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反貧困ネットワークの声明               かけはし2009.9.21号

新政権は貧困問題についての
ビジョン提出と諸政策実施を

 歴史的選挙と言われた衆議院議員選挙の大勢が決した。

 私たちはまず、政権交代を歓迎する。この間、日本社会の中には貧困が拡大したが、与党・政府には貧困問題と向き合う十分な意思が欠如していたからである。労働者派遣法に象徴される数々の規制緩和や、社会保障費2200億円抑制などの「構造改革」が断行され、人々の暮らしは圧迫され続けたが、その実態は「経済成長さえ果たせば解決する問題」と放置され、さらには「自助努力が足りないだけ」と自己責任論で抑圧された。少なからぬ人々にとって、この間の状態は端的に「踏んだり蹴ったり」であり、痛みだけを一方的に押し付けられた。11年連続3万人超の自殺者、1000万人を越える年収200万円未満のワーキング・プア、派遣切り被害者、ネットカフェ難民、ホームレス、餓死者等々は、この間の政治が、人間らしい暮らしを保障するという最も基本的な任務を果たしてこれなかったことを告発している。その意味で、今回の選挙結果は、抑圧され続けた人々からの与党・政府に対する「しっぺ返し」だった。

 当然ながら、次期与党・政府には、こうした生活破壊の流れを転換し、人々の生活を再建し、守る役割が期待される。またそうでなければ、政権交代の内実はなかったことになり、肩透かしを食らった有権者は次なる審判を下すことになるだろう。

 しかし、その舵取りは容易ではない。失業率は戦後最悪の5・7%、有効求人倍率0・42倍(正社員0・24倍)という厳しい状況下で、生活の建て直しをいかに目に見える形で行うか、新政権は早々にその力量を試される。

 与党・政府に最も必要なことは、人々の暮らしの実情から目を離さないことである。民主党は、2007年参議院選挙で「国民生活第一」を掲げて大勝した。今回の総選挙では、あらゆる党が生活再建を競い合った。民主党はその中で、人々から生活を預けられたのだ。責任は重い。

 鳩山由紀夫・民主党代表は、今年6月の党首討論で、自殺や生活保護母子加算の問題を取り上げて、「一人一人が居場所を見つけられる国にしよう」と呼びかけた。一人一人が居場所を見つけられる国とは、この上なく大切なことであり、そして困難なことである。私たちは、その提言がいかに現実化していくのかを注視している。
 「郵政選挙」と言われた前回総選挙の際、大勝した自民党は「官から民へ」を掲げていた。今回、民主党も「官から民へ」を掲げて政権交代を果たした。両者が異なるのは、前者の「民」が製造業大企業等だったのに対して、後者の「民」が、2007年以降、明確に国民生活を指し示していた点である。

 「経済成長さえすれば、人々の暮らしは楽になる」――この約束は、90年代からの「雇用なき景気回復」、低下し続ける労働分配率、高騰し続ける社会保険料等々によって、事実として果たされなかった。もはや、経済成長率と暮らしの安心度数は独立した変数である。もう誰も、経済成長が十分条件であるかのような幻想には騙されない。

 では、民主党の約束(マニフェスト)はどうか。ただでさえ厳しい世界経済状況の中、いかにして暮らしの建て直しを果たすのか。私たちは、それをもっとも目に見える形で示せるのが貧困問題への取組だと考えている。

 OECDは、日本の貧困率を14・9%と発表している。実に7人に1人以上が貧困状態にある。多くの人々にそこまでの実感がないのは、日本で「貧困」といえば、依然としてアフリカ難民キャンプのような飢餓状態が想像されているからだ。そして、それと背中合わせの関係に立っていたのが「一億総中流」幻想だった。貧困ラインが飢餓状態に固着していたため、そこまでではない自分は「中流」だと、少なからぬ人々が自らを慰めた。この背景には、敗戦後の焼け野原から復興し、高度経済成長を遂げた「上昇気流」がある。「いずれよくなる」。現時点では厳しくても、多くの人たちがそう思えた。

 しかし、時代は変わり、欧米に対して「追いつけ追い越せ」だった日本は、今や新興国に追われる立場にあり、少子高齢化の中、人口減少社会に入った。かつてのような高度経済成長が再び訪れることはないし、「一億総中流」幻想はすでに過去のものだ。年収300万円未満世帯は、この10年で370万世帯増加している。低成長時代にも人々の暮らしを確保する、智恵のある政治が求められている。中間層だけを想定した政策は、もはや機能しない。

