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温室効果ガスの抜本的排出規制先送り糾弾!        かけはし2010.1.1号

拘束力を伴う合意を流した責任は米国の横車にのったEU・日本に

COP15の失敗は温暖化の犠牲となる「南」の諸国への裏切りだ

「主要国」による密室での合意

 二〇〇九年十二月七日から十九日までデンマーク・コペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組み条約第十五回締約国会議(COP15)は、気候変動対策の名に値するいかなる合意も得られないまま閉会した。米国と中国、インド、ブラジル、南アフリカの五カ国による密室での合意をもとにした「コペンハーゲン協定」が、「留意」された(多くの「発展途上国が反対したため、採択はされなかった)。
 FoE(「地球の友」)のドミニク・マーフィーは「会議は失敗に終わった。これは非常に残念なことだ。しかし会議の全体を通じた先進国のいかがわしい戦術を考えれば、この結果は驚くことではない」と述べている。
 合意案の扱いに関する討論の中で、ベネズエラのクラウディア・サレルノ・カルデラ交渉代表は「議長、あなたは国連事務総長の目の前で、国連の権威に対するクーデターを承認するのですか?」と迫った。
 スーダンのルムンバ・スタニスタウス・ディアピン交渉代表は、「合意案は、アフリカに自殺同意書に署名するよう迫るものだ」と非難した。COP15の中でアフリカ諸国の代表は、「地球全体で二℃の温度上昇というのは、アフリカにとっては三℃あるいは三・五℃の上昇を意味し、新たに五千五百万人が飢餓に直面し、さらに三億五千万〜六億人の人々が水不足に苦しむことを意味する」と訴え、地球全体の温度上昇を一・五℃以内に抑えるべきと主張してきた。
 水没の危機が現実化しているツバルの代表も、合意案は「銀貨三十枚で国民を裏切れという提案だ」と非難した。
 COP15が温暖化のもっとも直接の犠牲となっている「南」の諸国の切実な要求に背を向け、拘束力と実効性のある合意に至らなかったことは、これらの諸国の人々に対する重大な裏切りであるだけでなく、気候変動や環境破壊をもたらしてきた生産と消費のシステムの根本的な変革へ道を閉ざす重大な裏切りである。
 「毎日新聞」の同十九日付の報道によると、「コペンハーゲン協定は、途上国にも削減計画の申告を求め(来年2月をめどに途上国が自主目標を申告する)、先進国は二〇一〇年二月までに二〇年の中期削減目標値を申告するとした。先進国の二〇年までの排出削減と、途上国への温暖化対策資金額については、それぞれ別表に盛り込んだ」
 「COP15の最大の目的だった京都議定書に定めのない一三年以降の枠組み構築については、来年十一月にメキシコで開かれるCOP16に先送りした」
 「全体会合では、政治合意案を全会一致で承認、合意に賛成する国の一覧表を付すことを決定した。賛成国だけが合意に縛られることとし、反対の国の立場を尊重した」。

