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労働者・市民は何を訴え、要求すべきか         かけはし2010.10.4号

グローバル資本主義に立ち向かうクライメート・ジャスティス運動

生物多様性条約(COP10)と気候
変動条約(COP16)をめぐる攻防


 十月十一日から二十九日まで名古屋で、生物多様性条約の第十回締約国会議(COP10)と、「バイオ安全性に関するカルタヘナ議定書」の第五回締約国会議(MOP5)が開催される。また十一月二十九日から十二月十日までメキシコ・カンクンで気候変動枠組み条約第十六回締約国会議(COP16)が開催される。地球環境の危機の影響がすでに「南」の多くの諸国で、干ばつや洪水、食糧不足などの深刻な問題をもたらしている中で、これらの交渉はそのような影響を最も直接に被っている地域や人々の生存と生活に関わる重大な政治的攻防の場となっている。そこでは、環境破壊をビルトインした新自由主義的グローバリゼーションをさらに進めようとする「北」の諸国と、それに追随あるいは協調する「南」の新興諸国、そして「南」の諸国の先住民や小農民の運動を先頭とする全世界の「クライメート・ジャスティス(公正な気候政策を)」運動の三つの立場が、さまざまな問題をめぐって対立している。

生態系危機の問題を歪曲

 生物多様性条約は、気候変動枠組み条約と共に、地球環境の危機に対して国際的に取り組むための、国連を中心とするイニシアチブである。
 生物多様性の危機は、直接には地球上の生物種の数の激減という事実によって示されている。世界の八十四カ国の百十一の政府機関と八百七十四のNGO、三十五の団体が加盟する国際自然保護連合(IUCN)は絶滅に瀕している生物種についての情報を「レッドリスト」として発表している。IUCNによると、世界の哺乳類の二一%、両生類の三〇%、鳥類の一二%が消滅の危機にある。また、国連の報告によると、生物種の絶滅の速度は、自然条件の下での消失の速度の百倍となっている。
 生物種の急速な消失は、生態系バランスが失われることを意味し、農業、漁業など、自然との関わりの深い産業に従事してきた地域に直接の影響をもたらすほか、洪水、干ばつ、気候変動などの広範な影響をもたらす。
 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の森林は二〇〇〇年から二〇一〇年までの間に毎年約千三百万ヘクタールが失われた(1990年代には年間1600万ヘクタール)。特に、生物多様性の宝庫と言われる熱帯雨林の消失は深刻であり、アマゾン地域の熱帯雨林は、年間に二百七十万ヘクタールが失われて、このままではあと数十年で完全に消失すると予想されている。
 また、海洋の酸性化の影響で造礁サンゴの二七%が絶滅の危機に瀕している。
 産業活動による生態系の破壊が、人類の生存の条件を脅かすまでに至っているという認識の下で、一九九二年五月に生物多様性条約が締結された。
 この条約は、「生物多様性の保全、持続可能な利用、遺伝資源から得られる利益の公正・衡平な配分」の三つの目標を掲げており、現在百九十三カ国が加盟しているが、米国は加盟していない。
 また、同条約の下で、遺伝子組換え生物の規制に関して二〇〇〇年に特別締約国会議がコロンビアのカルタヘナで開催され、「バイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書」が採択された。
 二年に一度開催される生物多様性条約締約国会議(COP)とカルタヘナ議定書締約国会議(MOP)においては、主に「遺伝資源」によってもたらされる利益の分配と、遺伝子組み換え生物や外来種による被害に対する責任と修復をめぐって、バイオ技術の知的財産権の保護をすべてに優先させる「北」の諸国と、国内の生物種に対する主権を主張し、利益の分配を要求する「南」の諸国の対立が続いてきた。
 また、国連ミレニアム開発目標(MDG)の「二〇一〇年までに生物多様性の減少を止める」という目標に沿って、数値目標が検討されてきたが、達成不可能であることが明らかになり、二〇一〇年以降の新たな目標の設定も議題に上っている。
 COP10に向けて九月二十一日までカナダ・モントリオールで国連作業部会が開催され、遺伝資源の取得と公平な利益配分の国際ルールを規定する「名古屋議定書」原案の合意を目指していたが失敗に終わった。九月二十二日付「時事通信」は次のように報じている。「……豊富な遺伝資源を背景に利益配分を極大化したいアフリカなど途上国側と、利益配分の際限ない拡大を懸念する欧州連合(EU)など先進国側が対立。条文の文言の統一はある程度進んだが、主要な論点で意見の隔たりは大きいままで、議論の場を名古屋に移しても、合意にこぎつけられるか予断を許さない状況だ」。
 国連は二〇一〇年を「国際生物多様性年」と位置付け、九月の国連総会でも議題として取り上げ、この問題でのハイレベル会合を開催した。潘基文事務総長は次のように発言している。「あらゆる地域社会が生物多様性の喪失の報いを受けるだろう。しかし、最も貧しい人々、最も弱い立場にある人々、最も弱い立場にある国が最も大きな被害を受けるだろう。世界の貧困層の七〇%は農村地域に住んでおり、日々の生活と収入を生物の多様性に依存している」。
 この潘基文事務総長の指摘と、「遺伝資源」の利益の分配をめぐる対立に終始するCOPの現状には大きな隔たりがある。生物多様性を生物種がもたらす経済的価値に還元し、それを「ビジネス・チャンス」として位置付けるグローバル企業の論理がCOPを主導している。北の諸国による利益の独占に反対する「南」あるいは「途上国」側の主張も、基本的には「南」側の新興ビジネス・エリート層の利益を代表しているにすぎない。
 生物多様性の経済的価値に関する議論は、生物多様性を破壊することの社会的損失を可視化する上で効果的であるが、利益の分配をめぐる議論は、「南」の側に明らかに正当性があるとはいえ、生物多様性の保全とは全く別の問題である。
 本稿は、論点を明確にすることを意図しており、生物多様性条約の内容やCOP・MOPでの論争点についての詳細は取り上げない。それについては、名古屋でのCOP10・MOP5に向けて、市民の立場からの提言を準備してきた「生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)」の「ポジションペーパー」の問題意識を共有したい。
 このポジションペーパーは、同ネットワークの個別テーマごとの作業部会の提言をまとめたもので、六月に発表された第一次案が同ネットワークのウェブからダウンロードできる。
 このポジションペーパーは、新自由主義的な経済成長戦略を批判し、「生物多様性から生み出される恩恵(生態系サービス)を利用する人類として、その恩恵を地域間で適正に分配し、次世代に適正に引き継ぐ人類としての責任を果たす」という観点から、@「グリーン・エコノミー」、A「流域単位の政策統合」、B「コモンズ」(公共財産)の尊重、C保全政策の強化の「四つのアプローチ」を提案している。

