非正規労働者への差別待遇撤廃を
なくそう!官製ワーキングプア |
四月二十六日、東京・御茶の水の総評会館で「なくそう! 官製ワーキングプア 〜反貧困集会」が開催され、約四百七十人が集まった。主催は呼びかけ人個人で構成された実行委。
不況や失業の深刻化とともに「公務員は安定し、収入も恵まれている」などと、羨望と嫉妬にさらされる公務労働。だが現実は、多くの非正規、非常勤労働者が無権利状態に置かれたまま、住民サービスを最前線で担っている。
「全国の公務職場で働く非正規労働者の現状を、多くの人に知ってもらいたい」――主催者のあいさつの後、さまざまな現場から報告があった。
増え続けるパー
トタイム教員
若林純子さんは、東京都非常勤講師組合の書記長。「非常勤講師」とは、常勤(専任)教員が担当しきれない授業を、時間単位で担当する「パートタイム教員」である。現在都内の公立校で三千五百人余の非常勤講師(以下・講師)が働くが、この数は全国でもケタ違いに多いという。少人数授業で教師が不足しているにもかかわらず、都は国の基準を無視した少数の専任教員しか配置せず、安上がりの時間講師を最長一年の有期契約で利用してきた。
同組合は一九六三年の結成 以降、交通費すら支給されなかった講師の待遇改善に取り組み、七四年には、講師の職務内容や諸権利を定めた「都講師条例」の制定に尽力した。
だが今なお、「いつでもクビを切れる、知り合いを採用する」などと脅しをかけ、講師の追い出しをねらう校長は後を絶たず、一日のうちに数校を掛け持ちで転々とする講師も少なくない。一方で、退職金をもらい年金生活をする教師が優先的に日勤で働くなど、講師が失職する不安は変わらない。若林さんは、「日勤嘱託教員が増えれば、三十年勤めても退職金すらもらえない私たちがさらに圧迫される。私たちの職を奪うなと、これからも活動していく」と決意を語った。
東京・荒川区
の先駆的試み
荒川区図書館非常勤職員労組委員長の岩淵健二さんは、同区での取り組みを紹介した。最多の時期で二千四百人の常勤職員がいた荒川区だが、現在は千五百人台にまで減り、そのぶん非常勤が急増している。新たに結成された非常勤労組は区職労とともに、待遇改善を求めて当局と交渉を重ねてきた。その結果、〇七年には二十三区のなかでも先駆的な制度改革を実現した。
非常勤職員は「地公法第3条3項3号」で勤務時間や報酬が定められている。これが壁になって、一年限りの有期雇用や一時金・昇給なしなど、常勤職員と同じかそれ以上の労働をしながらも、働きに見合う報酬が保証されてはいなかった。
荒川区ではまず、非常勤の採用選考にあたって統一基準が作られ、一職層を「一般」「主任」「総括」の三層に分けた。給与も三〜四万円程度ずつ上昇配分。「任用一年ごと」の規定は変わらないものの、主任職は「勤続六年相当以上」で受験でき、各職層が年度ごと新規任用の形を採用。さらに職員研修や休暇等も大幅な見直しで付与された。こうした待遇改善は当時メディアでも大きく取り上げられ話題になった。
「区職労の力添え、当局の理解もあって既成事実として三職層を勝ち取った。さらなる改善をめざしたい」。岩淵さんは一語一語に力を込めた。
官製「名ばかり
管理職」の実態
「名ばかり管理職」は民間企業に限った話ではない。足立区の区立図書館に館長として就任したAさんは、採用された委託会社の過酷なノルマと露骨な解雇予告、退職強要と闘っている。
区から委託を受け図書館や児童館などの運営を任されているのは、「指定管理事業者・株式会社グランディオサービス」という民間企業。〇七年、Aさんはこの会社に「館長候補の契約社員」として入社した。ところが会社が配属した部下の契約社員たちは、未経験の新卒がほとんど。日々の業務も滞る状態だった。Aさんは丁寧に部下たちを指導、当然残業も増えた。
そんなある日、Aさんは、「パワハラ、信用失墜、業務命令違反」を理由に、会社側から突然退職勧告を受けた。だがこれらはでっちあげで、「館員全員の残業をゼロにしないと解雇する」という会社側の事前の警告が実施されたのだ。
Aさんは指示通り「残業ゼロ」を実現したが、かえってトラブルやミスが多発し、利用者からクレームが相次いだ。他方、工夫を凝らして業務改善に取り組み、集客数を上げるなど著しい成果をあげた。それでも社長は「私の考えに合わない」として、本来五年間の雇用契約を破棄、一年で雇い止めにした。
