| 読書案内『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』高瀬毅著/平凡社刊/1600円+税 かけはし2009.8.24号 |
「反核・平和」を祈りから力強いメッセージとするために
被爆都市ナガサキを見つめて |
取り壊された
天主堂廃墟
広島では原爆ドームが、一方ナガサキでは平和祈念像がシンボル化されている。しかし、前者が歴史の証人ではあっても、後者は違い、むしろ観光目当てに製作された。当時、被爆者たちには公的な援護もなされていなかったのだが。
〈ナガサキの断層〉という西日本新聞の記者レポート〔2002年〕を参考に整理しておくと、平和祈念像が完成した一九五五年は、米セントポール市との姉妹都市提携の話が持ち込まれまた、原爆で破壊された浦上天主堂を保存するか否かの論議が大詰めを迎えていた。当時の市長は、最初は保存に前向きだったが、アメリカからの帰国後豹変し、結局は取り壊されてしまった。「ささやかれたのは、米国政府からの懇請、あるいは説得、あるいは圧力……。あくまで推測の域を出ない。だが、天主堂の残骸は、米国への怒りを再生産し続ける。そして世界中のカトリックを永遠に敵に回すものである。米国にとって保存への動きは好まざることに違いなかった」。
米世界戦略と
カトリック教会
さて、著者の高瀬毅は、この『ナガサキ消えたもう一つの「原爆ドーム」』で、なぜ保存が否定されたのか、その真実に迫っていこうとする。長崎を訪れる者は誰でも、永井隆の影響が今でも大きいことに気付く。「だが、米軍にとっても、またヴァチカンにとっても、ソ連の脅威が増していく中で、原爆についての永井の言説は、利用できるものと映ったにちがいない」。
自ら被爆しながら救援活動に奔走し、浦上の聖者と呼ばれた永井隆が〈原爆は神の摂理〉と主張したことは、主観的にはどうであれ、アメリカと日本の戦争犯罪を免罪するものでしかなかった。
最初は、市長も教会関係者も保存の方向で一致していたようだ。では、なぜか。著者はこの頃、浦上の大司教が天主堂再建の資金集めのために、また市長は米国からセントポール市と姉妹都市を提携するよう持ちかけられたことで、二人とも渡米したので、彼らの米国での行動に注目する。
そして、当時のタイム誌〔1962年〕に載った記事が「原爆ドームに象徴される広島を警戒し、批判的な視点で書かれていた。/一方の長崎からは強い反核のメッセージは伝わってこないことを〈評価〉しているようなニュアンス」で書かれ、核に対しては「こだわりのなさ」を感じさせるような市長のコメントも入っていることを知る。
そこで、著者はアメリカへ行き、さらに取材を進めていく。ここでもまた、市長や大司教の発言を報道した当時の新聞と出会う。例えば「広島は原爆投下を宣伝のため政治利用している。長崎は違う。私たちは宣伝しない(市長)」や「しかし、カトリック教徒は、この試練を、戦争を終わらせるための殉死とみなし、罪に対しての神の最後の鎮静だと考える(大司教)」などなど。そして地元の作家への取材を通して、この姉妹都市提携を提案したのが長崎にも来たことがある著名な財界人だと確認する。「……ノーストウエストの本拠地であったミネアポリスと双子の町といわれるセントポールは米国カトリックの総本山といってもいい町だ。」航空会社とカトリック。こうして、姉妹都市を結び、〈祈りの長崎〉をキャッチフレーズにして観光都市にしていくためにも「廃墟」は取り壊さねばならなかったにちがいない。
著者は、先程の財界人や彼と関係する人物を取材していく。その中で一人がアイザンハワー大統領で、彼が創設したUSIAという組織に注目する。これは、一応は国際交流を目的としていたが政治的な狙い(米国の世界戦略)を持ったものだという。
「人間の交流・文化的な面での関係作りを通して、……結果的に米国の安全保障に寄与させていく(パブリック・ディプロマシー)」のである。この活動は世界的規模で現在も展開されており、CIAも関与していたようだ。著者は、市長は対象として「招待」されたのではないのか、確かな証拠はないが、「懐柔」された可能性があるという。
被爆地・軍都
の現実見据え
被爆者都市ナガサキと真摯に向きあおうとする著者の姿勢には共感できる。一九五〇〜六〇年代、(市長だけでなく)多くの与野党の政治家、作家・ジャーナリスト、労組の活動家等が米国に「招待」され、多分多くが、「懐柔」されただろう。しかし。彼・彼女らだけか。この頃は「日本人がアメリカを好きになるような仕掛けが、多方面にわたって展開されていた」のである。そして、被爆地ナガサキで生まれた著者自身もまた、アメリカナイズされた生活に浸っていたのだという苦々しい反省があったにちがいない。だからこそ〈もう一つの原爆ドーム〉になるはずだった天主堂の廃墟にこだわり続けた。
たしかに、破壊された天主堂を歴史の証人として保存しようと市民運動が全市を巻き込んで、とはならなかった。が、それですべてが終わってしまったわけではない。著者の言う通り「……いまだに長崎は最後の被爆都市として、日本の西端から世界に向けて、絶対反核の声を挙げ続けている」。
そして、これに付け加えたい。しかし、現在もアメリカの世界戦略の要として、多くの米軍・自衛隊基地(佐世保)やそれらを支えている軍需企業(三菱)が存在している。
だから同時にこのようなナガサキとも向きあいながら、「反核・平和」を、祈りではなく力強いメッセージにしていこうと。(努)
資料
09 年選挙目前!〜私たちが望むこと〜(1)
今こそ貧困問題の抜本的対策を掲げる時!
