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「円高・株安」と世界経済危機              かけはし2010.9.6号

核心は労働者階級の闘い

「新成長戦略」の破綻を直視し資本の攻撃に抵抗する陣形を


規制緩和・減税
を叫ぶ大資本

 進行する「円高・株安」状況の中で八月二十四日の東京証券市場は一年三カ月ぶりに九千円台の大台を割り込んだ。同時に円相場も一ドル=八十三円六十銭台、一ユーロ=百五円四十銭台まで上昇し、それぞれ十五年二カ月ぶりの円高ドル安、八年十一カ月ぶりの円高ユーロ安となった。
 国際的金融投機筋による円買い・ドル売り、ユーロ売りによって急激な円高が誘導され、輸出による日本経済の景気回復に深刻な悪影響をもたらすことに危機感を抱いた資本家からは、政府・日銀の「無策」を批判し、いっそうの「金融緩和」を促す声が相次いだ。メディアや自民党などの野党も民主党代表選をめぐるゴタゴタによって政府の対策が遅れていることを激しく叩いた。
 こうした圧力によって日銀は八月三十日、臨時の金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和を決定した。その内容は昨年十二月に導入した新しい資金供給手段(新型オペ)の規模をこれまでの二十兆円から三十兆円にまで拡大し、年利〇・一%という事実上のゼロ金利でなされる上積み分の貸出期間を、従来の三カ月から六カ月へ延長することを骨子としている。
 同日政府は経済関係閣僚会合を開いて、円高・株安による景気後退を食い止めるためとして、「経済政策の基本方針」を決定した。その中身とは、雇用・投資・消費・防災・規制改革の五分野で省エネ住宅・家電のエコポイント制度の延長、卒業三年以内の青年を「新卒者」と見なし、試験的に若者を雇用した企業に奨励金を出す「トライアル雇用制度」の拡充、環境分野の工場の国内立地を促す補助金制度などからなっている。
 しかしこうした緊急措置が一定の効果をもたらす可能性は、きわめて低い。財界からは、企業の投資促進のためには「規制改革の断行や法人実効税率の見直しが必要」(経済同友会・桜井正光代表幹事のコメント)など、さらなる規制緩和・法人税引き下げを求める動きが加速されている。同時にこの「円高・株安」状況は、企業の生産拠点の海外立地、国内工場の閉鎖への流れをさらに加速するだろう。
 八月三十一日の日経新聞社説は、政府の「円高対策」を批判し「新成長戦略の前倒しを」と主張して、次のように述べている。
 「製造業派遣や登録派遣を原則禁止する労働者派遣法の改正や、期間を定めて雇用契約を結ぶ有期契約労働の規制強化など企業の雇用意欲をそぐ制度改正の動きが政府内にあるのは誤りだ」「持続的な成長や雇用拡大に必要なのは6月に決めた新成長戦略を早く実施し、萎縮した企業心理を改善して成長分野への投資を促すことだ」。
 実に露骨な資本の意思の代弁である。
 労働者・市民の立場は、資本と一緒になって「円高・株安」への「早急な対策」を求めることではない。大資本は、すでにこの「円高」構造については織り込み済みである。しかし大資本は危機を口実に、中小下請け企業や労働者に対してさらなる犠牲を強制している。必要なことは、「円高・株安」の構造を理解して大資本に対する闘い、国境を超える闘いの陣形を準備しようとすることなのである。

「長期停滞」と
新たな保護主義

 今年になってからの「円高」とそれによる「株安」の流れは、明らかに世界的な経済危機の新たな深まりに起因している。とりわけアメリカやEUは、二〇〇八年の世界的な金融・経済恐慌からの回復の遅れ、新たな危機の爆発を輸出の拡大によって防ぐために、「ドル安・ユーロ安」を意識的に容認し、促しているのである。
 主要資本主義国の中央銀行トップが毎年集まる米ワイオミング州ジャクソンホールでの国際経済シンポジウムが八月二十八日に終わったが、同シンポを支配したのは、公式に語られる「緩やかな景気回復」への楽観ではなく、「長期停滞への不安」だった。
 「今回のシンポジウムは、先進国経済が直面する問題の根が深く、財政・金融などのマクロ政策の限界が近づいている現状を確認する場となった。長期低迷の懸念が払拭できなければ、通貨安容認などの『暗黙の保護主義』が一段と深刻になりかねない。複数の米国側出席者にその点を問うと、こんな素っ気ない答えだけが返ってきた。『ドル安は米経済にとってプラス』」(日経新聞8月30日)。
 為替安定化のための国際的な「協調介入」ではなく、輸出のための「通貨切り下げ」競争――危機の長期化の中で各国政府は、「二番底・三番底」を回避するための輸出拡大に活路を見出すために血道を上げており、その現れが「ドル安・ユーロ安、円高」の意識的誘導なのだ。
 こうした国際的な「新たな保護主義」は、各国支配階級の延命をかけた抗争であり、その背景にはリーマン・ショックを契機にした二〇〇八年〜〇九年の恐慌局面から本格的な脱出を果たし得ない資本主義の危機がある。米国経済の停滞、ギリシャを発火点にしてEU全体に波及した「国家破産」が、日本の「円高・株安」と深く関連している。

