| 鳩山連立政権初の予算案 かけはし2010.1.25号 |
ささやかな修正でも大資本に応え
軍事を聖域化する柱はそのまま |
鳩山連立政権は、〇九年十二月二十五日、二〇一〇年度政府予算案を閣議で決定した。旧自公政権の、グローバル派兵大国建設と連動した新自由主義的構造改革、生活・福祉・教育破壊に貫かれた予算と比較して、民衆の怒りによって自公政権が打倒されて誕生した鳩山政権は、行政刷新会議の「事業仕分け」による「無駄」予算削減・圧縮演出をバネにして、「命を守る予算」「コンクリートから人へ」などとコマーシャルしながら深刻な貧困と格差を拡大させてきたこれまでの予算内容からささやかな修正をせざるをえなかった。だがその全体像は、大資本擁護政策と軍事費に切り込み、削減・圧縮することなく、米軍支援費も増額し、あいかわらずのゼネコン応援型公共事業費を維持し、社会保障・生活・雇用・医療関係への不十分な予算配分でとりあえず政権成立後初の予算案を繕ったにすぎないのである。同時に、財政破綻状況を突破するために消費税増税にむけて動き出していることを許さず、民衆のための予算編成を実現するために批判していかなければならない。
一年限りの帳尻合わせ
予算案は、一般会計総額が約九十二兆二千九億円と過去最大の膨らみとなり、一般歳出は五十三兆四千五百四十二億円となった。ところが世界的同時不況と経済危機の深まりによって税収は三十七兆三千九百六十億円と落ち込み、巨額な財源不足が発生し、必死のやりくりで十兆六千二億円をなんとか確保した。民主党は無駄予算削減で九・一兆円の財源を捻出すると豪語していたが、結局、三兆円の削減額を目標とした「事業仕分け」で「廃止」の判定事業の半分近くが復活し、削減額は九千六百九十二億円にとどまった。さらに特別会計の積立金など「埋蔵金」である外国為替資金特別会計の剰余金を〇九年度分の繰り入れ、一〇年度分の前倒し、財政投融資特別会計の積立・剰余金など八特会から七・九兆円を一般会計に押し込んだ。また公益法人と独立行政法人などの基金も計一兆円返納させることによって補填させた。
これだけではない。新規国債も次々と発行せざるをえなくなり、その額は四十四兆三千三十億円で歳入に占める国債の割合は四十八%。税収よりも上回ってしまったのだ。一〇年度末時点の借入金などを含む長期債務残高は六百六十三兆円で住民一人あたり四百九十九万円も借金している額なのである。地方債務も合わせると八百六十二兆円で国内総生産(GDP)の一・八倍に達してしまった。鳩山は「一般会計の総額は過去最大だが、財政規律を守ることができるギリギリの線を確保した。ハコモノ、公共事業を大幅に削り、子ども手当など命を大切にする予算に変えていった。決してバラマキという批判は当たらない」などと言うが、過去最大の国債発行と「埋蔵金」頼みで帳尻を合わせ、とりあえず乗り切ろうというのだ。
「命を守る予算」も不十分
それでは鳩山首相が「人の命を守る予算を確保することに全力を傾注した」「厳しい財政事情もあって、約束したことすべてを実現することはできなかった。見直した部分もある。しかし、マニフェストの多くが実現できた」と自慢する予算案の具体的内容を点検する。
社会保障費は、一般歳出に占める割合は初めて五〇%を超え、九・八%増の二十七兆二千六百八十六億円に伸びた。自公政権が二千二百億円削減を続けてきた新自由主義的社会保障政策からの軌道修正を行ったといえる。
政権が前面に押し出した子ども手当は、所得制限なしで中学卒業までの子どもに月一万三千円を支給することになった。財源として所得税の配偶者控除の廃止(増収額6千億円)や、「成年扶養控除」の廃止(同二千億円)を目論んでいたが「増税だ」と批判が強まり見送り、支給総額約二兆三千億円の財源として現行の児童手当制度を組み込み、五千億円程度を地方自治体と事業主に負担させる形となった。ところが「公約違反だ」と抗議する首長が続発してしまった。つまり、次年度以降の財源の保障がないから所得税の配偶者控除と「成年扶養控除」の廃止を策動してくることは間違いない。こんな安易な手法で財政危機のシワ寄せを地方行財政に連続的に押し付けてくることの危険性を感じた反発であった。
生活保護の母子加算は、自公政権による生活破壊路線によって廃止されていたが復活することになり約百八十億円となった。支給の対象外だった父子家庭も約五十億円を配分した。
