| 見込み捜査・別件逮捕・代用監獄による「司法殺人」許すな |
冨山常喜さんの
獄死から6年
七月二十日、波崎事件対策連絡会議は、文京区民センターで「司法殺人『波崎事件』と冤罪を生む構造」(根本行雄著・影書房)出版記念の集いを行った。
波崎事件とは何か。一九六三年八月二十六日、茨城県波崎町で当時三十五歳の男性が帰宅後に苦しみだし、病院で亡くなったが、男性の胃から青酸化合物が発見された。茨城県警は、毒殺事件だとして男性が帰宅前に最後に接触したと思われる冨山常喜さんを犯人として決めつけ、強引な捜査を開始した。私文書偽造容疑で別件逮捕し(十月二十三日)、十一月九日に保険金目的の毒殺容疑で再逮捕した。
でっち上げ逮捕に抗して冨山さんは一貫して無実を主張し続けたが、水戸地方裁判所土浦支部は、死刑判決を出す(66年12月24日)。その後、東京高裁死刑判決(73年7月6日)、最高裁上告棄却(76年4月1日)。以後、再審請求を闘うが、二〇〇三年九月三日、東京拘置所で無念の獄死(享年86歳)。冨山さんの四十年間の無実の叫びの訴えを引き継ぎ、現在、死後再審請求を弁護団・支援は準備中だ。
権力犯罪を許さ
ない取り組み
冤罪波崎事件再審運動と出会った根元行雄さんは、「自白がなく、物証も、目撃証人もいない」のに死刑判決を受けた波崎事件を調べていくなかで冨山さんが報道機関、警察、検察、裁判所が複雑に融合し癒着した「冤罪を生み出す構造」の犠牲者であることを確信する。しかも日本の冤罪の歴史からみても例外的な特殊なケースであることを強調する。
その全貌をまとめたのが『司法殺人「波崎事件』と冤罪を生む構造』(別掲)である。連絡会は、「司法殺人」の出版記念の集いをバネにして、死後再審請求運動を強化していく決意だ。
足利事件の菅家利和さんが十七年半ぶりに釈放され、あらためて冤罪事件の問題点が浮き彫りとなっている。とりわけ誤ったDNA鑑定を行った科学警察研究所の責任や捏造、隠蔽し続けた権力の組織的背景の情報開示と総括がもとめられており、さらに「冤罪の温床」である代用監獄廃止と取り調べの全面可視化が早急に実現されなければならない。今日、警察・検察・司法が冤罪を生みやすい構造的欠陥を抱えているにもかかわらず、裁判員裁判を強行している。このような司法の反動化が強まっている中で数々の冤罪事件を真正面から再検証する作業は、権力犯罪を許さない取り組みとして重要なのだ。冤罪波崎事件死後再審運動を支援していこう。
予断と偏見に
満ちた捜査だ
会は、波崎事件対策連絡会議代表の篠原道夫さんの主催者あいさつから始まり、「足利事件の菅家利和さんが釈放されたが、もし死刑判決だったらどうなっていたのか。司法権力を徹底的に解剖しなければならない。つまり、冤罪を生み出す構造の一つが代用監獄だ。無理やり自白を強制するやり方をやめさせなければならない。波崎事件の冨山さんは六年前に無実を叫びながら獄死した。われわれは冨山さんの冤罪をはらさなければならない」と決意表明した。
『司法殺人』の著者である根本さんは、三里塚闘争を通して篠原さんと交流を深めるなかで波崎事件を知ったことを契機にして、独自に波崎町の地域性、予断と偏見に満ちた茨城県警の捜査手法を調査すればするほど冤罪事件の実態が浮かび上がり、その衝撃から本にまとめたことを紹介した。
さらに根元さんは、「波崎事件は、見込み捜査、別件逮捕、代用監獄という監禁状態を利用しての取り調べが行われた。裁判員制度になっても、それは変わっていない。「取り調べ」の全面的な可視化と言っているが、この代用監獄がなくならければ冤罪はならならない。また、DNA鑑定があるから犯人だと断定するのも危険だ。検察はDNA鑑定を証拠にして有罪にしようとねらっている。推定無罪の原則を否定する容疑者報道も問題だ」と批判した。
安田聡さん(部落解放同盟中央本部執行委)から連帯アピールが行われ、狭山事件の冤罪性について、さらに石川一雄さんが一九九四年十二月に三十一年ぶりに仮出獄し、現在、第三次再審請求の取り組みを報告した。
飯塚事件│処刑
された冤罪死刑囚
記念講演として今井恭平さん(ジャーナリスト)が「処刑された冤罪死刑囚の悲劇」と題して、飯塚事件を取り上げ、冤罪を生み出す構造を分析した。
飯塚事件とは、一九九二年二月二十日、福岡県飯塚市内で発生した二人の女児殺害事件のことだ。久間三千年さんは、目撃された同種の車を所有していたことを理由に事件から二年七ヶ月後の九四年九月二十三日に死体遺棄で不当逮捕されたが、否認を貫き続けた。しかし、略取・誘拐罪、殺人罪で再逮捕。福岡地裁が死刑判決(99年9月29日)、控訴棄却(01年10月10日)、最高裁上告棄却(06年9月8日)、死刑執行を強行する(08年10月28日)。
