素の一位は『消費地の近さ』や『安価な部品・原材料』であった。税率は六位に過ぎない」「また法人税引き下げで得た資金を何に使うかと企業に聞いた民間調査によれば、最多(25%)は『内部留保に回す』で、二位は『借金返済』だった」。つまり自動車、電機、機械などの製造業を中心とする国際競争の中にいる企業にとって税率はほとんど関係なく海外進出することが明らかになっている。多国籍企業は規模が大きくなるほどこうした傾向が強いことはあらゆるデータから証明されている。
 これを裏付けるようにリーマンショックで大企業が失った十一兆円の内部留保金は、正社員の非正規への置き換えと政府のエコ対策でこの三年間ですでに取り返し、内部留保金も全体で史上最高の二百四十四兆円に達しているというデータがある。この一方で中小零細企業や内需型赤字企業の倒産は依然として続いているのであり、失業者数も増加している。どう強弁しようとも「雇用拡大」を誰も信用しないのは当然である。

財源の五千億円
が見通したたず


 政府税調は二〇一一年度の税制改正のねらいは、法人税減税による雇用の拡大・デフレの脱却であり、この財源として個人増税を「富裕層」を中心に行い格差を是正すると力説した。さらに予算案を作成する際には歳出を九十二兆円以内に抑え、赤字国債は前年の四十兆円を超えないように枠をはめると繰り返した。なにが「民主党」らしいのか判然としないが、記者会見で菅首相は昨年とは違いようやく民主党らしい税制改正大綱ができたと自画自賛した。
 税制改正大綱は法人税の実効税率を五%引き下げるために必要な財源は国税で一兆二千億円、地方税が三千億円で合計一兆五千億円。このうち法人減税を実施するために企業が負担するのは国税で六千百億円、地方税で一千五百億円となっている。表面上は一見企業にとっても「痛み分け」のように見えるが企業にとっては実質七千億円の減税であり、その分を個人課税の増税と予備費、「埋蔵金」、さらには抜本改正でつくり出される資金(消費税)が充当される。
 法人減税の財源の中で企業が負担する一番額の大きいものは「欠損金の繰越制度の見直し」と「減価償却制度の縮小」でそれぞれ二千億円の増収が見込んでいる。欠損金の繰越期間を現在の七年間から九年に延期し、その上で所得と相殺できる金額を制限するというものである。これは控除額が大きかった銀行などの金融機関、保険、不動産業などがこれまで受けてきた恩恵の縮小を意味するが、別の側面からみると大手銀行などがバブル崩壊時に発生させた赤字処理が終わり、一定の税金が負担できるようになった状況を追認したに過ぎない。
 減価償却制度の見直しとは「加速度償却」を縮小することであるが、これまで企業は利益を税金として納めず次から次へと設備投資にまわしてきたが、これを多少税金にまわすということである。しかし実際は次から次に設備投資するあり方を企業自身が見直そうとしていることを「政策化」しただけである。
 二千億円という額は非常に大きいように政府と企業は誇張するが、シャープが亀山工場を閉鎖し、大阪の堺に新工場の建設を計画している費用よりもはるかに少ない。
 研究開発費問題では研究開発費の税額控除の限度額を法人税額の三〇%から二〇%に圧縮して七百億円の増収を予定しているが、これとて単に小泉政権以前に戻すだけである。
 問題の核心は個人課税の増税分である。ここでは何度も「富裕層」が強調され、年収千五百万円を超す高額所得者の給与控除の上限を二百四十五万円で頭打ちにすると言っている。しかしこの層は給与所得者のうち一・二%に過ぎず、対象者も全国で五十万人にも満たない。また年収五百六十八万円を超した場合にも成年扶養者控除を廃止するとなっているが、これとて対象者は全国で三%約百十万人である。
 「富裕層への増税」が、今回はあくまでも「給与控除」だけであり、所得税全般にメスを入れるものではなく、「格差是正」とは程遠い。八〇年代半ばのピーク時所得税と住民税を合わせた最高限界税率は九三%に達していたが、現在は五〇%に引き下げられている。今回の「富裕層」はしょせん将来の抜本改正=消費税増税のための政府のアリバイに過ぎない。
 相続税でも基礎控除を四割に圧縮し最高税率も五〇%から五五%に引き上げているが、一億円近い相続がない場合その税額はほとんど差は出ないと試算されている。生前贈与税の対象枠も広げているが、これではほとんど増収にならないと専門家は指摘している。
 政府税調の「皮算用」的試算はともかく、個人課税の増税で確保できる財源は二千億円にとどまると言われている。民主党は三歳未満の子どもに一万三千円にプラスして七千円増額するとしているが、そのために必要な原資は二千五百億円、つまり子ども手当てにも足りない。結論的言うと「残り五千億円は赤字国債と将来の抜本税制改革で生じる増収分が頼り」なのであり、二〇一一年度と税制改正大綱予算案は最初に述べたように将来の消費税増税が前提なのである。
 また新たに出されている環境税もその使い道は二酸化炭素問題や環境対策とは程遠く、財源不足の穴埋めとして一般会計へ組み込むかどうかをめぐって省庁の利権争いが続いている。一事が万事この調子で、閣議決定された大綱は雇用拡大にも財政再建にも無縁である。ただただ財界の「新成長戦略」を後押し、消費税増税までのつなぎ、法人税減税のための財源探し、数字合わせに過ぎない。
 だがこうした本質を隠したとしても支持率が低下している菅政権に対して野党はやすやすとは協力しないだろう。逆に菅政権を追い込む武器とすることは明白である。自公やみんなの党は、問責決議した仙石官房長官や馬淵国交相の罷免なしに審議会には参加しないと公言しており、さらに小沢一郎の政治倫理審議会への出席問題で民主党内は揺れ動いている。それは一歩間違えば民主党の分裂に発展しかねない。今や与党にも野党にも「国民の生活」というものは眼中にない。
 われわれは消費税増税に道を開く税制改正大綱に反対していくとともに、企業のために一層労働者人民に犠牲を押しつける二〇一一年度予算案の廃案をめざして闘わなければならない。(松原雄二)


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