| 寄稿報告:先住民族サミットinあいち2010(下) かけはし2010.12.13号 |
大地の多様性で生き育つ
スティーブン・ケント(Steven Kent)ニュージーランド、マオリ民族
スティーブンさんは、ナイタフ族のオークランド地区委員会メンバーなどを務め、マオリの復権運動などに携っている。二十一歳のとき初めて日本を訪れ、一
年間滞在して日本語と日本文化を学ぶ。日本に魅せられる。日本人の女性と結婚し、日本語も堪能。
スティーブンさんの提起は以下の通り。
マオリの世界把握は、すべてが互いに結びついているという系統学の概念を通じて理解されている。われわれが地球上で見るすべての生命と遺伝の多様性は皆、共通の祖先ランギヌイ(空の神、父)とパパツーアーヌク(大地の神、母)の子孫である。ワロカト川は劣悪な環境状態にあり、飲料不可である。マオリは歴史的にワイトカ川の浄化を継続的に唱えてきた主要なグループである。タイヌイ族によると、川は彼らであり、彼らは川なのである。
アラスカの先住民族からのメッセージ 大地と共に生きる先住民族の知恵
ボブ・サム Bob Sam(米国アラスカ州、クリンビット族)
ボブさんは、連日のマウコピリカ音楽祭でも口承伝承を披露した。
通訳は大井わこさんが行った。
ボブさんは、アラスカのシトカに住む、数少ないクリンギット族のストーリーテラーの一人。クリンギットの語り部として神話の継承を古老たちから託され、アラスカはもとより欧米各地でストーリーテリングを行っている。三日目のリトルワールドでは、トリンギット家屋で口承伝承を行った。自然を敬い共存する先住民族の文化、伝統を次世代に伝える精神的指導者である。
報告では、以下のようなことを、述べた。
私たちの祖先は、将来の世代が大地の多様性によって生き、育つことができるように、土地と海とを上手に使ってきました。すべての人々に、大地を大切にし、生き物すべてを尊重する正しい方法を教えることが、昔の生活様式を覚えている私たちの義務です。
大地と海の精霊は、人間の精霊と同じです。一方がもう一方をなくしては存在することができません。ボブさんは、詩を読むようにゆっくりと話す。私の心に残っている言葉は、「We
are a part of nature」だ。普段着の時は普通のおじさんという感じなのだが、民族衣装を着ると神がかったような感じになる。
自然との調和・豊かな人間関係
エゴ・レモス(Eugenio Fatima Sousa Do Rego)(東ティモール、アス・ロウ民族)
エゴさんは、連日マウコピリカ音楽祭に出演し、私たちを楽しませてくれた。エゴさんは、東ティモールとオーストラリアで、シンガーソングライターとして活動しながら、同時に伝統的農法や暮らし方を実践し、自然との調和と平和のメッセージを発信しています。
エゴ・レモスは、以下のメッセージを発した。
東ティモールの先住民は自然を敬い、自然に守られて暮らしてきました。私たちは万物に宿る神聖な力をルリックと呼びます。森や水辺には部案と呼ばれる妖怪が住み、ワニなどの動物たちも聖なる使いとして聖地を守っています。東ティモールは、周辺の国々の政治的意図や地下資源の利権により、戦火に投げ込まれました。私の家族も母と私を残して命を落としました。人間の自分本位な振る舞いが環境破壊や戦争につながっています。
先住民族抜きで語れない生物多様性問題
島崎直美 WIN=AINU役員
