| 寄稿 報告:先住民族サミットinあいち2010(中) かけはし2010.12.6号 |
地球環境を救う価値観の再生へ
加藤 登 グループ`シサムをめざしてa(首都圏) |
開発ではなく、多様性の保全
小野有五北海道大学・大学院地球環境科学研究院教授Win=Ainu国際部。小野さんは、アイヌ語地名を併記した表示板設置に関わり、二〇〇二年からアイヌ民族の女性、知里幸恵の記念館建設募金運動の世話人代表をつとめ、全国からの募金で、記念館を完成させる運動を担ってきた。二〇〇八年の「先住民族サミットin
アイヌモシリ」の開催にはアイヌ民族とともに取り組み、その後もWin=Ainuの組織化、運営に関わっている。
小野さんの提起は、以下の通り。
自然を壊さなければ経済は維持できない、という考えは誤りである。「開発」ではなく、「生物多様性保全」のための事業が、今こそ可能なのだ。先住民族とともに、そのような大きな転換を実現したいものだ。
「カラフトアイヌ」の近現代史 〜樺太アイヌ協会による本年度調査の紹介をかねて〜
田澤守(樺太アイヌ協会会長)
表題は「カラフトアイヌ」としたが、これは便宜的に用いたに過ぎず決して好ましい言い方ではない。というのは「カラフトアイヌ」という言い方は他称であって、自称の「エンチゥ」という呼び名を用いるのが本来のあり方だからである。
かつて、日本側がロシアに対して、樺太島を日本領であると主張するためには、「エンチゥ」を「カラフトアイヌ」とよんで、「アイヌ」のうちに含めておく必要があったという事情も考えられる。
「エンチゥ」は言語以外の文化面ではウィルタ(他称オロッコ)やニクブン(今日では大陸のニブフと同様に呼ばれるのが普通で、他称「ギリヤーク」)に近い面がかなりあり、かつては樺太南部を社会形成の主領域にしていた。
「エンチゥ」に関しては、歴史についた書物や文献、民族誌的報告や人類学的報告、行政上の統計、新聞記事などにより、これまでにもかなり情報が得られている。しかし、第二次世界大戦を通じた日本の敗戦に伴って北海道へと移住せざるを得なかった人々の実情については、戦後六十五年を得た今日まであまり知られてこなかった。
豊富町稚咲内は、第二次世界大戦の日本の敗戦に伴って日本領に移ってきたエンチゥのもっとも集中した地であるが、その後この地での残存者の数は大いに減じてしまった。豊富町稚咲内にあった稚咲内小校が人口減に伴い廃校になったが、エンチゥ系の人々のための記念館あるいは資料館として、末永くエンチゥ系住民らの歴史を顧みる場とすることが切に望まれる。
行政側の国や道がこれまで「エンチゥ」を「アイヌ」として対応してきており、このため「エンチゥ」としての立場が認められてこなかった。「樺太アイヌ協会」は、自らのあるべき姿を求めて、本年度から稚咲内などエンチゥ系住民からの聞き取り調査を実施した。「エンチゥ」の歴史や社会や文化に関する資料を作るためだ。この調査によって、いろいろ貴重な情報を記録することができた。
エンチゥは近代史の中で二度にわたって分断され、移住地を終われる歴史を担わされている。ひとつは、千島樺太交換条約によって、いまひとつは、第二次世界大戦の日本の敗戦によって。エンチゥは自らの運命を選択する主体性を存在であり、であるがゆえに、今「エンチゥ」としての自己の存在にこだわりを持たざるを得ない。
田澤さんの報告は、衝撃的だった。私を含めて、多くの人が「樺太アイヌ」だと考えていたのではないかと思う。今後、いわゆる「樺太アイヌ」のことを考えるとき、田澤さんの「エンチゥ」であるという提起を必ず思い起こすだろう。
新しい社会運動として
本多正也さん(「グループ・シサムをめざして」調整委員)。本多さんは、名古屋市生まれ。早稲田大学で雄弁会に所属し、ベトナム反戦闘争、全共闘運動を担い、政治闘争活動を行う。その後、一九七〇年代の孤立した武装解放路線と決別。市民自治・人権解放・環境危機をめぐる「新しい社会運動」を志向して、民主党とも批判的に連携し運動を進めてきた。先住民族アイヌと連帯すべく、グループ「シサム(良き隣人)をめざして」の調整委員を現在務めている。二〇〇八年に行われた先住民族サミットを支援し、「七五郎沢の狐」製作ではプロデューサーを務めている。
http://taneprojp.web.fc2.com/story.html
報告では第一に一九七〇年代のアイヌ宣言と反公害闘争について述べた。帝国主義体制に奉仕する大学の役割を問い直す社会反乱であったであった当時のを振り返り、二つの側面を指摘しました。一つは、日本社会の底辺を構成する抑圧・差別された人々に注目し、日本教育の実情に鋭いメスを入れたこと。差別の不当性を告発する差別糾弾闘争は、当事者にとって(「アイヌ宣言」などを介した)「自救的闘い」であるとともに、重層的差別構造をめぐる知的モラル的ヘゲモニーを要請した。