気候変動対策の失速

 地球温暖化や生物多様性の危機に表現される地球環境の危機は、ICPP(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の予想の最悪のシナリオに向けて加速しているかに見える。
 今年六〜八月にかけて日本を含む世界各地を襲った記録破りの猛暑は、多数の犠牲者をもたらし、また、大規模な森林火災の誘因となった。パキスタンを襲った空前の水害も同じ原因(海水の温度上昇)によるものと考えられている。各地で旱魃による農業への打撃が予想され、深刻な食糧危機・水危機が予想される。
 その一方で、気候変動条約をめぐる交渉は、昨年十二月のコペンハーゲンでのCOP15の失敗の後、急速に失速し、今年十一〜十二月のカンクンでのCOP16で二〇一二年以降の新たな枠組みについて合意が成立する見込みは全くない。
 昨年のCOP15について、本紙は「COP15の失敗は温暖化の犠牲となる『南』の諸国への裏切りだ。責任は米国の横暴に同調したEU・日本にある」と指摘した(2010年新年合併号)。COPに期待をかけてきた多くのNGO団体の間では、形だけでも合意ができたことは成果だという評価がなされていたが、その後の推移をみれば、あまりにも自己欺瞞的な評価だったと指摘せざるを得ない。
 「グリーンニューディール」への転換を期待された米国のオバマ政権は、企業ロビイストに完全に包囲され、実効性のある温暖化対策を打ち出すことができない。それどころか、メキシコ湾沖合でのBP(ブリティッシュ・ペトロリウム)の油田の災害による大量の原油流出にも関わらず、依然として沖合油田の開発を進めようとしており、また、新規原子力発電所建設への融資を決定した。
 日本でも民主党政権の下で、温暖化対策を口実にした原子力発電の促進と、「エコポイント」、「エコ減税」という名目での自動車・家電産業への莫大な補助金の投入以外に、何の変化も起こっていない。
 〇八年のリーマンショックを契機とする金融危機によって、新自由主義の破綻が明らかとなり、変化への期待が高まったが、今や大手の金融機関は危機を脱し、主要なグローバル企業は収益を回復し、潤沢な資金を手にしている。
 彼らの温暖化対策は、成長を妨げず、国家からの潤沢な補助金が得られる範囲でのエコ投資であり、エコ消費を煽ることによって消費の落ち込みを最小限にすることである。それは「グリーンニューディール」論者たちが期待したような、雇用の増加をもたらす新しい経済モデルには全くつながってはいないし、世界の二酸化炭素排出の総量は増え続けている(09年に世界的な景気後退に伴って若干の減少が見られたことを除いて)。
 グローバル企業にとって最大の関心は、中国・インド・ブラジルをはじめとする「新興市場」への製品の売り込みであり、新興諸国との競争である。温暖化対策は新興諸国との競争上の優位を失わないための駆け引きにすぎない。
 一方、「新興国」は、温暖化は「北」の諸国の責任で、「南」には発展の権利があるという(それ自体は正当な)主張を掲げつつ、平均気温の二度の上昇が自分たちの生存を脅かすという島嶼諸国やアフリカ諸国の訴えに背を向けて、「北」の諸国の大量生産・大量消費モデルに追随している。
 「北」の諸国の一部では、もはや二酸化炭素をはじめとする温室化効果ガスの排出の削減は現実的でないとして、「ジオ・エンジニアリング」、つまり地球環境を人為的に変えることによって気温の上昇を抑制する研究が本格的に始まっている。たとえば、人工的に雲を集め雨を降らせる技術、大気に二酸化硫黄を注入することで火山の噴火と同様の効果を生み出し、気温を下げる技術、炭素を分離して地中に貯留する技術、海洋に鉄を散布して植物プランクトンを増加させる技術などである。
 また、原発輸出をめぐる国際競争が激化しており、インドでは米国のメーカーの圧力によって「原発事故補償制限法」が制定された。これは原発事故は発生するという想定で、その際のメーカー側の補償責任を制限するという内容である。
 さらには、京都議定書に「抜け穴」として持ち込まれた「クリーン開発メカニズム」や途上国におけるREDD(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)プログラムによって自国内における排出増を相殺するという手法が際限なく拡大している。
 これらは地球上における温室効果ガスの排出の総量を削減するものではないか、常に大災害の危険を伴うものであるか、または対象地域(途上国)の人々、とくに先住民の居住と生活手段を奪う非常に問題の多い方法である。
 さらに、米国国防総省では、気候変動に伴う大量の環境難民の米国内への流入を阻止するための作戦の研究を開始していると伝えられている。
 もはやCOPにおける交渉で、このような破滅に向かうシナリオを阻止することは非常に困難であると言わざるを得ない。

