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4月コチャバンバ会議(ボリビア)の意義         かけはし2010.5.17号

「資本主義の打倒かマザーアースの破滅か」

気候変動抑止のための真の闘いが南米から始まった


COP15の失敗と重大な影響

 ボリビアのモラレス大統領の呼びかけで四月十九〜二十二日にコチャバンバで開催された「人民の気候サミット」(気候変動およびマザーアースの権利に関する世界民衆会議)には、全世界から三万三千人が参加した(外国からの参加者は約1万人)。エクアドルでは、生物多様性の宝庫と言われているヤスニ国立公園の地下に約九億バレルの石油が埋蔵されているが、コレア大統領はこの石油を採掘しない代わりに、それによって失われる収入の半分を国際社会が拠出する「ヤスニITTイニシアチブ」を提案し、近く国連開発計画(UNDP)との契約を締結する。この二つの動きは、気候変動をめぐる「南」の諸国、とくに南米の先住民を中心とした新しい挑戦であり、資本主義経済体制の前提そのものを直接に闘争の対象に設定している。
 「人民の気候サミット」は、昨年一二月にコペンハーゲンで開催されたCOP15の失敗の直後に、ボリビアのエボ・モラレス大統領が呼びかけたものである。呼びかけの内容と背景については本紙三月一日号を参照されたい。
 四月二十日から始まる公式イベントのオープニング集会で、モラレス大統領は次のように発言した。
 「われわれがここに集まったのは、コペンハーゲンで、いわゆる先進諸国が温室効果ガス排出削減のために真剣に努力するという義務を果たさなかったからである。われわれには二つの道がある。パチャママ(「母なる大地」)か死かである。資本主義が死滅するか、マザーアースが死滅するかである。もちろんわれわれは生命のため、人間のため、マザーアースの権利のためにここにいる。マザーアース万歳! 資本主義に死を!」
 この会議には約五十カ国の政府が代表を派遣し、百四十カ国から先住民団体、労働組合、農民組織、環境運動団体、NGOなどの活動家や多くの科学者が参加した。
 ボリビアでは現在、氷河の融解が深刻な問題となっている。ボリビアとペルーにとって重要な水の供給源であるアンデスの氷河は、一九七〇年代初めから二〇〇六年の間にその表面区域の約三分の一が失われた。ラパスやエルアルトでは水不足が深刻化しており、農業にも重大な影響が及んでいる。ボリビアの人々にとって、気候変動とその影響は自分たちには何の責任もなく、どうすることもできない問題である。「先進国」の責任を追及し、「気候債務」の履行を求めるモラレス大統領とボリビア政府の主張は、同様の問題に直面している多くの「南」の諸国の共感を得ている。
 「北」の諸国においても、共感は広がっている。米国政府は出席を拒否したが、米国からはアラスカでの石油・天然ガス開発に反対するREDOIL(「先住民の土地の環境破壊に抵抗する運動」)などの先住民団体の代表二十人が参加し、連帯を表明した。
 「地球の友」、「ビアカンペシナ(農民の道)」をはじめとするラディカルな国際ネットワーク団体も、「コペンハーゲン合意」に対する力強い対案として、ボリビア政府の呼びかけに応えた。