ところが生活保護の老齢加算は復活せず、高齢者から高い保険料をむしり取る後期高齢者医療制度も廃止ではなく四年後に新しい制度にするという先送りだ。障害者自立支援法によるサービスの原則一割を負担する「応益負担」の廃止も吹っ飛ばしてしまった。障害福祉サービス・装填具の負担軽減策が百七億円程度だった。
医療関係費は、医師不足、病院勤務医の処遇改善対策として病院や診療所など医療機関に支払われる診療報酬を〇・一九%増にしたが、医療破壊政策によって引き下げられた計七・七三%には程遠い。しかも前年度予算より百一億円削減し三百七十億円となった。
教育関係費は、公立高校の授業料無料化など「高校無償化」三千九百三十三億円の費用増で八・二%増の四兆二千五百三十八億円になった。「特定扶養控除」を縮減して回した。私立高校生には年約十二万円を支給する。小中学校の教職員定数は、自公政権下の削減方針を改め、四千二百人分の増とし、三百人の純増となる。国立大の運営費交付金は、従来の毎年一%削減方針を継承したままで〇・九四%減の一兆千五百八十五億円と計上したが、私学助成は大学が四億円増の三千二百二十二億円。しかし、大学間格差、学費高額化の流れを止めるレベルとなっていない。大学生への奨学金事業は貸与人数を三万五千人増やして百十八万人とし、事業規模で六%増の一兆五十五億円。学生の貧困化が進行する中で学費負担の軽減、奨学金の充実政策が求められている。
経済危機が深まる中、完全失業率は五%台で推移している。民主党は「雇用保険をすべての労働者に適用する」と掲げていたが、雇用保険制度を見直して非正規社員の加入要件を「六カ月以上の雇用見込み」から「三十一日以上」に短縮し、失業給付の増額分として一般会計、特別会計合わせて九百三十六億円を計上した。
だが失業給付の受給期間延長が求められているにもかかわらずまったく無視だ。労使で負担する保険料率を現行の一・一%から一・五五%に引き上げてしまった。
雇用維持対策では、企業に休業手当の一部を助成する雇用調整助成金の予算として、七千四百五十二億円を計上し前年度当初の五百八十一億円に比べると、一二・八倍に増やした。しかし中小企業対策費は〇九年度当初より一・一%増加でしかなく千九百十一億円と不十分な予算案だ。中小企業の法人税率も引き下げず十八%のままとなっている。雇用・中小企業対策は、いずれも充分な予算配分となっていない。巨額な内部留保している大企業に法人税率を引き上げ、手厚い社会保障費、抜本的雇用対策、最低賃金の大幅引き上げ、労働者派遣法の抜本改正が優先されなければならない。
農林水産関係予算は今年度を千八十八億円下回り、二兆四千五百十七億円となった。五分の一以上を占めるのが農業戸別所得補償制度関連で来年度からはコメを対象に全国一律のモデル事業を行い、関連事業も含めて満額の五千六百十八億円を計上した。補償制度は、農家の恒常的赤字部分を補填する手法だが、貿易自由化政策を推進ながら小規模農業をスクラップ化し、大規模農業と資本導入を拡大させていこうとする基本路線を維持したままだ。これ以上の農業破壊政策を許してはならない。
地方自治体に配る地方交付税など地方への配分額は五・五%増の十七兆四千七百七十七億円と過去最大になった。小泉政権の「三位一体の改革」以前の水準に戻したが、財政破綻の状況の歯止めにはなっていない。しかもその内実は、赤字地方債(臨時財政対策債)を過去最高の七・七兆円発行し、交付税特別会計の借入金の償還を先送りにしたが地方の借入金残高は来年度末で二百兆円程度に膨らんだ状態に入っている。
軍事費温存、もんじゅにも370億円
公共事業関係費は対前年度当初予算比一八・三%減の五兆七千七百三十一億円。旧自公政権による利益誘導の柱であった道路予算として、自民党を支持してきたゼネコン・土建業界に対する揺さぶり・離反を強要していくために三大都市圏環状道路建設に重点配分しながらも、新規を見送り、三年以内に完成しない路線には配分しないという通達を押し付けたが約一・三兆円も計上した。同様の政治的意図に基づいて百四十三のダム事業のうち八十九事業を中止にした。
その一方で港湾は全国百三カ所のうち新規事業の対象を四割に圧縮し、とりわけゼネコンの要求に応えるためにスーパー中枢港湾(東京・横浜、大阪・神戸、名古屋)への重点配分を行っている。整備新幹線には前年度当初と同額の七百六億円と手厚く配分し、新たな利権構造を温存した。
安全軽視の超過密運航と環境破壊を拡大する羽田国際空港化路線に基づいて新滑走路建設費に千三十三億円を計上した。関西空港補給金は、事業仕分けで「凍結」と判定されたが、経営改善策が決まれば執行する条件で七十五億円を計上し、関西財界らとの妥協を図った。また道路、下水道などの補助金の大半を「社会資本整備総合交付金」(2・2兆円)に切り替えた。地球温暖化対策とは逆行する無政府的なモータリゼーションの拡大を押し進める高速道路無料化関連に一千億円を盛り込んでしまった。
