かけはし重要記事

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日朝首脳会談と日朝交渉               かけはし2002.9.30号より

日朝両政府は国交正常化交渉の早期かつ誠実な遂行を

拉致事件糾弾!両政府は被害者家族の要求に応えよ


在日朝鮮人へのテロ脅迫と排外主義扇動を許さない!

ピョンヤン宣言と植民地支配

 九月十七日にピョンヤンで行われた、日本の小泉首相と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日国防委員長による首脳会談で、金正日は十三人の日本人拉致(うち八人は死亡とされる)を認めて謝罪した。また会談後に署名されたピョンヤン宣言では国交正常化交渉の再開と戦前の財産・請求権の放棄、国交正常化後の対北朝鮮経済協力方式による戦後補償の決着が明らかにされた。
 ピョンヤン宣言では、国交正常化に際しての核心である朝鮮人民への謝罪と補償について「おわび」表明による決着が図られた。私たちは銃剣で朝鮮を制圧し、武断政治で人民を支配し、文化統治と称して天皇制イデオロギーの下に同化(一視同仁・内鮮一体)を策し、日本語強制・創氏改名によって民族アイデンティティの抹殺を図り、皇軍兵士に仕立て上げてアジア侵略戦争に動員し、女性を軍隊慰安婦としてなぶりものにし、そして戦後は日本国籍外者として補償はおろか人間扱いすら拒絶し続けているこの歴史を、「おわび」で済ませ、すり抜けようとすることは絶対に容認できない。
 ピョンヤン宣言は言う。
 「植民地支配によって朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め痛切に反省」すると。
 では今日においても日本人のこうした歴史認識を促す施策がどれほどあるというのか。現実の歴史教育・歴史教科書においてどれほど反映されているというのか。植民地支配三十六年間についての具体的言及の一言もないこのピョンヤン宣言は、この意味では南北朝鮮人民を欺き、これからも欺き続けようとするものだ。とりわけ北朝鮮にも現に多数存在し「イルチェ(日帝)許すまじ」の弾劾の声を発し続けている元軍隊慰安婦らへの謝罪と補償すら顧みられていないことは容認できない。今後の日朝交渉の中で謝罪と補償を具体化させていく闘いは、まさにこれからだ。

排外主義あおる平沢勝栄ら

 国交正常化交渉に際しての戦後補償の核心とされてきた財産・請求権は、かつての日韓国交正常化交渉時のような激論がかわされることもなく、また北朝鮮にも多数存在する軍隊慰安婦らへの謝罪と補償についても顧みられることなく放棄された。そして今後の国交交渉の中では無償資金協力・低金利の長期借款・国際人道支援を柱とする経済協力の規模と内容に協議が絞り込まれていくこととなった。
 公式謝罪も賠償もない経済協力方式への北朝鮮の路線転換は、長期の経済的苦境に陥り一刻の猶予も許されない中でのギリギリの選択とみるべきだろう。論点の再整理と明確化は十月の交渉再開を待たなければならない。
 そして今回の拉致・抹殺事件に触れる前に九月十七日以降、朝鮮総連系の学校が相次いで休校に追い込まれたり在日コリアンの祭祀行事が自粛せざるを得なくなるなど全国で相次いでいる在日朝鮮人およびその関連施設へのテロ・脅迫・嫌がらせを怒りをもって糾弾しなければならない。
 また拉致救出行動議員連盟には平沢勝栄(元警察官僚)ら、在日朝鮮人を一貫して敵視し続け、つい昨年には北朝鮮在住の元軍隊慰安婦の怒りと補償要求のメッセージを携えて日本での集会に参加しようとした北朝鮮の代表の入国を外務省に圧力をかけて阻止し彼女らの涙と怒りの訴えを二重三重に踏みにじって平然とし、それを実績として誇っているような輩、それに同調する国会議員らが多数参加していること、彼らの唱える「外務省批判」とはこうした枠組みからなっていることを確認しておこう。

