| 「いらない!APEC」横浜民衆フォーラム成功へ かけはし2010.11.1号 |
| 「人間の安全保障」を看板に人権・民主主義を破壊するな |
9・11以後強
まった政治性
APECは「アジア・太平洋の持続可能な発展を目指し、経済統合と域内協力の推進を図る」ものと位置づけられ、その活動は「経済に限定」される(「日本APEC開催 外務省・経済産業省 平成22年8月」)と打ち出されている。しかし同じ外務省が昨年十二月に出した「変わるAPEC〜経済危機と新たな成長戦略」では、「国際情勢の変化」によってその役割が変わってきたことを強調している。
「もとは経済分野での広域的な協力を目的とし、政治色を排していたAPECですが、世界中を震かんさせた2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を境に、人間の安全保障という観点からも地域協力のあり方を考えるフォーラムへと進化してきました。具体的には、2003年、『テロ対策タスクフォース』が設置され、テロ対策の促進・調整、テロ対策に資する能力向上支援の検討などの話合いが行われています。また、新型インフルエンザなどの感染症対策や気候変動問題、食糧安全保障などについても、APECが提言を行い、地域の情勢変化に対応するフォーラムへと変わってきています」(外務省ウエブサイトより)。
新自由主義戦略
と「人間の安保」
実際、今回の2010横浜APECにおいても「貿易・投資の自由化」や「地域経済統合」の推進とならぶ柱の一つになっているのが、事実上「テロ対策」に特化した「人間の安全保障」なのである。もともと「人間の安全保障」という概念は冷戦構造崩壊後の一九九四年に国連開発計画(UNDP)が『人間開発報告書』で打ち出したものであった。それは貧困・飢餓に代表される生存の危機、内戦がもたらす難民の人権問題などを「人間の安全」にとっての危機と規定し、それは軍事力による旧来型の「安全保障」の概念では捉えられない、とするものであった。
国際政治学者の武者小路公秀は、この「人間の安全保障」概念の提起の中に、IMFや世界銀行などが推進する新自由主義的プログラムに拮抗し、日本国憲法の「平和的生存権」と連なる新しい流れを見ることが可能である、と語っていた(たとえば『転換期の国際政治』岩波新書・1996年、あるいはインタビュー「『軍事的安保』と『グローバル経済』のトータルな批判を」『月刊フォーラム』97年1月号)。
しかし他方、この「人間の安全保障」概念は、グローバルな新自由主義的市場統合と成長・開発によって、貧困・飢餓や内戦・難民などの「人道的危機」が解消され、市場経済とセットになった「民主主義」が保障されるという考え方とも通底していたのであり、現実の国際政治はこの資本の新自由主義的市場統合戦略によって、大きく方向づけられることになった。「人間の安全保障」概念は、資本の利害のために換骨奪胎されたのである。
「対テロ」戦争
への国際協力
二〇〇一年の「9・11」以後、新自由主義的市場経済が「人間の安全保障」の基礎という路線は「対テロ」戦争の推進と結びつけられた。それは二〇〇二年の「ブッシュ・ドクトリン」(アメリカ合衆国の国家安全保障戦略)に典型的に示される。
「強力な世界経済は、世界の他の地域の繁栄と自由を前進させることで、われわれの国家安全保障を強める。自由貿易と自由市場に支えられた経済成長は、新しい雇用とより高い収入を作りだす。それは人びとが自らの生活を貧困から引き上げ、経済的・法的改革を刺激し、腐敗と闘うことを可能にする」「市場経済こそが繁栄を促し、貧困を削減する最善の道である。市場のインセンティブと市場の諸制度のさらなる強化があらゆる経済――先進工業諸国、新興市場、そして開発途上諸国――にとって適切なものである」。
ブッシュの発動したアフガニスタンとイラクへの「対テロ」戦争は、まさにこうしたグローバルな新自由主義的秩序を脅かす「ならずもの国家」や「国際テロリズム」との戦争であり、「人間の安全保障」概念は新自由主義イデオロギーを媒介に、「テロとの闘い」へと収斂させられた。「人間の安全保障」を看板に、「テロ対策タスクフォース」(CTTF)を通じた「対テロ」戦争の国際協力の場としてAPECを位置づけることが今回のAPEC横浜においても重要なテーマなのである。APECはソマリアから中東、アフガニスタン、そして東南アジアから東北アジアにいたる広大な地域での「対テロ」戦争と国際治安対策の舞台ともなっている。
日本政府は米国のアフガニスタン、イラクへの侵略戦争に対して「対テロ」国際協力を名目に自衛隊を派遣した。そしてソマリア沖の「海賊」対策として自衛隊を派兵しソマリアの隣国ジブチに基地を建設した。パキスタンの災害復旧支援に自衛隊を派遣したことも「対テロ」戦争支援の意図が込められている。
