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          かけはし2010.10.25号

希望の道をとざすAPEC反対

進歩性ゼロさらす支配階級の談合をアジア民衆の連帯で圧倒しよう!


 十一月十三日・十四日に横浜で首脳会合が行われるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は、毎年二十一カ国・地域の持ち回りで開催されてきた。今年の横浜APECで何が話し合われ、それは労働者民衆にとってどのような意味を持つのかについて、いくつかの分野に分けて検証する。

成長と繁栄の夢想なお追求

 APECとは「アジア太平洋地域の二十一の国と地域が参加する経済協力の枠組み」であり、「持続可能な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、人間の安全保障、経済・技術協力等の活動を行う」(公式サイト)枠組みである。正式な国際機関ではなく、あくまで「メンバーを法的に拘束しない、緩やかな政府間の協力の枠組みであり、各メンバーの自発的な行動により取組を推進する」ものであり、それゆえ「他のフォーラムに比べてより先進的な取組を行うことが可能」となる。
 一九八九年に発足したAPECは、域内の市場化を前提とする経済自由化を進めることが目的であり、九四年に「ボゴール宣言」を採択した。そこでは「持続可能な成長、衡平な開発及び国家の安定という三つ」を柱とした経済的アプローチにたって「アジア太平洋全体としての経済発展の達成を促進」し、「アジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成を遅くとも二〇二〇年までに完了するとのコミットメントを発表することに意見の一致を見た。実施の速度については、APEC経済間の経済発展段階の違いを考慮に入れ、先進工業経済は遅くとも二〇一〇年までに、また、開発途上経済は遅くとも二〇二〇年までに自由で開かれた貿易及び投資という目標を達成する」。
 「自由で開かれた貿易及び投資」が具体的にどのような状況を言うのかについては、はっきりとした指標があるわけではなく、とりわけボゴール宣言の翌年に発足した世界貿易機関(WTO)の交渉が二〇〇五年十二月の香港閣僚会合以降、実質的に何ら成果を見ないなかで(闘争の成果だ!)、この「自由で開かれた貿易及び投資」というスローガンを叫び続けること、それのみが意味を持つだけになってしまっている。
 また「持続可能な成長、衡平な開発及び国家の安定」という三つの柱は、どれも金融危機に見舞われた現在においては「夢想」としか言いようのないものになっているが、財界に尻を叩かれて作り上げた「成長戦略」を実現することに躍起になっている民主党政権は、中国の台頭の影に隠れつつある日本経済の影響力の回復を願うという立場から、こういった「夢想」ともいえるビジョンを本気になって実現しようとしている。

強力なリーダーシップという刃

 二〇一〇年日本APECは、これまで何度かの根回し・交渉的な実務者(役人)会合をはさみ六月には札幌で貿易担当大臣会合、福井でのエネルギー大臣会合、八月には別府で成長戦略ハイレベル会合が開かれ、十月に入り、岐阜での中小企業大臣会合、新潟での食糧安全保障担当大臣会合など、様々な分野における会合を積み重ねてきた。
 だがそこで語られたいずれの宣言やビジョンにおいても無限の「成長」という資本主義の桎梏から逃れることのできない袋小路的な隘路に陥っている。昨年のAPECシンガポールにおいて、初めて域内における成長戦略を策定することを決定した。それは金融危機後の地域経済成長を形作るものとなるという。しかし、先に見た九四年の「ボゴール宣言」における「夢想」を上回る「妄想」がこの「成長戦略」にはっきりと表れている。今年の六月に札幌で開かれた貿易大臣会合では「成長戦略は、均衡があり、あまねく広がり、持続可能で、革新的で、安全な経済成長を達成することを目指すものである」と宣言した。このような現実とかい離したビジョンへの突進は様々なひずみを生みだす。
 たとえば、貿易大臣会合の二週間後に福井で開かれたエネルギー大臣会合の宣言では、危機的状況にある地球環境および経済危機が明らかにした「成長」路線の破たんなどなかったかのように、次のように述べている。「より効率的なエネルギー使用とよりクリーンなエネルギーの供給が、エネルギー安全保障の促進、経済成長、及び排出削減を同時にもたらす。これら三つの目標を同時に達成するためには、強いリーダーシップが必要である」。
 アジア太平洋地域の労働者民衆にとって本当に必要なことは、エネルギー消費量そのものの削減、とりわけ帝国主義諸国における大胆な取り組みである。だが宣言では「量」的削減ではなく「質」的改善、つまり効率化という極めて欺瞞的な政策に終始している。さまざまな技術的対応が述べられているが、ここで暗示的に述べられている「よりクリーンなエネルギー供給」とは、他でもない原発による発電や、アジア太平洋地域への輸出のことである。原発輸出のためには「強力なリーダーシップが必要である」というわけだ。

