読書案内『トロツキー研究』55
トロツキー研究所編集・発行/柘植書房新社発売/2500円+税 かけはし2010.2.22号 |
マルクス主義者による本格的
総合的「第二次世界大戦論」 |
なお繰り返し再
考の必要な主題
昨年末に刊行された『トロツキー研究』55号(2009年秋・冬号)の特集は「第2次世界大戦勃発70周年」である。一九三九年九月のナチス・ドイツによるポーランド侵攻で始まった第二次世界大戦は、「第一次」の世界大戦が基本的には欧州を戦場とするものであったのと対比すれば、アジア太平洋をもう一つの主戦場とする文字通り空前の世界的戦乱であった。
それは第二次世界大戦後の世界の政治・経済・社会・文化・イデオロギーの全体構造を長期にわたって規定する事件だったのであり、一九九〇年を前後するソ連・東欧のスターリニスト的労働者国家ブロックの崩壊にもかかわらず、今日に至るまでその後の世界の変容に決定的な影響をもたらしている。アメリカ帝国主義の軍事的・政治的・経済的覇権がその基軸である。
今日、第二次世界大戦後の世界システムは、アメリカ帝国主義の危機の深まり、新自由主義的なグローバル資本主義の矛盾の全面化とともに新たな歴史的変容のプロセスの中にある。戦争の形態は大きく変化したが、人類はいまだに「戦争のない世界」を構想しておらず、「対テロ」戦争として表現されている今日の地球規模の戦争をどのように捉えてそれにどう立ち向かうのかという課題は、人類にとって依然として最大かつ深刻なテーマの一つであり続けている。
その意味でも、第二次世界大戦の意味を解明することは、われわれにとってなお立ち返って繰り返し再考すべき主題である。とりわけ日本では、自らその主役の一人となった侵略戦争の歴史的総括と清算が重大な政治的・文化的・イデオロギー的な論争テーマとして不断に再燃しており、戦後的世界の解体状況の深まりの中で、侵略戦争を正当化する排外主義的・極右国家主義的潮流がふたたびみたび勃興している中で、それがなおさら重要になっているからである。
トロツキーの
正確な予測
第四インターナショナルは、第二次世界大戦の暗雲がたれこめる開戦一年前の一九三八年九月に結成された。第四インターナショナルは、それまでの人類史上最大の悲劇であるこの世界戦争との対決の中から、労働者民衆にとっての闘いの展望を切り開くことを任務としていた。
『トロツキー研究』の今号は、未完のものを含む第二次世界大戦勃発前後に書かれた、この戦争の意味に関するトロツキーによる未邦訳の論文五本と、この戦争の渦中で第四インターナショナルに結集し対独レジスタンス活動に従事したエルネスト・マンデルの二つの論文を収録している。
トロツキーは一九三八年のミュンヘン協定後の開戦に向かって急速に煮詰まっていく事態の推移、ヒトラーのドイツとスターリンのソ連によるポーランド分割後のドイツによる対ソ開戦に向かう状況について、ありうるさまざまな可能性をにらみながら正確な予測を行っている。
「予測が価値あるものであるのは、それが、まるで写真のように正確にその後の発展の中で確証されるからではなく、むしろある程度まで、いくつかの歴史的要因を前もって予想することで事態の現実の発展の中で自分たちの方向性を定める一助となるからである」。
「アメリカでは、『エンジニア』としての政治家像、すなわち原材料を用い政治家個人の青写真にそって建築を行なう技師としての政治家像が特別に広く流布している。このような観点ほど無邪気で不毛なものはない。しかしながら、歴史哲学を含むどの哲学においても、主体的なものと客体的なものとの相互関係を考察する正しい方法と言うものは存在するのであって、究極的には、客体的な諸要因がつねに主体的な諸要因に対して優位を占めるのである。それゆえ、正しい政治路線は、現実世界の分析とその中で作用している諸潮流の分析から出発しなければならない。このようにしてはじめて、正しい科学的な予想へと至るのであり、このような予想にもとづいて過程に正しく介入することができるのである。他のどのアプローチも呪術である」(『戦争と平和』序文)。
レジスタンス
をどう見るか
一九七六年、第四インターナショナル・イギリス支部の党学校での講演の記録であるマンデルの論文「第二次世界大戦におけるトロツキストとレジスタンス」は、第二次世界大戦終結六十年にあたって本紙二〇〇五年八月八日号に掲載した訳文を修正のうえ再録したものである。
マンデルは、しばしば「民主主義対ファシズムの戦争」、あるいは「帝国主義間戦争」「民族解放戦争」として単純化される第二次世界大戦の歴史的意味の解釈について、それが五つの性格を持った戦争の複合であったとする。
第一は、ナチス・ドイツ、ファシスト・イタリア、天皇制日本を一方とし、米英仏を他方とする帝国主義間の反動的戦争である。
第二は、一九三一年から始まった中国民衆による日本帝国主義の侵略への自衛という正義の戦争である。
第三は、ドイツ帝国主義の侵略に対する労働者国家ソ連の自衛という正義の戦争である。
第四は、帝国主義諸国に対するアジア、アフリカの植民地民衆の民族解放という正義の戦争である。
第五は、ナチスに占領されたヨーロッパの各地で展開された労働者・農民・市民による自立的な解放戦争である。
対独レジスタンスとして知られるこの戦闘を独立したカテゴリーに分類したことがマンデルの独自性である。それはレジスタンスがブルジョアジーあるいはスターリニストの指導下にあるという理由で参加を拒否する「極左的」召還主義、ないしは民族的ブルジョアジーとのブロックにレジスタンス運動を解消する右翼日和見主義という、トロツキスト陣営をも巻き込んだ誤りへの批判を意識したものである。
前者についていえば、その典型はフランスのトロツキスト組織である「労働者の闘争」(LO)である。彼らは現在もフランスにおける対独レジスタンスへの参加をブルジョア的な祖国防衛主義の誤りとして批判している。マンデルがこの講演の冒頭でLOのこうした態度について言及しているのは、トロツキスト運動内部におけるセクト主義的偏向への批判を意識したものだった。
『トロツキー研究』本号の冒頭解題を書いている西島栄は、第二次世界大戦終結五十年にあたって発行された『トロツキー研究』14号・特集「平和のための闘争」(1995年2月)の解題論文でも第二次世界大戦においてはレーニン的祖国敗北主義の機械的適用ではなく「ヨーロッパ規模の反ファシズム労働者統一戦線と労働者自衛組織、すなわち革命的内容で満たされた国際的な反ファシズム闘争こそ、第二次大戦における過渡的綱領となりうるものであった」と書いており、本号でもこのマンデルの提起を「きわめて正しい観点」と評価している。
本号の内容の過半を占めているマンデルの「第二次世界大戦の意味」(上)は、一九八六年に英語版で発行された著書の第一部「歴史的枠組み」の全訳である。次号以後に第二部が掲載され、いずれは単行本として出版を計画しているとのことなので紹介は後日に譲るが、第一部を読んだだけでも、各国の戦力と技術水準、経済力と資源、戦略・戦術、兵站についてや、クラウゼビッツと孫子の比較、後者の優位性にまで言及したマルクス主義者としての総合的・本格的な「第二次世界大戦論」であることがうかがえる。
ぜひ読んでほしい。(国富建治)
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