さらに国内では外国人への入国規制、宿泊客の本人確認強化などの人権無視の治安対策を推進するとともに、ODA(政府開発援助)などをも利用しながら東南アジア諸国などへの「テロ対処能力向上支援」を行ってきた。
われわれはAPECを通じた「対テロ」戦争国際協力体制の構築に強く反対する。それはアフガニスタン、イラクでの戦争に示されたように民衆虐殺・人権侵害、貧困・飢餓以外のなにものももたらさず、民衆自身による生活再建の基盤を根本的に破壊する結果になるからである。この戦争は宗派主義的憎悪と暴力、容易には回復しがたい社会的分断をもたらしてしまったのである。
APEC警備
と治安弾圧
首都圏の交通機関は車内放送で「APEC警備」への協力を繰り返し流し、「不審な荷物」や「不審人物」への通報を呼びかけている。東横線などでは警官が同乗して乗客を監視・威圧している。すでに横浜市内では全国から警察官を動員して警備にあたり、APEC本番では二〇〇八年の洞爺湖サミットに匹敵する二万一千人の警察官が動員されることになっている。APEC首脳会議の会場であるパシフィコ横浜のある「みなとみらい」地区一帯は、事実上封鎖状態に置かれる。
警察庁のウエブサイトにある「2010APECの成功に向けて」(10・9・17)では、「反グローバリズム」の「過激派」を「テロリスト」として宣伝し、全面的に弾圧する態勢で臨むことを訴えている。
警察庁は、「過激派」が「海外の過激な勢力と連携して、集会やデモを始めとする様々な活動を行うものとみられ、その過程で、道路封鎖や暴動等の過激な抗議行動等を引き起こすことも懸念されます」と一人で盛り上がり、「集会やデモ」そのものを危険視する不当極まるキャンペーンを繰り返している。さらに彼らは「最近の過激派は、反グローバリズム運動が主要テーマとする貧困問題等を闘争課題に掲げ、同運動に取り組む団体の組織、運動に介入したり、セクト色を巧みに隠して反グローバリズム運動に取り組んだりしています」と警告し、さらにわざわざ「JRCL(日本革命的共産主義者同盟)」などの名を挙げて「海外で開催される国際会議への抗議行動を通じ、海外の反グローバリズムを掲げる過激な勢力との連携を強めています」などと憎悪むきだしの姿勢を露わにしている。
こうした噴飯ものの主張は、相次ぐ違法捜査・取り調べへの批判をかわし、予算を確保するための自己利害に発する警察の「存在意義」のアピールとしか言いようがない。グローバル・ジャスティス運動を「犯罪集団」視しつつ、APECに異議を唱える運動を封じ込める治安弾圧体制によって、人権と民主主義を圧殺しようとする彼らの目論見をはねかえさなければならない。
さらに「我が国には、イスラム諸国からの入国者が多数滞在して各地でコミュニティを形成していることから、今後、イスラム過激派が、こうしたコミュニティを悪用し、資金や資機材の調達を図るとともに、様々な機会を通じて若者等の過激化に関与することも懸念されます」と述べ、とくにムスリムの人びとを対象にした排外主義宣伝に踏み出していることに強く抗議する。
政府や資本の言う「人間の安全保障」とは、このような形でますます「テロ対策」に純化しているのだ。
辺野古新基地
安保強化許すな
APEC首脳会議は、アジア・太平洋地域で急速にそのパワーを中国の軍拡や積極的な海洋戦略を背景に、東アジアの米・中・日の「安全保障戦略」をめぐる角逐の場ともなっている。とりわけ「尖閣諸島」沖での中国漁船の海上保安庁巡視船の衝突と中国漁船長の逮捕事件が生み出した日中間の外交的対立で意識的な「中国の脅威」キャンペーンが煽られている。それは「日米同盟」、普天間基地返還と「辺野古新基地建設」をめぐる「日米合意」問題についても、少なからぬ影響を与えている。
その中でオバマ米大統領が一年ぶりに来日し、辺野古新基地建設についての「日米合意」の実行問題を課題にして日米首脳会談が行われることになるだろう。沖縄の人びとの「民意」を踏みにじり、「日米合意」を振りかざし、「中国の脅威」への「抑止力」を口実にして基地強化をもくろむ日米両政府に対して反対の意思を突きつけよう。
松沢神奈川県知事は、オバマ米大統領の来日にあたって「日米安保五十年」を祝う式典を原子力空母ジョージ・ワシントン艦上で開催するという申し入れを行っている。労働者・市民が要求すべきは沖縄米軍基地撤去であり、安保条約そのものの破棄である。
「人間の安全保障」の仮面をつけた「対テロ」戦略=軍事的安全保障に反対し、あらゆる排外主義に反対し、核兵器も基地もないアジア・太平洋を展望することはAPECに対置するわれわれの課題である。空前の治安弾圧をはねかえし、十一月十三日〜十四日の民衆フォーラムとデモを成功させよう。(平井純一)