FTAAにのめり込む菅政権

 二〇一〇APEC日本において議論されるであろう議題の一つに、アジア太平洋自由貿易地域協定(FTAA)がある。これは二〇〇四年にAPEC首脳の諮問機関として各国地域の支配的資本家から構成されるAPECビジネス諮問委員会(ABAC)が提起した構想であったが、当初は「法的に拘束しない、緩やかな政府間の協力の枠組み」としてのAPECの原則からの逸脱の可能性があるとして、ほとんど議論の対象とはみなされなかった。
 しかしWTOドーハラウンド交渉の停滞からの脱却や、米国抜きで進むかに見えた東アジア経済統合に対するけん制の意味も込めて、二〇〇六年から米国政府がFTAAを積極的に議論の俎上に載せたことから、今年のAPECにおいても実現の道筋を探ることになる。民主党政権は、六月の新経済成長戦略において次のように閣議決定している。「二〇一〇年に日本がホスト国となるAPECの枠組みを活用し、二〇二〇年を目標にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築するための我が国としての道筋(ロードマップ)を策定する」。
 しかし九月に仙台で開かれた高級事務レベル会合において、日本政府の掲げる「二〇二〇年にFTAAPを構築する」という目標は、各国地域間においては一致しなかった。加盟国地域間における経済格差が大きいAPECにおいて、自由貿易地域として法的拘束力を持つ枠組みが、経済力の弱い国や地域に及ぼす影響への懸念があることを物語っている。FTAAP構築の議論をWTO交渉推進のテコにしようという目論見も見え隠れしていることも影響しているだろう。いずれにせよ、APECの枠組みで議論されるFTAが及ぼすであろう労働者民衆への諸影響を研究するとともに、金融・経済危機の原因には触れることなく「成長」一点張りの政策を進めようとする民主党の経済政策と闘う陣形を、日本の労働運動、社会運動はつくりだす必要がある。