米国とEUが合意の阻止を画策

 COP15における最大の争点の一つは、京都議定書の継続だった。
 地球温暖化に伴う地球環境の危機はすでに予測の段階ではなく、現実に進行しており、加速化している。アフリカ諸国の旱魃、南アジア・東南アジアにおいて多発する大規模な水害、島嶼国の水没の危機は、すでに数億の人々の生命と生活を脅かしている。地球温暖化が人間の活動、とくに産業活動に由来している可能性が非常に高いことは、もはやすべての議論の前提となっている。
 地球温暖化をもたらした主要な責任が「先進国」と呼ばれる一部の国における大量生産・大量消費の経済モデルにあり、これらの諸国がその責任に応じて積極的な排出削減の取り組みを行うことが、気候変動抑制のための出発点とならなければならない。一九九七年の京都議定書は、さまざまな問題が含まれているにもかかわらず、そのような合意にもとづく世界的な取り組みの重要な出発点となっている。京都議定書に基づく第1約束期間(08―12年)の中間にさしかかろうとしている現在も、世界の温暖化効果ガスの排出量は増え続けている。COP15は、二〇一三年以降の気候変動対策の枠組に関する世界的な合意を形成するための重要な会議として位置付けられてきた。
 米国のオバマ政権は、気候変動が人間の活動の結果であり、適切な対策が必要であることを認め、米国内における対策を進めるための法律を準備してきた。再生可能エネルギーへの大規模な投資を新たな雇用創出と結び付ける画期的な政策を打ち出している。米国では、ブッシュ政権下ですら、州レベルでの気候変動問題へのさまざまな取り組みが続けられてきた。
 しかし、COPに対するオバマ政権の政策は、自然エネルギーへのシフトに抵抗する石油・エネルギー関連の企業や、環境対策が中国や「発展途上国」との競争に不利な影響をもたらすことを恐れる製造業からの強力なロビー活動によって完全に牛耳られている。民主党議員や政策ブレーンの多くはこれらのロビイストと癒着している。拘束力を伴う合意が議会で承認される可能性はほとんどない。
 オバマ政権が掲げる二〇二〇年までに一七%削減という目標は、〇五年を基準とした値であり、国際的に用いられている対一九九〇年比では四%にすぎない。しかも、この削減の大部分は外国での排出クレジットの取得を通じて達成される。つまり米国内では、企業も家庭も、温室効果ガス排出削減のための努力を求められないのである。
 オバマ政権はその一方で、現在では最大の排出国となった中国や他の「発展途上国」に責任を転嫁し、中国や「発展途上国」に削減義務が課されない京都議定書は受け入れられないと主張してきた。この点においてはブッシュ政権と何ら変わりがない。
 オバマ政権はCOP15において拘束力を伴う合意を求められることを阻止するために全力を挙げた。
 従来、京都議定書の継続を主張してきたEUが、米国と中国が参加する「新しい枠組み」という主張に同調し、京都議定書の継続にこだわらないという立場に転換した(日本政府も、京都議定書に対する否定的な態度を貫いた)。
 COP15の開会直後の十二月八日に、COP15の主宰国であるデンマークのラスムーセン首相による「合意書草案」を英国の「ガーディアン」紙がリークした。この文書は、少数の国だけで協議されたもので、米国およびEUの意向が反映されたものだと推測される。それには、京都議定書の下の特別作業部会(議定書AWG)と気候変動枠組み条約の下の「長期的行動に関する特別作業部会」(条約AWG、米国や他の京都議定書に署名していない諸国を含む)を統合するという提案や、京都議定書の「抜け穴」であるCDMの要件の緩和などを盛り込んでいた。この文書はNGOや中国、「発展途上国」の代表から強い抗議を受け、撤回された。
 米国政府はさらに、「経済援助」を武器にして「発展途上国」の切り崩しをはかってきた。非妥協的な発言をした「発展途上国」の交渉担当者を交代させるなど、露骨な圧力をかけたことが伝えられている。フランス政府もCOP15の直前に、エチオピア政府に経済援助を約束し、それと引き換えにエチオピア政府は「温度上昇を二℃以下に抑える」というEU案を受け入れた。
 オバマは九月末から十月上旬にかけてバンコクで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)特別作業部会の直後から、「COP15では合意に至らない」という見方を示し、米国の意に沿わない合意は一切認めないことを明確にした。
 オバマ政権は、COP15を失敗させ、その責任を中国と「発展途上国」に負わせ、京都議定書を葬り去ることを通じて、新しい枠組の下での交渉で主導権を握ることを画策したのである。
 EUと日本がこの米国政府の方針に同調したため、京都議定書の継続を要求する中国とG77諸国は交渉の行き詰まりを打開する手掛かりを失った。逆に、経済協力をちらつかせた米国による中国・G77諸国の分断工作が奏功し、米国のイニシアチブの下で「コペンハーゲン協定」が「承認」された。これは米国によるCOPの「乗っ取り」、あるいは「クーデター」である。
 EUと日本は、米国が参加できる枠組みを自己目的化して、京都議定書の「差異ある責任」という重要な原則を不問にする(「資金援助」にすりかえ)ことによって、これに道を開いた。
 その代償としてこれらの諸国が約束した「援助」は、日本が百十億ドル(国費相当分)、EUは百六億ドル、米国は三十六億ドルである。
 これらの諸国が銀行や企業の救済ために惜しみもなく使った金額や、イラク・アフガン戦争あるいはその支援のために使っている金額と比較して、問題にならない金額である。

