「君が代」不起立教員の氏名収集
続行決定した神奈川県教委糾弾 |
【神奈川】神奈川県教育委員会(以下、県教委)が卒業式等で君が代斉唱時に「不起立」とされた教員の氏名を校長に報告させていた問題で、神奈川県個人情報保護審査会は一月二十日、再び、この場合の氏名は思想信条に関する情報であるから収集するべきでないという答申を出した。
それにもかかわらず、神奈川県教委は二月二日の定例委員会で教育委員五人(平出彦仁、福田幸男、宮崎緑、具志堅幸治、倉橋泰)の全員賛成により、氏名収集の続行を決定した。松沢成文・神奈川県知事も記者会見で「指導のために氏名を把握することに意味がある」(1月26日)「(答申は)尊重するが、今回は例外的」、「きちっと指導していただきたい」(2月3日)などと従来どおりの条例無視発言を繰り返している。「日の丸・君が代」に対する教員らの意思表示が思想信条にあたるということをかえりみない浅はかな態度、職務管理と統制の正当性をうたって自らが定めている条例をほごにするような神奈川県教委、松沢知事に向けて抗議の輪を今こそ、広くしていかなければならない。
答申無視をうな
がした松沢知事
神奈川県教委は、石原都政の一〇・二三通達を若干のオブラートに包んだ感じで、二〇〇一年から「一一・三〇通知」などを出し、「不起立」教員の人数を報告させてきた。二〇〇六年三月の県立高校卒業式で「不起立」教員の氏名収集がおこなわれていたことが明らかになり、教員十六人が条例に基づいた利用停止請求、異議申し立てをしたことが氏名収集の問題の発端になったといえる。
そして二〇〇七年十月の個人情報保護審査会は県個人情報保護条例六条に基づいて、不起立教員の氏名等の情報の消去を求める答申を出した。この答申は画期的であり、小泉政権と「九・一一テロ」以降の国旗国家強要に抵抗しつつも教育委員会のごり押しに圧迫されていた学校現場の当事者にとって、予防訴訟における難波判決(2006年9月21日東京地裁)とあわせ、新たな抵抗の手段を見出す材料といってよかった。
神奈川県の個人情報条例はその六条で(一)思想、信条及び宗教(二)人種及び民族(三)犯罪歴(四)社会的差別の原因となる社会的身分に関する個人情報は取り扱い制限情報であると県の実施機関に対して定めている。他の都道府県でも似た取り扱い制限情報を定めているが、神奈川県の条例は犯罪歴、民族まであげて、簡潔に制限の趣旨を述べている点で先進的といえる。取り扱い制限情報の例外として警察の犯罪予防、鎮圧、捜査と書かれていることは、また別に考えなければならないが、行政職員の恣意的運用、腐敗を防ぎ、先の侵略戦争において個人情報が利用されて翼賛体制が進んだことへの反省に立った条文の意義は少なくないのである。
しかし神奈川県教委と松沢知事はそのことに向き合おうとはしない。二〇〇七年十月の審査会答申に対して、神奈川県教委はこれまで収集した氏名情報の破棄を伝え、審議会への諮問の結果を待って収集続行が可能か判断すると発表した(紛らわしいが、審査会と審議会があるので注意が必要)。
また松沢知事は十月三十一日の記者会見で「思想・信条ではなく学習指導要領にのっとって指導する義務がある」「そのために名前の把握が必要」と述べ、審査会の毅然とした答申に態度を決めかねていた県教委に答申を無視するよう釘を刺す役割を果たしたのである。
教員・生徒への
強制の圧力だ
二〇〇八年一月十七日に開かれた神奈川県個人情報審議会では、氏名収集は「不適当」であり、問題は憲法一九条の保障に深く関係すると述べた答申が全会一致で可決された。本人外収集の是非に関しては全会が一致せず、明言を避けた。詳細はともかく、二つの公的機関から出された答申の結果を無視しながら、二月四日県教委は氏名収集を続行すると発表した。
この県教委の姿勢で何が問題か。一つは審議会が最終的な決定権限は県教委にあると付け加えた文言を取り上げて、氏名収集は妥当としたことである。
席上、学校教育担当部長が「審議会もお悩みのところがあっただろうが、結果的にはお認めいただけたと判断する」とまで言い放ったが、随分と勝手な解釈である。また、神奈川教育正常化連絡協議会が請願に基づき、この日もただ一件の陳述をおこなった。右派勢力の「市民的」圧力と連動して「日の丸・君が代」の指導が正当とされてきた特徴が如実に表れた。