軍事費は、グローバル派兵にむけた軍事力、日米安保体制強化路線を踏襲し、削減・圧縮するどころか四兆七千九百三億円へと膨らんだ。弾道ミサイルに備える地対空誘導弾パトリオットシステムに七百六十六億円、海外派兵参戦するために空母型ヘリ搭載型護衛艦に千二百八億円、どこの地上戦で使うのか不明のまま百%無駄遣いの新戦車十三両に百八十七億円など軍需産業資本のために軒並み認めた。在日米軍関係経費の増額も継承し、前年度比四百九十一億円増の三千三百七十億円で過去最多に配分してしまった。とりわけグアム移転をはじめとした米軍再編経費は、五百億円近くも増額した。名護市辺野古での新基地建設にむけた環境調査継続のための費用を含む「移設」費が五十三億円も計上された。辺野古新基地反対運動に対する敵対予算である。
科学技術振興費は総額一兆三千三百二十一億円で、今年度を四百五十五億円下回った。しかし、行政刷新会議の事業仕分けで事実上の「凍結」とされた次世代スーパーコンピューターの技術開発に二百二十八億円へと復活、原発推進政策の柱として運転再開を目指す高速増殖炉もんじゅに三百七十億円、宇宙軍拡計画の一環である国際宇宙ステーションに物資を運ぶ無人宇宙船HTVに二百五十一億円、GXロケットエンジン開発に三十億円などと巨額予算を配分した。
消費税許さず所得再配分を
鳩山首相は「この四年間で消費税増税を考えることは決してない。無駄を徹底的になくしていく努力を行っていく」と繰り返していたが、なし崩し的に消費税増税にむけて動き出した。仙谷行政刷新担当相は、一月六日、十一年度予算の社会保障費の財源を確保することを理由にして「人口減少、超高齢化社会の中で、現役世代に大きな負担をかける仕組みはもたない。
消費税を二〇%にしても追いつかない」と言い放った。
菅直人副総理兼財務相も「この一年は徹底的な財政の見直しを進めていく。その上で必要なら消費税だろうが環境税だろうが議論していく」、「議論することが駄目だとは言っていない。逆立ちしてもお金が出ないとなった時、何らかの財源が必要になるのかどうか(の議論が必要だ)」と述べ消費税増税に向けたシフトを切った。
野党、財界、報道も一斉に消費税増税へのラッパを吹きだした。日本経団連の御手洗会長は、資本にとって「痛くない」予算案として評価しつつ、「経済の成長戦略とあわせて、景気回復後に本格的に取り組むべき税・財政・社会保障制度の一体改革に向けた道筋を早期に示せ」と述べ、従来路線を継承する立場表明として新自由主義政策と消費税増税を強調した。
旧自公政権によって雪だるま式で膨らんできた借金漬けの財政破綻状況で次年度以降も予算が維持できるわけがないことははっきりしている。しかし鳩山政権は消費税増税という安易な道に進もうとしている。そもそも消費税増税は大きな逆進性を持ち、低所得者の税負担率を上昇させる最悪の民衆に対する犠牲の押し付けである。そんなことは絶対に許されない。四百二十八兆円以上の巨額な内部留保を貯め込む大企業に対する法人税率の引き上げを行えばいいのだ。一九八〇年代の法人税率は四三・三%だったが、大企業優遇税制政策へと舵を切った一九九九年に三〇%に引き下げてしまった。また、研究開発減税も継続し全面バックアップだ。
鳩山政権がやらなければならないことは、もはや明白である。大株主・資産家優遇税制として証券税制、贈与税減税、所得税の最高税率(四〇%)引き下げをただちに止め、累進課税を強めろ。所得再配分が小さいための不平等の是正を急いで行え。戦争のための軍事費と米軍支援費の大幅な削減・圧縮・廃止を。資本・ゼネコンに奉仕し環境破壊を拡大させる公共事業の凍結が求められている。鳩山は温室効果ガスを二〇二〇年までに一九九〇年比二五%削減するという中期目標として掲げたが、電気・自動車資本が喜ぶ省エネ技術の競争力を高めるための予算重点化、原子力発電推進政策予算配分を打ち出し電力資本優遇政策は旧政権と変わらぬ姿勢をやめろ。これらは最低限、民衆のための予算作りにとって必要なことである。
金儲け主義、大量生産・大量消費・大量廃棄型政策に貫かれた鳩山政権「新成長戦略」を支える二〇一〇年度予算案を批判し、予算案の組み替えを要求していこう。 (遠山裕樹)
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