 OECDの貧困率は相対的貧困率であり、それは一言でいえば、生活に追いまくられて余裕のない状態、社会生活で引け目を感じる状態である(平成20年国民生活基礎調査結果に当てはめると、平均世帯人数2・7人で年収224万円以下)。日々の食事はなんとかなっていても、修学旅行に行けない、必要な教材をそろえられない子どもたち、また、職場で仲間として受け入れられず、病気をしても生活のために仕事を休めない労働者たち、地域で不幸があっても香典を包めない、子や孫にお年玉をあげられない高齢者たち、気兼ねなく外を出歩けない障害者たちなど、この社会の中に安心できる「居場所」を見出せない人たちである。

 この人たちが生活に追いまくれられる状況から脱し、「一息つけて未来を描ける」生活状態を確保すること、学校・職場・社会からの孤立状態を解消すること、賃金や所得保障によって所得を増やすとともに、再分配や支え合いによって支出を減らすこと、それが鳩山代表の言う「友愛」社会の実現ということだろう。OECD貧困率の政府としての公認、最低生活基準(憲法25条)による貧困率の測定、それに基づく貧困率削減目標の定立と、教育・住宅・労働・医療・年金・介護等々にまたがる総合的な対策。それが、厳しい経済情勢の中でも人々の暮らしを支えようとする政府のあるべき姿勢を示し、自分たちも「すべり台」社会を転落してしまうのではないかという人々の将来不安を取り除く。「国民生活第一」を掲げて政権交代を果たした与党の拠って立つ基盤は、ここにこそある。貧困問題は、来たる政権の存立根拠と基盤を補強する課題に他ならない。

 私たちは、次期政権の動向を注視している。私たちが次期政権の応援団となれるような、批判勢力とならずにすむような、ビジョンの提出と諸政策の実施を期待する。以上
 
 2009年8月30日




資料
09 年選挙目前!〜私たちが望むこと〜(5)
今こそ貧困問題の抜本的対策を掲げる時!

反貧困ネットワーク 代表 宇都宮健児

U  私たちが求める政策(承前)

5 雇用・労働

3.雇用保険制度の拡充を
1)すべての雇用労働者に雇用保険を適用すること。
@ 雇用保険の適用対象を週所定労働時間20時間未満労働者にまで拡大すること。
A すべての日雇い労働者が保険適用となるよう、日雇い保険を拡充すること。
2)ダブルワークなど複数就労をしている場合は、所得税制と同様に複合就労を合算して扱い事業主は応分負担するものとすること。
3)季節労働者のための特例一時金を、40日分から50 日分に戻すこと。
4)自己都合離職や期間満了者の受給資格を、12月から6月勤続(月14 日以上勤務)へと短縮すること。
5)雇用保険の給付期間を延長すること。
6)雇用保険財政の国庫負担分を25%へと戻すこと。

4.雇用契約ルールの改正で無権利労働の根絶を
1)雇用契約の原則は期限の定めの無い雇用とし、有期労働契約は短期間の業務に限定すること。
有期契約を繰り返す場合は、正規雇用を申し入れる義務があるとすること。
2)雇用契約の原則は直接雇用であることを労働契約法に明記した上で、労働者派遣法を以下のように抜本的に改正すること。
@ 派遣先企業の正規労働者と派遣労働者との均等待遇原則を明記すること
A 日雇派遣とスポット派遣を禁止すること
B 「登録型」の一般労働者派遣事業は禁止すること。
C 常用型」の特定労働者派遣事業は届出制から許可制にすること。
D 派遣が許される業務全体の見直しを行い、賃金・労働条件が適正に担保され得る、安全かつ高度な専門性を必要とする業務に限定(ポジティブリスト化)すること。
E 派遣先企業の事業主に団体交渉の応諾義務を付すること。
F 偽装請負や期間制限違反等の違法派遣があった場合、派遣先企業に「みなし雇用責任」を認めるものとすること。
G 派遣元企業のマージン率の上限規制を行うとともに、個別の派遣契約の派遣料金を労働者に示すこと
H グループ企業派遣については派遣元のもつ派遣契約総数の5割以下に規制すること
I 派遣元企業と派遣先企業は、派遣労働者の健康・安全配慮はいうまでもなく、プライバシーその他の人格権を保護する義務を負うことを明記すること
3)雇用形態に関わらず、就業規則は全従業員に手渡すことを企業に義務付けること。
4)従業員代表選出の手続き法を整備すること。当面、従業員代表選出に会社が介入した場合、不当労働行為となるものとすること。

