| ヨーロッパの郵政事業民営化の今 かけはし2010.4.5号 |
労働者への犠牲強要に反撃めざす国際的連帯が急務だ
ロト・ファン・バーレン、パウル・ベンショップ |
郵政民営化見直しをどう、どこまで進めるかが一つの政治焦点となっている。そこにおいては、郵政民営化とはそもそも何であったのかを改めて整理する必要がある。そのための一助として、ヨーロッパにおける郵政民営化が引き起こしている問題を報告した記事を以下に紹介する。雇用の非正規化をはじめとする労働条件の切り下げ、サービスの劣化など、そこには日本と共通する問題があらわになっている。(「かけはし」編集部)
EU決定を前にした各国事情
一九八九年に、オランダ国営郵便会社PTTポストが民営化された。その後の二十年間に、会社は、それぞれ郵便、電報、電話に責任を持つ部分に分割された。この各部分は独立させられ、株式が市場で売却された。民営化され売却された公有企業や公営企業は郵便会社だけではなかった。オランダ鉄道、旧国有炭坑(現在は化学会社)、公共サービス部門がこれに続いた。支配的な思考方法となっているのは、新自由主義とそれに付随するもろもろのことである。
PTT民営化から二十年、TNTポストと名前を変えた会社のボスたちは今や、従業員や労働組合と激突する道を突き進んでいる。従業員に対して、一七・五%の賃下げか、さもなくば一万一千人の解雇を受け入れるように迫っている。郵便労働者はこれを受け入れることを拒否し、一・五%の賃上げを要求している。
オランダは民営化の先頭を走っている。社会党の欧州議会議員であるデニス・デヨングは困惑を隠せない。「欧州連合の決定は、二〇一一年一月一日から郵便会社は民営化されなければならない、というものである。オランダは欧州政策よりも先行しており、民営化の最前衛をつとめている」。
ベルギーでは、ペースはもっとゆっくりしている。「郵便事業はいまだ民営化されていない。株式の五一%を国が保有し、残りは英国の銀行保険グループが所有している。しかし、二〇一一年に新しい私有企業が出現する見込みであることが、過去数年間に重要な変化をもたらしている」と、ブリュッセルのセルジュ・アルバレス・フェルナンデスは語っている。彼は二十年以上にわたって郵便会社で働いてきた。ベルギーでは郵便市場は完全には開放されていないが、速達便と小包の配達は民間会社に許されている。この新市場における重要な競争相手は、DHL、FedEXとオランダのTNTである。
英国の状況は、ベルギーと似たようなものである。ロンドン在中のピーターは、二十年以上も英国のロイヤルメールで働いている。「ロイヤルメール」は依然として国有であるが、過去数年間に少しずつ自由化が実施されてきた。郵便配達の一部に、TNTとドイツポストが参入している。ピーターによれば、「これらの会社のいずれも、郵便物宅配に必要なインフラを持っていない。これらの会社は大企業の郵便物の仕訳けを行い、実際の配達はロイヤルメールが行っている」。
フランスの郵便会社も、いまだ国有である。パリのクリストフは、十六年間この郵便会社で働いてきた。「彼らの発言から判断すれば、右翼を含めてすべての政党は民営化に反対している。しかし、右翼政党と社民政党である社会党は、郵便会社の『近代化』が必要であるという点で一致している」。
オランダにおける郵便会社の民営化は、賃金と労働条件に重要な反動をもたらした。五十四歳のロブ・ファンデルポストは、十七歳のときからPTTとTNTで働いてきた。「郵便市場の自由化は、サンドやセレクトメールのような会社が参入するための門戸を開いた。これらの会社の参入を許したことによって、郵便労働者の賃金と労働条件は危機にさらされている。われわれはこれらの会社を『郵便市場のカウボーイ(荒稼ぎする無責任業者)』と呼んでいるが、政府はこれらの会社にまともな賃金を支払うように強制することが出来ない。彼らと競争するために、TNTは第二レベルの配達会社ネットワークVSPを発足させた。これはTNTの一〇〇%所有子会社である。この結果起こったことは、TNTによる旧会社の破壊である。事業の損害とTNTが配達する郵便物の減少の責任の一部はTNT自身にある」。
