| 「新安保懇」報告を批判する(下) かけはし2010.9.20号 |
自衛隊リストラと「民間活力」
「新安保懇」報告第三章は「防衛力を支える基盤の整備」である。ここでは「人的基盤」「物的基盤」「社会的基盤」の三つに分けて、それぞれの「整備目標」について書かれている。
第一の「物的基盤」については、全体としての財政状況、「少子高齢化」問題などを背景に「防衛予算が大きく伸びるとの想定を置いて今後の防衛力を考えることはあまり現実的でない」とした上で、「複合事態に実効的に対処できる態勢」を維持するための「人的戦力の確保が決定的に重要」としている。
そのためには、「現場指揮官クラスの尉官を含む幹部の平均年齢が高くなって」いることを改め、「複合事態にシームレスに対処する」ためには「精強性(そのためには若く体力のある隊員が必要)と技術、熟練、専門性(たとえばサイバー防衛)をうまくバランスさせた人的基盤を整備しなければならない」と主張する。つまり若返りとともに電子戦などの専門技術能力を備えた隊員の確保が緊急の課題であり、そのためには「早期退職制度等の活用」によって、高齢化した隊員のリストラが必要だということになる。
さらに「民間活力の有効活用」もうたわれる。戦闘任務に就き、職務に危険が伴う特殊任務以外の「人事、会計、施設管理等の管理業務、装備の維持整備等については、経費効率を考えつつ民間活力の有効利用をさらに進める」というこの主張は、軍民の垣根を超えた自衛隊の人的基盤の交流・拡大を促進しようとするものである。また「早期退職」させた隊員を「警察・消防・海上保安官・その他の公務員へと転身するための支援を充実させる」としていることは、自衛隊と警察・消防などの治安・防災活動の一体化を促し、警察・消防を自衛隊の傘下に組み入れる効果をもねらったものだろう。
その上で退官した自衛官に対して「国として、相応の栄誉をもって報いる」ことが強調され、「退官後の制服着用や呼称、叙勲のあり方」について検討」するよう示唆していることは、「軍人への尊敬」強制をふくむ社会の「イデオロギー的軍事化」を支えることになる。
「物的基盤」については、前号で紹介した「武器輸出三原則」見直し、積極的な武器「国際開発・共同生産の活用」にかかわるものであり、ここでは詳述しない。しかしロケット、衛星など宇宙産業分野を含めて、最新軍事テクノロジー分野での戦略的投資が日本資本主義にとっても国際的競争に勝ち抜く重要な領域であることを支配階級は強く意識せざるをえないことには再度注意を喚起すべきである。
基地の共同使用と住民理解
「防衛力を支える社会的基盤」の項に移ろう。
「報告書」は「自衛隊や日米同盟は、国民一般の支持と、防衛施設所在地域の住民の理解や支援なしには有効に機能しえない」ことを確認し、「国民とのねばり強い対話を通じてコンセンサスを作り上げる、絶え間ない努力」を訴える。「地域からの協力が得られなければ、部隊の存立そのものが危うくなると言っても過言ではない」と言い切っている。
さらに「過疎地域に置かれた自衛隊の基地・駐屯地の存在は、各種災害への対応等、地域住民の安心・安全の要となっているし、地方の高齢化が進む中、若者を地方に再配分するという機能も果たしている」との文言もある。「過疎対策」「地域活性化」対策としての自衛隊というわけだ。実際、北海道などでは以前から人口減による財政難に悩む地元の自治体が自衛隊基地の廃止に反対の要望書を出す動きが報じられていた。
また「米軍再編」による米軍基地の自衛隊との「共同使用」が促進され、米軍と自衛隊の作戦運用面での一体化が進んでいるが、報告書は「住民理解」のためにも米軍基地への自衛隊の移駐・「共同使用」の意義を訴えている。
「施設の日米共同使用により、自衛隊と米軍の関係強化を図ることができるのはもちろんだが、さらに米軍と地域住民の間に自衛隊が介在するような関係を構築すれば、両者の文化の相違(日米の文化の違い、軍人と一般市民の文化の違い)をより適切に調整できるようになることが期待される。地域住民にとって目に見える負担軽減策として、日米両政府が共同使用の問題に積極的に取り組むべきことを提言したい」。
米軍基地の自衛隊との共同使用とは、米軍の指揮・作戦系統に自衛隊をいっそう従属的・機能的に統合し、自衛隊が米軍の一部隊としての役割を果たすことを意味している。しかし報告書は、基地の「日米共同使用」によって自衛隊が地域住民との関係でクッションの作用を果たすことを期待し、それを「住民の負担軽減」だなどと強弁しているのだ。
したがって逆に住民による、基地や頻発する米軍犯罪への一貫したねばり強い反対運動の継続がきわめて重要な役割を果たしうることを、同報告書は述べているのである。
危機管理と情報機能