給料は手当て込みで二十四万円程度。権限がなく、サービス残業や休日出勤も多い。まさに「名ばかり館長」であり、これが「指定管理者制度」の実態である。現在、東京公務公共一般労組とともに会社側に解雇予告撤回を求めている。ベテラン営業員のような低姿勢で支援を訴えるAさんの姿が印象的だ。
「自分たちは
ゴミではない」
自治労・公共サービス清掃労組の中原逸雄さんが登壇した。同労組は清掃車や一般廃棄物運搬車、リサイクル業者など、民間企業の運転手が中心の組合だ。九二年、自治労は規約を改正し、公共サービスにかかわるすべての労働者に門戸を開いた。それまでみずからの労働を「運転労働」ととらえていた仲間たちは、自治労への加入とともに「公共サービス労働」を自覚。正規職員との格差待遇解消を課題とした。
運輸産別と自治労産別。三十六年の歴史を持つ中原さんたちは、第二組合の結成、暴力団の導入や偽装倒産など、当局の組合つぶしにも屈しなかった。職場末端から要求書を出し、スト権を確立して団交に臨んだ。多くの犠牲を払いながらも会社側の横暴に抗してきた。
ある社長は、「要求とは何だ、お願いと言え。お前たちにボーナスをくれてやるくらいなら、ドブに捨てたほうがましだ」と暴言を吐いた。アルバイト時代の使い捨て状態から、非妥協的な闘争によって、世間並みの労働条件を勝ち取ってきた。
清掃事業の二十三区移管以降、徹底した合理化が進み情勢は厳しさを増している。気がつけば三十年前の自分たちのような労働者がたくさんいる。「し尿やゴミを扱っているが、私たちはゴミではない」――中原さんの言葉には、百戦錬磨の自信と揺るぎない確信が込められていた。
非常勤保育士
の画期的勝利
二〇〇〇年九月、非常勤職員百一人の解雇をはじめ、公共施設の民営化すなわち指定管理者移管をもくろんだ中野区に対し、非常勤保育士たちは「公共一般中野支部」を結成。地裁から高裁へと法廷闘争を展開。〇八年に都労委で和解し、全員が職場復帰を果たした。この「中野保育争議」の報告に立ったのは、争議団元原告の福家久美子さん。和解条項には、今後当局の一方的な民営化策動に歯止めをかける内容も盛り込まれた。仕事と子どもたちへの愛情が込められた「先生だいすき」という歌を、コール・ラパス/南部合唱団が披露した。
韓国非正規
労働者の闘い
民主労総公共運輸連盟全国公共サービス労組(KPSU)・未組織非正規局長リュ・ナンミさんから、「韓国公共部門非正規職の実態と闘争」と題する特別報告が行われた。産別組織KPSUの組合員三万六千人のうち非正規職は六千人。「みなさんの報告を聞いていたが、雇い止めや団交拒否、あげくには暴力団を導入するなど、当局のやりかたはまったく韓国と同じだ」。
昨年、大学構内の非正規清掃労働者の闘いがあった。当局が大量解雇をしながら求人広告を出したことに抗議して本館を占拠。五、六十歳代の労働者が一四日間の座り込みを展開。誠信女子大は「お嬢さん学校」だが、学生たちも支援協力し、三日間で六千五百筆の抗議署名を集めた。構内には生徒たちの連帯メッセージが貼られ、当局もついに降参。全員が復職を果たした。
プロの歌声が町
なかに響いて
国立オペラ合唱団の非正規労働者は、七年から二年の有期雇用で、社会保険もない低賃金労働に苦しめられてきた。ここにきて当局は経営効率化を言い出し合唱団全員を解雇。団員たちは街頭で歌いながら解雇撤回を訴えている。リュさんは「早めに韓国に来れば、プロの歌声が路上で無料で聞けますよ」と紹介し、「基金を立ち上げて非正規労働者の組織化を進めている。三年後みなさんにまた報告をしたい」と笑顔を見せた。総評会館内の別室には、労働相談やDVD上映、書籍販売、ビラスペースなどの各コーナーが設けられていた。
午後は事前に公募された「非正規川柳」への投票が行われ、入選作品を佐藤壮広さんが「非常勤ブルース」と命名して披露した。佐藤さんは大学で非常勤の講師を勤めている。
全国各地から
悲痛なさけび
リレートークでは、全国のさまざまな現場から非正規、非常勤、臨時職員、指定管理事業、偽装請負などの当事者が次々と発言。十五人が報告に立ち、支援と連帯を呼びかけた。