COP15に問われていたもの

 COP15に向けて、各国および各地域グループはそれぞれの思惑で、削減目標や資金調達の方法についての提案を競い合った。NGOや社会運動の側でも、従来からこの問題に取り組んできた環境NGOだけでなく、農民運動、先住民運動をはじめ多くの運動団体がそれぞれの立場からの提案・主張を展開してきた。
 気候変動問題に取り組む世界の五百以上のNGOのネットワークであるCAN(気候アクション・ネットワーク)は、COP15に先立って、気候を変動を抑制し、すべての国にとって公平な「FAB(公正で、野心的で、拘束力のある)」合意の基本的な要素に関するチェックリストを発表した。このチェックリストは、COP15に至る一連の会議の中で展開されてきた議論に即して、COP15で合意されるべき内容を網羅している。それには以下の項目が含まれる。

1 気温上昇を2℃未満に抑える。世界の排出量が次の約束期間(2013―17年)の間にピークを迎え、その後急速に削減に向かい、二〇五〇年までに少なくとも対一九九〇年比で八〇%削減されるようにする。この目標を達成する方法は、「先進国」の気候変動への過去および現在の寄与と、途上国の持続可能な発展の権利を十分に反映すること。
2 「先進国」全体で、二〇二〇年までに四〇%以上の削減(対1990年比)という目標を設定する。カーボン・オフセットの利用は制限するべきである。二〇二〇年までの国内における削減が三〇%未満(対1990年比)である限り、オフセットの利用は認められない。「土地利用、土地利用変化および林業部門(LULUCF、いわゆる吸収源)」による排出と除去(吸収)の計算は、大気への実際の影響を基にすること。森林や泥炭地の劣化などの主たる排出源を計上すること。
3 「発展途上国」が自国の産業による排出を、BAU(ビジネス・アズ・ユージュアル、「何も措置を講じない場合」)の排出量よりも大幅に低いレベルに抑えるための努力を支援する。
4 「発展途上国」の森林減少・劣化による排出を二〇二〇年までにゼロにする。そのために「先進国」は年三百五十億ドル以上の資金を提供する。
5 「先進国」は「発展途上国」における対策のために、二〇二〇年まで年一九五〇億ドル以上の公的資金を提供する必要がある(低排出型の発展、森林減少対策、農業、技術研究・開発のために950億ドル、気候変動への適応の支援のために1000億ドル)。これはすでに約束しているODAに加算されるものである。
6 二重計上の禁止。「先進国」が自国の削減目標の達成のために途上国からカーボン・オフセットを購入した場合に、それを「発展途上国」への支援に含めてはならない。
7 「発展途上国」における気候変動の影響への適応に対する、安定的で確実な支援をただちに大幅にスケールアップするための適応アクション枠組の確立。
8 コペンハーゲン会議の成果は、法的拘束力、強制力を持つこと。より効果的で強力なシステムが合意されるまでは、京都議定書を第二約束期間へと継続する。京都議定書を補足するものとして、米国による他の「先進国」並みの削減目標、資金に関する約束、および「発展途上国」の努力について規定する合意がなされること。


クライメート・ジャスティス

 一方、「クライメート・ジャスティス(気候における公正さ)」の実現を要求してATTACや「ビアカンペシナ」(農民の道)等の社会運動団体と共闘してきた「地球の友(FoE)」は、よりラディカルな主張を掲げた(以下は国際環境NGO・FoE Japanのウェブより)。