クリスマスの直前に、郵便会社サンドとセレクトメールは、国を法廷に引っ張り出すことに成功した。TNTのこの二つの競争相手は、従業員に対して時間給ではなく出来高払い賃金を支払っている。外国貿易大臣フランク・ファン・ヒームスケルクは、現在の制度では郵便労働者の権利が非常に小さいので、これを変えようと試みた。これが、ファン・ヒームスケルクが、郵便会社に対して二〇一〇年四月一日までに郵便労働者の一〇%を固定契約にするように義務づけた理由であった。二〇一二年末には、この割合を八〇%にまで高めなければならない。しかし、裁判官の判決のために、「カウボーイ」たちは従業員に対して出来高払いによる賃金を支払い続けることができる。
非正規化の下に圧迫と脅迫
われわれはオランダにおいて、TNTが常雇い労働者を追い出して、徐々にパートタイマーや臨時雇用のような不安定雇用労働者に置き換えようとする傾向を見て取ることができる。多くの場合、彼らは若者や女性、あるいは収入を増やす方法を模索している年金生活者である。これらの労働者は、郵便労働に主として依拠していないので、組織化される傾向が低く、攻勢的な要求を行う傾向が低い。仕事と責任を分割することにより、TNTはパートタイマーに支払う賃金を少なくすることができる。
ロブ・ファンデルポストは次のように語っている。「TNTポストはメディアに対し、六年間で常雇い従業員を全廃すると宣言した。議員たちは今では、郵便市場は競争によって根底的に傷つけられたと語っている。しかし、最初からこれが自由化の目標だったのではないのか。TNTと新会社のどちらの従業員にとっても、ものごとは全然良くなっていない。そしてオランダの世論は、郵便配達サービスの品質が低下し、手紙の配達が速くなったわけでも、安くなったわけでもないことに気づいている」。
労働力構成が変化しただけでなく、従業員がボスから受ける圧迫と脅迫はますます高まっている。「管理者は労働者に対してすぐに懲罰処分を行う。小さな『規律違反』に対して一時間の賃金を差し引く。チームリーダーの許可がなければトイレに行くことすらできない。勤務時間中は、しゃべることも飲食も許されない。だれかが病気かどうかを決めるのは、医師ではなく管理者というありさまである」。
現在は、ベルギーでは郵便労働者の六〇%が政府に雇用されている。数年来、臨時雇用が固定契約に変更されることはなく、退職した従業員は臨時雇用に置き換えられている。フランスでは、従業員の六〇%は固定契約であるが、ラポストは二〇〇二年以降新規従業員と固定契約を結んでいない。クリストフは次のように語っている。「毎年、仕事が消えていく。子会社のメディアポストはパートタイマーだけを雇っている。一部の子会社では従業員に出来高払い賃金を支払っている。コリポストでは、従業員は郵便配達に自分の車を使わなければならない」。
労働組合への圧力下部から高まる
数カ月前から、オランダの郵便労働者は行動の要求を強めており、他の諸国でも郵便労働者の不満が高まっている。ピーターは次のように語っている。「ロイヤルメールは、パートタイマーを増やそうとしている。これは部分的には成功しているが、労働組合が反対しており、郵便労働者の多数派は依然として常雇いである。通信労働組合(CWU)の組合員は、仕事の消失の脅威をめぐる大規模な対立に巻き込まれている。交渉は行われていないが、ストライキが組織されている。これは地方的ストライキとして始まり、徐々に全国的なリレー・ストライキに発展し始めている。多くの人々が、ロイヤルメールが郵便労働者のパートタイマー化の拡大に成功すると完全な民営化への道を開くことになることを心配している」。
ベルギーでもストライキが始まっている。セルジュ・アルバレス・フェルナンデスによれば、「ポストは現在の従業員を、より低い賃金で一日に三時間働くパートタイマーに置き換えたいと考えている。キリスト教系労働組合CSV/ACVと社民系のPMB/ACODのどちらも郵便労働者の行動を支持しているが、両者は協力しようとはしていない。両方の労働組合のフラマン系部分が労働条件と賃金に関する新しい協約に同意したが、このことがフランドル地方における行動の可能性を損なっている」。
オランダのTNTでは、表面的には事態は平穏であるが、会社内には多くの不満が存在する。労働組合が行動を起こすべきだという要求がますます高まっている。ファンデルポストによれば、「労働組合は、仕事を維持し、同時に新しい郵便会社内で組合員を獲得したいと考えている。労働組合がイニシアティブを取らない限り、ストライキ行動は起こりえない」。行動の展望は、郵便労働者を組織している労働組合が二つに分かれているという事実によってさらに妨げられている。政府部門労働者の労働組合であるABVAKABO