島崎直美さんは、一九八六 年(社)北海道ウタリ協会(現アイヌ協会)札幌支部入会。アイヌ民族の真実の歴史を知る。婦人部長、文化部長、事務局長などを歴任。アイヌの伝統的文化、儀礼、女の手仕事、民族料理、伝統的刺繍アイヌ古式舞踊などを習得し、次世代への継承発展に努める。二〇〇〇年「アイヌの女の会」を設立し、代表を七年間務める。アイヌ女性問題に取り組む一方、マイノリティ女性問題に関わり在日女性、被差別部落女性、沖縄女性たちとの連帯を深め、国への働きかけなど積極的に取り組んできた。「先住民族サミット・アイヌモシリ2008」共同代表を務め、アイヌ民族の権利回復の運動の中軸的存在。WIN=AINU役員。
島崎直美さんは、以下のようなアピールを発した。
アイヌの暮らしをさせてきたのは、森、川、海でした。アイヌの祖先たちは必要な分だけ狩猟、漁労、採集をしてきたといわれています。人間以外の動物たちのために食糧を残しておくという謙虚でやさしい気持ちがありました。まさしく自然との共存がありました。人間は自然からの恵みにより生かされてきたのです。自然との調和、豊かな人間関係、外部とのバランスの取れた相互交流などを`SATO(里)aの文化と捉え、世界の「先住民族」と共に、その枠を超え、共生の価値観を居有するという話し合いができたら最高です。
産廃処分場建設に「待った!」
紋別川の海と産業廃棄物
畠山敏 オホーツク漁師
畠山敏さんは、紋別で長年漁業に従事してきた。あるきっかけから、アイヌのアイデンティティに目覚め、アイヌの伝統捕鯨の復活の推進や、紋別川流域の産業廃棄物建設による海の汚染に危機感を抱いて反対運動に身を投じている。
http://mopetsanctuary.blogspot.com/
当日配布されたリーフより。
アイヌの漁師、畠山敏さんの思い
日本列島の北部に広がるオホーツク海に面したまち、紋別。北海道アイヌ協会紋別支部長である畠山敏さん(69歳)は、長年、このまちで漁師として生きてきました。畠山さんの暮らすモベツ川河口周辺部は、古くからアイヌ民族のコタン(集落)が営まれていた場所であり、彼は「先祖の眠るモペッ・コタンの墓地跡でアイヌ式の先祖供養をしたい」という両親の希望をかなえるため、アイヌ文化を学びはじめ、それを実現させました。そうした中、かつてのアイヌの生活と深く結びついていたクジラの存在に注目し、漁師としての経験から、先住民族生存捕鯨を復活させるための動きも進めていきました。
国連においても取り上げられている国連NGO市民外交センターの働きかけで、国連の先住民族問題常設フォーラムや人権理事会では「紋別における産廃処分場の建設がアイヌ民族の権利侵害にあたる」という声明を採択しています。処分場建設に「待った」をかけよう!
私たちは、この問題を日本政府および地方行政が、アイヌの先住民族としての権利の尊重という課題を真摯に受けとめ、その責任を果たしていくための試金石であると考えています。この問題を多くの方々に知っていただき、現在の産廃処分場の建設計画を見直すべきであるという声を広め、北海道や紋別市、そして事業主体の(株)リテックにその声を届けていきたいと思います。皆様、ご協力よろしくお願いいたします。
親から教えられた「生物多様性」と現代の人間のエゴ
宇梶静江 WIN=AINU 顧問 アイヌウタリ連絡会代表
宇梶静江さんは、一九七二年、「ウタリたちよ、手をつなごう」と題する投書が朝日新聞に掲載し、首都圏アイヌ結集をめざす。翌年、首都圏で初めてのアイヌのみの団体「東京ウタリ会」が発足する。「先住民族サミット・アイヌモシリ2008」共同代表。
宇梶静江さんの発言。
私たち先住民族は、自然観や世界観をきちんと持っています。祖先から受け継いだきた精神観を忘れてはいません。自然に対する哲学、モラルが守れないできたことにより戦争をしてきました。命をいただいた生きるすべての多様な生物として、今一度考えてみましょう。人間としてのエゴによって変えてきたものは、元に戻す努力が必要でしょう。いま、エコ的な生き方が望まれているのかもしれません。
イヤイライケレ!!