5.解雇に対する法規制の整備を
1)普通解雇については、解雇すべき客観的理由の存在、解雇回避努力の履行、解雇理由明示と説明・協議の履行、労働者への抗弁機会付与の4要件を充足しなければ解雇無効となるとすること。
2)整理解雇については、人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、人選の合理性、手続きの妥当性の4要件を充足しなければ解雇無効となるとすること。
3)いわゆる「産休切り」、「育休切り」をなくすための監督指導強化と厳罰化を行うこと。
4)「解雇の金銭的解決」を労働契約法などに盛り込む検討は止めること。裁判で解雇無効とさ
れた労働者に就労請求権を認めること。
5)「ILO158号条約」(使用者の発意による雇用の終了に関する条約)を批准すること。

6.最低賃金制度の改正で生活保障賃金の確立を
1)最低賃金法を改正し、労働者とその家族の生計費を基準として決定される全国最低賃金を基本に、それを下回らない地域最低賃金、一定の事業又は職業に適用する最低賃金の設定を可能とすること。
2)全国最低賃金の時間額は、段階的かつすみやかに1000円以上に到達するよう、地方ごとの
経過措置も含めた制度設計を行うこと。

7.労働時間規制の強化で長時間労働の根絶を
1)ILO1号条約を批准し、そのための法整備をすること。
2 フルタイム労働者の年間総実労働時間の目標を1800時間とすること。
@ 労働時間は1日8時間・週40時間を原則とし、労働時間管理の徹底に向けた措置をとること。
A 時間外勤務手当の割増率を現行の25%から50%に引き上げること。残業の「特別条項付き協定」制度を廃止すること。
B 24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与すること。
フルタイム労働者の年間総実労働時間の目標を1800時間とすること。
3)「過労死防止法」を制定すること。

8.家族的責任を有する労働者のために保育の拡充を
1)保育に関わって、以下の施策を行うこと。
@ 待機児童の解消のための保育所の拡大整備と質の高い保育の整備、保育所運営費の改善を図ること。
A 保育所の職員配置基準を改善するとともに、保育士の待遇を改善すること。
B 民営化による保育関連労働者の賃金・福利厚生の引き下げを行わせないこと。
C 保育所・幼稚園にかかる費用の負担の軽減、もしくは無償化の推進をはかること。
D 保育所の最低基準を考慮するにあたりナショナルミニマムを確保し、市町村ごとの差異を認めないこと。

9.労働および社会保障におけるリプロダクティブライツを保障すること。
1)育児休業を取得する際、「子が1歳になる日を超えて引き続き雇用見込みがあること」という取得要件を撤廃し、非正規労働者を含むすべての労働者(男女)に対し、育児休業を保障すること。
2)育児休業の期間を子どもが3 歳に達するまで延長するとともに、複数回取得できるようにすること。
3)女性の就業継続を保障するため、すべての企業に対し、男女従業員に対する妊娠・出産・育児時間のための時短および残業免除の制度導入を義務付け、違反行為に罰則を科すこと。
4)妊娠・出産・産前産後休業取得・育児休業取得を理由とする退職強要や不利益変更に対し、
より強力な処罰を導入すること。
5)育児休業中の所得保障を国と事業主の責任で休業前賃金の3分の2以上に引き上げ、健康保険・年金等の保障をすること。
6)妊産婦を含むすべての男女労働者の健康を保障するため、長時間労働や深夜業の規制を強化すること。
7)国籍や滞在資格を問わず、すべての住民に対して妊婦健診の無料化、出産費用の無料化、中絶費用の健康保険適用を行うこと。
8)貧困に陥っている女性に対する産前産後のケアとして無料で分娩ができる入院助産制度の利用や産前産後婦人保護施設の入所などの利用を広報すること。
9)看護休暇・介護休業の取得日数を大幅に延長し取得による不利益のないようすること。   (つづく)


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