合意文書と具体的提案

 三日間、十七のワークショップで行われた討論を反映した最終合意文書が採択された(6面別掲載資料を参照)。この中で、「自然の権利」を明記した「母なる大地の権利のための世界宣言」の採択、「環境とクライメートジャスティス(公正な気候変動対策)のための国際法廷」の設立、「気候債務」の観点からの基金、気候変動に関する「世界国民投票」などが提案されている。
 「地球の友」インターナショナルのニンモ・バッセイ代表は次のように述べている。「世界のリーダーたちはコチャバンバ会議を無視したいかもしれないが、誰もこの会議の合意を無視できないだろう。この合意はコペンハーゲン合意よりよい内容であり、より現実的である。この会議こそ気候変動の問題に取り組む真のフォーラムである」(「ガーディアン」紙4月23日付)。
 ボリビアのアンヘリカ・ナバロ国連大使は次のように述べている。「先進国は、ここで行われたことを真剣に取り上げるべきだ。これこそが真の民主主義だ。私たちは人民から提案された解決策を交渉のテーブルに乗せようとしているのだ」(同)。
 ボリビア政府は四月二十六日にこのコチャバンバ合意文書にもとづく提案を国連気候変動枠組み条約事務局に提出した。五月七日にはモラレス大統領がコチャバンバ会議に出席した市民団体や先住民団体の代表と共に、ニューヨークで国連の潘基文事務総長にこの合意文書を手渡し、記者会見を行い、「G77プラス中国」の代表に対する概要説明を行う。
 会場近くでは、モラレス大統領に批判的な先住民団体を中心に、非公式の「第十八ワークショップ」が開催された。参加した活動家たちは、モラレス大統領が「北」諸国の開発を批判しているが国内では鉱山開発を進めていると批判している。近くのサン・クリストバル鉱山(住友商事が所有している銀山)で環境汚染や水不足(銀山が大量の水を使用している)が起こっており、鉱山労働者や住民が三週間にわたって道路を封鎖していた。政府はまた、リチウムの採掘を計画しており、その収入を国内の貧困解消の重要な財源にすることを計画している。
 このように、「自然の権利」と開発の矛盾が具体的な問題を通じて不断に顕在化することも現実である。この矛盾はボリビア一国で解決できるものではなく、また、政府と住民、とりわけ先住民との利害の一致があらかじめ確保されるわけでもない。先住民たちの立場(とくに政治的立場)や要求も多様である。
 モラレス大統領とボリビア政府のイニシアチブは、一方でこのような矛盾を抱えており、このイニシアチブに連帯する立場から、このような矛盾をも国際社会の責任として受け止め、「南」の諸国の経済発展の権利を最大限に尊重しつつ、より真の解決に近い方法で解決するのを支援することが問われている。以下で紹介するエクアドル政府の提案は、そのような課題への一つの挑戦として受け止めることができるだろう。

エクアドル・コレア大統領の決断

 エクアドルの北西部、アマゾン地域に位置するヤスニ国立公園の地下に約九億バレルの石油の埋蔵が確認されている。
 エクアドルでは石油が重要産業となっているが、これまで石油採掘は米国企業にのみ利益をもたらし、しかも採掘地域の環境を破壊してきたことから、ヤスニの石油開発に対しては環境団体や、この地域に居住する先住民たちが強く反対してきた。
 コレア大統領は就任後、ヤスニ国立公園の石油採掘を断念する代わりに、それによって失われる収入を国際社会が拠出することを提案した。
 この石油を採掘し燃やした時に排出される二酸化炭素は四億三千六百万トンと予想される。この排出を回避する代償として、国際社会が十年間にわたって年三億五千万ドルを拠出し、それをエクアドルの生態系の回復や植林等の温暖化対策に活用するという提案である。
 この提案に関心を示したヨーロッパ諸国(ドイツ、ノルウェー、スペイン、英国など)とエクアドル政府の間で交渉が進められてきた。基金についてはエクアドル政府と国連開発計画によって管理することが合意された。
 エクアドル政府内においても、このイニシアチブは非現実的であるとして、石油採掘を開始する「プランB」が検討され、コレア大統領も動揺的な態度を示してきた。「プランB」は、ベネズエラや韓国などの企業からの投資によって新しい精油施設を建設し、ヤスニ国立公園の一部の地区で採掘を許可するというものである。
 コレア大統領は鉱山開発をめぐっても先住民団体と対立しており、資源の活用を通じた貧困解消という戦略を堅持している。
 こうして非常に流動的な状況の中で、コレア大統領は最終的に「ヤスニITTプロジェクト」(注)を進めることを決断し、近く国連開発計画との間で契約が締結される。日本政府にもこのプロジェクトへの協力が要請されている。
 これは非常に重要な前進である。しかし、基金のメドがつかなければ「プランB」が復活する可能性があり、日本を含む「北」の諸国はエクアドル政府の決断に応える重要な責任を負っている。
(注)ITTはこの地区の三つの油田、イシュピンゴ、タンボカチャ、ティプティニの頭文字。 (小林秀史)