FNVは、TNTがかって国有であったので、TNTの従業員を組織している。FNVボンドゲノーテンは、新会社の従業員を組織している。どちらの労働組合も、他方の支援を組織しようとしていない。デニス・デヨングは、郵便労働者の荒涼たる情景を認めている。「公共サービスとして残しておくべきことを市場に委ねると何が起こるかを、TNTは示している。民営化後、TNTは細切れにされてベンチャー資本の餌食になる危険にさらされている」。
不明瞭な未来に労働者の連携を
ベルギーポストの将来は、明らかではない。デポストは全国で毎日郵便を配達することを義務づけられているが、新しい法律の下では、新しい会社が週二回郵便を配達することを許され、それはベルギーの一部でのみ許される。アルバレス・フェルナンデスは次のように語っている。「これによってデポストは経済的に困難な立場におかれる。このような条件の下でデポストが新しい会社と競争するのは厳しいだろう」。
郵便労働者に重要な支援を行っている唯一の英国の労働組合は、CWUである。この労働組合は、保守党とニューレーバーの郵便会社民営化に対して常に闘ってきた。公式には労働党は民営化反対であるが、実際の政策のニュアンスは異なる。「今年初めに、労働党はロイヤルメールの一部民営化を試みたが、それは延期された。保守党と自由民主党は完全な民営化に賛成している」。
フランスにおける展望も、やはり不明瞭である。クリストフは次のように語っている。「CPやNPAのような左翼政党と労働組合は、郵便が公共サービスであるべきだという考えを防衛し、民営化に反対している」(原注1)。デニス・デヨングは次のように語っている。「フランス政府が郵便を民営化する可能性があるが、資本の過半数を保有するだろう。しかし、EUは競争会社の営業を許可することを要求するだろう」。
昨年末、一部の人たちは新自由主義による危機は終わったと主張した。しかし、真実はその反対であるように思われる。民営化、さらなる柔軟化、社会保障と集団的保険の解体の新しい波が欧州を待ち受けている。このことを知るならば、労働組合が互いに活動家を交流させることは焦眉の急である。すべての運動は、人々に知らせ、情報を交換することから始まる。欧州労働組合運動にとって、このデジタル時代に国際的ネットワークを促進することにどれほどの困難があろうか。組織自身のネットワークだけでなく、組合員と活動家のネットワークである。欧州全体の類似性に関する知識と国際的連絡は、従業員が闘争の経験を交換し、彼らが孤立していないことを知るのに役立つだろう。すべての運動は独自の力学を持ち、国境を超えて影響を与えることができる。
▲ ロト・ファン・バーレンは、SAP(第四インターナショナル・オランダ支部)のメンバーで、労働組合活動家である。
(原注1) NPAから社会党に至る左翼政党と労働組合を結集したキャンペーンが行われ、郵便サービスの状態に関する新しい法律に対する反対の動員が活発に行われた。二〇〇九年十月三日、二百万人を超える人々が、市庁舎や郵便局前で組織された「市民投票」に参加した。投票の九〇%以上が新しい法律に反対であった。十二月十五日には、NPAのスポークスパーソンで郵便労働者のオリビエ・ブザンスノーが、郵便労働者の国会前抗議行動に参加した。彼らは銅像によじ登って郵政労働者の衣装を着せようとしたが(「彼らはわれわれのステータスを変えようとしている、それならばわれわれは彼らの銅像[スタチュー]を変えてやる」)、警察によって暴力的に阻止された。その後ブザンスノーは病院で治療を受け、手の負傷のために傷病休暇を取った。
(「インターナショナル・ビューポイント」2010年2月号)
【訂正】本紙前号(3月29日号)1面集会案内の「樋口篤三さんと高橋晃さんを追悼する会の呼びかけ人の前田裕晤さんの肩書を「協同センター・労働情報編委」から「協同センター・労働情報代表」へ、前々号(3月22日号)5面「マーチ・イン・マーチ2010」記事下から2段目5行「鳥居さん」を「鳥井さん」へ、同8面投書「『アバター』を観て」2段目4行「ウルブス」を」ウルブズ」にそれぞれ訂正します。
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