反貧困ネットワーク 代表 宇都宮健児
七月三十一日、反貧困ネットワークは総選挙を前にして、「私たちが望むこと」と題した集会を開催した(本紙8月7日号参照)。同集会で配布された「私たちの要求」「私たちが求める政策」を分割掲載する。参考にしてほしい。(編集部)
2009年は、「派遣切り」で職と住まいを失った労働者を支援する東京・日比谷公園の「年越し派遣村」で年が明けました。年越し派遣村は、派遣切り被害の深刻さを浮き彫りにすると同時に、これまで日本社会にないと思われてきた「貧困」を可視化させ、日本社会に大きな衝撃を与えました。
米国発の金融危機に端を発する百年に一度といわれる経済不況下で、派遣切り・雇い止めの嵐が吹き荒れ、現在も職と住まいを失った労働者が大量に生み出されています。今回の不況で職を失う非正規労働者は、40
万人とも100万人ともいわれています。年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)は、1000万人を超え、自殺者は11年連続で3万人を超えるという異常事態が続いています。特に最近は「失業」「就職失敗」などを原因とする若年者自殺が増加しています。
わが国で貧困が拡大する大きな要因となってきたのが、脆弱な社会保障制度とワーキングプア(働く貧困層)の拡大です。もともと日本は、他の先進国と比較すると社会保障がきわめて脆弱でした。国にかわってセーフティネットの役割を果たしてきたのが、家族、地域社会、企業の福祉厚生でしたが、今ではこうした日本型セーフティネットは機能不全に陥るか、著しく縮小してきています。それを強く後押ししたのが、一連の規制緩和であり小泉構造改革でした。
日本社会は、今、大きな岐路に立っています。これ以上の貧困の拡大を許すのか、それともここで貧困の拡大を食い止め、人間らしく働き人間らしく生活できる社会を確立することができるかが問われているのです。私たちは、貧困の拡大を傍観し、容認する政治は絶対にあってはならないと考えます。
緊急事態の貧困問題の解決に向けて、私たちは、以下の要求にもとづく政策の実現を強く訴えます。
T 私たちの要求
1 貧困対策全般
@ 貧困率測定調査を行い、貧困削減の具体的な数値目標をかかげること
A 貧困施策においてはパッケージで対策をこうじること
B 社会保障費は削減せず、穴だらけになっているセーフティネットを早急に再構築すること。又、社会保障を充実させる法の制定等、社会保障全体のグランドデザインを示すこと。
2 生活保護
@ 生活保護基準を文化的最低生活と社会参加ができる水準へと引き上げること。
A申請権をすべての人に保障すること。
3 住宅
@誰もが安心して住み続けられる住宅を国と自治体の責任で保障する住宅政策を確立すること。
A 住宅貧困ビジネスに規制をかけること。
B 無料低額宿泊所の人権侵害を根絶すること。
4 年金
@ 基礎年金の税方式化等の抜本改革で、すべての高齢者、稼動能力に制限のある疾病、障害をもつ人に「最低保障年金」を給付すること。
A第3号被保険者制度を廃止すること。
B 障害年金引上げで無年金障害者をなくすこと。
5 雇用、労働
@ 不安定雇用をなくすため、労働者派遣法の抜本改正と有期雇用規制の強化を行うこと。
A すべての労働者に雇用保険、社会保険の完全適用を行うこと。
B 雇用・労働条件の均等待遇を確立すること。
6 女性
@ 男女間の格差是正を政策目標として明記し、NGOと行動戦略を協議すること。
A貧困対策策定にジェンダー分析を行うこと。
7 子どもの貧困・教育
@ すべての困難を抱える子どもに対して、経済面・ソフト面の両方から手厚く支援を行うこと。
A 教育費の無料化を実現すること。
8 母子家庭・父子家庭
@ 児童扶養手当の抜本改正を行うこと。
A母子加算を復活させること。
9 外国人
@ 在留資格にかかわりなく、全ての外国人に暮らしと生存を支える公共サービスを保障すること。
A出身文化と言語が理由で外国人が排除されることがないように、教育、就労、公共サービスへのアクセスを保障する対策を講じること。
10 医療
@ 後期高齢者医療制度を廃止すること
A 医療費抑制策を抜本的に改め、医療崩壊を食
い止めること。
B 低所得層への国民健康保険料・税の減免で、無保険者を解消すること。
11 介護
@ 若年者における介護制度の狭間、縦割り制度ごとの矛盾を解消し、介護を必要とするすべての人が利用できる制度とすること。
A 介護サービス基盤の拡充で切れ目のない地域包括ケア体制を確立すること。
B 医療・介護・福祉分野の労働者の賃金・労働条件等を抜本的に改善すること。
12 障害者
@ 障害者権利条約の趣旨に基づいて、障害者本人の権利を保障するよう国内障害者施策を抜本的に見直すこと。
A障害者自立支援法を一からつくりなおし、総合的な障害者福祉法を制定すること。
B 障害者差別禁止法を制定すること。
13 DV問題
@ 被害当事者主体のDV防止施策を行うこと。
Aシェルター拡充など被害者支援を強めること。
14 多重債務問題
@ 貸金業界の巻き返しを許さず、改正貸金業法を早期に完全施行すること
A 低所得者・貧困者が高利貸しに頼らなくてもよいセーフティネット貸付制度を充実させること
B ヤミ金を完全に撲滅すること
15 ホームレス問題
@ 地方自治体による施設排除を禁止し生存権を保障すること。
A自治体による住所不定を理由とした人権侵害をなくすこと。(定額給付問題や選挙権の問題等)
B 居住支援と就労支援をセットで行うこと。
16 税・社会保険料
@ 税負担の応能主義を強め、貧困根絶・格差是正に役立つ税制の確立を
A社会保険料の事業主負担を支払総賃金の一定率とする方式に改めること。
(つづく)
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