もう一つは、高度成長経済が生み出した環境破壊を実証的に調査・研究し、地域住民とともに反公害闘争を推進してきたこと。そこでは、賃上げ至上主義的な経済主義的労働運動からの脱皮が求められた。
第二に、一九八〇〜九〇年代の新しい社会運動について、言及した。市民社会の成熟とともに基底体制還元主義的な階級決定論の有効性が喪失し、膨張した中間層市民の「新しい社会運動」規定力を発揮しはじめた。個別的な自立と共生をはぐくんでいく道が要請された。糾弾闘争は、コミュニケーション的行為を不十分に止めてしまい、共生の論理に道を譲った。
第三に、アイヌ民族連帯と先住民族の国連宣言について述べた。二〇〇七年「先住民族の権利に関する国連宣言」が採択され、二〇〇八年「アイヌ民族を先住民族とすることを求める」国会決議が採択、そして、初の先住民族サミットが開催された。階級還元主主義からの脱却を図るものとしてグラムシが「サバルタン」概念を提起していることに踏まえ、スピヴァクの「UNLEARN」についての提起もなされた。
第四に、先住民族連帯と生物多様性問題について、言及した地球自然破壊の−原生種の絶滅の進行は、確実に先住民族を森から追い出し、生活手段−生活方法の激変を余儀なくさせている。COP10をめぐる環としては、原生林・原生種の絶滅を阻止するとともに、ABSをめぐる交渉、産業活動を継続しつつ生物多様性が保全される里山・河川の管理権の保障が焦点とされるであろう。
本多さんの報告は、研究者の報告が多い中、いわゆる団塊の世代がいかなる観点で運動を担い、今日でも継承しているのかという点で異彩を放っていたのではないだろうか。私としては、「UNLEARN」の提起が、全共闘運動の「自己否定の論理」に通じるものを感じた。
グローバル化に対峙
ルソン北部山地・世界遺産棚田村先住民族イフガオの直林と社会開発
清水展(京都大学教授、東南アジア研究所所長)
清水展さんの専門は文化人類学。フィリピン・ルソン島北部山地の先住民である、アエタやイフガオなどの文化と社会を研究。
報告では、グローバル化の時代を意識して現代を生きるフィリピン・ルソン島北部の山地に暮らす先住民イフガオの村と里を守る企てについてのべられていた。「ミクロな虫の目で、人々の暮らしに密着した視点からグローバル化を考えたい」というのが清水展さんの問題意識だ。
グローバル化というと世界を同質化し、個別性を抹消するように思われがちです。イフガオ州フンドゥアン郡ハバオ村の人々はグローバル化による海外での経験の中で、自身のアイデンティティー(自己意識)を支える棚田や死者儀礼、村祭りの再評価を始めた。海外出稼ぎによって、村人たちがグローバルに拡散していくと同時に、逆に森と棚田が一体となった景観を守り伝統を復興しようとする行動が強化されている。
グローバル化は不可逆で一方的な過程ではない。逆に自分たちの固有の文化への着目と再評価と活性化を導いている。それは地球全体で見れば、地域ごとの個別の文化の重要性を再認識させ、結果として文化の多様性を再生産してゆく傾向を持っている。
ちなみにこの村は太平洋戦争末期一九四五年六月に数万の日本軍主力部隊が逃げ込んできて田や畑の作物を根こそぎ奪ったため、たくさんの村人たちが飢えや伝染病(赤痢)で亡くなった。このことを、村人の古老たちは鮮明に覚えており、今でも語られている。
現在、棚田を守るために日本のNGOの協力を得てプロジェクトが実施されている。小規模ながら村人たちの手弁当で進められてきた植林運動が、日当を払って村人を雇って行われるようになった。規模は大きくなったけれど「よかった」といえるか最終的な評価を下しかねている。
清水さんの提起は、グロバリゼーションについて考えるとき、非常にためになった。運動家の中には、反グロバリゼーションの立場に立つ人も少なからずいる。グローバル化というと個別性を抹消する不可逆的な過程と考えているからだと思うのだが、対峙し、便乗していきながら、里を守っていく動きがあることを、現実の問題として受け止めたい。
先住民生存捕鯨と民族知
秋道智彌 総合地球環境学研究所副所長・教授は以下の報告をした。
国際捕鯨委員会の規定では先住民生存捕鯨は生存のために行われる先住民による捕鯨であり、商業捕鯨とは区別されている。実際には、先住民でさえ商業的な行為を行い、日本やデンマーク人が行う捕鯨には地域の文化や集団の生活を維持する上で不可欠であるという理解がなされるようにおり、上記の規定は有効性を失いつつある。ニュージーランド政府の対応には問題がある。
マオリの人々は栄養的に不足分を補うためにクジラを食べると見なしているからである。生存のために必要だから許してやろうという上からのおこがましい考え方である。マオリの人々はクジラを神からの贈り物とみなしている。同様の考え方はアイヌ社会、ベトナム中南米にも見られる。原住民や地域で行われた小規模な捕鯨では、クジラと人間との間には超自然的な関係を含めた多様な知恵が育まれてきた。これは西欧主導の考え方に対抗したものとして注目すべきである。
