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「女性国際戦犯法廷」判決全訳刊行記念シンポ開く   かけはし2002.11.4号より

女性への日常の暴力・戦時下の暴力

――ハーグ判決をどう生かすか――

  十月二十日、早稲田大学国際会議場で、「女性国際戦犯法廷」判決全訳刊行記念シンポジウムが開催された。主催は「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW―NETジャパン)。このシンポジウムは、緑風出版から刊行されてきたシリーズ「日本軍性奴隷制を裁く二〇〇〇年女性国際戦犯法廷の記録」が、二〇〇一年十二月のハーグ最終判決の判決文を掲載した第六巻をもって完結したことを記念して開かれたものである。会場には約百人が集まり、ハーグ判決の成果を生かす運動のあり方について討論した。

女性国際戦犯法
廷の画期的成果

 「女性国際戦犯法廷」は、アジア太平洋戦争で日本軍の「慰安婦」として性奴隷にされたり、集団レイプの犠牲となったアジアの女性たちの、被害への謝罪と補償・責任者の処罰を求める叫びに応える「民衆法廷」として、二〇〇〇年十二月八日から十二日まで東京で開催された。
六カ国の被害者約七十人が出席し、旧ユーゴ国際戦犯法廷の前所長や国際的に著名な法律家や法学者が裁判官や検事となって審理が進められ、日本国家の賠償責任と天皇を最高責任者とする軍指導者に有罪の判決が下された。二〇〇一年十二月四日には、ハーグで最終判決が出された。それは今日も世界各地の戦場で繰り返されている戦時性暴力やドメスティク・バイオレンスなど日常の女性への暴力と闘うための論理を、具体的な法理論として提起する画期的な内容となっている。
集会の最初に、報告者に予定されていたVAWW―NETジャパン代表の松井やよりさんが末期の肝臓がんに冒され、報告できなくなったことが伝えられ、「友人の皆様へ」と題するメッセージが読みあげられた。

病床の松井やより
さんに代わって

松井さんに代わって、東海林路得子さんが、「極東裁判はジェンダーの視点が欠落し、本当の責任者である天皇を裁かなかったために、いまも日常生活のすみずみまで否定的影響が続いている。女性国際戦犯法廷は、極東裁判が裁かなかったこの二つを裁いた」と述べ、ハーグ判決までの経過を報告した。
続いて、「女性国際戦犯法廷」全記録責任編集者の池田恵理子さんが、「全記録」の刊行について報告し、「いまの研究の集大成として、実にたくさんの新しい事実を記録することができた。今後も多くの場で使われるようになっていくだろう」と語った。

「生かす」ため
にシンポジウム

パネルディスカッションの報告者は、東京・強姦救援センター法律アドバイザーの角田由紀子さん、ウイメンズカウンセリング京都代表の井上摩耶子さん、『男性神話』などの著作で男社会を告発してきた作家の彦坂諦さんの三人。
角田さんはまず、国際的に見てジェンダー認識に関して極めて遅れている日本社会の中で、裁判所と司法関係者が最も遅れている現実を、DVD法をめぐるアンケート調査の結果から指摘し、「この裁判官たちが司法の現場にいるところから出発しなければならない」と述べた。
 そしてハーグ判決が提起した、「理性に支えられておらず、自主的でなく、十分な情報が与えられず、社会的援助に支えられていない場合は『同意』は有効性を持たない」という「『同意』の有効性」をめぐる論理や、「対価の支払いと強制性は無関係である」という論理を、日本の司法の中で積極的に使うことで「裁判所を理論的に説得し、現実的な救済を勝ち取っていかなければならない」と述べた。さらに「日本の法体系をハーグ判決の理論からジェンダー的に変えていくことが必要だ」と訴えた。
 井上さんは、「女性国際戦犯法廷」とハーグ判決が、「ジェンダー正義」を求める被害女性たちの声に応えたこと、PTSD(心的外傷後ストレス障害)からの回復に必要な「被害者のトラウマ体験を聞く」役割を果たしたことを指摘し、「トラウマ証言を聞かず、トラウマを否認し続ける日本社会」を厳しく批判した。
 彦坂さんは、欺瞞的な「慰安婦」という言葉に代わる「性奴隷」というという言葉や「ジェンダー」「セクシュアル・ハラスメント」などを例にあげながら、「名づけるということはものごとの本質を理解することだ。私たちは性暴力と闘うために、ハーグ判決で獲得した正確で力強い言葉を使い、若者たちを奪還するために知らせ、説明しなければならない」と訴えた。
提起を受けて会場全体で、ハーグ判決を生かすための運動の進め方をめぐって意見交換が行われ、いくつかの団体から集会やシンポジウムなどの行動への参加が呼びかけられた。  (I)


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