なんと驚くべきことに、この事件でも足利事件で誤ったDNA鑑定を行い、捏造した科警研の同じスタッフが行っていた。科警研のDNA鑑定では久間さんの毛髪と被害者から検出された「犯人」の血液と一致すると報告していたが、福岡県警はなぜか石山再鑑定(帝京大学)を依頼し、その結果は一致しなかった。福岡県警は久間さんを逮捕しなかったが、約一年も尾行し、今度は被害者に付着していた繊維が久間さんの車のシートの繊維と一致するとの鑑定結果を根拠にして逮捕を強行した。科警研の鑑定結果が、またしても決定的な「証拠」として動員されたのであった。
今井さんは、足利事件の再審開始と久間さんの死刑執行問題を関連づけ、「足利事件のDNA再鑑定に動き出していた同時期に久間さんの処刑が強行された。これは権力が最新のDNA技術によって真実がわかったとか、九二年当時の鑑定は精度が低かったというアピールを行うことによって、科警研の嘘と証拠捏造を隠そうとしていることがみえみえだ。科警研は、冤罪を作り出す役割をになっており、信用することはできない。科警研とは別の第三者科学研究機関が必要だ」と強調した。
また、「警察庁は、一九九一年時、DNA鑑定機器導入費用の概算要求(一億千六百万円)していたが、足利事件で「DNA鑑定で容疑者を特定」とリーク記事を出してまで予算獲得のために大いに利用したのではないか」と指摘した。
最後に会は発言者たちへの質疑応答、意見を行い、あらためて権力の犯罪を暴き出し、冤罪事件を繰り返させないために裁判、再審闘争を強化していくことを確認した。 (Y)
紹介
根本行雄著/影書房刊/2000円+税
『司法殺人』
「波崎事件」と冤罪を生む構造
「まえがき」では波崎事件を担当した団藤重光(元最高裁判事)が「誤審の問題」について自己批判的総括のコメントを毎日新聞(92年7月27日夕刊)で明らかにしたことを紹介している。
団藤は、「誤審の問題」について「私は最高裁判所に入ってから、本当に身をもって痛感するようになった」事件として自己暴露したのが、「ある毒殺事件」、すなわち波崎事件だったことを明らかにする。「波崎事件」を特定することを避けながらも、その事件が波崎事件だったことはすぐわかるにもかかわらず、あえてこのような表現を選択した。つまり、上告棄却の宣告をした当該であり、その根拠が「合理的疑い」と称する杜撰なマニュアルにもとづく判断だったことが「苦痛」であったことを引きずりながら、その反省の姿勢を自己保身的に披露するのだった。「やはり本当は無実だったのかもしれない」などと言ってしまうのだ。元最高裁判事の団藤コメントは、司法界に「ささやかな影響」を突き刺してしまった。
根元さんは、団藤コメントを「冷静」に紹介し、司法権力が冤罪を生み出す装置であり続けることを温存し続け、助長していることを告発する。団藤コメントが単なる一時的な「気まぐれ」から出たものではないことを団藤著『死刑廃止論』(有閣斐)も紹介することによって読者に問いかけるのだった。
実は団藤コメントは、これだけではない。二〇〇八年二月二十九日の毎日新聞でも「もし捜査範囲を広げていれば、被告と同じ条件の被疑者がいたかもしれない」「自分が死刑宣告する立場になってはじめて主体的に考えることができた。自分は愚かだった。浅はかだった」とコメントを全国に発した。
団藤よ、ならばなぜ死刑判決を宣告したのだ。冨山さんは、無実を叫びながら獄死している。取り返しがつかない「司法殺人」を強行したのだ。なぜそのような司法が生き延び続け、権威主義丸出しで居直り続けていることができるのだ。
根元さんは、団藤の苦痛に満ちた反省コメントを紹介しながら、裁判員裁判が強行されるなかにあって、「冤罪を生み出す構造」に対してなんら切開されない状況に対して「なぜか、この構造にはほとんど手付かずのままなのです。重大な問題点を抱えたまま、市民が強制的に参加させられようとしています。これはとても怖ろしいことです」と糾弾する。そして司法の現状を知り、「冤罪を生む構造」を「除去」し、「一人一人の基本的人権を保障」していこうとアピールする。
政府は、この八月から裁判員裁判を一斉に強行しようとしている。欠陥制度の矛盾が爆発することは必至だ。厳しく監視し続け、社会的に明らかにし、制度凍結を実現していこう。本書は、波崎事件を取り上げながら「冤罪を生む構造」の役割を担っている警察・検察・報道機関・裁判所の共犯実態を浮き彫りにする。「司法殺人」絶対阻止! ストップ冤罪! 裁判員制度廃止を合言葉に。 (Y)
8月3日裁判員裁判強行!