そして、「日の丸・君が代」の指導とは、「学校教育における秩序維持」(宮崎委員)であり、「国旗・国歌を是としない信条はあるのか」(当時の渡邊委員《ワタミ社長》)「粘り強く指導するということですよね」(具志堅委員)と突き付ける圧力であることが、この日も県教委の中では確認されたのである。このようなことは二月四日の県教委でも「討論」されているが、内容に進歩はない。「学習会も開いて十分勉強した」と強弁し、「氏名収集が不利益につながるようでは困る」と教育長に確認する宮崎委員の姿には、条例を守れという世論に包囲された焦りが感じられる。
思想・信条は学校での職務服務と別であり、起立するという行為は当然、という県教委の態度は、東京都が試みた教員の解雇をちらつかせるものであり、教員への強制はやがて生徒たちへの強制につながっていく。そういった事態を阻止するために、十八人の教員は二〇〇八年十一月に、利用不停止を取り消すよう求める訴訟を起こした(二〇〇九年九月に原告五人が追加提訴)。
横浜地裁に提訴
した教員の闘い
二〇〇九年一月に高橋哲哉さんを招いて提訴記念集会が行われるなどの取り組み、横浜地裁における四回の口頭弁論が終了しており、五回目の口頭弁論が二月十日に行われた。
裁判は毎回、一〇一号の広い法廷を満杯にして、原告である高校教員が「君が代」斉唱時に起立しない思いを吐露し、弁護士は県教委に対し氏名収集をする法的論拠をただしてきた。だが被告である県教委側の弁護士は書面で済む内容のことを口頭で言わなくてもいいのではないかとしつこく主張し、例えばこの氏名収集が本人同意情報であるかのような誤った記述の準備書面を提出してきたりする。五回目の弁論でも定時制高校で教員をつとめるHさんが生徒手作りの式を校長に妨害された怒り、シベリアに抑留された父、中国で日本兵としてなくなった叔父の扱いなどをとつとつと読み上げた。県教委側の人間にまじめに聞いていた人間がどれだけいたかはわからない。
そして佐村裁判長は今回の公判から交代したばかりだが、二〇〇七年六月二十日の東京地裁において、嘱託・講師教員解雇裁判」の不当判決を出した裁判長でもある。これに対し、原告側の岡田尚弁護士は演奏拒否に対する処分を違憲としなかったピアノ裁判最高裁判決でさえも、「日の丸・君が代」には思想・信条と理解すべきとされていると主張した。
一月二十日の答申は氏名収集をやめなさいということ以外に、県教委がその続行に際して「第六条の例外であり、職務遂行としての起立不起立を評価するにすぎない」という主張、「審議会が決定権限が県教委にある」という主張に対して、反論の余地を許さないという決意に満ちた、考え抜かれた答申である。だからこの日のやり取りでも、県教委側は六条の例外について自ら説明しようとはしないで教員側の出方を待つという戦術を取るしかなかった。裁判長が「審査会再答申をどう考えるか」と県教委側に質問したことに対し、県教委側弁護士は「裁判で言うことではない」というような言葉をしどろもどろで発するのが精一杯の有様だった。
裁判提訴に際し、裁判を支援する会も発足しており、傍聴が終わると報告会をもっている。この日も岡田さんの熱気さめやらぬ訴訟解説に、県教委の傍聴報告、教育委員会任命制の問題を訴えるアピールなどが続いた。第三回の報告会には同じく個人情報保護の観点で枚方市を訴えて、大阪高裁で和解を勝ち取り、神奈川での提訴にも協力する松田浩二さんが駆けつけたりもした。このとき大阪府立東豊中学校裁判の高裁で控訴を棄却する判決が出た直後だった。松田さんは処分の不当性は認められなかったが、「生徒の署名提出」、「校長の式次第強行」「君が代を斉唱しない自由も肯定されるべきである」などと判決文に追加した異例の「補足説明」を評価し、神奈川の裁判にも影響をもたらすと述べた。こうした交流が、原告団を勇気付け、裁判の継続によって積み上げる過程で、今回の審査会の再答申が出されたことは必然だったのかもしれない。
学校と地域を
結ぶ運動形成を
神奈川でこころの自由裁判は二〇〇九年七月十六日横浜地裁で敗訴した後、東京高裁の判決が三月十七日に出される。県教委はこの地裁判決も氏名収集続行の根拠としてあげているが、判決文に原告である教員の「思想・良心の自由等精神的自由権にかかわる権利」と書かれていることは都合よく無視するのだろうか。
君が代不起立個人情報保護裁判は、「日の丸・君が代」強制に反対する人々と教育関係当局との力関係と、神奈川県が初めて条例無視するにいたった背景をえぐり、公的機関に課せられた個人情報保護の理念をいかに民主的に、実質的に勝ち取るかという意味で、もっと関心をもたれなければならないテーマだ。学校現場にとどまらない支援を呼びかける。 (海田 昇)