拉致事件は北朝鮮内政の縮図だ

 今回の首脳会談では、冒頭から日本人拉致者の安否が明らかにされ、金正日は「七〇年〜八〇年代初めまでの特殊機関の一部の妄動(ママ)主義、英雄主義」によるものとし「後に自分が知るにいたり責任者は処罰された」と弁明し「遺憾なことであったことを率直におわびしたい」と謝罪表明した。これまで「拉致などあり得ない」として全面否定し続けてきた立場を一転させ、日本側が確認していない人の生存情報まで明らかにした。
 本紙では、金日成・金正日父子による独裁支配体制下で北朝鮮がこれまで韓国に工作員を潜入させる目的で日本で工作活動を行ってきたことは歴然たる事実であることを明らかにし、この観点から日本人拉致疑惑に関する情報・資料分析を 通して、拉致事件の被害者家族とされる人々が北朝鮮に対する疑惑を抱き北朝鮮政府や日本政府に対して真相究明を求めることは当然であること、そして北朝鮮政府が誠意ある対応をとることを訴えてきた。あわせてこの疑惑解明が国交正常化交渉の踏み絵にされることにも反対してきた。
 首脳会談で金正日が明らかにした調査結果は、十三人を拉致し、うち八人が九年以上前に二十歳〜四十歳代ですでに死亡、五人が生存という残酷きわまりないものだった。当然にも事実確認と真相究明・詳細経過掌握のため、北朝鮮政府と日本政府は被害者家族の要求のすべてに応える義務を負わなければならない。
 そして私たちの憤りは被害者家族の怒りと悲しみとともに、北朝鮮の地で金正日専制独裁支配体制の下で今なお呻吟する二千万人の人民の苦しみにどう応えていくのかという自己への問いかけとならなければならない。「十三人中八人死亡という比率は北朝鮮の内政の縮図であると思えた」(元総連講師・姜在彦氏)。内政の延長が外交・軍事(拉致とまっ殺) であるとするなら、今回暴露された金正日による日本人拉致・抹殺事件を、長期間の食糧難が続く密告・監視社会の下で「我が国は二人のボスが築いた地上の楽園、うらやむものは何もない」と幼少時から教え込まれ、労働党特権階層の対極で奴隷状態に追いやられている二千万人民との連帯のために何ができるのかを探る契機としなければならない。

金正日が拉致事件の最高責任者

 金正日は首脳会談の中で一連の不審船事件についても「特殊部隊」の活動であったことを認め、多数の特殊部隊があるため統制ができなかったという「実情」をも披瀝した。
 拉致事件での金正日の責任を明確にするためにも、七〇年代の北朝鮮における「特殊部隊」「特殊機関」への金正日の関与を確認しておこう。北朝鮮において金日成神格化と労働党の絶対的独裁支配体制が最終的に完成するのは、六七年四月に行われた労働党中央委員会での「唯一思想体系 」確立とされ、五〇年代から六〇年代初期にかけた南労党派、ソ連派、中国派追放に続き、抗日パルチザン闘争時代以来の金日成の盟友とされてきた古参同志の多くがこの時に反党宗派分子として駆逐され、金日成一族とその側近グループによる独裁体制が形成される。
 この敷かれたレールに乗って金正日は党中央の役職に就き、七三年以降から党中央委書記、宣伝・扇動部門の総責任者として全般的指導に当たっている。この間には「全党と全社会の主体思想化」をスローガンに「革命が前進し社会が発展するに伴い人々の思想生活をもっと締め付けていかねばなりません」「たとえ問題が些細なものであっても事件化し強力に闘争していかなければならない」(七四年)として金日成神格化と奴隷化を極限までおしすすめている。またこの時期に金正日が提唱した戦略・戦術論の中には「妙術と策略」の強調があったことも指摘されている。
 こうした流れの中で特殊機関による対南(韓国)工作活動がエスカレートしていったとみるべきだろう。その一環としての拉致活動としては、金正日の直接の指揮による七八年の申相玉(韓国の映画監督)夫妻拉致事件が広く知られており、この時期前後に日本での拉致事件が集中していることからも金正日の関与は明白といえる。
 「金正日が志向する政治のスタイルは徹底的な宣伝工作と演出を通じた舞台裏からの遠隔操作による統治」(鈴木典幸・ラヂオプレス )であり、また「北朝鮮の首領独裁体制の下では強硬派や穏健派が別々にいるわけではなく対南活動や対外活動においてどんなささやかな挑発事件やテロまでことごとく金正日の直接指示によって進められている」(九八年に韓国に亡命した元朝鮮労働党書記ファン・ジャンヨプの証言)。金正日こそが拉致事件の最高責任者であり、責任は免れない。