いっそう露呈する制度の欠陥
凍結・廃止に向けた世論喚起を
必死の大キャン
ペーンを展開
東京地裁は、八月三日、全国で初めての憲法違反で欠陥だらけの裁判員裁判を強行する。六日にも裁判員裁判初判決を出す予定だ。対象裁判は、五月一日、東京都足立区の殺人罪として問われている路上で起きた女性刺殺事件だ。すでに裁判員候補者名簿から抽出された百人に呼び出し状を発送し、二十七人が辞退している。八月三日午前十時からの選任手続きによって裁判員六人と補充裁判員三人を選ぶことになっている。地裁は、初めての裁判員裁判であるため裁判官と裁判員が判決を検討する評議室と裁判員候補者の待合室、質問手続き室を報道に公開し、キャンペーンに必死だ。また、当日には報道関係などが傍聴券を求めて大量動員し、報道合戦で盛り上げようとしている。
東京地裁での裁判員裁判と判決をスタートに全国の裁判所で裁判員裁判を次々と強行していく。法務省・最高裁判所・日本弁護士連合会推進派は、グローバル派兵大国のための新たな司法機構作りのために東京地裁での裁判員裁判を突破口に定着化を狙っている。しかし、「市民が参加する裁判員制度」などとデマを繰り返しながら制度の違憲性と欠陥に満ちていることを居直り続け、隠蔽してきたが、そもそも制度として維持され耐えつづけるのだろうか、シナリオ通り進行するのだろうか、えん罪を生み出す危険性はないか、裁判員の「守秘義務」違反が大量発生などが噴出するのではないかと不安でいっぱいだ。
裁判員裁判実施前から「召集令状」を市民に送りつけ憲法18条「意に反する苦役に服させられない」、第19条「思想及び良心の自由」、第13条「国民の幸福追求権を侵害」の違反を居直り、国民総動員を通して制度の定着をねらっていたが、「不服従」を公然と表明する裁判員候補者が続出し、制度が揺らぎ始まっていた。
内閣府は、七月二十五日に「裁判員制度に関する世論調査」で二五・九%の人が裁判員に選ばれても「行くつもりはない」と考えていることを明らかにした。つまり、この世論調査を事前に明らかにしておくことで呼び出し拒否の続出の事態に予防線を張っておこうという魂胆がみえみえだ。それにもかかわらず参加を拒む理由(複数回答可)は「有罪、無罪などの判断が難しそう」との回答と「自分の判断が被告人の運命に影響するため荷が重い」という回答が、いずれも四六・二%で一位だった。さらに、「裁判の仕組みが分からない」(34・6%)、「専門家の裁判官に意見を言える自信がない」(34・〇%)などの理由も公表した。きわめて自然な感性ではないか。こんな結果に対して法務省裁判員制度啓発推進室は「結果を真摯(しんし)に受け止め、理解が得られるよう今後も広報活動に努力する」などと事務答弁で誤魔化そうとしている。
「強力な捜査」
訴える法務官僚
無責任な立ち振る舞いはこれだけではない。日本弁護士連合会の裁判員裁判推進派は、裁判員の守秘義務の解除、制度検証機関の提言、取り調べの全面可視化を掲げることによって、事実上の制度の欠陥を追認したのである。しかし被告人の人権、冤罪を生み出す代用監獄制度の廃止については一言も触れようとしないのだ。
日弁連推進派の意図を取り込む形で、否│事前共謀のうえで法務省官僚は、全面可視化と取り引き条件として「強力な捜査手法を導入する好機だ」「司法取引や幅広い盗聴などを認めてくれるなら建設的な話ができる」などと言い出しはじめていることを朝日新聞が報じている(7月26日)。要するに、盗聴法の拡大適用、新共謀罪新法の準備を進めているねらいだ。これは来るべき総選挙で民主党が政権をとった場合を見据えてのメッセージだといえる。民主党と社民党は、取り調べの全面 可視化法案を四月に参院に提出していた。選挙後の情勢によっては、可視化法案提出、成立していく可能性が出てきたうえでの官僚の延命するための世渡りなのである。
このような日弁連推進派と法務省の動きに対して危機感丸出しで登場したのが東京地検特別公判部長の青沼だ。七月二十六日の朝日新聞には、異例であるが顔写真を出して「全面可視化は取り調べに弊害がある」「検察も冤罪防止策を進めている。取り調べの重要性を考えれば、全面的な録音・録画は弊害の方がはるかに大きい」とウソを混ぜながらどう喝するほどだ。
このようにスタート時から制度の頓挫の兆候が始まっているのであり、今後も決壊が拡大していかざるをえないのだ。推進派は「実施して、やりながら改善していくのがいい」というのが本音らしい。いったい被告人の人権、被害者保護はどうなるのだ。人権軽視に貫かれた制度をやめろ。こんな裁判員裁判制度は、ただちに凍結し、廃止するしかない。 (遠山裕樹)
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