| 「工場式農場」の予見された災難? かけはし2009.5.25号 |
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「新型インフルエンザ」の原因は密集飼育と抗生剤の多用 |
指標事例「0番患者」
「0番患者」。
伝染性疾患の最初の発病者を言う。保健医療の専門家らは「0番患者」を、しばしば「指標事例」(Indexs(ase)と呼ぶ。その人がいつ、どんな経路を通じて病原体に感染したのかを明らかにすることが、はびこる伝染病の原因を究明し拡散を阻むうえで核心とならざるをえないからだ。1984年3月、31歳の年で亡くなったカナダ人カイタンティガーは後天性免疫欠乏症(AIDS)の「0番患者」として知られている。論難の余地がないわけではないが、「エア・カナダ」の乗務員だった彼がアフリカで人間免疫欠乏ウィルス(HIV)に感染した後、アメリカ大陸にウィルスを拡散させたというものだ。
世界最大の豚肉生産農場
地球村を恐怖のるつぼへと追いやっている「豚インフルエンザ」(インフルエンザA型・H1N1)の「0番患者」は誰なのだろうか? メキシコ保健当局は4月27日、南東部ベラクルス州の田舎の村ラ・グロリアに暮らしている5歳の少年エドゥガ・エンリケ・エルナンデスを「検査の結果、メキシコで『豚インフルエンザ』に感染したものと確認された最初の事例」だと発表した。エルナンデスは発病後の数日間は症状がひどかったものの、現在は完全に回復した状態だ。全世界の関心がラ・グロリアに集中したのは当然だった。
〈AP通信〉などの各外信が伝えた内容を総合すると、ラ・グロリア村で「異常な兆候」が捕捉されたのは今年の2月からだ。この頃から3千余の住民のうち800余人が高熱、せき、悪寒、頭痛、ひどい場合には嘔吐や下痢などの症状を訴え始まった。けれども当初メキシコ保健当局は、これを「季節的流行病」と判断し、さしたる措置を取らなかった。そうこうしている間に同じような症状がいたる所で現れた。遅ればせながら、事態がただならぬことを把握した保健当局は4月に入って医療チームを急派した。村に通じる道路を封鎖し、防疫に力を注いだ。それ以後、追加の患者は発生しなかった、という。
それでは、なぜラ・グロリア村だったのだろうか? 正確な事実関係は疫学調査が出てきた後に明らかになるはずだ。けれどもラ・グロリアの住民たちは既に「豚インフルエンザ」がどこから始まったのかを「確信」している様子だ。住民らが一斉に名指すのはラ・グロリア村から約8・5キロメートル離れたチャルテペクにある大規模豚農場だ。
問題の豚農場は「グランハス・カロル・ドゥ・メキシコ」という企業が経営している。持ち分の半分は米国バージニア州に本社を置いている世界最大の豚肉生産企業「スミスフィールド食品」が所有している、事実上の系列社だ。ホーム・ページに公開された資料を見ると、繁殖用メス豚だけでも5万6千頭も保有するこの企業が昨年生産した豚肉は全部で95万頭に達する。スミスフィールド食品は米アリゾナ州と相接しているメキシコ北部のソナラ州でも「ノルジョン」という企業を経営している。ここから出荷した豚肉はカルフォルニア・ロングビーチ港に移され、韓国や日本などに輸出されるが、昨年この企業が生産した豚肉は46万7千頭だった。「グランハス・カロル」の規模が、いかに大きいかということだ。
世界化の波に乗って拡大
「農場から流失した汚廃水によって地下水や空気が汚染された。排泄物を貯めておいた巨大な『湖』では悪臭がひどくなり、ハエの群れがうんかのように群らがって、とんでもない状況になっている」。ラ・グロリアの住民たちは4月28日に行われた〈AP通信〉とのインタビューで異口同音に声を荒らげた。同通信は住民ホセ・ルイス・マルチネズ(34)の言葉を引用し、「TVを通じて豚インフルエンザについての報道に接した瞬間『それはまさにわれわれがかかった病気』だと分かった」と伝えた。
もちろんメキシコ保健当局は住民らのこのような主張に正面から反論する。ミゲル・アンヘル・レサナ・メキシコ伝染病統制センター所長は「エルナンデスが『豚インフルエンザ』の症勢を見せ始まったのは4月1日だけれども、その数日前から既に米・カルフォルニアで同じような症勢を示した患者がいた」し、「カルフォルニアとメキシコの間のどこで始まったのかは分からない」と強調した。「豚インフルエンザ」との関連説で株価が暴落するなど困難に陥ったスミスフィールド食品側でも相次いで声明を出し、「農場で働いている労働者も、飼育している豚からも今回の事態と関連するいかなる臨床的症状も現れはしなかった」と強調した。