金正日の路線転換は成功するか

 今回の首脳会談における拉致公式謝罪と経済協力方式受け入れという金正日の路線転換は、南北経済協力の推進、対中、対ロ経済協力の模索と七月の通貨レート改訂の流れの中に位置づけられるが、日朝国交が早期に実現して日本からの経済協力資金が流入したとしても、金正日が思い描いているような経済の再建は、金父子を神格化し側近グループと労働党官僚がすべてを独占する社会システムの下ではきわめて限定されたものにとどまらざるを得ない。
 インフラからの根本的再建は単に資金の流入だけで容易に打開できるものではなく、韓中ロの三国そして日本からの大規模な人的物的支援を必要とする局面が到来するだろう。この時こそ破綻した「ウリシク(われわれ式)社会主義」の全面的見直しと対外開放に向けた決断が問われることになる。すでに北朝鮮にさきがけてロシアは鉄道連結事業への日本を含む周辺諸国の参加と支援を呼びかけており、中国を含めた共同支援事業体の構想が現実味を帯びてくるだろう。

体制的崩壊が近づきつつある

 金正日による拉致事件謝罪は、北朝鮮人民にとっては二人の最高指導者によって正しく導かれてきたとする北朝鮮国家のアイデンティティーを最高指導者自らが否定し去るという衝撃的事態でもある。北朝鮮国内では「日本の小泉首相が過去を謝罪し国交交渉をするためにピョンヤンにやってきた」ことだけが伝えられ拉致事件謝罪については何も伝えられていないが、今日の北朝鮮においてはメディアを通したこうした旧来の情報統制はもはや穴だらけである。
 いくらかん口令をしこうが指導層には即日のうちに口コミで伝わり、中朝国境でのヒトとモノの往来(この地域では携帯電話を隠し持って中国の朝鮮族と連絡を取り合っている人たちが増えているという)は情報の往来ともなっている。こうした中、首脳会談の場で金正日に「妄動(ママ)主義」「英雄主義」として拉致事件の首謀者として世界中のメディアにさらしものにされた党や軍の当該機関がはたして忍従するか。弾劾の嵐と真相究明の追及の手が彼らのもとに殺到することになるのだ。
 また韓国では朝鮮戦争休戦後に北朝鮮に拉致・抑留されたとする四百八十六人の被害者家族たちが「日本の小泉にできてなぜ韓国政府にできないのだ」と声をあげ始め、南北対話の中での交渉課題にすることを求めている。金正日とその側近グループに歴史の審判が下る日はまた一歩近づいた。北朝鮮の地で苦難の日々を強いられている人民が自らが主人公となり、日帝支配以来の分断を回復する日がまた一歩近づいた。

われわれがとるべき基本的態度

 日朝国交正常化交渉と拉致事件真相解明の同時進行という複雑なプロセスの中で、私たちはどのような基本的立場をとるべきか。
 新たに出された9・20ブッシュドクトリン(米国の国家安全保障戦略)で「イラク、北朝鮮による大量破壊兵器の脅威に対しては能動的な拡散防止」で対処することを打ち出したアメリカの戦略的エスカレーションと米朝交渉の今後の行方、国交交渉宣言撤回と朝鮮総連への制裁発動を呼号する「拉致救出行動議員連盟」(自民・民主・公明・保守らの国会議員で構成)の動向など、国交交渉への敵対的要素が一時的には影響力を持ちうる局面をも想定しなければならない。
 日朝両政府がピョンヤン宣言に則って早期に誠実に国交交渉を進めることを要求し、また日朝両政府に対し拉致事件究明に関連させた対抗的措置や相殺的対応をとらないことを求めていこう。
 賠償請求権の放棄によって軍隊慰安婦をはじめ戦後補償を求める戦争被害者の声が踏みにじられたことに断固反対する。拉致・抹殺事件の全容と真相の徹底糾明のため北朝鮮政府と日本政府は被害者家族のすべての要求に誠意をもって応えよ。朝鮮総連をはじめ在日コリアンへの脅迫・テロを絶対に許すな。 (9月23日 荒沢 峻)

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