APECを市民が批判する集会
「持続可能な成長」論にこめられた意図を暴く
【神奈川】十月十八日、「いらない!APEC 政府が推進する成長戦略をさまざまな観点から批判する」集会が横浜で開かれた。参加者は六十人だ。八月に別府での「APEC成長ハイレベル会合」で、成長戦略五つの柱として、「あまねく広がる成長」「持続可能な成長」などのスローガンが打ち出された。こういった空虚な言葉を、具体的に神奈川の様々な運動を担う人に批判してもらおうという試みである。
フィリピントヨタ
の労働組合弾圧
まず新自由主義経済の問題として多国籍企業の典型であるトヨタがフィリピン工場でどのようなことを引き起こしているかという問題で、遠野はるひさん(フィリピントヨタ労組を支援する会)からスライドを使った説明があった。TMPCWA結成、二〇〇〇年の組合承認選挙では、政労使の合意ができない得票がチャレンジ票という扱いを受けて組合承認を会社が拒否したため混乱する。TMPCWAメンバーの切り崩しの中で労働者は公聴会へデモをかけ、その参加者のうち二百二十七人が不当に解雇されるという事態にいたった。その代替労働力は、五年契約などの期間労働者に完全に入れ替わったという。現在は主に解雇撤回を求めて、トヨタ本社への抗議の他、ILO勧告を引き出す活動などに取り組んでいる。
トヨタは一方で工場内に軍隊を常駐させるなどしている。労働者が工場前でストライキに取り組む写真なども豊富に紹介された。トヨタが日系企業のグループ撤退をちらつかせたような攻撃に対抗するために、労働者もより政治的に企業経営者集団を包囲することが必要である。
軍事の観点から
日米の動きを斬る
次に木元茂夫さん(「すべての基地にNOを!ファイト神奈川」)から軍事の視点でAPECが提示する安全保障の問題を解説してもらった。
木元さんの尖閣諸島などをめぐる領土の説明はわかりやすかった。そのうえで、空母ジョージ・ワシントンが黄海沿岸に登場する他にも、フィリピンの拠点強化を図っていること、PSI(大量破壊兵器等拡散防止)海上阻止演習のために日本の護衛艦「あさゆき」、「いそゆき」が釜山へ向かうなどの動きを紹介した。
木元さんは、こういう巨大軍艦による演習をしておいて、中国漁業関係者の小さな突出ばかりを責めてみせるのではなく、紛争より外交交渉で解決を目指すべきだと繰り返した。十一月十八日の原子力防災訓練、予想されるオバマの横須賀での艦上米兵激励など、今後の軍事面での動向を監視していきたいと語った。
警察の巡回と
野宿者追い出し
横浜市寿町で活動する近藤昇さん(寿日雇労働者組合)は、野宿場所を訪ねる人民パトロールの活動の中で出会う、APEC直前の警察の巡回、検問の強化と、十一月十三〜十四日にどのようなことが予想されるかについて、述べた。また桜木町駅周辺の大規模な追い出しと平行して四件の野宿生活者追い出しを確認しているという。
その中で、鶴見区では福祉関係の行政担当者が明け方に寝ているところを訪ねるなどかなり無茶なことをしている実態が明らかにされた。警察だけでなく、福祉行政もその本分をはきちがえている。APECを口実にした追い出しを許さず、横浜で開催されるAPECは生活に困る人々の声が反映されないイベントであることを、広く知らせなければならない。
原発推進・輸出
拡大狙う菅政権
ふぇみん婦人民主クラブ横浜支部の山口泰子さんは、原発はCO2削減に役立たないという理由を列挙して、高速増殖炉「もんじゅ」プルサーマル利用、核廃棄物再処理工場などの無駄使いを即刻やめるよう訴えた。APECは温暖化対策を打ち出すために六月に福井で行われたエネルギー相会合で原発推進、輸出促進を是とする声明を発表している。
原発は発電だけでなく、建造物、輸送、廃棄、立地維持のための補助金交付など色々な分野でエネルギーとカネの無駄使いをしているが、熱エネルギーの需要と供給を同時に減らすことの具体策を山口さんは簡潔に示していた。また日本という地域が原発建設において、世界の趨勢に反しているという意味でも、APECにおいて原発ビジネスがまかり通るということはさせてはならないところだ。
最後に民衆フォーラムから京極紀子さんが十一月十三日のデモ、フォーラム分科会、全体会への参加を呼びかけた。APECを資本主義エリートの独壇場にさせないために、生活の中で様々に抱いている怒りを十一月の横浜にぶつけられる民衆フォーラムを実現していこう。 (海田)
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