今のところ住民たちにも、メキシコ保健当局やスミスフィールド食品の側にも疫学的証拠はない。主張も反論も科学的に立証されなければならない。時間のかかる問題だ。ただし一つだけ明らかなことは、「グランハス・カロル」のように肉類の消費用に豚や鶏などを大規模に育てている、いわゆる企業型農場の危険性を疫病学者たちが既に久しい以前から指摘してきた、という点だ。大規模備蓄企業は普通「工場式農場(CAFOs)と呼ばれる。「工場式」という名前が付いたのには理由がある。飼育からと殺、商品用包装に至るまでの全過程が、工場で作業工程別に分けて生産がされることと似ているからだ。
米国で「開発」された工場式農場モデルは1990年代に入って世界化の流れに乗り、全世界へと急速に広がっていった。その理由は大きくいって二つだ。
第1に、経済発展によって所得水準が高まるとともに、低開発国家を中心として肉類の消費が急激に増えている。増えゆく需要に合わせて供給量もまた速やかに増やさなければならなかった。第2に、多国籍畜産資本としては安い労働力や生産基盤の確保、市場開拓のために地球村の全域に手を伸ばす必要があった。安くて豊富な労働力やラテン・アメリカ市場への進出が容易な地理的利点まであまねく備えたメキシコもまた同様だった。
工場式農場が拡散していた初期のころ、関心の焦点は環境汚染や労働者たちの劣悪な労働環境に合わせられた。小規模な在来式畜産農家の相次いだ没落も批判の根拠だった。けれどもこの数年の間、保健・医療専門家たちを中心に工場式農場がかかえている「生命安保」的危険性を警告する声が、とみに大きくなっている。
国連・食糧農業機構(FAO)は2007年9月17日に出した政策報告書で「地球村の肉類生産方式は根本的な変化を経つつ、家畜の疾病が人間に移される危険性が時の経過とともに高まっている」「集約的な肉類生産のために家畜を過度に密集させるのは避けなければならない」と早々に警告した経過がある。FAOの当時の報告書には現在の状況を見通していたかのような「悲観的展望」が含まれており、注目を引く。
「過密飼育避けよ」と警告
「現在のところは発病率の高い鳥インフルエンザ・ウィルス(H5N1)が地球村の最大の憂慮事項だが、家禽類や豚から発見される『インフルエンザAウィルス』(IAVs)が音もなく伝播している点に注目する必要がある。国際的な徹底して綿密な監視が必要だ。既に工場式農場で飼育しているニワトリからIAVsが相当広く広がっているし、相対的に少ないとは言うものの豚からもIAVsが時々発見される。これは人間に伝染してインフルエンザのはびこりへと結びつく可能性もある」。
工場式農場の「危険性」は大別して三つに集約される。
第1に、多くの家畜が窮屈な空間に隔離されたまま飼育される。各種の病原体が個体を動き回りつつ「循環」する過程で変異が誘発される可能性が高い条件だ。
第2に、発育が早く肉質のよい品種だけを選択して飼育する。これは遺伝的多様性が少なくなるとともに、病原体に持続的に弱くなる結果を生む。
第3に、短期間に「商品」となるだけに、家畜を大きくするために抗生剤、抗菌剤あるいは成長を促進するさまざまなホルモンが過度に使用されている。抗生・抗菌剤に対する病原体の耐性を大きくし得る。
実際に世界保健機構(WHO)は2000年に出した報告書で「地球村で生産される抗生剤の半分ほどは人間が使用し、残りの半分は家畜に用いられる。これによって病原体が作り出される危険が高まっている」と憂慮した経過がある。
米国伝染病学会(ISDA)も昨年、同様の報告をしたことがある。学会は米・疾病統制予防センター(CDC)の資料内容を引用し、「米全域で抗生剤の抵抗力を持った病原体に感染すると人びとが1年に200万人に達し、このうち9万人が命を落としている」とし「抗生剤に抵抗力を持った感染性疾患が米国では既に伝染病の水準」だと指摘した。
「豚で変形したウィルス」
現在まで伝えられている点を総合すれば、今回の豚インフルエンザ・ウィルスの遺伝的構成は人間インフルエンザと鳥類インフルエンザ、そして米国とユーラシア系の豚インフルエンザ・ウィルスの各種がないまじった形態だ。このような形の遺伝的組み合わせは人間においてであれ豚においてであれ、これまで発見されたことがない、というのが専門家たちの一致した見解だ。