債務危機と
金融大収縮

 毎日新聞社の週刊『エコノミスト』8月17・24日合併号は「世界経済危機白書」を特集として組んだ。同特集の巻頭論文は草野豊巳(草野グローバルフロンティア代表)の「世界はこれから未曾有の金融大収縮時代に入る」。
 「世界が直面している危機の本質は、過去10年間に膨らませてきた膨大な借金への大きな『代償』と、これから向き合わなければならないということだ」。「21世紀の世界の繁栄は民間部門から公的部門まで借金で消費し、借金で投資する経済によってもたらされてきたのだ」。
 主要十カ国(G7+スペイン、韓国、スイス)の名目GDPは二〇〇〇年の二十二・五兆ドルから二〇〇八年の三十三・八兆ドルへと八年間で十一・三兆ドル増えた。しかし債務総額は二〇〇〇年の七十・八兆ドルから二〇〇八年の百十一・五兆ドルへと名目GDPの四倍、四十・七兆ドルも膨らんだ。
 このグローバルな借金経済について、草野はさらに述べる。
 「いかに世界が借金で投資してきたかは、世界のGDPと金融資産の対比で見るとよくわかる。80年には、金融資産総額は12兆ドルと世界のGDPとほぼ同じ規模であったが、90年には、金融資産総額は43兆ドルと世界のGDPの2倍になった。だが、00年代に入ると金融資産総額は世界のGDPの3倍(00年)からピークには3・5倍(07年)まで膨らんだのだ」。
 「世界の店頭デリバティブ(金融派生商品)の契約残高総額はさらに肥大化した。世界の店頭デリバティブの契約残高総額は00年には95兆ドルと金融資産総額の112兆ドルより少なかったが、08年6月のピーク時には684兆ドルと金融資産総額の4倍、世界のGDPの10倍を超える規模にまで膨張した」。
 それは借金による投資であり、米国にその構造が最も集中的に表現されていた。そしてこうしたあり方が「米国発世界恐慌」として爆発したのが、二〇〇八年九月の「リーマン・ショック」だったのである。
 この金融危機対策として、米欧は莫大な国家的資金供給を行った。民間部門の債務救済のために公的債務を異常なまでに膨れ上がらせたのである。しかしそれは決定的な限界に到達している。公的債務の圧縮が米欧日の先進資本主義国家の共通の喫緊課題となった。
 「この10年間の金融部門、個人部門、企業部門、公的部門が債務を増やし、債務によって消費や投資を拡大し、市場や経済が膨張してきた『レバレッジ(債務膨張)の時代』は終わりを告げた」。「債務による消費や投資を縮小し、市場や経済が収縮する『デ・レバレッジ(債務圧縮)の時代』へ突き進むことになる」。
 このように草野は述べる。こうした分析は、「新しい成長戦略」による「強い日本・元気な日本」の実現という財界、そして自民党、みんなの党から民主党、さらには社民党や共産党にまでいたる「日本経済再生」論の楽観主義に冷や水をかけるものだろう。しかし草野は「市場・経済の収縮」をもたらす「緊縮政策」が何よりも労働者階級、労働組合への攻撃の激化として現れることに絶対に触れようとしない。

国際連帯の力で
反撃に移ろう

 われわれがこの危機の中で強調しなければならないことは、なによりも解雇・賃下げ、年金・福祉の切り捨て、権利の剥奪として現れる資本の攻勢に対する労働者の抵抗を掘り起こし、共同の闘いとして一から組織しようとする意識性である。そしてまさにこの点こそ、今年二月に開催された第四インターナショナル第十六回大会の情勢討論の冒頭報告で強調された核心的テーマだった(本紙4月19日号、「世界情勢決議討論冒頭報告」[上])。
 新自由主義的グローバル化を主導してきた金融投機=「カジノ資本主義」の破裂は、巨額の国家財政の投入による金融資本の救済により「ゆるやかな景気の回復」をもたらしたかに見えたが、それはギリシャに代表される国家財政の爆発的危機の波及とともに、新たなレベルでの金融・経済危機の引き金になろうとしている。国家財政の破綻は民営化・失業・公共サービスの解体、福祉切り捨ての大波が公務員労働者から始まって全労働者を直撃している。
 労働者にとって必要なことは新しい景気対策を資本とともに要求することではない。この攻撃を最も厳しく受けている非正規労働者、女性・若者・高齢者、農漁民、移住労働者、そして中国ホンダの労働者のストライキ闘争に示される進出企業の現地労働者とともに闘い、その要求を共に実現していくことなのである。(8月31日 河村恵)


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