| 龍山の法廷も「炎上」するのか かけはし2009.6.1号 |
|
裁判所の捜査記録公開決定にも検察は頑として提出せず |
ハン・ヤンソク裁判長 弁護人らの公判期日変更申請は受け入れられません。この部分についての裁判所の決定は以上です。弁護人らはどうしますか?
イ・ドグ弁護士 このような悪い先例に私どもが手を貸すことはできません。退廷します。
クォン・ヨングク弁護士 裁判部の決定に遺憾の意を表明します。退廷します。
被告人に防御権の保障がない
5月6日午前11時35分、ソウル瑞草洞のソウル中央地裁417号刑事大法廷では龍山惨事事件に関連して起訴された被告人らの有罪・無罪を判断するための公判が冷ややかな雰囲気の中で続開された。
生存権、居住権、抵抗権という21世紀初めの韓国社会の課題にかかわって一時期を画するこの裁判では、だが事実関係の認定や法理の適用をめぐって激しい攻防が繰り広げられはしなかった。逆に裁判長と検察・弁護人の間で激しい神経戦だけが展開された。なぜなのか? 時計の針を公判が始まった午前10時に巻き戻してみよう。
法廷の前には今回の公判の性格を知らせる案内文が張ってあった。被告人9人は特殊公務執行妨害容疑、そしてその後ろに「負傷させたり死に至らしめた」という意味の「致傷」「致死」などが付け加わった容疑を受けている。特殊公務執行妨害致死の場合、最高刑は無期懲役だ。
裁判官が入廷した後に始まった公判で、弁護人団は公判期日を延ばしてくれと裁判所に要請した。4月14日、裁判所が「検事は申請人の別紙記載書類(検察の捜査記録)に対する閲覧・コピーを許容しなければならない」と決定したにもかかわらず、検察がこれに従わなかったことに対する問題提起だった。弁護人らはこれに先立ってキム・ソッキ・ソウル警察庁長(当時)、ペク・トンサン龍山警察署長など警察の幹部たちをはじめ警察特攻隊員、惨事が起きた龍山4区域の撤去用役(請け負い)会社職員らの陳述書や陳述調査を公開するよう検察に要求したが、拒否された。それでは担当の裁判官が検察にこれを公開するように決定してくれ、と申請し、裁判所はこれを受け入れて公開の決定を 下したものの、検察はその後も「事件関係人の名誉や私生活の秘密、生命・身体の安全、生活の平穏を著しく損なうおそれがあり、法令上、他人に提供または洩らすなどが禁止された情報・資料または捜査方法上の機密を保護する必要がある」として最後まで公開を拒否したのだ。
弁護人側は検察が9人を起訴するとともに捜査過程で作成したすべての記録1万余ページのうち3分の1ほどに該当する3千余ページを公開していないものと見ている。今回の事件の核心的争点である、1月20日の惨事当時、警察の公務執行が正当だったのか、そして火災発生の地点はどこなのかを判断しようとするならば、検察の残りの捜査記録が公開されなければならない、というのが弁護人らの考えだ。
したがって弁護人らは、検察が裁判所の決定に従って残る捜査記録を公開するまでは公判を進めることはできない、とした。このままでは被告人の自己防御権や公正な裁判を受ける権利、そして弁護人の弁論権が保障できなくなるからだ。刑事訴訟法は裁判の両当事者である検事と被告人が互いに平等な立場で対等に攻撃と防御の手段や機会を付与されなければならないとする「当事者対等主義」を明確にしている。これを実現しようするならば、均等な情報力を土台として裁判が始められなければならないというのが弁護人団の見方だ。
弁護人団はこの間、検察の捜査記録の公開拒否が継続されると、この日の公判に先立ち既に2度も公判期日の変更を申請し、裁判所の命令に従わない検察の捜査記録を押収してくれとまで裁判所に要請した。だが裁判所は、弁護人らにこのような申請をする資格はない、として棄却した。裁判所は、ただ検察が公開していない捜査記録や、これに登場している証人たちを後で検察側の証拠や証人として申請したとしても受け入れない、とする線で「制裁」を加えた。(囲み記事参照――略)
起訴内容と反する証言も
弁護人らが検察の捜査記録の公開をこれほどまでに重視する理由は何なのだろうか? 未公開捜査記録の中には検察の起訴内容を一方的に裏付ける証拠とはくい違う証言、被告人らに有利に作用し得る証言などが数多く含まれているものと見ているからだ。裁判所が未公開の捜査記録を証拠として採択しないと踏み切るとともに、検察が最近仕方なく追加で公開した参考人陳述調書などを見ると、弁護人たちの判断が無理からぬことが分かる。