「日の君」強制反対ホットライン集会
「建国記念の日」反対!「日の丸」
常時掲揚・不起立処分許すな
【大阪】二月十一日、「建国記念の日」反対!「日の丸」常時掲揚・不起立処分を許すな!「日の丸・君が代」強制反対ホットライン2010大阪集会が、住まい情報センターホールで行われ、教育労働者をはじめ約百二十人が参加した。この集会は、「国旗・国歌法」制定以降、「日の丸・君が代」強制反対ホットライン大阪の主催で毎年行われてきたもので、今年で十一回目の開催となった。
集会は、ホットライン事務局の寺本さんの司会で始められ、最初に黒田伊彦さん(大阪樟蔭女子大学教員、ホットライン事務局)が、「神功皇后伝説と韓国併合・大逆事件100年〜建国神話と『日の丸・君が代』の天皇主義教育を許すな」というテーマで、韓国併合・大逆事件100年にあたる今年の「建国記念の日」をめぐる状況と天皇制教育批判について問題提起を行った。
黒田さんは、石川啄木の短歌(「地図の上 朝鮮国にくろぐろと 墨をぬりつつ 秋風を聴く」1910年作)を引用しながら、韓国併合・大逆事件と天皇制教育との関係を説き起こした。その上で、学習指導要領の改訂により、「神話」が教科書に一斉に登場する、小学校音楽で「白地に赤く日の丸染めてああ美しや日本の旗は」という歌詞の「日の丸の旗」が必修教材化されるなど、天皇制教育が進められようとしていることを指摘した。そして、「日の丸・君が代」強制反対から、天皇制教育批判へと運動を強める必要があると訴えた。
続いて、野田正彰さん(関西学院大学教員)が「『君が代』処分で喪ったもの〜教師は二度、教師になる」というタイトルで講演した。野田さんは、広島県世羅高校の石川校長が、広島県教委の執拗な「君が代」実施強制に追いつめられて自殺した事件の検証を通じて、「日の丸・君が代」強制の教員に対する精神的影響の問題を追及し続けてきた。近著「教師は二度、教師になる」の中では、東京での「不起立」被処分者のケースを聞き取り、「君が代」強制と処分が教員の生き方と教育観を否定した結果、精神的に追いつめられていった経緯を明らかにしている。
野田さんは、「国旗国歌法制定以降、超論理がまかり通って、疑問を持つな、考えるなという事態が進行している。この超論理とそれにもとづく詐欺行為が、近代のプロセスとして継承されている。たとえば、民間人校長の三割が元公務員だが、そんな事実は誰も知らされていない。こういう過去の克服をしなければならない」と述べ、最近のNHKドラマ「坂の上の雲」「龍馬伝」に見られるイデオロギー操作について、「歴史を作り替えて、嘘を語る。それを全員に押し付ける文化が根付いている」として警戒を呼びかけた。そして、近著「教師は二度、教師になる」からある教員の例をとりあげ、「君が代」不起立処分によって、形成されてきた教員の倫理が打ち砕かれ、うつ状態に追い込まれている実情を報告した。
強まる攻撃に
立ちむかおう
休憩の後、野田さんへの質疑討論をはさんで、社会文化法律センターの冠木弁護士が「日の丸・君が代」一問一答集の改訂について、最近の裁判事例に触れながら、闘いへの活用を訴えた。各地からの現状と闘いの報告に移り、まず東豊中高校「日の丸・君が代」処分撤回裁判の元原告である中野さんが裁判闘争の到達点について発言した。
つづいて、大阪府、大阪市における「日の丸」常時掲揚の動きがホットライン事務局から報告された。大阪府では、昨年十二月、府立学校を含む府施設への「日の丸」掲揚を求める府議会の決議がおこなわれるなど、「日の丸」常時掲揚の動きが強まっている。同様の動きは大阪市においても見られ、「掲揚台のなかった学校に一斉にポールが設置される」「国歌斉唱時にピアノ伴奏を求める」「フロア形式を壇上形式に変えるよう求める」などの動きが加速している。また、府立学校の一部では、三年担任の教員を校長が呼び出して、卒業式において「君が代」斉唱時に起立するかどうか、確認を求める事態が進行している。これに対して、情報と闘いの共有化が提起された。門真市の状況が報告された後、司会から集会決議とホットライン活動の行動提起が提案され、拍手で確認された。
集会終了後、降りしきる雨の中、参加者は天神橋六丁目から梅田まで横断幕を掲げながら、宣伝カーを先頭に元気よくデモ行進した。 (O)
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