「第四章 安全保障戦略を支える基盤の整備」は、冒頭で「内閣の安全保障機能の強化・危機管理体制の基盤整備」を主張している。そのために内閣危機管理監を中心とする内閣の安全保障機構が、「武力攻撃事態や周辺事態、あるいは大規模なサイバー攻撃といった事態を想定し、平素から、政府全体としての総合的な演習を定期的に実施することにより、現行態勢の問題点を洗い出すとともに、平時から有事への国としてのシームレスな対応が確保できるよう所要の改善措置を講じていくべきである」とされる。すなわち内閣はつねに「戦時」を想定した態勢に移行できる準備を怠ってはならぬ、ということだ。そのために法改正をして米国の「国家安全保障会議」(NSC)に準じる新機構を設置すべき、との提言がなされている。
次に提起されているのは「情報機能の強化」である。そこでは今後、特に力を入れるべき領域として「宇宙やサイバー空間の状況監視、対外人的情報収集(ヒューミント)」が挙げられ、「中長期的に安全保障を目的とした衛星システムの整備に取り組む必要がある」とされる。また「陸域・海域観測衛星、海洋探査、地理空間情報システムを整備し、日本とその周辺における海洋監視能力を向上させる必要」も提起される。また衛星監視システムを軸にした「対テロ」作戦、中国の外洋潜水艦を主要な対象にした索敵・対応能力の飛躍的強化が勧告されている。
こうした恒常的な「複合事態対処」=「平時」と「有事」の区別を取り払った戦時即応体制のためには、旧来の「安全保障戦略策定」方式の転換が問われており、有識者懇談会方式ではなく「常設的」な戦略機関が求められ、その委員である「有識者」は「みなし公務員」として「守秘義務」を課し、秘密情報を共有できるようにすることが必要とも提言されている。
報告書が述べる新たな「危機管理・安全保障行政」の効率的推進のためには、「オールジャパン体制の構築」が必要だとされる。すなわち省庁間、政府・自衛隊と地方自治体の協力、「国際平和協力活動」でのNGOや経済界との「民軍協力」の実績を積み上げ、「オールジャパンとしての平和構築能力を高めていくべき」というのだ。
ミサイル防衛とPKO
「新安保懇」報告が最後に訴えているのは、「現状および近い将来において、日米安保体制をより一層円滑に機能させていくためには、改善すべき点が存在するが、その中には自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈とのかかわりがある問題も含まれている」ということである。
ここでは具体的に「日本防衛事態に至る以前の段階で、日米共同オペレーションに従事する米艦にゲリラ的攻撃がしかけられた場合」「日本のイージス艦がハワイ等米国領土に向かう弾道ミサイルを迎撃する場合」を想定している。報告書はいずれもこれまでの政府解釈では、防護や迎撃が自衛艦には認められていないと嘆いている。そして「平時と有事の間の明確な線が引きにくい事態が想定される21世紀の安全保障環境と軍事技術状況を前にして、20世紀的な解釈や対応には限界がある」と断じ、「憲法論・法律論からスタートするのではなく、そもそも日本として何をなすべきかを考える、そういう政府の意思が決定的に重要である」と、「集団的自衛権」の行使に関する従来の政府統一見解の変更を促すのである。
PKO活動に対しても同様の提言がなされる。
「日本の国際平和協力の実施体制は、冷戦終結直後に作り出されたPKO参加五原則(参加五原則)に基づいており、時代の流れに適応できていない部分がある」。
現在のPKO協力法の「停戦合意」「受け入れ同意」「中立性」の原則は「脆弱国家や破綻国家における紛争の場合、参加する必要性が認められ、能力的に参加が可能でも、形式的に基準に合致しない部分がある」。
「参加五原則は、『武器の使用を要員の生命等の防護のために必要最小限』に制限しているが、複雑な法解釈を熟知した上での対応を求めることで、現地に送りだす個々の自衛官にかなりの負担を強いている。また、業務が限定的になってしまうため、参加可能なPKOが限られ、あるいはPKO部隊の派遣に際して過度に慎重にならざるを得ないなどの事例が起きている」。
さらに報告書は述べる。
「そもそもPKOは国際紛争を解決するための武力の行使ではない。したがってこうした武器使用(住民・避難民保護、文民警護のための武器使用)は、海外における武力の行使とは無関係であり、自衛隊の任務として他国の要員の警護を追加すべきである。同様にPKO活動に参加している他国の活動に対する後方支援もまた『武力の行使との一体化』とは無関係であり、自衛隊の任務として当然認められるべきである。こうした点は、国際的な常識や基準に照らし合わせて、必要であれば従来の憲法解釈を変更する必要がある」。