追加で公開された捜査記録を見ると、まず事件前日の1月19日、龍山ナミルダン・ビルのデモ隊の抵抗の度合いは都心テロに準じる状況なので、特攻隊の投入が不可避だった、とする警察の説明を覆す陳述が出てくる。現場に投入されたシン某警察特攻隊員は、「19日午後にも籠城者たちは火炎ビンやレンガなどを投げたのか」という検察の質問に対して、「籠城者たちは火炎ビンやレンガなどを意図的に道路側に投げたりはしなかった。道路側に投げたのは翌日未明の作戦を開始する前に見た。19日午後、ヘリを使って偵察したとき、石や火炎ビンを投げる姿は見られなかった」と答えた。
また別の特攻隊員キム某氏は鎮圧が慎重さを欠いていたことを暗示する発言も行った。彼は「途中で作戦が変更されたこともそうだし、鎮圧作戦の過程でも特攻隊長が催促する無電をすること自体も、もう少し慎重であったならどうであったろうかという思いもしたし、初めに計画した通りに鎮圧作戦が進められていたなら良かっただろうとの思いもあった。デモ隊が窮地に追いやられる前に鎮圧が終わっていたなら、こんなことにまではならなかっただろう」と語った。
特攻隊と共に火炎鎮圧に動員された消防官らは望楼(見張り小屋)にどれぐらいの引火物質が積まれているのか知らないままに投入され、警察が安全管理に抜かりがあったと判断される陳述もある。ソク某警察特攻隊員は「当時、講堂での訓示や各隊別の会議の際、デモ現場(屋上または望楼)に数十束のシンナーや灯油など引火・発火性物質があるという話を聞いたのか」という検察の質問に、「そんな話はまるで聞いたことがない」と語った。さらに彼は「講堂でブリーフィングを受けたときや各隊別の会議の際、シンナーなどが大量にあるので火炎ビン以上の火災にも備えよと教育を受けなかったのか」という問いにも「そんな話は、まるでなかった。火炎ビンに備えて消火器を準備せよ、と言われただけだ」と陳述した。
また、現場に出動した消防官の某氏も、引火物質の正確な量を事前に知っていたかについて「(警察が送った)協力要請の公文を受けとったのが19日午後9時53分ごろだったが、その公文に出ているもの以外には、正確なシンナーの量について伝達されなかったし、それ以後、当直官イ○○が龍山署の担当者と具体的に協議した際もシンナーが正確にどのぐらいあるのか言わなかったために、われわれもそれならポンプ車でも大丈夫だろうと考え出動計画を立てたのだ」と語った。
弁護人、裁判官忌避も検討
弁護人側は検察の未公開事件記録がすべて公開されれば、その影響は極めて大きいと見ている。クォン・ヨングク弁護士は「(捜査記録の公開を拒否しているのは)事実関係を違う方向に駆り立てていくための意図と思われる」「われわれは検察が刑事事件の証拠を隠匿する犯罪行為をしているものと考える」と語った。
弁護人らは検察の捜査記録の公開拒否について憲法裁判所に憲法訴願審判(違憲訴訟)を請求する一方、5月15日に開かれる第4回公判の時までに裁判所が捜査記録の押収・公開など、弁護人らの要請を受け入れないならば、裁判官忌避申請など最後の手段を動員することにした。検察の頑とした非公開の決定に引きずられている裁判所にも問題がある、というのが弁護人らの考えだ。
また当該検事らを職権乱用、職務放棄、証拠隠匿、公務執行妨害などの容疑で12日、ソウル地検に告訴・告発する一方、検察が検事らを処罰しないものと考え、検察が事件記録を提出するように強制するための特別検事制の導入を推進する方針だ。
龍山の惨事で亡くなったイ・サンニム氏の息子であり現在、被告人として裁判を受けているイ・チュンヨン氏の兄イ・ソンヨン氏はこの日の裁判が終わった後、「問題を早く解決する方法が裁判なのに、公正に進められずもどかしい」「裁判は判事と検事の合作劇になっている」と批判した。特殊公務執行妨害の容疑を受けているキム某氏の連れ合いのクォン・ヨンオク氏も「結果があらかじめ決まっているようで裁判に大きな期待はしない」と語った。
龍山事件の被告人らが拘束されてから、既に百余日。検察は裁判所の捜査記録公開命令に従わず、裁判所はこれを強制せず、龍山裁判はジグザグを繰り返している。(「ハンギョレ21」第760号、09年5月18日付、チョン・ジョンフィ記者)
「審判に従わなければ協議は不可能」
法治主義の根幹を揺るがす
ゲームのルール
に従わない検察
事件捜査の記録を公開せよ、という裁判所の決定を検察が堂々と無視している状況をどう理解すべきだろうか?
