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                         かけはし2002.10.14号より

金融破綻を引き寄せる小泉改造内閣

失業・生活破壊とグローバル戦争を拒否する
インターナショナルな闘いに合流しよう!

 北朝鮮・金正日独裁体制による連続的な日本人拉致事件、うち八人の死亡をふくむ国家テロ犯罪の自白という衝撃的な事態を伴った小泉訪朝と日朝首脳会談は、ダッチロール状況を呈していた小泉内閣の支持率を一時的に回復させた。日本政治情勢は、北朝鮮・金正日体制の犯罪に対する強硬な姿勢と「強力な国家」の確立を求めるキャンペーンとあいまって、新たな展開を見せている。
 この中で小泉首相は、九月三十日に六人の閣僚の入れ替えをふくむ改造内閣を発足させた。それは、既得権防衛にしがみつく自民党内の抵抗・批判勢力に包囲され、政策展開能力の危機におちいっていた小泉自身の大きな賭けであった。
 旧来の自民党の諸派閥は、この内閣改造に対して「首相独裁」と弱々しい不満をあらわにしたが、それは、小泉から政局の主導権を奪回することができなかったことの自認でもあった。他方、野党はどうかと言えば、民主党の代表選挙で明らかになった鳩山新執行部の混迷に象徴されるように、小泉内閣を追い詰める力をさらに喪失している。
 しかし小泉改造内閣の発足は、ここ当面の政局的に言っても、息継ぎの可能性を与えるものではない。現に、日朝首脳会談で一時的に支持率を上げた小泉内閣は、改造後の世論調査ではまた支持率を下げている。その主要な要因は、不良債権問題に体現される金融的危機のいっそうの深まり、小泉「構造改革」の破綻と日本資本主義の出口のない状況の悪化であり、アメリカ・ブッシュ政権による対イラク戦争の切迫の中で、小泉政権がなんらかの支援策を迫られることである。
 小泉改造内閣で最も注目を浴びたのは、金融機関への公的資金注入に消極的な柳沢伯夫金融担当相を事実上更迭し、小泉首相の側近のブレーンでもある竹中平蔵経済財政相が金融担当相を兼務するという異例の人事であった。内閣改造直前のG7蔵相会議で、日本経済の長期にわたる危機が世界資本主義全体に波及せざるをえないことを改めて指摘され、「不良債権処理の加速化」を強力に求められた小泉内閣は、「閣内不統一」を解消し、対外公約を進めていくためにも、こうした措置を取らざるをえなかったのである。
 竹中は、当面する経済危機克服策としての金融機関の「不良債権処理」のために@資産査定の厳格化A自己資本のチェックBコーポレートガバナンス(企業統治)の強化、という「三原則」を強調し、資本が不足すれば公的資金を注入して、さらに効率的な経営を促すという方針を打ち出した。そして、十月三日には「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」を発足させ、十月十八日招集の臨時国会前に当面の戦略についての中間報告をまとめ、十月中に具体策をまとめるとされている。
 この「プロジェクトチーム」は、金融コンサルティング会社社長で、銀行の不良債権査定の甘さを強調し、「公的資金の強行的注入」を通じた企業整理を大胆に推進する論者である木村剛が登用されたことに見られるように、強行突破による二〇〇四年までの「不良債権の抜本的処理」論者が顔をそろえている。
 この方針が実行された場合、企業の倒産・整理が加速化し、大失業が加速化しデフレ不況がより深刻なものになることはきわめてはっきりしている。竹中は十月五日のTV番組で「傷んでいれば、大きくても、置いておけば周りが悪くなる。悪い企業は退出して、良い企業にはもっと伸びてもらうことは当たり前のことだ」と語り、大企業もふくめて整理しなければならない、と語っている。
 不良債権処理の強行突破が、小泉自ら「非常時」と語る金融危機を破綻にまで押しやることは不可避であり、そのため十月七日に小泉首相は前言をひるがえして、ペイオフの全面凍結解除を予定の来年四月から二年延期することを発表せざるをえなかった。竹中はまた、インフレターゲット政策を導入して、デフレ危機を克服する「政策協定(アコード)」を日銀に要請した。