 「1.カーボン・オフセットは解決にならない!今すぐ大幅国内削減を! 
 温室効果ガスの削減目標達成のために途上国から炭素クレジットを買うカーボン・オフセットでは、先進国は排出し続けるので温暖化防止にも、途上国の持続可能な発展にも貢献することなく、投資家や大量排出源の企業だけが利益を得る仕組みになっています。
 真に温暖化を防ぐには、先進国は、自国内の大幅削減に取り組まなければなりません。 
2.先進国の大幅削減、途上国の気候変動対策支援、そして私たちの消費パターンを見直し『クライメート・ジャスティス(気候の公平性)』実現を! 
 途上国や世界の貧困層の人々は、温室効果ガスをほとんど排出していないにもかかわらず、気候変動の影響を受けています。クライメート・ジャスティスは、先進国が自らの温室効果ガス排出責任を認めて国内の大幅削減に努めること、さらに途上国の持続可能な社会の構築と気候変動影響への適応対策を支援することで達成されます。
3.森林を利用したカーボン・オフセットによって目をそらずに、気候変動と森林減少対策の両問題の本質的な解決策を!
 森林を利用したカーボン・オフセットは、温室効果ガス排出削減、森林減少対策の真の解決にはならず、その上先住民族や住民の生計手段や生活を脅かします。 
4.先進国は気候債務の返済を!
 気候債務は、先進国の温室効果ガスの歴史的排出に基づいて、自らの排出削減と共に、途上国の気候変動対策のための公正で効果的な気候資金の流れの構築に貢献することで返済されます。
 気候資金は、大規模土地利用転換を伴うような単一植林、バイオ燃料、原子力、炭素回収・貯留等の持続可能でない対策に使用されることを防ぎ、環境や社会に十分に配慮し、先住民族や女性、小規模農家や漁師等が主体となって計画・実施されるコミュニティベースの気候変動対策が優先されるべきです」。

「北」の「環境債務」が重要争点に
 
 COP15をめぐって、大手メディアでは、あたかも「先進国と途上国の対立」が中心的な問題であるかのように報道されてきた。
 たしかに中国とG77のブロックは、大部分の「発展途上国」を代表し、多くの場面で一致して行動した。しかし、このブロックにおいて、今やG8に代わるG20の重要な構成メンバーとなった中国、ブラジル、インド、南アフリカの立場は微妙である。これらの諸国は、国際経済の中での比重の増大に見合った責任(温室効果ガス排出削減の努力を含む)を負わざるを得ないことを理解しつつ、外交的駆け引きを通じて、可能な限り有利な条件を引き出そうとしており、その限りで他のG77諸国と緊密に連携している。これらの諸国は、京都議定書の「抜け穴」として導入されたCDM(クリーン開発メカニズム)をはじめとする市場メカニズムの主要な受益者である。これらの諸国はまた、「先進国」がたどってきた環境破壊的な経済発展戦略を踏襲してきた。しかも「先進国」における環境破壊的な大量消費こそ、これらの諸国の輸出依存型の経済発展の推進力である。
 これらの「新興国」と「先進国」との対立は、米国による世界の一極支配から「多極化」への移行の過程において政治的に解決されるレベルの対立である。今回の「コペンハーゲン協定」はその意味で、米国一極支配から「多極化」への移行の新しい段階を示している(この点については、本稿では詳しくは触れない)。
 一方、G77の圧倒的多数を構成するいわゆる「最貧国」においては、温暖化による影響と、「先進国」によって提唱されている温暖化対策、つまりCDMをはじめとする市場メカニズムは直接に破滅的影響をもたらしており、「先進国の責任」と「迅速かつ大幅な排出削減に関する拘束力を持つ合意」は譲ることのできない切迫した要求である。
 COP15では、ボリビアとエクアドルの代表が「先進国」が「発展途上国」に対して「環境債務」を負っていることを強く主張した。
 ボリビアのアンヘリカ・ナバロ交渉代表は「デモクラシーナウ」のインタビューに答えて、次のように述べている。
 「環境債務の基本的な考え方は、先進国は利用可能な排出空間を過剰に使っているということです。世界の人口の二〇%が、排出量の三分の二を排出しており、その結果、気温上昇の九〇%以上に責任を負っています。そのために私たちのような発展途上国が苦しんでいるのです。ボリビアの氷河は四〇〜五五%が溶けてしまっています。旱魃が長期間にわたって続くようになりました。低地では洪水の発生が増えています。そのためにGDPの四〜一七%が失われます。環境債務というのは、こういうことに対する責任です。私たちが求めているのは債務の支払いであって、援助ではありません。先進国が自分たちの責任を果たして、環境債務を支払うことを求めているのです。……
 ボリビア政府は二〇一七年までに四九%の排出削減を提案しています。しかし、それを達成したとしても先進国は環境債務を完済したとは言えません。排出量をマイナスにして、発展途上国のために利用可能な排出空間を明け渡さなければなりません」。
 環境債務という考え方は、ジュビリーサウスやFoEなどの社会運動団体によって最近、提唱されてきたものだが、今回のCOPに向けた交渉の中では南米諸国やアフリカ諸国の政府によって繰り返し主張された。
 これに対して米国の交渉代表は、「先進国が温暖化の原因を作ったことは認めるが、それに対する責任や賠償はありえない」という傲慢な姿勢を貫いた。