ビア・カンペシナの呼びかけ

 世界のラディカルな農民運動団体のネットワークであるビア・カンペシナ(「農民の道」)は、九月一日付で、カンクンでのCOP16に向けた闘いの呼びかけを発表した。「人民は気候変動に対する何千もの解決策を創造している」と題するこの呼びかけは、COP15でのコペンハーゲン合意について、「気候変動をめぐる交渉は巨大な市場に変質してしまった」と非難し、多くの「先進国」は温室効果ガス排出削減の抜け穴としてクリーン開発メカニズム(CDM)を利用して、自国での排出を減らすことなく、「途上国」で低コストで排出量を削減することによってそれを相殺しようとしていると指摘している。
 具体例として、モンサントは遺伝子組み換え大豆の栽培のためのプランテーションについて、「地中に有機物を蓄積することによって温室効果ガスの排出を減らす」という根拠で排出クレジットの認証を求めている。途上国政府も、多くの場合、このようなプログラムを受け入れ、その影響を受ける地元の人々を守るために地域の持続可能な農業を支援する等の措置を取る責任を放棄している。
 ビア・カンペシナの呼びかけはまた、気候変動の影響による干ばつ、洪水や、新資本主義的グローバリゼーションによってもたらされた水質汚染、土壌の喪失等のために生活基盤を奪われ、移住を余儀なくされている「環境難民」が五千万人に達しており、このままでは二億人まで増加することが予想されると指摘している。
 しかし、「解決策はある。(4月に)ボリビアのコチャバンバで開かれた『気候変動およびマザーアースの権利に関する世界民衆会議』(本紙5月17日号および7月5日号を参照)に世界から三万五千人余の人々が集まり、地球を救うための新しい構想と提案を膨らませた。人民によって提案された何千もの解決策は、気候危機に効果的に対処している。われわれは気候変動に関する国連枠組み条約がコチャバンバ合意文書に書かれている提案を支持し、すべての偽りの解決策を拒絶するよう要求する」。
 提案の具体的な内容として、土地と森林に対する権利、REDDを拒否すること、先住民と農民の土地と文化的権利の承認、ジオエンジニアリングを拒否すること、一切の排出量取引とクリーン開発メカニズムを拒否すること、環境に関連する一切の基金へのIMFの関与を拒否すること等が挙げられている。
 さらに、「科学的研究によると、農民と先住民は、生物多様性を豊富化し、土壌の有機物を回復させ、工業的な食肉生産を地域に向けた小規模な多角的生産に転換し、森林伐採を止め、総合的な森林管理を確立することによって、現在の世界全体の温室効果ガス排出量を七〇%減らすことができる」
 ビア・カンペシナは、十一月に「コチャバンバからカンクンへ」国際キャラバンなど、さまざまな行動を呼びかけている。
 コペンハーゲンCOP15の失敗と四月コチャバンバ会議を経て、気候変動をめぐる政治的攻防は、従来の「北」対「南」の対立から、新自由主義的グローバリゼーションをさらに進めようとする「北」の諸国と、それに追随あるいは協調する「南」の新興諸国、そしてそのいずれをも拒否し、先住民や小農民の運動によって提起されている対案を支持し、その実現のために闘うクライメート・ジャスティス運動の三つの立場の対立へと明確に移行した。
 「北」の諸国において、環境団体、市民団体や労働組合の運動は排出削減に向けた政策転換に一定の成果を上げてきたが、多くの運動団体はクライメート・ジャスティスの観点が欠落し、また、数値目標を自己目的化し原発やCDMを容認あるいは黙認する傾向がある。とりわけ日本では、最大労組の連合が企業と一体となって原発推進を掲げている。「北」の諸国の運動は意識的にこのような弱点を克服し、クライメート・ジャスティスのための運動に合流することが求められている。