霞が関の官公庁で警備員として働くBさんは、「度を超えた警備会社間の入札競争が低価格化に拍車をかけている。法定保険にも加入せず、違法な低賃金で警備員を働かせている会社もある」と告発。この悪循環を是正するために組合を立ち上げ、あくまでも適正価格での契約を求めていくと話した。
「非常勤だから長く働いてはいけないのか。経験や知識の使い捨てはもったいない」――解雇された大勢の仲間を思い、声を詰まらせたのは、自治労新潟県職労非常勤部会のCさん。十五年間働いた県を一昨年解雇された。非常勤はほとんどが女性。五年ごとの有期雇用の撤廃を求め当局と闘ってきた。
だが今年、百七十三人が雇い止めになった。交渉の成果で試験が受けられるようになったものの、採用はわずか二十人。経験者を締め出すための試験だったのでは、とCさんは振り返る。「脱力感だけが残った。私たちのこれまでの十年間と今後を、一緒になって考えてください」。涙の訴えに、参加者は連帯の拍手で応えた。
アウトソーシング
一辺倒のゆがみ
いよいよ終盤のシンポジウム。司会を実行委の白石孝さん(荒川区職労書記長)が務めた。「週刊東洋経済」で、社会保障の問題を主に取材している岡田広行さんが口火を切る。
〇六年、三菱総研は「市場化テスト等によるアウトソーシング事業の市場規模は七兆八千億円。市場化テスト法の適用を希望する自治体は五七・七%」と発表した。このテストは仕組みの複雑さや対象業務の限定などで普及しなかったが、外注化は急速に進んでいる。
先進国のなかでも特に日本は公務員が減り続け、非正規職員が肩代わりをしている。その結果、正規職は専門性を失い、地域の賃金相場を下げている。岡田さんは的確な分析で、非正規化のもたらす混乱と矛盾、すなわち社会への悪影響を列挙。「公共業務をしっかり再生させないと、日本経済はよくならない。ネガティブな公務員の問題を、非正規の取り組むことで転換していく。闘い続ければ変わっていく」とトータルな視点で提起した。
妊娠中から
差別を受けて
自治労連の川西玲子さんは約三十年間、非正規労働への差別と闘ってきた。たとえば、非正規労働者が妊娠しても、同じ職場の正規職員のような権利が与えられず、非常に惨めな思いをした。公募川柳で紹介された「非正規の子 腹の中から差別され」という句には、そんな悔しさが込められている。まさに私の原点だと、語気を強めた。
開口一番「私はお坊さんではありません」と会場を笑いで包んだのは、自治労越谷市職の山下弘之さん。「非常勤の闘いを三十年もやり続けたから、髪の毛がこうなった」と照れる。
七八年から市立病院の臨時非常勤の組織化に着手(※)。だが未だに同じ状況だ。直接雇用の不安定化が間接雇用の不安定化と呼び、役所がブラックボックス化している。ふじみ野市のプール事故は、委託費が下がり続けるなかで起きた。気の毒だが当時アルバイトだった高校生は裁判を通じ、その罪の重さをずっと背負い続けて生きていく。
人間を入札し
てはならない
闘いの原則は四つある。雇用の引き継ぎ、労働条件の引き継ぎ、組合の引継ぎ、市民サービスの引継ぎだ。人間を入札するな。最後にはストライキも念頭に入れて闘っていく、と意気込んだ。
司会の白石さんは、「私たちはとにかく今の世の中を変えたいと集まっている。職場の人々にもっと伝えたい。HPにキャンペーンのチラシがある。全国でまいてほしい。今日で終わりにはしない」と結んだ。最後に荒川図書館非常勤労組の鈴木葉子さんが「集会アピール案」を読みあげ、参加者一同で確認し閉会した。
年末年始の「年越し派遣村」の闘いの主体は、そこに集まった当事者たちだった。この取り組みを通じて可視化が進み、国や自治体から緊急の対策を引き出した。
公務公共サービスの最前線で、前近代的な雇用契約を強いられる人々もまた、労働組合を通じて声をあげ、仲間とともに成果を分かち合っている。国や自治体が振りかざす理不尽な制度や慣習を打ち破るために、「同一価値労働・同一賃金」原則の実現のために、官民、正規、非正規の壁を超えて、一致団結しよう。
(S)
※越谷市立病院で結成された清掃労働者と電話交換手の労組=旧越谷委託労組=の闘いは、「モップとダイヤルの反乱」1982・絶版/HPに電子版/を参照)
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