「環境運動の再定義」の進展

 一九九〇年代後半以降、新自由主義的グローバリゼーションに反対する闘いを進めてきた世界の社会運動団体は、COP15をめぐる闘いを、十年前のシアトルにおけるWTO閣僚会議反対の行動に匹敵する歴史的な闘いとして位置付け、市場原理に基づく誤った解決策を拒否し、クライメート・ジャスティスを実現することを呼びかけた。
 最大の結集点として、十二月十二日の統一デモと同十六日のベラ・センターに向けたデモが呼びかけられた。
 デンマーク警察は、厳戒態勢で臨んだ。深夜に活動家たちのキャンプを襲撃し、機材を押収し、活動家を予防検束したり、合法的なデモの参加者を大量に逮捕する(12日は約1000人、16日にも200人)など、強権的な対応に終始した。
 クライメート・ジャスティスを掲げる多くの運動団体の活動家たちが、コペンハーゲン市内で開催された「民衆の気候サミット」(クリマフォーラム)に結集した。
 鋭い新自由主義批判で知られるナオミ・クラインは、「環境債務とクライメート・ジャスティス」をテーマとしたパネル・ディスカッションの中で、次のように述べた。
 「ベラ・センターでは、気候変動対策の一つのモデルが終わりつつあります。このモデルは、地球上に残されている資源の最後の奪い合いにすぎませんでした。……昨日、ツバルの人たちの抗議行動を見ました。この人たちは、自分たちには未来がないこと、国がなくなることを訴え、それは一種のジェノサイドだと訴えました。この人たちが抗議している横を、背広を着た紳士たちが目を背けるようにしてすれ違っていきました。
 この会場では、新しいモデルが姿を現しています。これは歴史的な集まりです。ジュビリーサウスはバンコクで環境債務に関する民衆法廷を開催しましたが、私は北の国でこのような大きな集まりが開催されるとは思っていませんでした。
 ここで行われているのは環境運動の再定義です。これまで、北の国では、環境運動はある種の感覚的な、『みんな仲間だ、手をつなごう』的な運動でした。それが悪いというわけではありませんが、実際には、私たちはみんな同じように仲間であるわけではないのです。問題を起こした人たちと、その問題が現れる場所の間に対照的な関係があります。問題に直面した人たちと、その問題の影響から逃れられる人たちの間に対照的な関係があります」。
 ここで言われている「環境運動の再定義」は、環境債務についての認識に踏まえて、援助ではなく、「北」の側からは「責任」の観点から、「南」の側からは「権利」の観点から気候変動・環境の問題に取り組んでいくことを意味する。また、彼女が指摘しているように、米国ノースカロライナ州の災害の際に明らかになったように、「北」の中にも「南」が存在している。
 〇九年十二月コペンハーゲンで始まった新しい闘い、「新しいモデル」は、この観点から近代の資本主義的生産様式を根本的に問い直し、「北」と「南」の新しい連帯を築いていくことへの挑戦である。