開発と「マザーアース」

 コチャバンバ会議を呼びかけたボリビアのモラレス大統領と、ヤスニITTプロジェクト(本紙本紙5月17日号を参照)を提案したエクアドルのコレア大統領は、国際的な政府間交渉において、クライメート・ジャスティスの主張を代表している。
 生物多様性条約COP10と気候変動枠組み条約CO16の両方において、コチャバンバ合意とヤスニITTプロジェクトをめぐる議論が展開されるだろう。これらの提案は、国連および政府間交渉における議論の枠組みの転換を迫る画期的な内容であり、南米を始め「南」の多くの支持を得ている。
 しかし、両政府とも、国内において鉱山開発や石油開発に反対する住民(主に先住民)と対立しており、市民運動団体からも厳しい批判を受けている。
 ボリビアは天然ガス、亜鉛、鉛などの資源を輸出しており、また、リチウムの開発を進めようとしている。エクアドルは石油の輸出が最大の収入源であり、ヤスニITTでの石油採掘を放棄するという画期的な計画にも関わらず、その周辺地域では石油開発のために外国の石油企業との交渉を進めている。
 両国とも、外国企業による資源の支配と収奪を断ち切り、採掘した資源を国内における経済発展・貧困解消のための財源として利用することを基本的な政策としている。
 この政策は現実には先住民の権利や「マザーアースの権利」という原理と矛盾する局面がある。
 モラレス大統領は「開発の権利」を主張し、「北」の諸国が環境汚染を減らして、「南」の諸国の開発の権利を保証するべきだと主張している。
 コレア大統領は、ヤスニITTのための基金が集まらなければ、プランB(石油を採掘する)を進めると言明している。
 このような主張は正当であり、とりわけ「北」の諸国の運動団体が一方的に断罪することはできない。
 両国とも依然として米国と結びつく右派政治勢力が一定の力を持っており、両国政府は社会運動団体との協力関係によって政治的安定を維持しているという事情がある。
 コチャバンバ合意とヤスニITTプロジェクトを支持する国際的な運動こそが問われており、「開発の権利」を擁護しつつ、その負の影響を最小限にするためのメカニズムが確立される必要がある。ヤスニ・ITTイニシアチブはそのようなメカニズムに向けた画期的な試みである。
 ヤスニITTイニシアチブは三年間にわたる紆余曲折を経て、八月に国連開発計画との間で基金設立の正式の契約が締結されて実現の第一歩を踏み出した(本誌前号のシンポジウム報告を参照)。しかし、このメカニズムがCDMや排出量取引に連動される可能性もあり、資金調達の展望を含めて、さまざまな流動的要素がある。
 生物多様性条約COP10と気候変動枠組み条約COP16に向けて、われわれは日本政府に対して、さまざまな市民団体からの要求・提言に加えて、次のことを要求するべきである。

bコチャバンバ合意を支持し、温室効果ガス排出の大幅削減の計画を実施せよ

bヤスニITTイニシアチブを支持し、基金を拠出せよ

b原発の稼働を前提とした温室効果ガス排出削減目標を撤回し、自然エネルギーへの転換を推進せよ

b生態系を破壊する辺野古新基地建設を中止せよ

       (小林秀史)


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