龍山の惨事の事件を担当しているソウル中央地検・刑事3部のアン・サンド部長検事は「(今回の裁判所の決定は)強制力がない、いわば必ず履行しなければならない内容の命令ではない。積極的に義務を課する規定はない」と主張した。
これに対して弁護人側は、話にもならない主張だと反論した。クォン・ヨングク弁護士は「裁判所は(捜査記録についての)閲覧・コピーを『許容することができる』ではなく、『許容しなければならない』と決定したのだから、これは命令に該当し、検察に公法上の義務が発生したもの」であり、「検察は裁判所が命令を強制する手段はないという点を悪用して腹を決めよ式に法治主義の根幹を揺るがしている」と語った。
イ・ホジュン西江大法学専門大学院教授も「現在の検察のやり方は、裁判所が被告人の保釈・釈放の決定を下したのに被告人を釈放しないということと同じ」であり、「刑事訴訟法はゲームのルールであり裁判長は審判官の役割をしているのに、当事者が審判官の言うことに従わないならばどうやってゲームを続けることができるのか」と批判した。
検事たちの倫理
意識が問われる
これに関連して4月7日、米国でも注目に値する事件が起こった。エミット・サリバン・ワシントンDC連邦地裁判事は腐敗の容疑を受けたテッド・スティブンス前アラスカ州上院議員に対する連邦検察の公訴を棄却した。実体的真実を判断しもしない状況だった。理由は捜査および起訴にかかわった6人の検事がスティブン前議員に有利な証拠を隠し、これを公開せよとする裁判所の命令に違反したからだった。サリバン判事は同じ理由で検事らが法廷秩序を乱し、司法の正義を妨害したものであったとし、彼らを処罰するためにヘンリー・シェルケ3世弁護士を特別検事に任命することとした。これに先立ちエリック・ホルダー米法務長官は連邦地方裁判所長会議に出席し、同じ理由を挙げてサリバン判事に公訴棄却を勧告するとともに検事たちの倫理意識を高めなければならない、と力説したりもした。
わが大法院(最高裁)も、裁判所の特段の命令がなかったとしても検事は被告人に有利な証拠を能動的に公開しなければならないと考える。大法院は2002年、検察が被告人に有利な証拠を提出せず被害を受けたとして国家を相手として提起された損害賠償訴訟で、このように判示した。「検事は公益の代表者として実体的真実に立脚した国家の刑罰権の実現のために公訴の提起や維持をする義務ばかりではなく、その過程において被告人の正当な利益を擁護すべき義務を負うと言えよう。したがって検事が捜査ならびに公判の過程で被告人に有利な証拠を発見するに至ったならば被告人のために、これを裁判所に提出しなければならない」。
今、検察はこのような自主的な証拠の提出どころか、裁判所の記録公開の決定さえ拒否しているのだ。これに対して裁判所ができることというのは、たかだか公開していない捜査記録やそこに登場している証人らを受けいれない程度だとは、何ともアイロニーなことだ。(「ハンギョレ21」第760号、09年5月18日付)
|