資料
「気候変動およびマザーアースの権利に関する世界民衆会議」合意文書(抜粋)


 母なる大地は傷つき、人類の未来は危機に瀕しています。
 人類は大きな選択を迫られています。資本主義の道を続け、略奪と死を選ぶのか、自然との調和と命の尊重という道へ踏み出すのか。
 人間と自然との間の調和、人々の間での調和を再び成り立たせる新しいシステムを、生み出すことが求められているのです。
 世界中の人々に対して、日々の生活と「善き生き方」という提案の中で確認されてきた先住民族の知識や知恵、伝統的な実践の回復と再評価そして強化を提起します。母なる大地を生きるものと考え、私たちはその母なる大地と不可分の、相互に依存した、補完的そして精神的な関係を保っているのです。
 私たちが支持するモデルは、破壊的な際限なき開発ではありません。それぞれの国々は、人々の基本的な必要を充足するために財やサービスを生産する必要があります。しかしそれはこれまでの豊かな国々が目指してきた開発の道を続けるものではありません。
 私たちは「母なる大地の権利のための世界宣言」の制定を呼びかけます。
 そこでは次のような権利を書き記しています。
b生命への権利、存在する権利
b尊重される権利
b人間による改変から自由に、そのサイクルと生命プロセスを続ける権利
b自律性と相互性を有する、異なるものとして、アイデンティティーと統合性を維持する権利
b生命の源としての水への権利
b清浄な空気への権利
b統合的な健康への権利
b汚染、毒性廃棄物、放射性物質からの自由の権利
b生命の統合性と健康的な機能を脅かすような、遺伝的改変を受けない権利
bこの宣言に定められた権利が、人間の活動によって侵害された際に、早急かつ十全に回復される権利
 気候変動枠組条約の目的を実現するために、「共通するが異なった歴史的な責任」という原則に基づいて、先進諸国に対して、量的な目標について約束することを求めます。
 気候変動を引き起こしてきた主たる原因である先進諸国は、歴史的かつ現在における責任を担い、すべての範囲における気候債務を認め、また引き受けなければなりません。
 「コペンハーゲン合意」は正統性を欠くものであり、母なる大地の統合的な環境を脅かし、摂氏四度近くの気温上昇につながるものです。
 今年末にメキシコで開催される気候変動会議において、京都議定書の第二約束期間(2013年から2017年の)の目標が採択されなければなりません。温室効果ガスの実質的な削減の不履行をごまかすような、炭素市場やその他のシステムを含めるべきではありません。
 気候変動に対する「適応」という概念を拒否します。それは先進諸国の歴史的な排出によって引き起こされた影響を忍従させるものと理解できますが、そもそも地球の危機を前にその生活スタイルや消費スタイルを適合させるべきは先進諸国なのです。
 気候変動に立ち向かっていくための資金メカニズムの一つとして、私たちの国家の主権のもとで、透明かつ公正に管理される、「適応のための基金」を設置することが必要です。
  地球温暖化を止める、地球を冷やすという、人類にとって大きな課題は、農業を根幹から変換することを通じてのみ実現されるでしょう。農民や先住民族による持続的な生産モデル、あるいはエコロジカルな伝統的実践やモデルに基づく農業に移行することによって、気候変動問題の解決に貢献し、また食料主権を確立することができます。
 アグリビジネスは気候変動の主要な原因の一つとなっています。私たちは自由貿易協定や連携協定を拒否するとともに、生命に関連する知的所有権の適用、農薬や遺伝子組み換えといった現在の技術パッケージ、その他の誤った解決策(バイオ燃料やジオ・エンジニアリング、ナノテク、自殺遺伝子)などを拒否するのです。
 また資本主義のモデルが、インフラなどの巨大プロジェクトを押しつけていることを告発します。搾取的なプロジェクトをもってテリトリーを侵略し、水を民営化し、商品化し、先住民族や農民を排除した土地を軍事化し、食料主権を侵害し、社会・環境的な危機を深化させているのです。