日本政府の義務は米国の説得

 日本政府はCOP15に向けて、「二五%削減」の「鳩山イニシアチブ」で交渉を主導するという意気込みを示していた。米国と途上国も参加する新しい枠組みへの合意を目指して、活発な外交政策を展開した。
 しかし、日本政府のそのような思惑は、交渉の行き詰まりの打開に貢献するどころか、その可能性を閉ざす反動的な役割を果たした。
 CANはCOPの開催中毎日、その日の議論の中で最も交渉の進展を妨げた三つの国あるいはグループを選んで「化石賞」を贈っているが、日本は連日、「先進国グループ」の一員としてこの賞に選ばれているだけでなく、十二月十二日には単独で「第一位」に選ばれている。「京都議定書の第二約束期間の設定に強く反対し、議長提案を交渉のベースにすることを拒否することによって交渉の進展を阻止した」ことに対してである。
 日本政府は、中国および「途上国」への削減義務を求めないのは不当であるとする米国の主張に同調し、中国(および「途上国」)への説得を試みた。これは全くの見当違いである。
 日本政府は、米国の削減目標が「削減」と呼ぶに値しないものであることを不問にし、あたかも中国および「途上国」が削減努力を拒否しているかのような発言を繰り返している。中国および「途上国」が削減努力は、京都議定書の枠組み、ないし、より強化された枠組みの中で議論されるべき問題であり、中国および「途上国」が京都議定書よりも後退した「新しい枠組み」を拒否しているのは当然かつ正当なことである。
 日本政府はまず、米国政府に対して京都議定書への復帰を求めるべきである。ロビイストに包囲されたオバマ政権にその意思がないとしても、米国の市民や社会運動団体が米国政府に政策変更を迫る可能性に希望を託すべきであり、そのための国際的な外交的圧力を強化するべきである。日本政府が最終的に、密室で協議された形だけの「合意」を支持したことは、そのような可能性すら閉ざす最悪の選択であった。
 筆者は鳩山政権の温暖化対策に関して、本紙(09年11月16日号)で次のように指摘した。
 「IPCCの警告にふまえた『先進国』の責任に基づいて削減目標を設定することは、それが経済成長と両立するか否かに関わりなく、地球温暖化に責任を負っている諸国の無条件の義務であり、外交的駆け引きの手段とされてはならない。
 このことを前提としない温暖化対策においては、国際的力関係や国内における財界の圧力に応じて、目標の引き下げや算定方法の操作、実施段階における抜け穴等が用意されることが予想される。削減目標の背景となる理念が明確にされない限り、首尾一貫した政策は実現されない」。
 実際、COP15が何の成果もなく閉会した直後から、鳩山政権の「二五%削減」目標の見直しを期待する発言が、財界やメディア上で相次いでおり、政府内でもそれに同調する動きが伝えられている。
 まさに、削減目標の背景となる理念が問われているのである。
 ICPPの警告にふまえた「先進国の責任」あるいは「南」の諸国の政府や社会運動団体によって主張されている「環境債務」の観点からは、化石燃料の大量消費を前提とする経済システムは、ただちに廃止されなければならない。短期・中期の「削減目標」は、そのためのステップとして位置付けられなければならない。その上で、「発展途上国」に対して、化石燃料に代替するエネルギー源と、気候変動の影響による被害の補償が無条件・無制限に行われなければならない。
 本紙(09年11月16日号)でも指摘したように、民主党の削減目標は、「温暖化対策と経済成長は両立できる」という考え方を前提としている。それは、あたかも日本における現在の生活水準を維持するための疑うべきでない前提であるかのようにされている。
 この点について、筆者は本紙(09年11月30日号)に掲載されているミシェル・レヴィの論考を全面的に支持する。
 「ヨーロッパや北アメリカ[および日本―引用者]の人々の生活水準を絶対的に削減する必要……は、まったくない。これらの地域の人々に必要なのは、単に、どんな実際的必要も満足しないようなものや、資本主義システムが支持する、取り付かれたように消費される役に立たない生産物を追い払うだけのことであろう。消費を削減する一方で、彼らは、実際はずっと豊かなライフスタイルの道を作るために生活水準の概念を再定義するかもしれない」。
 求められているのは、そのような方向へ向かった転換であり、エネルギーと食料を基本的には地域的に自給可能にすること、公共交通・公共サービスの再生などのイニシアチブである。「エコ消費」を煽り、ハブ空港の機能強化や高速道路無料化を進める民主党の政策は、全くその逆の方向を目指している。