そしてその仕上げとして、テロ特措法、イラク特措法、海賊特措法などの特措法法式ではなく「国際平和協力活動に関する基本法的な性格を持つ、包括的かつ恒久法的な法律を持つと言うことが極めて重要である」と結論付けるのである。
引用してきたように「新安保懇」の報告は、「憲法論・法律論からスタートするのではなく」と語りながら、積み重ねられてきた自衛隊海外派兵の違憲の現実に合わせて「集団的自衛権」等の憲法解釈の変更を促し、それを引き金にしながら明文改憲の宿願を一気に手繰り寄せる構造となっている。
これは安倍政権時代の「安保法制懇」報告や麻生政権時代の懇談会報告よりも、はるかに包括的な、米軍の「対テロ」戦争と一体化した海外派兵を自衛隊の「本務」とする時代のグローバル安保戦略なのである。
沖縄の闘いと安保破棄
菅首相は六月十一日の所信表明演説で、「責任感に立脚した外交・安全保障政策」「『現実主義』を基調とした外交」を主張し、「日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と平和を支える国際的な共有財産」と強調した。「対等な日米関係」を掲げ、「普天間『代替』施設」の「県外移設」を公約とした鳩山政権が、米国政府の厳しい恫喝と外務・防衛官僚の巻き返しによって尻尾を巻いて「辺野古移設」に舞い戻り、ついには政権を投げ出さざるをえなくなった後を継いだ菅民主党政権は、「日米同盟」について自民党と異なるどのような独自性も打ち出しえなくなってしまった。
民主党政権として初めての安保・防衛問題についての「有識者懇」答申は、かくして米戦略のコピーしか作れない外務・防衛官僚の言いなりとなり、米国の戦争に「シームレス」に組み込まれる結果となったのである。
さらに海外派兵についての「包括・恒久法」については、民主党は以前から「国連決議」を前提とした上で、自民党より先行して主張してきたのだった。
二〇〇七年十二月に自公政権による「新テロ特措法案」への対案として民主党が提出した「アフガニスタン復興支援等に関する特措法案」は、「国連平和貢献」を名目としたアフガニスタンへの自衛隊派兵のためのものであったが、同対案の二十五条は「国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主導的に寄与することを含む我が国の安全保障の原則に関する基本的な法制の整備が速やかに行われるものとし、当該法制の整備において、日本国憲法の下での自衛権の発動に関する基本原則及び国際連合憲章七章の集団安全保障措置に関する基本原則……が定められるものとする」と、わざわざ恒久派兵法の制定を主張していた。
そしてこの点こそ、二〇〇七年七月参院選での民主党大勝を受けた「衆参ねじれ国会」の下での「福田・小沢会談」による「大連立」構想の要点だったのである。昨年総選挙で成立した民主党政権は、「政治主導」を掲げて国会法の改悪をもくろみ、その中で政府特別補佐人から内閣法制局長官をはずす案を持ち出してきた。それは内閣法制局長官が「集団的自衛権」行使等の憲法解釈において内閣の手足を縛ることを排除する目的であったことは言うまでもない。
その意味で今回の新安保懇報告は、民主党の政策との整合性を十分に持ったものである。
九月十日の閣議で報告された二〇一〇年度版「防衛白書」は、中国の軍拡と沖縄近海をはじめとした中国海軍の行動を「懸念事項」とし、朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)を「重大な不安定要因」とした上で日米韓の軍事的連携の強化を強調している。そして沖縄の米軍基地問題に関しては「海兵隊ヘリ部隊を、沖縄の他の部隊と切り離せば、機能を損なう懸念がある」として辺野古新基地建設案を正当化したのである。
今年十二月に策定される「新防衛計画大綱」と「中期防衛力整備計画」は、今回の新安保懇報告を下敷きにしたものとなるだろう。労働者・市民は、何よりも「普天間基地即時返還」「辺野古新基地建設阻止」を掲げた沖縄の人びとの闘いと固く結びつき、沖縄反基地闘争の勝利をともに目指そうとすることを通じて、「新防衛計画大綱」や「中期防」に表現される日米同盟=「米軍再編」の現実に立ち向かい、安保条約の破棄を前面に打ち出した運動を作り出そう。
九月十二日投票の名護市議選は、「辺野古移転阻止」を強く訴える稲嶺市長支持の候補が大きく議席を伸ばし過半数を獲得した。秋の攻防戦の緒戦に沖縄の人びとは勝利した。さらに十一月二十八日投票の沖縄県知事選で伊波洋一候補(現宜野湾市長)の当選を勝ち取り、「普天間撤去」「辺野古新基地断念」「在沖米軍基地撤去」の展望を手繰り寄せよう。
(平井純一)
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