ハルシアばばが教えてくれた
島田あけみ WIN=AINU東京事務局次長、アイヌ・ウタリ連絡会事務局長
発言時間が制約される中島田あけみさんが登壇した。
島田あけみさんは、北海道静内で生まれる。豊かなアイヌの心を持った両親に育てられる。父親は日本語とアイヌ語をよく理解し、古老のアイヌ語を和人の研究者に通訳することもしていた。母親は、アイヌ、和人の区別なく、困った人を助ける優しい女性だった。しかし、両親は差別を怖れて、子供たちをアイヌとして育てることはしなかった。両親に代わって、アイヌのことを教えてくれたのは虎尾ハルシアというおばあさんだった。虎尾ハルシアというおばあさんは言った。
「あけみ、ミミズはこうやって生きていて、私たちの口に入るものを育てているのだよ。馬鹿にしちゃいけない。踏んでもいけないし、寄せてもいけない。その場にいるのがミミズの役割だから移動させてはいけないよ」って。
ウバユリを採りに行ったとき、ばばはこう言った。「たくさん採っちゃいけないよ。後から来る人もいるし、動物にだって残しておかなければならない。」
その頃は自分の心がアイヌになっていないので、「面白いことをいうな」としか思っていなかったけれど、このハルシアばばの言葉は、今の環境保護の人たちが言っていることと同じですよね。アイヌ伝承の薬草の知識を私たちの世代が十分継承しているわけではありません。
今、私たちの世代のアイヌが、伝統的なアイヌの薬草の知識を掘り起こさなければならないと思います。歌や踊りは伝承されていますが、薬草の知識はかなり失われています。保存・維持する前に、私たちが失ったものを取り戻すことが先決です。今回のCOP10がそのきっかけになればいいと思います。
四日目に、宣言が出された。英文に日本語訳が付いている。
宣言の内容(抜粋)
1 自然との調和、豊かな人間関係、外部とのバランスのとれた相互交流などを“SATO(里) ”の文化と捉えたいと思います。つまり、「先住民族サミットin
あいち2010」では、世界の「先住民族」と共に、そして「先住民族」の枠を超え、共生(ともいき)の価値観を共有する「SATOBITO(里人)」が集い、交流することを目指しました。
2 先住民族が抱える問題と生物多様性
(1)先住民族の社会と文化への打撃
先住民族の社会と文化は、愚かで飽くなき物質欲、異文化への無理解、近代化至上主義、またそれらに基づく排他主義と同化主義によって、また開発にさらされて、大きな打撃を受けてきました。
(2)先住民族の文化の打撃による生物多様性へのさらなる打撃
先住民族は、各国・各地域で固有の文化を持ち、その地の自然を敬い、生物多様性を維持し、自然に関わる多様な知識、知恵、価値観を蓄積し、継承してきました。
3 では、私たちは何をなすべきか
(1)先住民族が果たすべき役割
世界の先住民族は、生物多様性の保全と知識の継承、自然の持続的利用の伝統的システムと共生の価値観の重要性を再確認し、それを世界の人々に発信し、「生物多様性」のための重要な役割を担っていくべき立場にあります。
(2)研究者、NPO などが果たすべき役割
研究者は「先住民族的価値観」「先住民族の知恵」などの研究とその集積に努めるとともに、「先住民族」やその価値観を共有する「さとびと」、また多様なアクターの間の媒介の役割を果たすNPO
との連携を強化し、社会に発信するための実践をしていくことが重要です。
4 COP10 及び世界の人々への提言
すべての国々の指導者たちに「先住民族の権利に関する国連宣言」を尊重し、実施することを求めます。
「生物多様性条約」第8条J項で、生物多様性にとっての、それぞれの地域における先住民族の重要性を謳っています。私たちはそれに同意します。特に、遺伝資源等の公正なアクセスと分配に関しては、先進諸国と開発途上国の間での取り決めだけでなく、それぞれの国家の中においても、公正な分配を保証する枠組みを求めます。
先住民族の重要性は、しかし、「生物多様性条約」第8 条J 項の規定を超えた、より包括的なものです。私たちは、COP10
の会議と人々に、生物文化多様性そのものの宝庫の継承者として、また自然の持続のための伝統的システムや考え方の継承者として、つまり、実践と思考の両面における継承者としての、先住民族の包括的な重要性を認識し、議論し、尊重し、行動すべきであることを提案します。
以上
歌と踊りで盛り上がる交流
以下の報告に関しては割愛した。
b渡邊欣雄:風水の科学技術史
b池谷和信:地球時代の「狩猟採集民」の現在 −彼らにとっての生物多様性とは?
bガブリエル・レレ:インドネシアにおける先住民族
bパサン・シェルパ:ネパールにおける先住民族
b渡邉毅:人類進化と人類の多様性
b鶴見英成:アンデス文明形成期における生物資源利用
b杉山三郎:メキシコ古代文明と生物多様性
十月十五日の一日目にレセプションが行われた。IIFB(International Indigenous Forum on
Biodiversity)の先住民族とIIFBを支えるスタッフ、研究者約百人が会場に来て交流した。十月十九日には、IIFB主催のレセプションにアイヌ民族が参加し、交流した。四日間のすべてにわたり、交流会が持たれ、歌と踊りで盛り上がった。 (了)
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