かけはし重要記事

frame01b.html

もどる

アタック・ジャパンがセミナー           かけはし2002.10.21号より

トービン税(通貨取引税)はどうすれば可能か

ジョゼ・ボベ歓迎集会の成功へ

 九月二十九日、アタック・ジャパン/トービン税研究会主催によるセミナーが、神宮前穏田区民館で開催され、NGO関係者中心に六十余人が参加して熱心な討論が行われた。

アジア通貨危機
と資本の規制

 セミナーは、一部として「国際金融システムの構造」と題して、現在の新自由主義的グローバリゼーションの発生と問題点、その規制の展望について、まず、名古屋大学の平川均さんが「アジア通貨危機と資本規制へ」と題して解説した。
 彼は、九七年から始まったアジア通貨危機のとらえ方に、IMF・アメリカ側と「市場を非武装化すること」を痛感したATTACなどとの間に落差があることを指摘した。この通貨危機は、膨大な短期資本(ホットマネー)がタイなどの国家経済を凌ぐ勢いと規模で流入、流出して引き起こされたのだが、IMF・アメリカは原因を「アジア型資本主義」に求め、例の「ワシントン・コンセンサス」を変更しなかった。九八年APEC首脳会議でアジア各国は「投資銀行・ヘッジファンドへの直接規制」を求めたが、アメリカは規制に反対した。今日に至るも、IMFやアメリカは新自由主義グローバリゼーションを肯定し、金融自由化こそアメリカ金融界・政府の最大のメリットと思い描いている。
 では、一体だれが資本の過剰流動を規制するのか? 既存の国家には期待できない(アメリカに対抗できる国家の不在、「社会主義」陣営の崩壊含め)。九九年シアトルから開始された国際NGOの活動と発展こそ鍵であり、新しい経済学の創出が必要であると指摘した。

グローバル・マネ
ーの膨張とIMF

 茨城大学の新田滋さんは「グローバル・マネーの膨張」について、九〇年代に至り、八〇年代を倍する金融市場や直接投資とホットマネーに資金が流入してあふれ、特にこの五年ぐらいで急激に倍加していることを指摘した。資料にもあったが、金融市場の通貨取引は毎日百兆円、その八〇%が通貨の売買での投機目的である。しかも、その額がいまや二百兆円にもふくれあがっているのだ。私の感想だが、資本主義体制の腐朽性と言われることが、数字で表現されると空恐ろしくなる。
 横浜市立大学の金子文夫さんは「グローバリゼーションとIMF」と題し、IMFの成立から現在まで、特に、世界的に高まるIMF批判に対して、改革すべき内容(情報公開、決定ルールの民主化〔現行の表決権は、各国一票ではなく、アメリカが全体の一七%持つ〕、当事国の参加)に触れた。
 最後に、横浜市立大学の和仁道郎さんが「ユーロ誕生の背景」と題して報告した。和仁さんは、EU統合(通貨としてのユーロ)は「国民国家」や「世界市場」に対する新しい試みだが、通貨統合のための緊縮財政政策への反動として政治の保守回帰傾向があり、金融政策もESCB(欧州中央銀行制度)に一元化し、財政政策も「安定成長協定」に縛っているので、EU内ではトービン税などは有効ではないのではと述べた。

通貨取引税(CT
T)の定義と理念

 第二部では、一橋大学の大屋定晴さんが、「通貨取引税(CTT)の定義と理念」と題して報告した。大屋さんは今年世界社会フォーラム・セミナーでも論議された通貨取引税(トービン税は通貨取引への短期資金投機への課税を意味する)について解説した。CTTは、すべての外国為替取引に対し一定の税率〇・一%)を課税し、金融危機など緊急時には八〇%の高率の追加税率も課す二重課税制度であるべきで、先進国・途上国で税収割合や分割割合を変動させていく。この税によって、過剰な投機マネーは減少し、途上国の債務取消し、貧困対策に再分配できる。
 しかし、どの機関がこの税制を管理するのか、CTT条約批准国で創るCTT機構なのか、国連なのか議論がある。しかし、ATTACの運動は「金融界の利益のために民主主義が失った空間を奪回し、投資家や〈権利〉を口実にして国家主権が放棄されることに反対し、世界的規模で民主主義的空間をつくりだすこと」を理念として、「タックス・ヘブン」廃止を含め国際的な運動として拡大していることを強調した。
 また、国会議員政策秘書の蜂谷隆さんは「国会・政府を動かす政策」として、「国会議員はどうしてもナショナルな動機づけでしか動かないが、アメリカ一元主義外交への反発も利用できるし、一国単位や日中韓三カ国での導入など考えてもおもしろい。また、新たな税収制度という面では財務省への働きかけも大切で、ただでさえ税収が赤字化している中、増税できるところは省庁にとっても魅力。方法としては、議員立法めざし国会議員の中で通貨取引税実現議員連盟など超党派で作っていくことが、具体化の近道ではないか」と語った。