反動的なビジネス諮問委員会

 リーマンショックに端を発する金融・経済危機からの脱却の処方箋としてG20では念仏のように自由貿易体制堅持の方針が唱えられてきた。「(危機克服の)改革が、法の支配、私的財産の尊重、開かれた貿易と投資、競争的市場、効率的で効果的に規制された金融システムといった、自由市場原則へのコミットメントを基盤とする場合にのみ成功することを認識する」(08年11月、米ワシントン)、「世界の貿易・投資の再活性化は、世界の成長の回復に不可欠である」「貿易・投資を促進し、円滑化するためにできるあらゆる手段を講ずる」(〇九年四月、英ロンドン)、「我々は市場の開放と自由を維持し、……投資あるいは物品及びサービスの貿易に対する障壁を設けたり新たな障壁を課したりせず、新たな輸出制限を課さず、世界貿易機関(WTO)と整合的でない輸出刺激策をとらず、そのような措置がとられれば是正していくことにコミットする」(09年9月、米ピッツバーグ)、「貿易の流れを通じ世界的な成長を加速させるためのドーハ・ラウンドの妥結。開かれた貿易は万人に多大な利益をもたらし、世界的なリバランスを促進し得る」(10年6月、カナダ・トロント)。
 APECは、その中心的課題である域内における貿易・投資のさらなる円滑化への取り組みを通じて、危機の中でその存在意義が再び強調されることになった。リーマンショック直後の〇八年一一月、ペルーのリマで開かれたAPEC首脳会合は、危機に対応する特別の「世界経済に関するAPEC首脳 リマ声明」を発表した。そこでは「我々は、18カ月間でこの危機を克服することができると確信している」として、APEC加盟国地域における金融セクター改革の重要性について述べている。
 しかしG20は、当初、今年の十一月に開かれる韓国でのG20において、危機時の政策を終わらせる「出口戦略」を議論予定であったにもかかわらず、危機克服の核心である金融自由化への強固な規制ができないまま、ギリシャ危機に象徴される欧州危機へと、その事態は一層の混迷を深める状況になっている。ATTACなどが求める「トービン税」導入の拒否に象徴されるG20諸国の中途半端な対応策が、危機の度合いを深めた。「十八カ月で危機を克服できる」と豪語したAPECにおいても状況は同じである。いやそれ以上に反動的である。というのも、前述のAPECビジネス諮問委員会(ABAC)がより直接的にトービン税を含む金融部門課税の導入に反対する緊急書簡を今年の二月に国際通貨基金(IMF)のドミニク・ストロス・カーン専務理事に送っているからである。
 ABACは、APEC加盟21カ国・地域の各首脳により任命されたビジネス界代表によって構成され、「APEC唯一の公式な民間諮問機関」として位置づけられている。ABACの議長はその年の開催国の財界から選出されることから、今年のABAC議長は三井物産の相原元八郎顧問である。そしてこの緊急書簡を中心的に取りまとめたのは金融・経済作業部の会長である三菱東京UFJの渡辺喜宏顧問である。
 緊急書簡は「金融部門課税は実体経済の回復に対し、非常に有意な否定的効果をもたらす。なぜなら市場が脆弱で世界経済の回復見込みが不確かな状況下では、課税に伴う追加コストは、経済活動に伴う金融取引を更に減少させるからである」と主張している。しかし実体経済の何十倍もの規模で上回る通貨取引のほとんどが投機である金融市場に対して、懲罰的な課税としての通貨取引税をかけることで、金融市場を適正な規模に縮小・安定させることは、労働者民衆にとってなんらマイナスではない。「国や地域によって、非課税、或いは特定取引免税の決定により、国境を越えた課税逃れが起き、かかる税を効果的に実施することは実質的に不可能である」などと堂々と脱税宣言するABACの連中が影響力を持つAPECにおける議論に幻想を持つ余地は一ミリもない。

協力では危機は回避できない

 APECは「交渉」の場ではなく「協力」の場である。連合などが加盟する「国際労働組合総連合・アジア太平洋労働ネットワーク」(ITUC・APLN)は、APECに対して、「APEC労働フォーラム」の設置をはじめ、APECの社会的側面を強化せよと要望し、九月には菅直人総理大臣などと面会している。危機の時代において、資本とその階級支配の道具である国家との「協力」によって、たとえ現在の危機を一時的に回避することができたとしても、それは次のより大きな危機への道を掃き清めることにつながるだけである。労働者民衆にとって必要なことは資本との「協力」ではなく「対決」である。
 歴史的な役割を終えたにもかかわらず、いまだ対抗的勢力の不在によって死の苦悶にのたうち回りながら破壊を続けつつ生きながらえている資本主義と同じように、マルクスのいうところの「不可避的な社会革命のための諸条件を最も急速につくりだす経済的媒体である」自由貿易体制も同様にその歴史的進歩性は過去のものとなっている。
 にもかかわらず、依然として資本主義的恐慌循環の「唯一可能な解決、それは社会革命であり、社会的生産諸力を時代おくれになった社会秩序の桎梏から解放し、実際の生産者である人民大衆を賃金奴隷制度から解放する社会革命」(エンゲルス「保護関税と自由貿易」)は、いまだ実現していない。しかし「アジア太平洋地域のみならず世界全体において、加速され、バランスがとれ、そして衡平な経済成長の可能性を高めるであろう我々の経済協力の将来の道筋を描く」と言い放ったボゴール宣言と同じ年の一月一日に発効するNAFTA(北米自由貿易協定)への抵抗を示して「もうたくさんだ!」というラカンドン密林宣言とともに蜂起したサパティスタ民族解放軍がその一端を切り開いたオルタグローバリゼーション運動は前進する。
 十一月十三、十四日に横浜で開催される「APECいらない!」横浜フォーラムを成功させよう! (早野一)


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