これからの世界における先住民族の役割―オセアニア先住民とカヌー文化復興
後藤明さん(南山大学人文学部教授、同大学人類学研究所所長)は以下の提起をした。
カヌーは実際に水に浮かび運航しなくてはならない。航海術はめざす島に安全にたどり着かなければならない。ポリネシアの人々はカヌーと航海術が成り立つために必要な知識や技術を交換しながらそれぞれの島で特徴的なカヌーを作り直し、また航海術をそれぞれの海で適用している。今求められているのは、個々の島で、それぞれの人たちがバラバラに過去を向いて復興することではなく、むしろそれぞれの島人が断片的に残している知識の集大成化と共有化であり、その共有財産の中からそれぞれの島に適したシステムを確立することである。
里と里をつなぐ『価値関係』:東ティモールのコーヒーと日本
阿部健一さん(人間文化研究機構 総合地球環境学研究所教授・プログラム主幹)は次の提起をした。
東ティモールで、唯一の産業といえるのが、コーヒーである。コーヒーの豆の品質は豆そのものの質だけでなく、収穫や収穫後の処理の仕方に大きく左右される。東ティモールのコーヒー市場は、長く少数の「企業」に独占されていた。アメリカの援助により最新の設備を整えた工場が次々と建設された。収穫後の処理を一手に整えることができた。これは、人々から自分の栽培したコーヒーを良質なものにする「権利」を奪うことになりはしないか。
NPO法人ピースウィンズ・ジャパンと平和環境もやいネットは、収穫や収穫後の処理の仕方を指導する事業を開始した。コーヒー栽培農家が自らの手でコーヒーをいいものにすべきだ、と考えたのである。高品質のコーヒーを高価格で買い取ることを約束したうえである。阿部健一さんは、以上の提起をしたうえで、会場でのコーヒー販売の協力を訴えた。
語りなおしの時代
結城幸司さんは、Win=Ainu副代表で、二〇〇〇年に、アイヌ民族伝統の舟`イタ・オマ・チプaの復元で出会った、結城幸司・早坂賀道・福本昌二の三人で創造集団「アイヌ・アートプロジェクト」を設立し、代表を務める。「先住民族サミット・アイヌモシリ2008」で事務局長を務めた。「七五郎沢の狐」の製作を続けている。
http://taneprojp.web.fc2.com/story.html
「先住民族サミットinあいち2010」において、「アイヌ・アートプロジェクト」は、四日間にわたるマウコピリカ音楽祭に出場した。
結城幸司さんは、以下のように述べた。
先住民族が繋いできた伝承の中には他の生命との接点があり、それを人間社会に向けて発信する力がある。生物多様性は、学識だけの世界で語ってはいけない。人間に伝わってきた伝承という叡知にも着目しなくてはいけない。
COP10に向けてアイヌから一言!
秋辺日出夫さんは、Win=Ainu事務局長、阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事。
十八歳の秋、カナダインディアンとの交流に参加し、先住民族の問題は地球規模であることを知る。
以下のような発言をした。
子供のころ蛇をいじめて怒られた。「蛇はタンネ・カムイといって大切な神様だ」という。ザリガニやカエルも虫も神様なのでいたずらをしてはいけないと教えられた。今ならそれはわかるが子供はそうはいかない。子供の世界では生きものはたちまち、おもちゃになるのだが、アイヌの大人はそのような子供の都合は認めてくれなかった。つまり、人間の都合で周りの動物でも植物でも勝手に活用するのはアイヌ民族にとっては認められない考え方である。自然の都合や言葉に耳を傾けて感謝とともに共生するのがアイヌ的な生物多様性だと思う。
アメリカ合衆国における都市のアメリカインディアンの諸問題及び、それの、部族伝統を維持することとの関係
クリシー・カストロ Chrissie Castro (米国、ナバホ民族)
クリシーさんは、ロスアンゼルスで、アメリカンインディアン・コミュニティの社会的、政治的地位向上のための活動を行ってる。コミュニケーション学とコミュニティ改革を学び、児童福祉制度や精神、保健制度を改善する運動を指導するとともに、コミュニティが主体となる資源有用戦略を開発してきた。
報告では、以下のことを述べていた。
アメリカ合衆国の先住民族は、アメリカでも最も悲惨な社会的経済的条件に直面している。その中でも都市のインディアンは、特有の困難に直面している。連邦の基金は、直接彼らの必要を満たすとは限らず、アメリカの都市に居住するということで、彼らには、保留地に居住している先住民族の子供たちや家族に適用されるセイフティネットの一部が、適用されないことがある。 (つづく)
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