世界ATTAC運
動の現状と展望

 最後に、ATTACジャパン首都圏事務局長田中徹二さんが「世界のATTACの現状と展望」を語った。まず、トービン税については、東北大学の明日香壽川さん(急用のため欠席)の資料文書「開発と環境のための財源問題」に書かれているように、今年三月のメキシコ・モンテレイで開かれた「開発と金融に関する国連会議」では、トービン税について革新的資金メカニズムの一つとして論議されたが、提言文書では先進国の反対で、結局一言も明記されなかった。これが、この夏のヨハネスブルグ・サミットの失敗につながってしまった。それにもかかわらず、日本政府やマスコミはサミット成功との報道をするなど、まったく事態を理解していない。CTTや企業買収税など、一刻も早い国際的資本活動への課税が、ますます拡大する貧困問題の解決のために求められている。
 アタック運動はヨーロッパ、中南米で拡大し、今や世界百五十カ国に存在する。特に、中南米では、今年FTAA(アメリカ州自由貿易地域)協定反対の大きな運動が組織されている(筆者注:十月二十七日〜三十一日は、エクアドル・キトで大陸別社会フォーラムが開催され、最終日十月三十一日には、キトで同時期開催されるFTAA各国首脳会議に反対する大規模なFTAA反対のアメリカ大陸デーとなった)。
 同時に、WTO―GATsによる新たな自由貿易条項や公共サービス民営化との闘いの新展開があり、アメリカの単独行動主義を許さない新自由主義ミリタリズムとの闘い(特にイラク戦争ストップの闘い)が進められている。また、ヨーロッパでは、右派政権が次々登場し、雇用のフレッキシブル化と称する労働法の改悪や移民労働者への排斥が強まっている。これらと闘うために、この十月五、六日ヨーロッパ社会フォーラムが、イタリア・フィレンツェでATTACなど市民団体、労働組合の呼びかけで開催される。アジアでも、来年一月三日〜七日インド・ハイデラバードでアジア社会フォーラムが呼びかけられ、パレスチナでも地域フォーラムが計画されつつある。
 この流れはすべて、ATTACやブラジルの社会運動体、労働組合が呼びかけ、二年前から開始された世界社会フォーラムの流れである。来年一月二十三日〜二十八日まで開催されるブラジル・ポルトアレグレの第三回世界社会フォーラムでは、社会運動体の呼びかけとして、NGOインターナショナルの呼びかけ(今年の会議では世界社会同盟の結成の声もあった)がなされるのではないか。田中さんはこのように提訴した。
 会場からの質疑応答では、反グローバリズム運動といっても、反米ナショナリストの運動もあり、下手をすればトービン税運動のいいところだけを、例えば石原都知事などに持って行かれてしまうことを危惧する発言や、トービン税の使われ方の管理者の問題が心配、日本のODAもひもつきで、その中身も大規模開発で大資本サイド・環境破壊しかなかった経過を踏まえ、税収の国際配分をどう使わせるのか、どうやって管理・統制出来るのか疑問との声もあった。
 さらに、連合など日本の労働運動現場に、南北格差や絶対的貧困の問題などまったく浸透していない、為替取引課税だけでなく、例えば、M&Aなど企業買収税や資本の中国進出など国際資本移動税など、労働現場からの視点で必要ではないかとの意見もあり、熱がこもったものとなった。(林のぼる)


もどる

Back