 しかしこれらの措置が、今日の日本資本主義のどんづまりの危機的局面を解決し、新たな成長軌道に乗せるステップにはなりえないことは明らかである。本紙では九月十八日の日銀による銀行保有株購入決定について「金融危機の爆発を回避するどころか、株安、債券安(金利急騰)、円安のトリプル安を招き、逆に危機の爆発を招き寄せる可能性がある」と述べた(本紙9月30日号、高島論文参照)。
 危機のテンポは早まっている。竹中の強行的な「公的資金投入」路線が明確化して以後、東京株式市場での平均株価は「バブル以後最安値」を更新し続けており、ニューヨーク株式市場の続落ともあいまって、十月七日には八七〇〇円を割り込み、一九八三年六月以来、十九年ぶりという低水準に落ち込んだ。こうした株価の急落は、金融危機をさらに促進し、大規模な倒産とリストラ・失業の嵐を耐えがたいまでに強めていくだろう。
 小泉改造内閣の政策展開能力はますます奪われてしまっているのだ。
 小泉改造内閣のもう一つの特徴は、日朝首脳会談を通じて明らかになった北朝鮮・金成日独裁体制の拉致・工作船問題などの国家犯罪を利用した、ブッシュの「対テロ国際戦争」=イラクへの侵略戦争に呼応する、「戦争ができる国家体制づくり」への布陣の強化である。小泉内閣は、一五四通常国会で「継続審議」に追い込まれた有事法制3法案成立への意思を再度強調し、新たな「米軍支援法案」をふくめて、ブッシュのイラク侵略戦争に参戦する可能性をさぐっている。
 その最も象徴的な人事が、自民党若手タカ派・石破茂の防衛庁長官への起用であった。石破は、今年五月の衆院有事法特別委員会で「先制攻撃も憲法上は、法理論上はあり得る」と公言した。また五月二十三日の憲法調査会では「日本において、徴兵制は憲法違反だといってはばからない人がいますが、そんな議論は世界中どこにもない。国を守ることが意に反した奴隷的な苦役だというような国は、国家の名に値しない」と述べている。
 「先制攻撃」も「徴兵制」も憲法違反ではないという石破が、「集団的自衛権」の発動を容認してきたことは言うまでもない。石波は、防衛庁長官就任後のインタビューで、自衛隊が「対テロ戦」において警察権を行使することも当然と語っている。小泉はこうした石破の主張を積極的に認めた上で、彼を防衛庁長官に登用したのである。
 石破だけではない。防災担当相に起用された鴻池祥肇は、一九九九年の東京都知事選で石原慎太郎を応援して役職停止処分になったという前歴をもっている、根っからの石原都知事支持派である。「防災訓練」をまさに自衛隊を主役とした「治安出動訓練」として推進している石原慎太郎の「同志」が、よりによって防災担当相に任命されたことは、「防災」を治安警察的民衆管理の一環としてとらえようとすることを意味している。それが総合的な「有事」体制=「戦争国家体制」のためのシフトであることも明らかである。
 十月十八日から始まる臨時国会では、継続審議となっている有事法制3法案の成立は、事実上困難であるという観測が、各報道機関によって流されている。その一方で、政府・与党は臨時国会での有事法案の成立を改めて確認している。
 われわれにとって予断は許されない。ブッシュ政権によるイラク侵略戦争と小泉内閣による戦争協力=参戦に反対する広範な反戦運動を作りだすとともに、今春の有事法制反対運動の中で作り上げた共同行動をいっそう発展させ、有事法案廃案の訴えを多様な形で発していこう。
 十月十八日には、平和を実現するキリスト者ネット、日本山妙法寺、「戦争反対、有事法案を廃案へ! 市民緊急行動」の呼びかけで有事法制3法案の廃案を求める緊急院内集会が開催される。十月下旬にはアメリカの平和運動と連携した行動も企画されている。十一月下旬には、陸海空港湾労組20団体と宗教者の呼びかけによる大集会が行われる。全国各地で、イラク侵略戦争反対! 有事法制3法案を廃案へ!の行動を組織しよう。新自由主義的グローバリゼーションとグローバル戦争に反対し、失業・生活破壊と「戦争国家」体制を進める小泉内閣にノー!を。
  (10月8日 平井純一)    

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