排出量取引と原発による削減は危険

 われわれはまた、気候変動問題を利用して、原子力発電を「クリーンエネルギー」として売り込もうとする策動が強まっていることに特に注意しなければならない。「サンケイ」(09年12月17日付)は次のように煽っている。
 「コペンハーゲンで開かれている国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で、途上国での原子力発電所の展開が議論の対象になるなど、発電時に二酸化炭素(CO2)をほとんど出さない原発が、地球温暖化防止に欠かせない存在として再評価されている。……
 鳩山政権は原発の新規立地を後押しする。建設費が約三千億円の原発(138万キロワット)を一基新設すればCO2削減は年七百万トンにのぼり、太陽光発電で同じ効果を得るには六兆〜七兆円、風力発電で一兆円とされるだけに、費用対効果の面でも原発は切り札となる。…… 
 日本のエネルギー自給率は先進国で最低の四%で、原発を含めると一九%。エネルギー安全保障面でも重要な役割を担うだけに、より具体的な原発推進策が鳩山政権に求められそうだ」。
 中国、インドをはじめとするアジア諸国への原発の輸出が、「援助」あるいは「技術協力」ともリンクして推進されることにも注意しなければならない。
 ボリビア政府は、先住民が守ってきた土地の下に埋もっている石油・天然ガスを採掘しないことを提案し、それによって放棄される収入に相当する補償を国際社会に求めている。ドイツ、ノルウェーをはじめとする諸国がこの提案に応じて、拠出を約束している。原発輸出ではなく、このような協力こそが建設的であり、「南」と「北」の連帯につながる。日本政府は、ボリビア政府の訴えに応えるべきである。
 民主党の気候変動対策の一つの柱とされている排出量取引制度の導入について、われわれは慎重な判断を下す必要がある。
 筆者はこれまで、気候ネットをはじめとするNGO団体や環境運動団体の主張を支持し、排出削減のための補完的手段として国内排出量取引制度の早期の導入を支持してきた。筆者は依然として、補完的手段の一つとして国内排出量取引制度が有効であると確信している。しかし、米国や日本において、排出量取引が補完的手段ではなく主要な手段として議論されている現状、そして排出量市場が投機バブル的状況に陥っている今、拙速な排出量取引制度の導入には反対せざるを得ない。
 現行のヨーロッパや米国を中心とする排出量取引の実態に関する調査にふまえて、投機や排出削減につながらない(それどころか有害な)取引を排除するための厳格な規制が国際的に合意されない限り、日本における排出量取引制度の導入は中止するべきである。
 われわれはCOP15の評価と、日本政府に要求するべき政策について、社会主義を目指す左翼の間で、また環境運動やNGOの活動家との間で、広範な論争を呼びかけていく必要がある。本稿はそのための問題提起となることを意図している。(小林秀史)


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