発病の初期にホセ・コルドバ・メキシコ保健長官は「豚インフルエンザ・ウィルスは豚で発病をひきおこしたウィルスがある瞬間、人間に移ったものと思われる」と語った経過がある。メキシコのどこかの農場で、ある時点で何らかの「事」が繰り広げられた、という話だ。
人口2200万の超大形都市メキシコシティの学校や公共機関は、はなから門を閉ざした。メキシコ政府は「経済と公共の安全に欠かせない機関」以外は5月1日から5日まで出入りをするな、と要請した。飲食店や公演場など人びとがたくさん集まる所は例外なしに営業中止の措置が下された。
国民の絶対多数がカトリックの信者である国で日曜のミサさえ取り消された状況だ。人波であふれかえっていたメキシコシティの中心街ソカルロ広場は文字通りの空っぽだ。庶民らの憩いの場として有名なチャプルペク公園の重厚な鉄門も閉められたままだ。まばらに目につく人びとも手術用のマスクで顔を覆っている。観光客の歩どりも絶えた。「目の見えない者たちの都市」を連想させる。
さて、問題はメキシコだけなのか? 世界保健機構が集計した資料を見ると、4月30日午前2時(韓国時間)までに公式確認された豚インフルエンザの感染者は世界11カ国で総計257人に達する(注)。オーストリア、ドイツなどのヨーロッパ各国とイスラエル、ニュージーランドなど地球村のそちこちで経験したことのない恐怖に陥っている。感染病の世界化、「目に見えない世界化」は作られた幽霊なのか。(「ハンギョレ21」第759号、09年5月11日、チョン・インファン記者)
注 5月13日現在午後11時現在の感染国・地域と感染者数は別表の通り。
コラム
失われた歯
長年愛用していた義歯がこわれた。職場のとなりは歯科医院。電話をしてみると、「地域住民の方ですか」と、見当違いの返事がかえってくる。「さては、ニセ医者か」と疑いながらも、「とにかく来てみなさい」と言われるまま行ってみる。
出てきたのは、普段着姿のじいさん一人。白衣は着ていない。全体がうす暗く、待合室にも受付にもだれもいない。「やっぱり」と疑いは深まるばかり。それでも、その場でテキパキと義歯の応急修理をして、「はい、今日はこれまで」。
ポカンとしていると、それまで言葉数の少なかったじいさん、まくしたててきた。「今日は休診日です。困っておられるようなので、義歯は直しました。当分使えるでしょう。お代は要りません。私は、ずっと予防医学に力を注いできました。厚生省は、健康にとってこんなに大切な歯の予防医学を真剣に考えていません。とんでもないことです。あなたはおとなりということですが、きちんと毎月通ってこられるのであれば、これからも診てあげますが、どうしますか」。
数日後、予約した時間に歯科医院のドアを開けると、明るく清潔な室内に、白衣を着た歯科医師二人と歯科衛生士の若い女性二人が颯爽と仕事をしている。応対も、先日とはうって変わって丁寧に感じられた。
まずは、すべての歯をチェック。途中、「うむ〜」とか「ああ〜」と呟くが、どうもこのじいさん、いや歯科医師の癖のようだ。つづいて「一本、一本の歯を頭のなかでイメージして〜」と、歯磨き指導。数か月間、「この歯の磨き方がよくありません。ここを、こうして」といったようにつづく。そして、「ちゃんと通ってくれれば、一生あなたの歯を診てあげることを約束しますよ」と、ぽつり。
歯が痛みだしたが、予約日が近いのでがまんしていた。「あなた、こんなにがまんしてはだめです。自分を大切にしないと、ひとにやさしくなれないですよ」。歯の痛み以上に痛い言葉だった。
治療中、「ヨシッ!」「ハイッ!」と気合いがはいる。「はい、あと三十秒」(30秒ほどたつと)「あと十五秒」(15秒ほどたつと)「はい、あと十秒」という具合だが、じつに小気味よい。歯の微細なイラストが大きく描かれ、何十年も使い古された紙芝居のような本を見せながら、しきりに説明してくれる。インフォームド・コンセントというより、説明するのが楽しくてしかたないふうだ。
数年通ったある予約日。受付で「じつは、先生、今朝、心臓発作で……」。この先生、ほんとうに約束をはたしてしまった。
すぐに二代目があとを継いだ。健康保険制度が変わったため、痛くならなければ診ることはできない、と言う。おかげで、一本の歯を失うことになってしまった。
それからは、痛みをがまんしないで、できるだけ早く歯科医に診てもらうようにしている。それで、ひとにやさしくなれるかどうか、まったく自信はないが。 (岩)
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