 すべての民族、生物、そして母なる大地の、水へのアクセスを享受する権利を尊重することを要求し、また水への権利を基本的な人権と認めるボリビア政府の提案を支持します。
 気候変動枠組み条約の交渉において利用されている森林の定義が、プランテーションを含んでいることを受け入れることはできません。モノカルチャーは森林ではありません。自然林、ジャングル、地球の多様な生態系を認めた定義を求めます。
 「国連の先住民族の権利宣言」は、気候変動に関する交渉の中で包括的に適用されなければなりません。森林破壊を防ぎ、自然林やジャングルの劣化を防ぎ、守っていくためには、土地やテリトリーに対する集団的権利を認めることが重要な戦略と行動となります。大半の森林やジャングルは先住民族や伝統的な農民コミュニティの領域に位置しているのです。
 REDD(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)やREDD+、REDD++などの市場メカニズムの利用を非難します。これらは先住民族の主権を侵害し、事前の十分な情報に基づく自由な合意に対する権利を侵害しています。
 現在の環境の悪化と気候変動の結果の一つが国内外への移民です。気候移民は現在では五千万人と推測されます。先進諸国はこの気候移民に対する責任を負うべきであり、すべての国家が気候移民という定義を定めた国際的な条約の調印に基づいて、その領域に迎え入れ、その基本的な権利を承認すべきです。
 既存の炭素取引のメカニズムは気候変動問題を解決することができません。炭素市場を拡大し、促進させるための新しいメカニズムを構築しようという交渉は容認できません。
 技術開発と移転に関して、参加型の管理と執行、評価のための多国籍間かつ学際的なメカニズムを構築することが重要です。また知的所有権から解放された適正技術の台帳と融資基金の設置も重要です。
 国家、企業、個人が、意図的あるいは過失から、気候変動を引き起こしたり、汚染したりするのを予防し、裁き、処罰するための法的な拘束力を持つ「環境とクライメートジャスティスのための国際法廷」の設置を要求します。
 気候変動枠組み条約及び京都議定書における温室効果ガス削減目標を遂行していない先進諸国を国際司法裁判所に告発するしようとする国家を支持します。
 参加国家が「気候変動と環境に関する国際法廷」の決定を遵守するように、国連の根幹からの改革を提案し、促進することを、人々に対して強く求めます。
 気候変動に対する世界的な国民投票、住民投票の実施が必要とされています。その国民投票で、先進諸国や多国籍企業が行うべき排出量の削減レベル、先進諸国が提供すべき資金、クライメートジャスティスのための国際法廷の設置、「母なる大地のための世界宣言」の必要性、資本主義システムの変更の必要性について、私たち皆が問われるべきなのです。
 この「民衆合意」の結果を実現するために、「母なる大地のための世界運動」を立ち上げ、世界レベルでの広範かつ民主的なコーディネーションと連携のスペースを築いていきたいと思います。
 メキシコにおいて、先進諸国が温室効果ガスの排出を五〇%削減すること、またこの合意に含まれる諸提案を取り入れるように世界に対して働きかけていくための行動計画を採択するものです。
 最後に、「母なる大地のための世界運動」の確立の一環として、二〇一一年に、第二回の「気候変動と母なる大地のための民衆会議」を開催することに合意し、また年末にメキシコのカンクンで開催される気候変動条約国会議の結果に対応していきます。(「開発と権利のための行動センター」のウェブに掲載されている日本語訳[全訳]より抜粋)

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